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車止めピロー:旧館

  理阿弥の 題詠blog投稿 および 選歌・鑑賞など

詩月めぐさんのうた

2009年09月18日 | 八首選 - 題詠2009
詩月めぐさんの歌から8首。


082:源
旗源平 伝わる街に育ったの 「ちんちんかもかも」「うめがいち」

084:河
鵲が見つからなくて天の河 泳いで渡る勇気持てずに

066:角
丸四角記号みたいな彼の国の言葉覚える あなたのために

044:わさび
甲イカの握りのわさび多すぎる 泣キタイワケジャナイヨホントニ

023:シャツ
シャツの袖まくった君の筋張った腕思い出し 枕濡らす夜  

024:天ぷら
蕗のとう恋待蕾のほろ苦く 天ぷらにして食べてみようか

031:てっぺん
観覧車のてっぺん君が言う「好き」は夜景のおかげな気がした

035:ロンドン
よっちゃんとロンドン橋を歌ったら地下道だって怖くなかった



旗源平というのは、金沢に伝わる遊びだそうですね。
私が生まれ育った地方には、歴史の深い地元の遊びは
あまり無かったような気がしますので、羨ましいです。
やっぱり詠み人のバックグラウンドが反映されるような歌は、
読んでいて楽しい。自分の地平も広がるような気がするし。
もうずいぶん前に、兼六園に一度行ったことがあります。
雪吊りがしてあったので、秋ごろだったのかなぁ。
九谷焼をひとつ、お土産に買いました。
こんどは冬の金沢も訪れてみたいです。

佐藤羽美さんのうた

2009年09月12日 | 八首選 - 題詠2009
佐藤羽美さんの歌から8首。


016:Uターン
彗星がUターンしてうつむきし別所小宵の上でまたたく

018:格差
あなたとのときめき格差を是正するために春めけめいてくれ森

026:コンビニ
コンビニの蒸され過ぎたる饅頭を(午後はとっくに倦んでいる)割る

058:魔法
春寒の塵が降るなり廃村に取り残されし魔法瓶へと

066:角
この家のこの部屋のこの壁のこの角からとろりと溶けてゆく昼

072:瀬戸
晩冬の瀬戸際にいる佐藤さん至急職員室へ来なさい

079:恥
その時の気恥ずかしさの手触りを確かめながら無花果を食む

081:早
早春の出来事などを話すとき舌にじんわり滲みし訛り



「一語摘み」で百首を詠まれたという佐藤さん。
このやり方は初めて知りました。エンデの「鏡のなかの鏡」みたいな、
そういう重層的なイメージを作り出すのに有効かも。
まだまだ知らないことの多い短歌の世界。

26番。
肉まん(餡まん?)を割っているんだけど、心はどこか別のところにある。
そんな感じを受けますね。理由のわからないため息が聞こえてきそう。
括弧って、本来は補足や説明のために使われるものだけど、
短歌で用いると、その中に書かれたことこそが際立ってくる。
こういう、別内容を括弧で割り込ませるやり方って、和歌の時代には
もちろん無かったと思うんですけど、私の好きな手法です。
関係の無いコマを突然挿入した、そんなフィルムを見ているような気持ちがする。

