NPO法人新潟ワイルドライフリサーチ (Wiron)

新潟で生じている野生鳥獣の問題を解決し、野生動物と人間が共存できる社会を目指して活動します。

ツキノワグマ保護管理計画 意見全文

2011-07-05 16:14:33 | ブログ

7月4日はツキノワグマの保護管理計画へのパブコメの〆切でした。

Wironのメンバーからも沢山のパブコメを書いて頂いたと思います。
御協力ありがとうございました。

意見書は膨大なものとなり、全文が掲載されないそうなので、
この場で提出した意見の全文を公開したいと思います。

今後、この意見書に基づいて、新潟県のツキノワグマの保護管理計画がより
実効性が高いものとなるよう、県の環境審議会、ツキノワグマの保護管理計画検討委員会で
議論して参りたいと思います。

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意見

○ 総 論
・ツキノワグマの保護管理に関する実施事項の内容が乏しい。長野県の保護管理計画を参考にすべきである。具体的な実施事項については、マニュアルを作成するという話を聞いているが、特定計画を公開するならば、具体的な実施マニュアルも同時に公開すべきである。この素案だけでは、ツキノワグマの保護管理を行う計画として不十分であると判断する。

・個体群管理は、順応的管理手法(モニタリング、評価、実施内容修正)で行うべきである。事業についてPDCAサイクルで一般的に行われている。保護管理計画も、効果を得るためには、この概念に基づいて計画を策定すべきである。

・従来、新潟県が取り組んできた内容がほとんどであり、この計画に基づいて新たなに行う実施内容および重点的に取り組むべき内容をわかりやすく記すべきである。

・新潟県の野生鳥獣に関する事業は、トキの保護増殖に多くの財源が確保され、その他の鳥獣に対しては、県としての予算が経常的にさかれていない。ニホンザル、カワウ、イノシシなどの調査も、緊急雇用対策などの臨時的な措置による予算で行われていることが多い。これでは、県を主体としたモニタリング調査(専門家と協力した長期的で科学的な意味のある継続調査)を行うことは不可能である。ツキノワグマは、国際的に見ればIUCNのレッドリストで絶滅危惧のVUに分類され、ワシントン条約の付属書にリストアップされる希少種である。この種の地域個体群は、関西、九州などでは、絶滅の危険のある個体群として日本の環境省のレッドリストにもリストアップされている。北陸~東北にかけては、ツキノワグマの健全な個体数を保つ個体群として本種の存続に重要な意味を持つ。本種の存続への新潟県の責任を考えれば、ツキノワグマに予算がないのでモニタリング調査ができないという状況は大きな問題と考える。稀少な野生動物の保全管理者の主体は、県と法律に明記されているので、本計画の責任者は県であるという気持ちで各対策に取り組んで頂きたい。

○ 計画のあり方
・科学的に・計画的な保護管理を行うには、順応的管理手法が効率的であり、第一義に取り組むのは科学的なデータの収拾、評価、結果の公表である。計画で示されている生息地動向のモニタリング調査の内容および科学的な根拠が乏しい。まず、モニタリングを行うことを実施内容のはじめに記すべきである。

・人身被害防止については、多くの災害防止対策で行われているように、箇所ごとの危険度を推定し(出没マップではなく、ハザードマップの作成)、危険度や危険地帯の状況に応じて対策を行うのが効果的な方策である。新潟大学の研究では、ツキノワグマの出現ハザードマップがほぼ完成し、危険地帯の状況から奥山地域、里山地域、人里地域での区分わけが困難であることが示されている。人身防止対策については、ハザードマップの作成・公開を実施に内容に加え、マップに基づく対策を講じる実施内容にすべきである。

○ 計画案の構成
・「(2)保護管理の目標」では目標と方策を三つ掲げていながら、三つの方策に対応する実施の内容がその項目以降、体系的に示されておらず、目標に対してのアプローチの方法が理解しがたい構成になっている。それぞれの目標に対して、どのよう内容を実施していくのかとういう構成にするなど県民が理解しやすい構成にすべきである。

・「6 実施内容」に「ア 個体数管理の考え方」、「ウ 有害鳥獣捕獲の考え方」がある。「考え方」を実施することは不可能であり、曖昧さを示す表現となっている。実施内容の項目には、考え方を記すのは不適切であり、具体的な実施内容を表記すべきである。

○ 組 織
・各機関の役割を明確にするため、特定鳥獣保護管理計画(ツキノワグマ)の実施体制を示す図を示すべきである(長野県では作成)

・ツキノワグマ保護管理対策検討会とツキノワグマ被害防止対策チームとの関係が不明瞭である。全ての実施内容を評価し、指導・調整を図る上位機関の設置が必須である。

・3つの地域個体群ごとにクマの保護を実施するのであれば、それぞれの地域個体群のモニタリング・調査をも含む保護管理および人身被害防除を担当する現場機関を設け、役割と責任を明確にすべきである。

