ゆびおり短歌

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短歌人2017.3

2017-03-06 | 短歌人
「短歌人」2017.3 /同人2 黒﨑聡美


冬らしい冬

あいまいなものを持たない冬の陽に爪の縦すじ晒されている

いつのまにか雪降る冬が遠のいて晴れわたる空は冬らしい冬

生花のにおいにごまかされながらボディオイルを夜更けごと塗る

長く勤めたい深入りはしたくない 警鐘鳴らす消防車ゆく

空白のような冬の日パチンコ屋の駐車場広くひろがるばかり

枯れ草に鳥影よぎりその鳥はわたしより先に新年を飛ぶ

勢至堂トンネル抜ければ雪の降る重くしずかな季節となった





・・・・・・
清郷はしるさんによる「私が選んだベスト3」に、一月号の


指はいつしか車となってひらかれた地図からきみと湖へゆく


の一首が、清郷さんに評とともに掲載されています。
このページに選ばれるのはかなりうれしい。
清郷はしるさん、ありがとうございました。
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短歌人2017.1より短歌人賞、卓上噴水

2017-02-20 | 短歌人誌より
第62回短歌人賞より。

目のやうに見ひらいてゐた池水を覆ひ尽くしてけさの菱の葉/大室ゆらぎ「夏野」

石棺のあとに窪みは残りゐてそこにをりをり溜まる雨水

花のうへに花は積まれて腐りつつ土手へとつづく日ざかりの道

夏藤にゆるく巻き締められてゐる割れたガラス戸、人声聞こゆ


あぶくのごとき笑みを浮かべていはせぬかいつものさくわに耳を貸しつつ/西川才象「存在と時間」

「どこから来た」と何度も聞かれ人類の始原の頃まで思いは至る

おとなしき獅子舞なりき「年寄りの頭を嚙め」と言いつけしものを

持ち主のいなくなりたるトランプの婆の眠りも平らかであれ


卓上噴水より。

泣きやまざる児の夜と妻の夜がすこしづつずれはじめてしまふ、てしまふ/角山諭「時を継ぐ」

泣き叫ぶあひま一瞬無を吸うて固まりゐたる児を捉へたり

ひと月をまとひたる児よ産院の裏の線路は熱さをもてり


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短歌人2017.1より同人の歌

2017-02-20 | 短歌人誌より
同人2より。

風少し尖りはじめる秋の朝死者の言葉を聴きに出かける/滝田恵水

墳丘の上ゆく風は尖りたり埋葬された刀のように/滝田恵水

なんとなく曇りの空の暮れゆきてわが鉛筆は畳にありぬ/田上起一郎

なきがらをうずめる庭をもっていない一緒に暮らすことはできない/魚住めぐむ

もうにどと渡らぬ橋をわたりきりさむきこころは風にゆだねる/朝生風子

花野めく寺の庭先風のきてかがめる若冲立ちあがりたり/水原茜

二人して川のぞきこむ巡査あり尻ポケットに手錠のぞかせ/立花鏡子

充されてゆくのはこころでもからだでもないなにか口移されて/勺禰子


同人1より。

何本ものトルコ桔梗に挿されつつ花瓶の水は閉ざされている/猪幸絵

わが裡の荒野に雪の降りしきる村がありたりかすか灯りて/関谷啓子

折り鶴は折らずいちまいの紙のまま紙のしずかに置きてねむらす/内山晶太

ひどいいじめの少女マンガをがんばっていじめる側で1巻を読む/斉藤斎藤

たぶん別のカルテの付箋がついてゐる付箋ははがしていいのだらうか/髙澤志帆

公園の芙蓉の花は風景に馴染まぬままに秋に切られる/柏木進二

影あはくわれにつきくる 午ふけのなだりの径をひとつ曲がりぬ/大谷雅彦

肉声のにくからこゑは離されて耳にのこりぬながきその死後/西橋美保

十月に生まれし父よほんたうは知りたい抱いた女の数を/大越泉
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短歌人2017.1より会員の歌

