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車止めピロー:旧館

  理阿弥の 題詠blog投稿 および 選歌・鑑賞など

只野ハルさんのうた

2009年11月02日 | 八首選 - 題詠2009
只野ハルさんの歌から8首。


076:住
訪ね来た住処の跡に佇めば人無き村に架く白真弓

068:秋刀魚
灰干しの秋刀魚のひらき旨いよと母は勧める何度目になる? 

067:フルート
中空の茎持つ植物茂るところフルートの故郷ならん

038:→
ポジションが いつも→だと 飽きちゃうと ←にしたら 手はどうしよう

021:くちばし
鷺一羽 朝靄の中 くちばしを 河底に刺す 典雅な朝餉

004:ひだまり
ひだまりをイメージすればおきまりの 花壇 老人 猫 子ども 犬

003:助
それだけじゃ助けになんてならないと言ったあの日を詫びようがない

002:一日
過ぎ去ったこの惑星の一日を異星でひとり思う日はいつ



自由律の一行詩、といった作風の只野ハルさんのお歌。

67番。
なるほど、そうかもしれない!と膝を打った一首。
世界各地で多様な楽器が生まれる背景って、
意外なところにあるのかもしれないですね。
こういう、読み手に新たな視点を開かせてくれる歌、大好きです。

櫻井ひなたさんのうた

2009年11月01日 | 八首選 - 題詠2009
櫻井ひなたさんの歌から8首。


086:符
えりちゃんの片道切符で旅に出る危なっかしさが妙に眩しい

080:午後
午後7時、恋人ごっこは終わるからあなたの時計も返してあげる。

065:選挙
日曜の選挙会場あのひとはあたしの知らない顔で笑った

059:済
モノクロな今日に『済』印押すようにカラフルすぎるチューハイを飲む

058:魔法
魔法使いみたいに呪文を唱えてもかぼちゃはかぼちゃあたしはひとり

052:縄
大縄へ飛び込むように覚悟なら7月2日のあたしはしてた

037:藤
ママだって恋してたでしょ?藤色の浴衣をあたしが着る番になる

008:飾
肩書で飾られているからでしょうだからあたしに優しいのでしょう



躊躇い、ごまかしのない櫻井ひなたさんの百首。
少女短歌と名づけたくなるけれど、
そこから大人になる一歩手前くらいの。
あからさまだったり、ツンデレだったり、
読めば多少の戸惑いを覚えるような、そんな率直さ。

お気に入りは52番。
何かを予期して、あるいは期待してする覚悟。
作中主体にとって、意味のある日付、まさにそのときに。
でも何も起こらなかった。起こっていたならばきっと。
そんな一首。

睡蓮。さんのうた

2009年11月01日 | 八首選 - 題詠2009
睡蓮。さんの歌から8首。


091:冬
今年また冬至が来るね思い出は一番長い夜に始まる

079:恥
イケメンが「一緒にいてよ」って言うんだもんテレビ見ながら恥じらう母ちゃん

066:角
秋空に一対の鳥行きにけりゆったりビルの角から角へ

054:首
空見上げ小首かしげて「今日も雨~?」運動会は晴れるよ息子

032:世界
日焼け止めぬってかなくちゃ遅れても明日世界の終わりが来ても

024:天ぷら
風呂上がり巻いたタオルが天ぷらの衣みたいにスルッと落ちた

010:街
おだやかな暮らしの中で振り向けば恋に恋した街の灯遠く

003:助
「愛して」と手を伸ばしても心では「助けて」だったみたいだ 抱いて



32番。
終末と日焼け止め。アンバランスのおかしみ。
でも実はほんとに切実なこだわり。

10番。
幸せだからこそ恋しい、かつての未熟さ。
二度と戻れないとき。


一番のお気に入りは91番。

祢莉さんのうた

2009年11月01日 | 八首選 - 題詠2009
祢莉さんの歌から8首。


073:マスク
ひび割れたところが強くなれたらなマスクメロンの網目みたいに

063:ゆらり
早朝のぶらんこゆらりひとりきり今から始まる時を見ている

050:災
あの人に災いあれと祈りつつ啜る紅茶はニガくてマズい

040:すみれ
大好きな彼の彼女はほんのりとすみれの匂い負ける気がした

031:てっぺん
チョコレートパフェのてっぺん飾ってるチェリーになって見つめられたい

030:牛
牡牛座で生まれるはずの新しい命を待ちわびている三月

014:煮
煮くずれたりんごのようにめそめそとしてたい雨の木曜日には

001:笑
君のそのどこか硬質な笑顔が僕には綿菓子みたいに甘い



様々な恋模様を詠われた祢莉さんの百首ですが、
選んでみると、食べ物が詠みこまれたお歌を
多く採らせていただいていることに気付きました。
それぞれの味・食感・香りなどが一首一首に固有の
しっかりとした質感を与える、そんな気がします。

