ゆびおり短歌

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短歌人2017.6(900号記念号)

2017-06-18 | 短歌人
「短歌人」2017.6/同人2 黒﨑聡美


女の子

ひとしきり振る修正ペンの質量に弛みはうまれ春のただなか

雨、降りそうですねと窓を見て雨降るまでをその人といた

旧姓の通帳ひらけばいくつもの顔が浮かんで浮かんで消える

はるみひとみひろみともみとしみかすみ、そしてみさとの加わる夕べ

今までにまちがえられた名はどれも色を持たない花びらのよう

花冷えの簡易郵便局内に二円切手のうさぎが跳ねる

鏡には光がうつり美容師の話のなかでだけ会う女の子





【特集】リレー短歌 ○月△日を詠う 冬から春へ 短歌人2017


一月二十六日 晴れ 栃木県宇都宮市

立ち籠めるペンキのにおいの四辻に色あざやかな椿は消えた

近所の工業団地をしばらく歩いていると、ふと、今自分がどの辺りを歩いているのかわからなくなった。前方が急にひらかれて明るくなり、見たことの無い倉庫が並んでいる。こんなことは初めてだ。一区画間違えたか、いやでもペンキ工場の看板はある。椿、椿の木が無い。ペンキ工場の道路側一面に壁のように高く伸びていた椿の木々が全て切られていた。花は毎年フェンスを越えて手を伸ばすようにたくさん咲く。それはどこか色街を思わせるような日陰のあやしく美しい一帯で、丸ごと消えていた。

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短歌人2017.5

2017-06-18 | 短歌人
「短歌人」2017.5/同人2 黒﨑聡美


節分の夜

夕焼けはどこまでも伸び電線を渡る小鬼の姿をうつす

歳を重ねてよかったことに節分を無事に過ごせることを数える

泣きながらお面をつけて節分の夜はただただおそろしかった

黄色い鬼ばかり作ってきたことを節分の夜にまた思い出す

幾度指を持ち直しても柊の鋭い葉先が刺さってしまう

やわらいだ怖さのなかで声を出し闇へとむかい炒豆投げる

黒猫と小鬼は仲良くなるだろう夜の廊下の底にまぎれて
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短歌人2017.4

2017-06-18 | 短歌人
「短歌人」2017.4/同人2 黒﨑聡美


それぞれに待つ

義父(ちち)はまた何かを燃やし真昼間に煙は東にひがしに消える

脱衣所のあかりで入る浴槽はまぶたの裏のやさしい暗さ

季節ごと飛ばしてしまうほどの風に左の耳のひらきっぱなし

大切なことをすべて忘れてゆくようでビニールハウスは光を返す

それぞれに待つものがありおじいさんと離れて座るコインランドリー

年老いた顔の人ばかり訪れるコインランドリーの薄ピンクの床

霧ののち柔らかくなる砂利道は昔暮らした家へと続く






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短歌人2017.5より同人の歌

2017-06-16 | 短歌人誌より
同人2より。

をさなき日二十四色のクレパスの黄土色なる韻きを愛でつ/洲淵智子

今日のわたしが記憶するきのうのわたし 記憶をつないで生きている/御厨節子

越えずにはどこへもゆけぬ佐保川に日ごとふくらむ桜のつぼみ/勺禰子

眼に沁みる煙のような自意識をおさえこむべく強く息吸う/有朋さやか

きさらぎの雨に打たれてゐたやうな椅子を日のさす庭に運べり/三島麻亜子

谷間(たにあひ)の集落ともいへぬ三軒の不在にくばる福祉の広報/高島藍

町なかの旧家の消えた跡地には迷子のやうな桜木の立ち/牛尾誠三

補助輪を外したるのち自転車は子を軽やかにさらひてゆきぬ/河村奈美江

春がきてママはおおきくなったね、と囁くようにおさなごが言う/中井守恵


同人1より。

ぼうりょくをしらないわたしの両の手がふるえる ふるえをおさえふるえる/鶴田伊津

老松の幹の窪みに苔むして住めば都とふと思いけり/森直幹

遅くなりと伝ふる相手もをらぬまま濃霧に遅れし列車に座せり/八木明子

ふた駅で降りる電車にふた駅じゅう小銭をかぞえてたお年寄り/斉藤斎藤

夢の界いかにありしか分けきたる醒めぎはしんと体冷えゐつ/蒔田さくら子

いつよりか焚き火は禁じられていて長閑な村の不自由一つ/久保寛容

ことしのさくら仰ぐかたわらに死者はきてわれより若き髪をそよがす/池田裕美子

未来にか過去へか現在(いま)かわからない岬に立てば手を振るならひ/木戸敬

沈丁花匂える彼方ひんやりと夜が線路のかたちをしており/守谷茂泰

朝の陽にはつかかがよふあはゆきは地をすり抜けていづこに積もる/洞口千恵
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短歌人2017.5より会員の歌