・クマの保護管理には、専門的な生態学的知識が必要である。専門機関と連携してモニタリング調査を十分に実施し、内容を公開の上、複数の有識者からなる科学委員会を設置し、その意見を施策に反映させるべきである。

・野生鳥獣の問題を解決するには、農林水産業の被害防除、生息地管理、野生動物の個体管理という3つの柱を総合的に進める必要がある。新潟県庁内では、鳥獣の被害対策→農産園芸課、個体管理→環境企画課、生息地の管理→治山課などと、担当部署間の連携システムが機能しておらず、今回の素案の具体的な対策を誰がいつまでにどこまで行うのかという具体的な提案が見つからない。例えば、長野県では、鳥獣問題について、森林づくり推進課、神奈川県では環境農政局 水・緑部 自然環境保全課という一括窓口があり、鳥獣の保護管理、被害防除、里山の管理が連携して行われている。本県でもツキノワグマの問題を真に解決するためには、鳥獣の被害対策の3本柱となる事項を担当する課が連携し、対応するシステムが不可欠である。

○ 人 材
・ツキノワグマ保護管理計画の実施に携わる新潟県県民生活環境部の担当のほとんどは、一般行政職員であり、専門性に乏しい。長野県では、鳥獣被害対策に従事する専門の職員を配置し、事業の実施にあたっている。新潟県の専門職員をより多く採用、配置するとともに、職員の専門性を高める計画が必要である。福島県、佐賀県などでは、県の農業研究センターに、鳥獣被害対策支援の専門官がおり、専門官として、部署の異動をさせない仕組みを作っている。

・県庁にすぐに専門職を雇うことが難しい場合、野生鳥獣の生態調査や被害防除支援を行う民間団体との連携を計ることも視野に入れて欲しい。例えば、長野県では、県が環境保全研究所などの専門機関を持っているほか、NPOピッキオや信州ツキノワグマ研究会とツキノワグマの保護管理では、県庁が密接な連携システムを構築している。

・関西では、農業普及指導員が、県の専門官の指導を受け、現場の鳥獣被害対策を指導しているケースも多い。野生鳥獣の被害防除で大切なのは、住民の普及啓発であり、そういう点でも直接被害対策を担当する農産園芸課だけでなく普及支援課とも鳥獣被害対策の上で連携すべきである。

・ツキノワグマの学習放獣について、捕獲上限を超えた場合実施を検討という記載があるが、学習放獣は麻薬指定の薬剤を使用する麻酔免許を持った獣医師又は研究者、ドラム缶罠を設置、見回りを行う猟友会員、クマの罠を設置と放獣に合意した住民が揃う必要があり、そのような体制が整っているのは、本県では津南町だけである。実施体制がない中で、学習放獣を行うのは実質不可能であるため、この文言を入れる以上、県が責任を持って実施体制(実施できる人材の確保)に支援を行うよう強く要望する。

・新潟県の猟友会員は、H5年に5600名ほどいたが、H23年時点で2444名にまで人数が激減し、そのうちの89%が50代以上と高齢化が進んでいる。近年、銃刀法の規制が厳しくなったことから、第一種狩猟免許保持者の人数は、さらに少ないと考えられる。ツキノワグマなど大型動物の保護管理を行う上で、第一種狩猟免許保持者の育成は非常に重要な意味を持つ。特に警察と連携し、野生鳥獣の保護管理を担う人材育成を行う必要がある。野生動物を管理するハンターの人材育成についての対策が本素案には、盛り込まれていない。現在、環境企画課で行っている希望者講習会だけでは、支援策として不十分と感じる。銃猟保持許可までのハードルは依然高く、取得者の経済的な負担も大きい。ハンターが一人前の技術を身につけるまでに必要な時間を考えると、今から抜本的な対策を実施しないと、クマだけでなく、イノシシ、シカ等の草食獣が本格的に移入してから対策を打つのでは遅すぎる。

○ モニタリング・調査
・生息地動向のモニタリングの内容が捕獲報告と聞き取り調査だけとなっており、科学的な根拠がほとんどない調査内容である。モデル地区を選定し、絶対的な生息個体数や分布状況、年齢構成を把握すべきである。これらの調査結果と被害対策との関係を調べることにより、個体数管理や被害対策が効率的に実施可能になる。

・現在、学習放獣の体制が整っている津南町をモデル地区とするのが望ましいと考えられるが、さらにモニタリング・調査体制を確立した後、学習放獣およびモニタリング・調査の体制を全県に浸透させる効率的、かつ具体的な計画を立てるべきである。特に、現場でモニタリング・調査、学習放獣等の作業に従事する人材を十分な数確保できるよう、早急に人材育成を始めるべきである。