14番。煮崩れ・めそめそ・雨。この湿度の高さ!
しおれた様子を、煮崩れたりんごに見立ててるのが◎。
木曜日を選んでるのも好きです。
なんとなく「月曜日」ってやりがちな気がするから。
(カーペンターズのせいか。違うか)

わだたかしさんのうた

2009年10月31日 | 八首選 - 題詠2009
わだたかしさんの歌から8首。


072:瀬戸
瀬戸際に立たされているときくらい笑顔をみせていいと思うよ

062:坂
落ち込んだ帰り道には転がれるくらいの坂があればいいのに

056:アドレス
買い替えたアドレス帳のメモ欄に暗号で書く名前いくつか

045:幕
幕の内弁当の具を一つずつ確かめながら愛を囁く

025:氷
溶けかけの氷のような立ち位置で同窓会を楽しんでます

023:シャツ
YシャツのYからそっと覗き見たキミのXからZあたり

019:ノート
真っ白なノートに最初のひと文字を落とすみたいな別れのコトバ

003:助
「助けて」と叫んでみたら「助けて」と言い返される そんな毎日



19番。
新しいノートの使い始めって、なにか清々しい緊張感がありますよね。
ほんの少しの精神的ハードル。最初のインクを落としてしまえば、
あとはもう、なんてことは無いのだけれど。
ノートには必ず何か書かれることが分かっているように、
この「コトバ」を言われる方は、うすうす別れのことを感づいている、
そんな相手なんでしょう。
一冊丸ごと別れの言葉では埋め尽くせないから、決定的な一言のあとは、
耳あたりのいい言葉たちが並ぶことを、お互いに期待しながら。

45番。
幕の内弁当の具を確かめながら愛を囁く。
これってどういうことなんでしょう。
幕の内ってだいたいオカズは、決まりきってますよね。
だけど種類はいろいろ入ってる。
(玉子焼き、)好きだよ(カマボコ、)愛してる
(焼き鯖・・・)ずっと一緒だね
みたいな。
なんか、相手の褒めるとこを一つずつ確認しながら、口にしている・・・
あるいは、
単純作業をしながら、ちょっと上の空でこれまたルーティンに
なってしまった愛の囁きもこなしているような。
そぐわないシチュエーションが面白くて、比喩だと考えても楽しくて、
とっても気になる一首でした。

都さんのうた

2009年10月31日 | 八首選 - 題詠2009
さんの歌から8首。


008:飾
花を飾るこころを持ちて7ヶ月 ガーベラ姉妹は窓辺を向けり

023:シャツ
昼ごはん今日の気分はナポリタンまっ白い君のシャツが気になる

024:天ぷら
外食の油が合わぬと君の言う 天ぷら屋さんは他の子と行く

028:透明
夢を語る君のまなざし透明でいったい何を見てるか不安

059:済
ソフトクリームを舐める少女の指に溶ける一筋ダディに求める救済

070:CD
君に明日おすすめの本を貸すけれどまだCDは貸し借りしない

074:肩
その肩にちょっとは重みをかけてよい? 今日はなんだか荷物が重くて

080:午後
午後一でお伺いいたしますと言う 落ち葉を踏んで今日も天気だ



80番。
なんとなく雨上がりの情景を思い浮かべました。
夕べまで降っていた雨があがって、空は澄んでいる。そして太陽。
本当は晴れ晴れしたことばかりじゃない。
もしかしたらクレームの電話だったかもしれない。
でもまあそれなりにやっていくしかなくて、上を向いて歩く。
そんなヒトコマかな。