2017-02-09 | 短歌人誌より
会員2より。

丁寧に包を開いていくやうな裾野にひろがる円山の紅葉/矢田敏子

想像をはるかに超えるものがいいベッドの下のほこりくらいは/柳橋真紀子

明け烏ひくいところでないている夢のすべてはひかりに消えた/葉山健介

追ひ抜いて行くのはいつも風ばかりゆふぐれの道海へと続く/屋中京子

ダンプカーの窓より出たる軍足のふたつの足裏に秋の日そそぐ/古川陽子

やけに手になじむ蛇口だ涙腺の場所はいまだに言語化できず/浪江まき子

生活はまことしずかに停滞す秋の始めも終わりも知らず/高良俊礼

駅まで来て薬飲み忘れたことをどうする飲んだことにしませう/西尾正美


会員1より。

公園のそとからみてる公園のなかの遊具とそのがらんどう/鈴木杏龍

おとななら小一時間の道のりのどこにかつての雨はいるのか/辻和之

冬の陽のやさしくふかくさし入りてどこかとはこの部屋のこと/田平子

県魅力度四年連続最下位ののびしろのごと空地続きぬ/萩島篤

月光は鋭きまでに無音なり円い刃もあることを知る/岡本はな

母も父もこれしか持ってないからと小さいスーツケースで来たり/織田れだ

お母さんによろしくと言ひてくれる人ありてわたしは子供と思ふよ/來宮有人

空き箱の中に箱ありその中にまた箱ありて亡き母がいた/髙井忠明
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短歌研究2017.2

2017-02-07 | ごあいさつ、お知らせ
お知らせが遅くなりましたが、発売中の「短歌研究」2月号の〈相聞・如月によせて〉に、連作七首「つららと雉」と、エッセイが掲載されています。
エッセイは谷村はるかさんの歌と広島です。

ぜひお読みください。
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短歌人2017.2

2017-02-07 | 短歌人
「短歌人」2017.2 /同人2 黒﨑聡美


ものがたり

小さな小さな盆地のような公園に秋のおわりの光が溜まる

紫陽花の群れ咲く路地をすすめられその路地はいまだ六月のまま

ロッカーの前でしずかに息を吐き会いたい人が今二人いる

二十時のスーパーマーケットにふっつりと酸味の強いトマトをさがす

眠れたか眠れなかったかわからない朝に求める焚火のその火

ちぎれ雲とつながるような午後にいてやがてひとりの眠りにおちる

ものがたりあふれ出そうにひらかれたベンチの前を今日も過ぎゆく



・・・・・・・・

1月号から始まった連載「永井陽子の一首」が読み応えがあっておもしろいです。1ページ丸ごとの分量なので、作者の短歌観がにじみ出てきますね。
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短歌人2016.12より同人の歌