・モニタリングでは様々な調査が示されているが、調査結果については協力していただく猟友会などの関係機関に速やかに報告すべきである。

・捕獲個体の情報提供に犬歯等の試料に関しては、「必要に応じて」依頼するのではなく、一定数収拾・分析し、結果を速やかに公表すべきである。このような調査は単年度実施するのではなく、長期的なモニタリング調査として実施していくよう計画を変更すべきである。

・ツキノワグマの生態調査は、専門的な技術を必要とするため、ツキノワグマの生態学の知識を有する専門家と連携して実施すべきである。

○生息地管理
・ ツキノワグマの管理計画は、個体管理の上でも、また、人身被害防止の上でも森林(里山、奥山とも)の管理が大変重要な意味を持つ。素案の中にある生息地の整備の具体案が乏しい。新潟大学が作成したクマのハザードマップを利用し、クマが出没しやすい森林の場所、面積はすでに算定済みである。これらの危険度の高いエリアが、国有林であれば国との協議、保安林であれば治山課の施策、民有林であれば、市町村と県が協力し、強度間伐(構造上の安全が確保される範囲で)を実施する、あるいは、強度間伐が難しいエリアであれば、里山から集落の間に大規模な緩衝地帯を設置する等の科学的なデータに基づいた生息地管理計画を立てるべきである。

・新潟県はナラ枯れが蔓延し、ツキノワグマの主要な生息エリアにも及んでいる。ナラ枯れは、ブナはかかりにくく、ミズナラ、コナラ、カシワなどがかかりやすいため、ナラ枯れが終息したエリアでは、ミズナラやコナラの現存量が減少している可能性がある。ブナは年による堅果の豊凶が激しく、ミズナラ、コナラの順に豊凶の変動が小さいと言われている。現在、ツキノワグマの大量出没の原因の一つに堅果類の凶作が上げられているが、ミズナラ、コナラが減少しブナの占有率の高い森林が形成されていると今後もブナの凶作にあわせて大量出没が生じる可能性が高い。本計画では、堅果類のモニタリングという記載があるため、クマの出没予想は実施可能だが、これはあくまでも予報であり、ツキノワグマの大量出没を減らす根本的な対策ではない。本県の素案には、ナラ枯れによって変化した本来のクマの生息地の餌環境についてもモニタリングの実施項目がないため、クマの好適な生息環境が維持されていることを示すデータが不足しており、順応管理を行うことは難しい。

・集落と里山の間に緩衝地帯を設ける等の対策は、現在、市町村が主体となって農林水産省の鳥獣被害防止対策特措法に基づいた交付金を取って実施している。しかし、ツキノワグマの場合、農業被害があるのは津南町だけで、他の地域では農業の被害金額が少ないため、ツキノワグマのための被害対策を津南町以外で特措法の交付金で実施するのは困難である。集落への侵入を防ぐ生息地管理(緩衝帯設置や放置果樹の撤去など)については、被害防除の指導は県庁のどの課が担当するのか、実施対策の詳細なマニュアルへの明記、さらにそのマニュアルの公開を要請する。

・昨年、クマの大量出没をうけ、上越市で日本クマ森協会がイベントを行った。この団体は、ツキノワグマの餌となるドングリを全国から集め、各地の山の中にヘリコプター散布することで知られる。堅果類の散布については、生態学的に植物の遺伝的多様性の攪乱、ネズミへのタンニンによる毒性被害などの観点から、生態学的にも大きな問題であることがわかっている。今後、新潟県内での熊森協会の活動に対する県の対応を事前に協議頂きたい。

○ 捕獲許可調整
・新潟県では、捕獲許可は市町村が現在行っている。大量出没年では、設定捕獲上限数を超過すると予測されるが、どのような基準をもとに誰が誰に対して狩猟の要請を行うのか明記すべきである。

・ツキノワグマなどの大型野生動物は、絶対的な生息数を調べることはほとんど不可能に近い。個体群の保護管理では、相対的な個体数の変動を狩猟カレンダーや有害捕獲の情報から蓄積していく必要がある。本計画の中では、このような捕獲の情報から総体個体数をどのように算定し、個体管理を行っていくか、その具体的な実施方法がわかる形に改訂すべき。