市川周さんのうた

2009年10月31日 | 八首選 - 題詠2009
市川周さんの歌から8首。


062:坂
さらちさらち何がそこにはあったのか思い出せずにのぼる坂みち

061:ピンク
半減期まであと2年 答えとかピンクチラシが風に吹かれて

054:首
しょんぼりとすれば誰よりしょんぼりと首長竜の長すぎる首

047:警
警備員照らす理科室ともだちがいるってどんな気分だろうか

021:くちばし
くちばしのワキのいぼ的なるものの名前も知らず三度目の鳩

004:ひだまり
ひだまりを猫から奪う(不戦勝)惰眠の多い人生でした

002:一日
今日の日よさよなら それはそれとして一日に必要なビタミン

001:笑
静かなる笑いのもれる水槽で田螺(たにし)が海の夢をみている



こんな風に詠むために、自分には何が足りないんだろうか。
人生経験?うーん。
用いたことばを、強く光り輝かせるための組合せって、
あるんですよね。
これらの歌を読むと、自分の作品が退屈だということは
わかるんだけど、どうしたらいいかはよく分からない。

61番。
荒涼とした光景の中の、ディランそしてエロ。
それは、人間の愚かさの象徴であり、
かつどんな時代にだって通用する、
生きるための意味と力。

あー・・・チェルノブイリなんか、まだ半減期が来てないんだなぁ。

 ♪どーれーだけー 歩ぅいてー いーったらー
  人はー やすぅめるのー       
              Japanese ver. sung by J.バエズ

空山くも太郎さんのうた

2009年10月29日 | 八首選 - 題詠2009
空山くも太郎さんの歌から8首。


098:電気
突然に明るくしちゃって笑う君 ラブホのベッドの電気のパネル

093:鼻
キスをしてそれでも離れがたくって鼻があたってやっぱりキスした

084:河
橋の上ふたりで吸った河のにおい 覚えていようね こういうこととか

077:屑
屑箱に何度も投げて外しては二人でずっと笑ってたかった

072:瀬戸
瀬戸際で帰ることもできなくてあなたに触れた昨日の後悔

070:CD
部屋に来てCD見ている君の背を見ている僕のちょっとした時間

062:坂
ゆっくりと歩いていこう 今僕ら坂の途中だって気づかぬぐらい

004:ひだまり
ひだまりは後ろめたくはないけれど手はつなげずに並んだ僕ら



まさに青春短歌と名づけるにふさわしい百首。
甘酸っぱい!
読む側の年齢によって、ひっかかるポイントは変わってきそうですね。
84番とか。そうそう、覚えていようね、って。
でも忘れちゃうんだよね。悲しいかな。
迷うけれど、一番すきなのは恋愛の歌としてじゃない読みかたも
出来る62番。

本田鈴雨さんのうた

2009年10月28日 | 八首選 - 題詠2009
本田鈴雨さんの歌から8首。


021:くちばし
おのづから殻を破りて誕生すくちばしもてるもののあはれは

031:てっぺん
くるぶしのてつぺんから冷ゆ はつあきの午睡によこたふ石女の身の

033:冠
冠を載すればほのかゑまひたる姉のひひなは姉に似たりき

048:逢
丈たかき草の茂みの逢引のよもぎの花粉かなしかりけり

054:首
種子もてる河原撫子の花首を切るときかそかせせらぎ聞きぬ

077:屑
大鋸屑に海老棲むものと信じゐき鮨屋のやんちや息子五歳は

079:恥
十月のベランダの末枯れあさがほに濃きピンク咲きなにか恥づかし

088:編
くすりゆびコピー用紙にすと切れぬ草の葉編みし春のありけり



2008題詠blog鑑賞のなかでも、取り上げさせていただいたことのある、
本田鈴雨さんのお歌。悩んだ末の8首。
草木の名前を多く詠みこまれていて、私などは辞書を引き引き
読ませていただくのだけれど、そうしたお歌を読みながら、
「個性は胸の内ではなく、外に宿る」のだ、という思いを強くする。

88番。
その辺にある雑草で指を切ったことなんて、ほんとーに忘れてましたよ。
私なんか、紙の端で指を切ったって思い出さない。
土のある世界から、なんて離れてしまったことか。
人口の世界と、けしてコピーを許さぬ自然界、その優しい融合。
草花との戯れを、編むという言葉で象徴させているのも素晴らしい。

79番。
あらら、もう大人しくする時期なのに頑張っちゃって、
という気恥ずかしさ。嬉しさも多少はあるからこその。
若作りした父母を見るときのような気分。
そしてもちろん自身も振り返ったり。
狂い咲く側にも、それなりの恥らいや理由があって。
でもやっぱりちょっと恥ずかしいのだ。

