筝曲の宮城道雄と會津八一はかなり深い親交があった。八一の養女の蘭子が、宮城の弟子だったことから交流が始まったと聞く。
(八一の歌と関係ないが宮城の「ロンドンの夜の雨」という曲は、幾度聴いても胸に喰い入るような名曲だと思う。)
宮城道雄の作品に「奈良の四季」(昭和30年作曲)がある。八一の奈良詠草にある4首の歌に、宮城が曲をつけたもの。
木村園代氏の演奏がyoutubeにあるので、リンクを引用する。
はるきぬといまかもろびとゆきかへりほとけのにはにはなさくらしも
【漢字かな交じり表記】春来ぬと今か諸人行きかえり仏の庭に花咲くらしも
【大意】春が来たと、今しもたくさんの人々が行き交う「仏の庭」ともいうべき興福寺の境内に桜花が咲いているようだ。
はつなつのかぜになりぬとみほとけはをゆびのうれにほのしらすらし
【漢字かな交じり表記】初夏の風となりぬと御仏は御指の上にほの知らすらし
【大意】初夏の風となったと御仏(仏像)は繊細な指の上でお感じになっておられるようだ。
いかるがのさとのをとめはよもすがらきぬはたおれりあきちかみかも
【漢字かな交じり表記】斑鳩の里の乙女は夜もすがら衣機折れり秋近みかも
【大意】斑鳩の里に住む若い女性たちは夜通し機織りをしている。秋が近づいた。
あらしふくふるきみやこのなかぞらのいりひのくもにもゆるたふかな
【漢字かな交じり表記】嵐吹く古き都の中空の入日の雲に燃ゆる塔かな
【大意】嵐が吹く古都奈良の空、夕暮れの雲に燃えるような薬師寺東塔。
あらずもがなの大意をつけたが、八一の歌の音韻の美しさを、木村氏の演奏と歌でご堪能いただきたいと思う。
ちなみに八一音韻を初めて追究したのは、文芸評論家の西世古柳平だが、彼については、また稿を改めることとする。