・新潟県の大量出没時のツキノワグマの捕獲頭数は、狩猟や予察駆除(春クマ猟)より、夏から秋にかけて人里近くに出没したクマの有害捕獲が大きな割合を占める。捕獲許可調整が、上限を超えた場合、その年の有害捕獲の自粛要請をしても、学習放獣体制がない本県で、人間の安全を優先すれば、有害捕獲を止めるすべはない。また、翌年の春クマや狩猟を自粛することで、複数年の間で個体数を回復させる計画をとろうとしているようだが、春クマ猟には、冬眠後のクマを里山から奥山に追い上げる機能やCPUEを春クマ猟の狩猟記録から算定し個体管理を行うための貴重なデータ取得の機能を持っているため、本計画では、大量出没年の翌年に春クマ猟をやめる弊害について考えていない。長野県では、春グマ猟の個体数は維持しながら、大量出没で生じる有害捕獲(春クマを除く)の数を減らす恒久的、至近的な取り組みに力を入れている。本県の素案にある、大量出没の翌年に狩猟を自粛するという方法では、ツキノワグマの個体管理に科学的な根拠がなく、大量出没を減らすための恒久的な対策(森林の整備、里山の強度間伐、集落における農作物被害防除、集落の放置果樹の撤去)や至近的な対策(学習放獣の取り組み)が不足しているため、ツキノワグマの個体群を長期的に安定に存続させる抜本的な対策になっていない。

・市町村に権限が委譲されている捕獲について、県から自粛要請を行っているが、あくまでも要請であり拘束力がないため、市町村によって対応がまちまちである。また、学習放獣を行った津南町から栄村や十日町に入るとクマが撃たれてしまうケースもある。県としてクマの有害捕獲をどのように管理していくのか、今の素案では具体性が乏しい。

・学習放獣体制について、実施体制の整備を推進するとともに、その効果検証も実施する必要がある。特定鳥獣保護管理計画が策定される以上、県が主導して学習放獣の実施体制を整備することは保護管理の実施主体者である県の義務である。市町村に、学習放獣の体制があるところだけ放獣を検討してほしいという形で有害捕獲後の対応をすべて市町村判断に委譲するのは、県の義務を放棄していることになり、大きな問題である。

・今後、県内でイノシシのくくり罠・箱罠による捕獲が増加することが予想され、(たとえくくり罠の直径12cmの解除を行わなかったとしても)錯誤捕獲が多発すると考えられる。箱わなについては、天井の脱出穴の設置を義務化し、罠にツキノワグマが錯誤捕獲された場合の学習放獣などの対策を県として取り組む必要がある。

○普及啓発
・ツキノワグマの保全管理には、入山者、中山間地住民への普及啓発活動が、事故を未然に防ぐ上でも大変重要な意味を持つ。本県では、HPで啓発を行っているが、この内容では全くもって不十分である。もっと計画的に中山間地集落での普及啓発講演会、シンポジウム、パンフレット作成などにも取り組む必要がある。

・ツキノワグマの出没マップ(GISデータで、拡大機能のあるもの)を整備し、クマの出没した位置をすみやかに地図上で確認できる仕組みを構築すべきである。

・人身被害にあうのは、高齢者が中心ということがこれまでの結果からわかっている。HPなどで告知しても、被害に遭いやすい人材にその情報がデジタルデバイドによって届いていないことがわかっている。市町村と協力して回覧板を回したり、車での巡回による拡声器を利用した警告、入山者に注意の立て看板など、アナログな対策にも力を入れるべきである。

○ 隣接県調整
・広域的な保護管理を効率的に進めるとあるが、広域的な保護管理の内容、想定される調整内容について明記すべきである。

・隣接県等の関係機関からなる協議会は存在するのか。存在するのであれば、具体的な協議会名を明記すべきである。なければ協議会に参加することは不可能なので、適切な文言に修正すべきである。

○ 文章標記
・「~を図る」、「~するものとする」、「~行うものとする」という文言が実施内容に散見され、実施を本当に行うか、疑問を呈させる文章となっている。管理計画では、「~を行う」、「~をする」という文言が多く使われていることから、曖昧さをなくす、これらの述語標表記に統一すべきである。

津南町ブナの豊凶調査について

2011-07-02 22:30:13 | イベント・研修開催案内

津南町におけるブナの豊凶調査のボランティアを募集します。
募集詳細は、以下の通りです。

<日時>:2011年7月7日(木) 10:00-15:00頃までを予定
<場所>:十日町市 大厳寺高原(十日町市松之山天水越)
<集合場所>:大厳寺高原キャンプ場管理棟前の駐車場
<持ち物>:昼食+副食、飲み物、筆記具、持っていれば双眼鏡、そして雨具
 調査用紙、ガバン、(ない方の双眼鏡)はこちらで用意します。
 少し開けた遊歩道を歩きながら調査します。
 雨天でも傘をさして双眼鏡を使って調査できますので、雨天決行です。

参加を希望される方は、長野まで直接お知らせください。
長野康之
国際自然環境アウトドア専門学校
〒949-2219 新潟県妙高市原通70
TEL:0255-82-4450 FAX:0255-82-4428
E-mail: nagano.yasuyukiあっとまーく(@に変換)nsg.gr.jp

日程が詰まっていて恐縮ですが、希望のある方は長野さんに御連絡下さい。

宜しくお願い致します。