2017-06-13 | 短歌人誌より
会員2より。

はじまりはどこからやってくるのだろう春一番が追い抜いてゆく/葉山健介

知らぬ道はどこまでも続きゆきさうで怖くて既知の道を選びぬ/桃生苑子

五年ののち訃報を聞けりメアリーのやうに風にのり行つてしまつた/冨樫由美子

のりたまを馬鹿にする人の話には頷く動きであくびを隠す/柳橋真紀子

「乾燥地植物室」の仙人掌ら匍匐前進するけはひ秘む/桐江襟子

世界の港あなたはいくつ見たのだらう 昔のままに口数少なく/ 柊慧

春の嵐が窓たたく夜ひとりきり鳥の死骸を産む夢をみる/千葉みずほ

ピスタチオその緑ほどさびしくてたぶんあなたの好きな食べもの/笹川諒


会員1より。

なだれ込む桜花学園なぎなた部のジャージ明るしあさの電車に/岡本はな

田舎道を軽トラ走る昼下がりその行き先に春が待ってる/戸川純子

死ぬならば冬に死にたしこの冬をくぐりて予定無き生活なり/來宮有人

シャーペンの折れた芯はただゴミになるしかなくて床に落ちている/上村駿介

七月の水ふるわせて幾千の蜻蛉(あきつ)生(あ)れつつ岸辺の冥(くら)し/北岡晃

いまはよるははにぶたれたゆきのよるかあさんぼくはゆきのよるです/辻和之


卓上噴水より。

雨音に気づいて測る身の内をどんなほそさで雨は通るか/大平千賀「無題のメモ」

よく揉むと蜜柑は甘い撲たれたる体もきっとあまいのだろう/大平千賀
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短歌人2017.4春のプロムナードより

2017-06-09 | 短歌人誌より
春のプロムナードより。

草土手はわが住む町につづきをり海にそそげる一ぽんの川/大森浄子「土手」

吸殻のひらたくありてこの道はひとの道なり我はゆくなり/田上起一郎「日の暮れて」

妻子との旅の記憶よ霧雨の岬のさきに辿り着けざり/宇田川寛之「宴のドア」

廃線のいまは無用のバス停にたたずみおれば仰ぐ金星/久保寛容「俳諧の鴨」

出口なき駅なればホームに海眺む来たる電車で折り返すまで/時本和子「運河のひかり」

廃校の体育館の高窓に褪めたカーテンはためきてをり/紺野裕子「窓は閉めたままで」
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短歌人2017.4より同人の歌

2017-06-09 | 短歌人誌より
同人2より。

赤ん坊は喉の奥に鈴を持ちそれを鳴らしてわれを呼ぶなり/中井守恵(ルビ:喉=のみど)

硬い空気を鼻腔の奥へ送りこむ会いたい痛みに少し似ている/砺波湊

三ヶ月たったらたぶん春になる春解け残る雪のきたなさ/松木秀

幸せな子に見えるやう注意深く襟と前髪直してやりぬ/河村奈美江

みづうみの底を夜な夜な這ひ廻り弱きを襲ふナマズ羨しも/野村裕心

雨脚は白くかがやきわれはその脛のあたりを眺めてゐたり/松野欣幸(ルビ:脛=はぎ)

まっ白なひかりの中に置いてきた記憶を探る夜の八時に/滝田恵水


同人1より。

まだ無臭なるからだからのびやかな音符いくつもこぼれてくるよ/鶴田伊津

この冬も雪は積もらず風ばかり強くて言葉は頼りにならない/猪幸絵

一月の暦の若冲に支配されわが部屋ぞよぞよなまぐさきにほひ/小島熱子

はたらいてお金にかえて原付を少しうるさくする使い道/斉藤斎藤

だれの瞼もおもいのほかに伸びるだろう眠りの顔の、指に抓まば/内山晶太

右耳におしよせてくる笑ひありふとも過去世のあらはるるごと/伊藤冨美代

大きくは迷うことなきこの町に小さくは迷うみちのつづきに/小野澤繁雄(ルビ:小さく=ちさく)

満ち潮の夢のこわさの残りいる朝の体で教室に立つ/岩下静香
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短歌人2017.4より会員の歌