2017-02-03 | 短歌人誌より
同人2より。

油蟬のこえにぬれつつ街路樹に沿いゆくからだ重たくなりぬ/荒井孝子

サヨチャンと呼ばれてしまうでもわたしそういう名前も似合うと思う/砺波湊

無人駅に途中下車してうすあはく後悔せむと買う切符あり/吉岡馨

からまりしまんじゆしやげをほどきやりわが血流のほぐれてゆくも/朝生風子

鬼百合が好きとこたえてそれ以上訊き返されず向きあうばかり/有朋さやか

曼珠沙華いつの間に咲き散りしやら逝きし人らが遠くなりゆく/前田靖子

夢を見てゐるのだらうか樹は時に海鳴りに似た声をたてて/松野欣幸

くらいベンチにはなれて坐るおじさんのひとりが照れたように痰を吐く/斉藤斎藤


同人1より。

ゆく道に日の差しをりて淋しさのまつはりて来るけふの歩みは/青輝翼

小鳥ほどの重さのバナナむきゆけば飛翔のかたちに皮が残りぬ/洞口千恵

秋の日に銀座で買ひし緋の帽子見ては仕舞ひて五十年過ぐ/和田沙都子

裏木戸のこわれし錠を思いつつふるさとに浅き眠りをつなぐ/木曽陽子

生と死を隔てるために打ちつける釘はわづかに光りてありき/原田千万

幾たりの肌にふれ来し珊瑚玉ビロードの箱閉じて開いて/平野久美子

にほへりし木犀の香も消えうせてただの裏道になりてしまへり/中地俊夫

熟れたるを一口ふくむ壇蜜をこのむごとくに好む無花果/大橋弘志

幾万回あつき空気を切りたるや扇風機の羽根しづかにあらふ/寺島弘子

こころまで暗む夕暮れ笑顔なる遺影に喧嘩を仕掛けてみむか/望月さち美

生別をせしゆえついに忘るることができずわが家に秋の長雨/渡部洋児

位牌のごとくならぶ飲料水を売る自販機光る夜半の点滅/藤原龍一郎
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短歌人2016.12より会員の歌

2017-02-02 | 短歌人誌より
会員2より。

草の穂のいたくひかりてゐるところ今宵の月はここより昇る/冨樫由美子

街灯が迎へ火のごとゆらぎつつ仕事帰りのわれを迎へる/鶴羽一仁

長月は時間が狂う狂う時狂えばずっと音だけの雨/高良俊礼

過呼吸が宵から夜へゆく時のこのいとおしい手の中の闇/高良俊礼

鍵盤にことばしづかにかさなりて この夜に色を塗るごとくゐる/宮澤麻衣子

本堂は夜行動物の檻めいて焼香の番が近づいてくる/浪江まき子

万年筆工場跡地をかこみたるフェンスに紅き薔薇の薫れり/清郷はしる

絶え絶えの息でここまで駆け抜けた脚をあなたに触ってほしい/鈴掛真

チャンネルを回しつづけて金星の天気予報に辿り着く真夜/朝倉洋


会員1より。

びょうめいをひとつもとめてはしごするサンダルばきのようなじんせい/鈴木杏龍

検針員におじぎをしたり幾千の針を見てきた人の眼に/大平千賀

魚のごとく光る雨衣を着て夜の団地の中の巣におさまりぬ/北岡晃

あふむけに翅ばたつかす蟬あれば傘の先もてつつく老人/伊東一如

爪切りの途中であつたそれだけをゆるきカーブに思ひ出したり/角山諭

たれも降りずたれも乗らぬにエレベーター開きて閉まりぬ 亡き人が呼ぶ/佐藤由美(ルビ:開き=あき)

一年を空きたる家の夕くれに白きおしろいばなひろがりぬ/來宮有人

立ち止まる暇もないまま流れゆく人波のなか時間は消えて/上村駿介

嬉しくて思はずスキップするときにしくじらぬやう練習をする/牛尾誠三
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短歌人2017.1

2017-01-08 | 短歌人
「短歌人」2017.1 / 同人2 黒﨑聡美


過去

十月の蜘蛛の巣どれも美しくわたしは過去を忘れてしまう

リサイクルショップの奥へすすむほど時間は集まり重くとどまる

柿の木のてっぺんまでを駆けのぼる黒い仔猫に過去を見ている

裸眼では星の光は届かなく昔歩いた坂道をゆく

またひとりこの世から去り晴れあがる朝の欅に鴉をさがす

ふかぶかと雨を吸い込む裏庭にどこよりもはやい冬のおとずれ

指はいつしか車となってひらかれた地図からきみと湖へゆく





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同人2に昇欄しました。
これからはタイトルや詞書がつけられます(会費もあがります)。

月例のタイトルを考えるのはなかなか大変で、この「過去」というタイトルに決めたのも結構時間がかかりました。
また新たな気持ちでいきたいと思います。


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短歌人2016.12

2017-01-08 | 短歌人
「短歌人」2016.12 / 会員1 黒﨑聡美


工場と工場のあいだにサーカスのテントが組まれそれを見にゆく

金髪の自転車少女の跡追えば定休日という看板の前

整骨院にサーカス話が増えてゆく良い席などを教えてもらう

ほのぐらいテントの床はむき出しの土が広がりやがて暗やみ

ブランコはいつしか消えてサーカスのテントを出ても夜は遠いよ

サーカスを見終えたあとに草を踏む獣のにおいを呼び出すように
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