短歌なんて全然知らなかった頃に読んだ本で、ある歌人が自選しておられた一首に
括弧が使われていて、「こんな詠み方もあるのか」と思ったのを覚えています。


 お元気で 冬のコートは(風ニノミ独白ハ許サレ)下からボタンを
  杉山美紀

天鈿女聖さんのうた

2009年09月12日 | 八首選 - 題詠2009
天鈿女聖さんの歌から8首。


092:夕焼け
夕焼けに世界が全部飲み込まれなくなるようにできている午後

080:午後
優しさがぐいっと差し込む午後四時の光が照らす有山歯科診療所

072:瀬戸
似合ってるとかは男の言い分でピンクの瀬戸物茶碗を見つめる

050:災
災害がなかったように右斜め45度を見つめ続ける

028:透明
透明な人が増えてく満員の電車の中で深呼吸する

015:型
原型をとどめないほど顔中に嫌い嫌いがあふれる地下鉄

014:煮
大根の煮物のおいしいお店とか話したいから会ったんじゃない

011:嫉妬
オクラホマミキサー踊る午後十時 嫉妬も優しくかき混ぜていく



92番。
初読では「世界は夕焼けなんかに飲み込まれないようにできている」という意味に
とってました(飲み込まれたりしなくなる、そんな風に出来ている)。
でも、「飲み込まれ、無くなる」と取るほうが自然だよな、と気付きました。
徐々に徐々に暗闇が降りて、世界が見えなくなってくる光景を思い浮かべると、
そのほうが合っていますよね。
これは読み方によって真逆の意味にも解釈できる、面白い一首。

14番。
男女の仲が発展していくにあたって、様々な段階があります。
一緒にいるだけでよくて、何を話しても楽しい時期なら、
「こんな詰まんない話をしたいからこそ、あなたに会いに来たんじゃない?」
と言うだろうし、決定的な言葉を聴きたい時期なら
「なんで詰まんない話ばっかりするの?そんなつもりで会ったんじゃない!」
となるだろうし。
竹内まりや「駅」の♪私だけ愛してたことも~という歌詞の解釈が別れることを
ふと思い出しました(ご本人がなにかコメントしてたと思いますが忘れた)。
このような、両義性を持つ歌についてあれこれ考えるのは楽しい。

さかいたつろうさんのうた

2009年09月03日 | 八首選 - 題詠2009
さかいたつろうさんの歌から8首。


092:夕焼け
夕焼けをバックに好きだという君のセーラー服が燃えだしている

081:早
多分もう早めに着いても楽しいと感じるデートにならないだろう

078:アンコール
アンコールだらけのベッドで二人して君の指輪を探してたよね

070:CD
好きだったaikoのCD持っていくお墓参りをデートと呼べたら

069:隅
隅っこでさんかく座りを楽しんでいる女の子に勝てるわけない

063:ゆらり
朝顔がゆらりと笑う本当は単にあたしが泣いていただけ

058:魔法
消防士でもなくパパでもなく悪い魔法使いと呼ばれる日曜

026:コンビニ
アラスカのコンビニにある最新号のジャンプはいつも先週号です



恋の歌を中心に百首を詠まれたさかいたつろうさん。
私がもし、学生時分に歌を始めていたら、
こんなふうに瑞々しく詠めただろうか?
ある年齢、その時々にしか詠えない歌がある。
昔の自分に「今すぐ歌を詠み始めろ!」って忠告したくなった、
そんなお歌の数々でした。

新田瑛さんのうた

2009年09月01日 | 八首選 - 題詠2009
新田瑛さんの歌から8首。


002:一日
幾日の労務の後に手に入れた安らぎを持て余す一日

021:くちばし
カラスにもなきたいよるはあるけれどあなたのために閉ざすくちばし

039:広
誰もいない体育館の広さゆえ決心がまた揺らいでしまう

062:坂
ゆるやかなくだり坂道自転車を漕がずに進む あしたから夏

075:おまけ
六月を君と過ごせばそのすべて君のおまけであった六月

079:恥
平日の水族館に独り居て恥ずべきことのある昼下がり

080:午後
如月の陽射やさしく僕たちを釘付けにする午後の教室

093:鼻
嘘をついたピノキオは鼻が伸びました わたしは豆を煮込んでいます



80番。
卒業の一月前。あるいはクラス替えの。
もう帰宅していい時間ではあるけれど、なんとなく離れがたい。
だらだらしちゃう。そのわけを温かい教室のせいにして。
誰もが皆、そんな時間は二度と戻ってこないことに、うっすらと気付いている。
そんな情景が浮かびました。

93番。
ピノキオの鼻はなぜ伸びるのか。
これはもう「嘘に気付いてほしいから」でしょうね。
嘘をひとつ吐くたびに煮豆が出てきたら、さすがに相手も気付きますよね(笑)
そして、作中主体もやっぱりどこかで「気付いてほしい」と願っている。
まぶたがピクピクしたり、唇が震えたり、そんな不随意筋が起こすような
現象じゃなくて、「豆を煮込む」という手間のかかる行動にしたところが
この一首の肝ですねぇ。絶妙です。