だやさんのうた

2009年10月28日 | 八首選 - 題詠2009
だやさんの歌から8首。


062:坂
坂道の多い道行ですこれはどこかで神社に出るのでしょうが

054:首
向日葵の畑で君が絞めている首の中にも幾本の管

041:越
トンネルのさなか車掌は越境を知らせる車内放送をせり

034:序
序破急を踏まえて言えば破で死んだ女にも似て地下鉄の君

031:てっぺん
てっぺんを横切って飛ぶ衛星の眼のしたに頭頂部いっぱい

030:牛
ミミズでも猫でもなくて牛なのに牛なのになぜ悲しくなるの

016:Uターン
東京は未だ旅先 住みつつもUターンなら途中半分

004:ひだまり
ひだまりに黙れば宣し縁側は寝る子も猫も静かなところ



これはまたすごい人が現れた・・・
一夜にして百首を詠みきった、だやさん。
そりゃ、適当ならいくらでも詠めるかもしれませんが、
クォリティを保ち続けているのが素晴らしい。
思うにこの方、「良い歌」「ダメな歌」の基準をしっかりとお持ちで、
かつご自分の作品の特徴なども、しっかり把握されているのでしょう。

31番、54番などを読むと、マクロな視点と
ミクロな視点の用い方がすごく効果的だな、と分かります。
この視点の広さが、百首を詠んでも出涸らし状態にならない
ポイントなんでしょうね。
私も負けないように作歌に励みたい。

一番すきなのは、悩んだ末に54番。

春待さんのうた

2009年10月27日 | 八首選 - 題詠2009
春待さんの歌から8首。


084:河
グラビアの河合奈保子の胸元に女心も捕らわれた夏

078:アンコール
アンコールに応えるように上がる花火 君にもたれて静寂を待つ

074:肩
路肩には小さなネジバナ薄紅の夏を目指してゆっくりと咲く

064:宮
今月も子宮は空になっていく私は卵を一つ失う

054:首
膝枕すると何時でも母さんは首の後ろの黒子を撫でる

031:てっぺん
こんな日はジャングルジムのてっぺんで報われた恋の話を聞こう

030:牛
蛞蝓(なめくじ)に塩撒きながらホームレス蝸牛(かたつむり)に見え止まる指先

022:職
新聞の小さな事件の少年が「有職なのか」と羨んだ父



30番。
ナメクジ、そして同族ともいえるカタツムリ。その対比。
その一種を退治てしまおうとする人、そしてホームレス。
一瞬とはいえ、人間大のものを蝸牛と見てとってしまった、そのおぞましさ。
同時に、多発するホームレス襲撃事件や、地下街及び
都市部からの締め出しなども、当然に頭をよぎる。
そして、大別すれば「締め出す側」に属する自分。
塩をまき清め、排除する者。排除される者。
とまる指先。

題詠blog2009全体の中でも、とても重要な作品のひとつと思う。

石畑由紀子さんのうた

2009年10月26日 | 八首選 - 題詠2009
石畑由紀子さんの歌から8首。


100:好
欠けていて月うつくしい 間違ったままで私はあなたが好きだ

099:戻
夜明けごと少女に戻る祖母の手を握るとりどりの名で呼ばれながら

097:断
指にまだけもののにおい ふたりそっとつなぎ横断歩道をわたる

079:恥
太宰ほど誇れる恥のない午後の舌先でころがすユスラウメ

053:妊娠
私という宇宙を妊娠した宇宙三十九年前のほほえみ

047:警
警笛もきっとまぶしく見ただろう白線越えたあのつまさきを

034:序
ほねになるただしい順序があることを父を哭かせて知らせた友よ

016:Uターン
撥ねたのは過失なんです、(Uターンしてから二度目はゆっくり轢いた、)



47番。
写真よりも瞬間的で、しかしもっと幅をもった時間を切り取る。
詩にはそういう力がある。
それぞれの胸に鮮やかに蘇る、音・光・刹那。

16番。
告白。恐ろしい物語。たった一行の。
石畑さんの歌は、読点の使い方に特徴があると思うんですが、
特に文末に使われていると、断定できない、言い切ってしまえない、
そういう宙ぶらりんな、「今」の空気を表するのにぴったりと
フィットした用い方だと思えます。
記号を使うと、もちろん歌はどんどん散文に近づいてゆくんだけれど、
そういうハイブリッドな表現、私は好き。

