写進化・ヲアニーの徒然日記

秀峰大山を中心に山陰地方の風景等を掲載。(※古い記事の画像は、削除しているのもあります。)

松本清張と専属速記者

2014年05月20日 | その他

東京で学生生活をしていたころ、たまたま読んだ松本清張の推理小説に虜になり、次々と買って読んだ。
松本清張は、福岡隆氏という専属の速記者を雇っておられた。
福岡隆氏は、昭和34年から43年まで清張の専属速記者を務めておられたそうである。
松本清張が口から紡ぎ出す言葉を、福岡氏が速記をとり、漢字仮名交じり文で原稿を作成されていた。

私が就職して間もないころ東京出張での研修会で、その福岡隆氏の講演を聴く機会に恵まれた。
そのときの講演会では、松本清張の専属速記者を務めておられたときの話ではなく、昭和46年に亡くなった落語家8代目・桂文楽の全集をある出版社が出すことになり、その速記原稿を作成されたときの苦労話であった。
速記録といえば、我々が主に思い浮かべるのは、国会や地方議会の議事録、雑誌の対談とか講演記録などであるが、落語全集が活字になっているのは聞いたことがなかった。


当時の福岡氏の講演録を改めて見てみると、概略以下のことを言っておられる。


 落語は”間(ま)の芸術”といわれているくらいに、間が非常に大事である。同じような話を私たちがやってもちっともおもしろくないのに、落語家がやるとおもしろいというのは、この間の芸術、間の妙味にあると思う。だから、間というものをどう表記するかということを考えた。この間(ま)は最小限3つくらいに使い分け、2字リーダー罫、4字リーダー罫、8字リーダー罫の3つくらいに分けてその間を表現することにした。
 落語はスピード感がある。ゆっくりしゃべるところや立て板に水のごとく一息にしゃべっていくところもある。これを、我々が習った文法で表現していくと、そのスピード感が出てこない。そこで、既成の文法概念を打ち破って、一息でずっといくところは、ピリオドなしで最後の段落のところまで一気に持って行って丸という形にしようと考えた。こうすることによって、冷たい活字を読んだときに、いくらかでもスピード感が出ると、苦心してみた。
 落語は、江戸なまりが非常に多い。「ヒ」と「シ」の発音は、火箱を「しばこ」、品が悪いを「しんがわりい」。「あァた」と書いて活字になった速記本を読むときに視覚的に抵抗を感じるので、「貴方」という漢字を書いて「あァた」とルビを振った。「だァさん」も「旦那」と書いてルビを振った。


そのほか、いろいろ苦労話をされているが、割愛する。
文楽の一周忌には間に合わなかったが、年を越した2月にこの本が刊行され、霊前に供えられたそうである。
未亡人からは、これを読むと生前の主人が自分に語りかけてくるような気がすると言って、涙を流して喜ばれたそうである。
松本清張が福岡隆氏を専属速記者として雇われていた意味が、この講演を聴いてわかったような気がした。
昨年、書店でこの本を見つけた。

衆参両院には、かつては国会の速記者を育てる養成所があったそうだが、約10年前に生徒募集を中止したそうだ。
本会議や一部の委員会では、今も現役の速記者が速記をとっているが、録音・録画に頼り、速記者を置かない会議がほとんどになったそうだ。会議の音声を自動的に文章化する音声認識システムの導入も計画されているようだ。
ただ、日本語の持つ同音異義語や句読点、改行、野次が飛んだ場合の主たる発言の聞き分けなど、機械ですべて認識することは無理かもしれない。

この本に書かれている内容は割愛するが、筆者が中曽根元首相に尋ねた速記者の役割について、元首相は次のように表現している。
『質問者、答弁者、それと速記者というのは三位一体の雰囲気を形成していました。手を動かす速記者を見ながら、よく考えて発言することで、発言の内容、練度を向上させる効果をもたらしたのです。国会に速記者がいるのといないのとでは、発言する方の気持ちが違います。録音機械に任せては議員の気持ちが浅くなってしまいます。』と。
今、こういう気概で質問や答弁をしている議員、大臣はどれほどいるだろう。
国会の委員会で、集団的自衛権の憲法解釈変更について、ある野党議員が首相に質問をしているのをテレビで見た。
首相は「何回も何回も何回も何回も答弁している・・・」というような答弁で、核心に触れるような答えはなかった。
質問をした野党議員は、ひどい答弁だと憤慨していた。
やはり、答弁席のそばに速記者がいないと緊張感が生まれないのか。。。
(文中一部敬称略)


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