冥亭さんのうた

2009年08月29日 | 八首選 - 題詠2009
冥亭さんの歌から8首。


087:気分
送り火を了えてわれらも清めんと電気分解せる水を打つ

068:秋刀魚
「秋刀魚焼く七輪」既にイコンなりおとこやもめの苦きはらわた

065:選挙
ペルシアに樺美智子の在りという大統領選挙のあとさき

051:言い訳
予想屋の言い訳せるを聞き流し帰路は首筋さむき夕空

037:藤
葛(かずら)なと藤なと問わず蜂どちはうすむらさきの花房を愛ず

019:ノート
肌黒きプレジデントの誕生はブルーノートが廃れたるのち

005:調
馬たちも里子となりぬ春を待たず老調教師急逝ののち

003:助
取り返しつかぬ刹那を喩うれば補助ロケットを切り離すとき



19番。
小浜 オバマさんの「地元」はシカゴ。
シカゴといえばジャズ。ジャズといえば「肌黒き」人々。
ジャズってミクスチャーミュージックの元祖みたいなものだけど、
オバマさんにもケニアの血と白人の血が流れ、それでハワイ出身で、
お父さんはムスリムで、自身はクリスチャンで・・・その結晶なんですよね。
多人種国家のトップに立つべき人物が、初めて現れた、って感が強いです。
M.L.キングが暗殺されて四十年。
ラップ、ヒップホップの台頭で黒人もジャズを聴かなくなったなか、
オバマさんはどんな音楽を聴いてるのかなぁ・・・

音楽、野球、競馬、政治などなど様々な分野から取材されている冥亭さん。
自分ももっともっとアンテナを伸ばす必要があるなぁ。

イマイさんのうた

2009年08月26日 | 八首選 - 題詠2009
イマイさんの歌から8首。


015:型
畳まれた母の手書きの型紙は目をそらしても小さく痛む

029:くしゃくしゃ
不採用と書かれた紙をくしゃくしゃに丸めないまま窓を見ている

064:宮
「宇都宮」と書くことに慣れ三枚の淡い色した切手をなめる

080:午後
バナナオレ飲みつつ午後はゆっくりと癌病名を入力している

084:河
白河が中間地点と言っていたあの夜の頃より太い腕

088:編
ミサンガを今まで編んだことはなくああやっぱりとあくびをされる

098:電気
静電気指の先から放たれて冬の昼間をひとりにさせる

099:戻
この部屋に戻れない日はいずれくる隅にたまった埃がきれい



98番。これは尾崎放哉の世界ですねぇ。
パチンという指先のショック。そこで「どうしたの」と言ってくれる人も、
一緒に笑ってくれる人も、いまは居ないことを知る。
受動的なかたちで書かれた結句が見事。
孤独は気付いたときにはじまる。それを思い知らされる気がします。
私もこういう風に言葉を扱えるようになりたい。どうしても
「冬の昼間の孤独なわたし」とか「冬の昼間にひとりと気付く」
という風にやりがちなんですよね・・・。
ちなみに昨日の私は「頭痛がしてもひとり」でした。

29番。
丸めない。丸めたい気持ちはある。でも丸めない。
これを自失状態と見るか、凶報をまっすぐ受け止めた新たな決意と見るか。
おそらく半々なんじゃないかな。単なる悔しさと割り切れる感情じゃなく、
ただ泣いて済まされる状況でもない。さて、これからどうしようか。
しばらくじっと何かを見つめる、作中主体の姿が浮かんできます。
「くしゃくしゃ」って言っておきながら丸めない。
そこがやっぱり上手い。