扱丈博さんのうた

2009年10月23日 | 八首選 - 題詠2009
扱丈博さんの歌から8首。


092:夕焼け
夕焼けが臭わぬ場所を指せぬまま少女は回す 肉の地球儀

087:気分
向日葵の畑をすすむ 点眼師の気分で種子をのぞきこみつつ

076:住
かなしみが奥歯の奥で安住し歯をみがいてるだけでくるしい

072:瀬戸
海峡を無言で越える ここまでが瀬戸内海、と教えぬこころ

053:妊娠
妊娠をしているようなひらがなをふたつ重ねた名前をもらう

039:広
拳銃を握ったこともない右手 ただ歩くには広すぎる街

016:Uターン
ルーベンスの絵画のようなUターン・ラッシュ・イマージュ・コラージュ全図

015:型
ちょうどいい血液型でマフラーを忘れたような街にくり出す




扱丈博さんのような作風の歌に、立ち向かうのは難しい。
手強い。理屈では読めないから。
心のひだ、凸凹にすっとフィットするか否か。

たとえば16番。
自分にはとてもこんな風には詠めない。
テレビ画面かなにかで、ルーベンスが描く群集のような、
ゴチャゴチャしたUターンラッシュを眺めている図か。
いや、やっぱりそんな理屈じゃなくて、
好きなのはまさに歌というにふさわしいこのリズム。
うっかりと詠みながしてしまいそうで、詠みながせない一首。

72番。
生活する、ということは、ひたすら全ての事物事象を
名辞分けしながら生きる、ということに他ならないわけで、
歌人というのはそれを殊更に意識する人種であって。
本来名づけ得ないものまでも、生活の必要に迫られて名づける、
そういう人間の本質が、ここにはあると思う。

蓮野 唯さんのうた

2009年10月18日 | 八首選 - 題詠2009
蓮野 唯さんの歌から8首。


027:既
コンビニの店内まるで既製品同じ配置で安心を呼ぶ

030:牛
雨含み牛が歩けばくしゃくしゃと合唱してる春の牧場

035:ロンドン
ロンドンに序(つい)でに寄ると電話あり聞き返したらパン屋の名前

045:幕
幕の内弁当にある練りわさび切なく待つ身の哀しみに似て

073:マスク
マスクした瀬戸の花嫁笑えないフェーズ5(ファイブ)のインフルエンザ

077:屑
屑籠のような住いが映ってるテレビ眺める午後三時半

082:源
源を目指して上る鮭たちの「早く!早く!」と立てる水音

091:冬
冬瓜をとろとろ煮込む長さだけ居眠りしようか読書をしようか



ひとつ前のお題も同時に詠みこまれている蓮野さん。
1番から100番までが、円環構造をなしています。
フルートと秋刀魚を同時に詠め、といわれたら、
私なら途方にくれてしまいそうですが、そこには
面白い歌を詠む鍵が隠されているかもしれませんね。

好きな歌は45番です。

こゆりさんのうた

2009年10月17日 | 八首選 - 題詠2009
こゆりさんの歌から8首。


091:冬
平等に君にも冬が来たろうか あめだまふたつにぎりしめてる

089:テスト
ねえ先生 テストに出ないことばかり大事にしたいような空だね

085:クリスマス
六歳のクリスマスイブにだまされてみる幸せを知ってしまった

068:秋刀魚
待つ人があるふりをして買う秋刀魚そろそろ夜が寒くなります

050:災
あのひとのこと災難ねといわれたくなくて必死のスターバックス

024:天ぷら
「天ぷらを食べてきました」先生に叱られたいんだグロスの口元

015:型
そらさずに見てるマカロン僕の右腕にあるのとおんなじ歯型

009:ふわふわ
ふわふわと死んでいきたい初夏のプールそうじの途中なんかに



24番。
本来、言い訳は叱られないためにするもの。
でもストレートにそう表現してしまったら、やっぱり歌にはならない。
叱られたいから言い訳をする。てらてらと光る唇で。
こういうアンビバレンスって、学生のころはみんな当たり前に
持っているものだと思うけど、表現にするのは難しい。
当事者たちは当然のことと思いすぎているし、
大人になれば忘れてしまいがちだから。

85番。
世界中で、毎年毎年何十万件と起こっている
<サンタさんなんて居なかったんだ>事件。
それが「だまされてみる幸せ」なんて風に表現できるなんて。
事象を裏側から見る、そういう視点を詠み手が
持っていることがわかる、非凡な一首と思います。