2017-06-06 | 短歌人誌より
会員2より。

ほのしろき記憶のごとく過ぎゆきぬ吊り革ゆれて回送バスは/桐江襟子

つやつやの文旦届くこの色はむかし好きではなかつた色だ/柊慧

残雪のタイヤの跡に土が見え春は汚くわたしも汚く/佐々木あき

黒揚羽どこからともなく舞いはじめ私を扉のごとくみつめる/千葉みずほ

ピンポンを押してはすぐにどっか行く山田さんちの下の子と、春/朝倉洋

福島で子を産むたかがそのことに過剰な意味が付与されてゆく/桃生苑子

何事もなかつたやうで記憶より広い車道が海へと続く/桃生苑子


会員1より。

きみの自由を映していいといふほどにカーブミラーが凍てついてゐる/角山諭

しろじろとLEDは電柱にいきものもののけ寄る気配なく/岡本はな

いつまでも面白味のない男だろ朝昼晩と雪かきをして/川村健二

くらやみがひたりと窓にはりつきて時間の帯とともに運ばる/北岡晃

人ひとりふたり去りゆくその背へと雪つぶては投げられもせず/宮崎稔子

あたたかなコピーの束を膝にのせこのまま午後を座っていたい/大平千賀
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短歌人2017.3より同人の歌

2017-05-03 | 短歌人誌より
同人2より。

水湛ふる器となりて高層のビルはときをりゆらぐとおもふ/田中愛

一輪の薔薇がつくりし翳は濃く何も置かない朝のテーブル/三島麻亜子

どこへでも行けるのに行かぬ子のために天球儀型の林檎を焼きぬ/春野りりん

松の葉の落ちたるものは地にありてまたひとつ落つ 終りはしづか/田上起一郎

ロッカーの狭さに合わせ横向きにかばんをしまう派遣のわれら/有朋さやか

をさなごを亡くしし人の訴ふるビデオみてのち免許をもらふ/長谷川知哲

願ふことなきままに打つ柏手の音は凍ゆる杜へ消えゆく/松野欣幸

冬陽差す動物園の片隅に誰も乗せない回転木馬/吉川真実


同人1より。

湯がさめて捨てられてうづをなすさまをみおくる熱のうしなはれたうづ/花笠海月

野地菊が茶室に楚楚と活けられてけふは誰にも嘘をつけない/山下冨士穂

空き缶が転がる車内こころでは蹴とばすわれへ転がつてくる/髙澤志帆

きりぎしの果てにしばらくただよへるわれよりも濃き影ひとつあり/大谷雅彦

夕闇は馬のごとくに濃くなりぬ冬の京都をたちてたちまち/小池光

空き家かと思いし家は灯りいて歳晩の夜を木々は鳴りおり/関谷啓子

ゆつくりと母の持つ箸おちやわんの呉須の模様をつままむとする/大越泉

冬枯れの雑木林の向こうにはけもののように海が横たわる/守谷茂泰

坂が坂を呼びこんでいるようなみち長き下りも本町二丁目/小野澤繁雄

門灯の代わりに老婆すわりいる夕暮れ早き町内の家/水谷澄子

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短歌人2017.3より会員の歌

2017-05-03 | 短歌人誌より
会員2より。

雪うさぎをつくることなどもうなくて南天の実は南天のまま/冨樫由美子

冬眠もできないくせにどんぐりをひとつ拾ってふゆを待っている/葉山健介

黒々と轟く海をかかえこみ昆布は鍋にひっそり沈む/葉山健介

電車からいつも見ていた病院の窓から電車を見た冬があり/丹呉ますみ

これ以上あゆめぬといふ連続の果ていつぽんの外灯はみゆ/宮澤麻衣子

空爆を見てきたような面差しで口内炎を舌先に突く/太田青磁


会員1より。

父親に抗ひしわれいま父の遺せし財に依りて生きゐつ/阪本まさ子

散り菊のようなるあまた「様」の字を並べて師走のルーティンとなす/岡本はな

流るるといふより太りゆく時間あなうらを掌に包みてゐれば/角山諭(ルビ:掌=て)

手帳持ちて車内ライトに物書きせり指くらがりをややずらしつつ/來宮有人

鳥居ぬけ振り向き小さく礼をする われは消えゆくわが町のなか/竹田正史

ちゃかぽかと紅白を観て年越しの蕎麦をすすりぬ今年終わりぬ/古賀大介

あらわれてくれないものがそばにいてまなうらに影ばかりが溜まる/鈴木杏龍

くれないの襞を重ぬる鶏頭はわれの臓腑と重なりてゆく/北岡晃

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