髭彦さんのうた

2009年08月23日 | 八首選 - 題詠2009
髭彦さんの歌から8首。


092:夕焼け
血の色に空の染まれど夕焼けにあらざる日々の未だ絶えざる

078:アンコール
民の血を吸ひて赤きかクメールの地にぞ訪ねきアンコールワットを

063:ゆらり
つり橋のゆらりゆらりとゆるるごと暮らしのゆるる心のゆるる

058:魔法
湯を保つたかが壜にぞ魔法とて形容なせしこころを偲ぶ

053:妊娠
妊娠をもたらすことの生涯にひとたびにして子もひとりなり

040:すみれ
鉢植ゑのすみれの花とわが職の共に終りて春の深まる

031:てっぺん
てっぺんのさびしくなれる頭をばザビエル禿げと呼びしひとあり

024:天ぷら
亡き母の揚ぐる天ぷら美味なれど母食まざりき油に負けて



58番。
「高度に発達した科学は魔法と見分けがつかない」by A.C.クラーク(昨年亡くなりました・・・)。
魔法瓶が輸入されてきたのは、ちょうど百年前のことだそうです。
お茶が冷めない容器なんてそんな自然に反したもの、初めて見れば
ビックリしますよね、マジック以外のなにものでもない(笑)。
今でこそ、超伝導で浮遊する物体なんかを見たって驚かないような時代になりましたけど。
ちなみに「魔法瓶」、最初は商標だったんだとか。

78番。長い長いカンボジアの内戦。
恐怖政治で統治した独裁政党のことも念頭に詠まれた一首と思います。
十数年前にやっと和平を迎え、しかしその爪あとが地雷や不発弾の形で
影を落としていることなど、日本に居る私たちにはとても実感しにくい。
そして世界には未だに争いあっている地域があることも。
情報だけは容易に手に入る時代ですが、本当に「知る」ためには、
それぞれの地を訪ねるしかないのかもしれない。
しかし判っていてもそれはなかなか出来ないことです・・・。

 看板に仏蘭西支配の名残あり落日の赤クメール・ルージュ (拙作)

木下一さんのうた

2009年08月23日 | 八首選 - 題詠2009
木下一さんの歌から8首。


084:河
天の河こぼれそうだよ今すぐに君のパンティ夜空に広げよう

079:恥
教科書の「恥骨」の文字が恥ずかしく君のパンティでそっと隠した

075:おまけ
ごめんなさい本音は君がおまけですメインは君のパンティなんです

073:マスク
ガスマスク代わりに君のパンティを使うだなんて……使うだなんて!

059:済
用済みの君のパンティ捨てた後優しくなれない痛みを知った

039:広
広場には君のパンティだけ落ちて みんながみんな誰かの子供

027:既
既にあるバラードなんていらない夜君のパンティ引き裂き眠る

014:煮
もしかして頭が煮えているのかも君のパンティばかり言ってる



なんと百首を「君のパンティ」縛りで詠んだ木下さん。
もうなんか、いろんな意味ですごい(笑)
百首を詠みきって、見えた風景ってどんなんでしょう・・・
どの歌の「君のパンティ」の向こうにも、
肉体がほとんど感じられないんですよ。これがまたすごい。
中心はパンティそのもの。
本当に本当のフェティシズムってやつですよね。
お疲れ様でした!

nnoteさんのうた

2009年08月23日 | 八首選 - 題詠2009
nnoteさんの歌から8首。


007:ランチ
妻と子の写真見せられランチする珈琲カップふたつ寄り添う

012:達
距離はかりかねて桜の中にいる「私達」ってつぶやいてみる

024:天ぷら
アカシアの天ぷら揚がる春に病む君を連れ出すための口実

033:冠
雨粒の冠を戴せいもうとは四葉のみどりまみれを笑う

035:ロンドン
ロンドンの朝霧の底ひとつぶの色として在る私を探す

072:瀬戸
てのひらにあるものだけをいとおしむ瀬戸物市の赤い箸置き

073:マスク
ヒトガタの溢れる街に呼吸する私のためのマスクいちまい

097:断
遮断機の向こう側からゆく夏が買い物袋を下げて見ている



73番。様々な解釈が生まれてきて、見過ごせない一首です。
歌意をきちんと受け取れているか自信はないのですが・・・
最初は、人形を作る職人がマスクをして、自分の発注した
人形を仕上げる様を眺めているのかな、と思いました。
次に、自分以外の人間がすべて生きていないように思える、
そんな中で隣に居るこの人だけは、私のために呼吸してくれている、
そう感じている様子かな、と。
「呼吸する」を連体形でなく終止形ととると、また解釈は変わってくるようで、
ヒトガタたちが黙している、その世界で生きている「私」に必要なマスク・・・
この場合、マスクは「仮面」という多重的な意味も帯びる気がします。
ポイントは、無機的な「ヒトガタ」と、対置された「呼吸・マスク」でしょう。
ほかの人がこの一首をどんな風に読むのか気になるなぁ。

私には詠みえない世界をうたった歌がおおくて、
百首読むのがとても楽しかったです。

藤野唯さんのうた

2009年08月23日 | 八首選 - 題詠2009
藤野唯さんの歌から8首。


099:戻
少しくらいさみしくなってくれますか 年賀状が戻ってきたら

094:彼方
彼方って言葉を使わないようにしていたほんとに届かなそうで

092:夕焼け
沈黙が大丈夫になり始めててふたりでまっすぐ夕焼けをみる

080:午後
べったりとはりつく午後だ きみのこと離れなくって買ったサイダー

079:恥
恥ずかしいだけの思い出もあなたなら話してみよう 梅酒ください

078:アンコール
合格と共に貼り出された名前見るたび願っていたアンコール

018:格差
花の匂いする子の背中 教科書の格差の2文字見ないふりした

005:調
言い出せないことをぐるぐる考えて花の名前を調べる帰り



5番。
きみに言い出せないひとつのこと。そのために「花の名前を調べる」。
三句目から四句目への心地よい飛躍。
これこそが、一首をただその中で完結させてしまわず、
鑑賞者の脳内に各々の世界を展開させてくれる鍵なのでしょう。
「疎句に秀歌おほし」というのは、折々に胸に刻みたいところです。

80番。
汗でシャツが服にくっつく、その「べったり」が「きみのこと」に呼応して、
全然ふりはらえず、ますますどうしようもなくなってゆく。
で、なぜだかサイダーを買うんですね(笑)。ここがすごく可愛い。
とりあえず涼んでみたら、どうにかなるかな、と。
一方、79番では梅酒を買ってる。この一首も結句の締め方がうまい。
日常を詠むにも、奇を衒わずしかし効果的なことばの使い方。
私も見習いたいです。

EXYさんのうた

2009年08月21日 | 八首選 - 題詠2009
EXYさんの歌から8首。


094:彼方
与那国の 最果て見ゆる 島影は はるか彼方の 異国台湾

080:午後
休日の 午後の庭園 いとをかし 蹲(つくばい)の音 優雅に響く

074:肩
肩車 パパにまたがり 高くなる これが大人の 視線なんだね

035:ロンドン
名古屋から 遠く離れた ロンドンで 大須ういろう 販売してた

032:世界
冬景色 徳川園の 庭園に 新雪積もり 銀世界なる

029:くしゃくしゃ
ホカホカの ひつまぶしには 極上の 手もみくしゃくしゃ 海苔をパラパラ

025:氷
名古屋風 赤味噌入りの カキ氷 旨いか否か 作るも勇気

015:型
金鯱(きんこ)型 海老をそり上げ 揚げてみる これぞ名付けて シャチホコフリャァ~♪



「名古屋」を中心に詠まれた百首です。
名古屋は十年ほど前にいちど、通過したことがあるきりなので、
いつかは訪れてみたいなぁ~。
愛情を持ってゆかりの地を詠めるのは、いいなぁと思いました。

藻上旅人さんのうた

2009年08月18日 | 八首選 - 題詠2009
藻上旅人さんの歌から8首。


006:水玉
本当はね今でも時々思うんだ水玉の服似合っていたよ

050:災
災いとおんなじ気持ちになるなんて切ない思いではじめたのにね

062:坂
この坂を上ったところに君はいる此処からならば空しか見えぬ

064:宮
宮入りの向こうに立っている君の笑顔の先は僕には見えぬ

069:隅
隅田川をテムズ下りになぞらえて君の後ろを黙して歩く

090:長
石筍が鍾乳石と出会うよな静かで長い一日終える

091:冬
冬眠から覚めた熊はまず気づく白雪姫ではなかった事を


092:夕焼け
うつむいて娘が見なかった夕焼けが今日も僕の目の前にある



90番。
年に数ミリほど成長しながら、何千年をかけての出会いを待つ・・・
しかしここには、焦れたような想いよりは、確信めいた落ち着きがあるようです。
いつかは出会える必然。その未来の揺るがなさ。
一方で、自分では急ごうにも急げない、どうしようもない事情もある。
信じる気持ちと不思議な諦観。
「一日千秋」の代わりに慣用表現にしたいような一首です。

91番。眠りは一時的な死。
朝おきたとき、以前の自分と同じ自分だと何が担保するのか。
これは考えてみるとちょっと不思議な気もしますね。
目覚めたら白雪姫でもなく、福山雅治でもなく、宇多田ヒカルでも
ベッカムでもイチローでもない、Same old ugly bear だということに気付く。
でもその一瞬あとに、やっぱりホッとすると思うんですよね。
あ~あ、自分でよかった、って。

七十路ばばさんのうた

2009年08月17日 | 八首選 - 題詠2009
七十路ばばさんの歌から8首。


093:鼻
色恋を抜きにしてなお忘られぬ赤鼻ゆえの内気な女人

090:長
家事ゆえに夜は短し外つ国の旅の夜長にまたい出ゆかむ

086:符
点々と楽譜の上にマニキュアの紅がこぼれて情念燃え立つ

082:源
古の源平のエレジー反芻す讃岐屋島の高みにたたずみ

069:隅
蝋燭の灯る部屋隅もそもそとうごめくものあり我が魔性かや

037:藤
飛火野の藤の紫変わらねど疾く旅立ちぬ二人の友は

033:冠
人類の誕生の地の丈高き樹冠に棲まう絶滅種いとし

026:コンビニ
コンビニの弁当売り場は面白や土日は種類が倍ほどになる



33番。
人類誕生の地、といえばアフリカでしょうか。
その遠き国の木々を根城にしている、絶滅に瀕した生物のことが、
日本に居ながらにして愛しく思える、というスケールの大きな歌です。
テレビで大自然に潜む様々な獣、鳥、虫たちの映像を見たとき、
不思議なシンパシーや連帯を感じることがあります。
人間との共通点や、行く末を知らずと重ね合わせているんでしょうね。

中村成志さんのうた

2009年08月16日 | 八首選 - 題詠2009
中村成志さんの歌から8首。


003:助
振り向かぬ(助けて)きみの体臭が(助けて)微妙に変わる(助けて)

014:煮
納得を待つ間中うろうろと高野豆腐は煮含められて

029:くしゃくしゃ
くしゃくしゃの髪ゆびで梳き さて、と言いてるてる坊主の首をちょん切る

035:ロンドン
古書店の軒をかすめて二代目の染井吉野がロンドンに散る

037:藤
唐突に風は鳴りやみ藤棚の花房たちがほっとうつむく

065:選挙
永遠にきみと別れる日の朝のドアに差された選挙広告

078:アンコール
アンコールに応えて袖を出る人の正中線にわずかな揺らぎ

080:午後
歓声が駆け足になり(もう午後か)遮光カーテンから漏れる音



80番。
学校から解放された子供たちが、うれしさに声を上げて家路を急ぐ。
それを、時間の移り変わりもよく分からない薄暗い部屋で
なんとなく聞いている・・・という情景でしょうか。
学校、もしくは会社を病欠して、寝ていたのかもしれないですね。
注目したのは()です。括弧でくくることで、「ああ、もうそんな時間なのか」
という気付きや、嘆息が明確になっているのではないでしょうか。
一首のど真ん中に挟まれているんだけど、結句的な役割も担っているように
思えます。
3番とともに、記号がとても効果的に使われた一首。

65番。
自分にとって忘れられない出来事が起こった日。
その記憶とともに、なんでもないことを覚えていたりするものです。
プライベートな「きみ」との関わり。その終わり。
偶然その日に見たソーシャルな「選挙」のお知らせ。
対比が鮮やかです。
題の取り扱いのお手並みが見事と思いました。
選挙そのものを大上段に構えて詠むわけでもなく、
しかし単なる小道具、脇役として隅に追いやっているわけでもない。
こんな風にバランスよく詠みたい、そう思いました。