若生りえ Jazz Songs & Diary

ジャズ歌手の若生りえがジャズスタンダードソングの歌詞やエピソードについて語る。
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『私の好きな曲』の訳詩をご覧くださっている皆さまへ

2013年06月09日 | 私の好きな曲 ~ジャズ訳詞一覧~

いつも、私若生りえのブログをご覧いただきまして本当にありがとうございます。
このブログも活動をはじめた2008年から少しずつ訳詩を掲載させていただき、
ようやく100曲以上になりました。
これもひとえに毎日検索して観に来てくださっている皆さまのおかげです。
本当にどうもありがとうございます。

帰国子女でも、海外留学や住んだ経験もない私ですが、
ジャズと出会い、その魅力的なコードに英語の歌詞がなおさら心地よく聴こえ、
それ以来、ジャズヴォーカルに魅せられ、目覚め、今に至ります。

勉強中の時に「この歌の歌詞にはどんなことを書かれているのだろう?」
と思ったのがきっかけで、ライナーノーツやネットの歌詞を見ましたが、
自分の言葉に置き換えたときに、なぜか歌う立場で考えると、
歌詞が入ってこなかったのです。

初めての一曲を、苦労して一文字一文字調べて一曲すべて訳したときは、
もう全身コチコチに凝り固まって、もうやめちゃおうかな、
と思ったのですが、なぜか自分の言葉で訳し始めたとたんに
そのたった一曲の、歌への思いが
今までとまったく違うものになったのです。

「心をこめて歌う」というのは日本語で歌うことはなんとなく
自然に実感して出来ていたように思ったのですが、
面白いことに英語の歌を一曲訳しただけで、
言語関係なく、歌には歌詞があるんだ。
と改めてその存在の大きさに気がついたのです。

歌手は、歌詞があってこそ歌わせていただけるのであって、
歌詞を大切にせよ、とは良くいわれますが、
その国の持つ『言葉の重み』をまさに身をもって覚えたからには
これは続けていきたい!と思いました。

よく、どうやって訳すの?といわれますが、
一文字、一文字、せっせと辞書で調べ、一つの文章にし、
それを大きな段落で捉え、全部の段落が訳せたら、
最後は何度も何度も最初から最後まで読むのです。
そこではじめて、この歌詞の全容がわかってきます。
すると「あ、ここはこっちの意味じゃないな、こういうこと言ってると思うけど、
この単語、別の意味もっていないかなぁ?・・・あったあった!やったね!」
という感じです。だから時間がかかってしまうのです。
もっと効率的にできればいいのですが、
わりとこの時間が嫌いでもないので、時間がかかってしまいます

たとえば、『I』は通常『私』と訳されることが多いですが、
曲によっては『僕』『俺』『あたし』『あたい』『わたくし』
などと、日本語に置き換えたとき色々と考えられます。
それだけでもその『I』のキャラクターを想像させるものになります。

また、その時代や国の文化を知る驚きや楽しみもあると思います。
日本語の歌でいうと、河島英五さんの『酒と泪と男と女』という歌がありますが、
あの歌をもし逆に英語で訳されるとしたら、
あの歌で歌われているお酒の種類は『日本酒』である、
ということを伝える役割だと思うんです。

飲んで~飲んで~飲まれて~飲んで~飲んで~酔いつぶれて眠るまで~飲んで・・・

その酔いつぶれて眠るまで飲むお酒は、
テキーラでもビールでもワインでもウィスキーでも焼酎でもなく、
私は日本酒だと思うのですが、ジャズ歌詞でいうと、
それがなぜか、ということをお伝えできたほうが歌詞に近づけると思うんです。

コールポーター作詞作曲のスタンダード『Love for sale~ラブ・フォー・セール~』も、
主人公の女性が作者であるコール・ポーターのフィルターを通して出てきた一つのキャラクターである、
ということを大切に伝えたい。ただの「すさんだ商売の女」と捉えられないように、ということで、
特に時間と勇気の要るものがありました。
「さぁ!さぁ!さぁ!愛はいらんかね?私の若くて新鮮な愛はいらないかい?
古い愛も新しい愛もどんな愛もみんなあるよ!ただし、本当の愛意外はね。」
商売の女性が生きるために今夜も街角に立っているわけです。
このコール・ポーターは同性愛者であることをカミングアウトした人です。
今の日本では「おねえ」と呼ばれる人たちというのは、
逆を返せば、男女両方の気持ちが分かるから、
彼らの経験に基づいた鋭い意見をぜひ聞きたい、という人々は多く、
連日テレビや雑誌で目にしない日はありませんが、
1928年ごろにカミングアウトしたコール・ポーターの時代の世間の目は
きっとそうではなかったでしょう。
『I concentrate on you(あなたに夢中)』や
『I've got you under my skin(あなたはしっかり私のもの)』など、
彼の作品にはいたるところに歌詞にひねりがきかせてあり、
それはそんな彼に対する冷たい世間の目に対しての
皮肉やユーモアを含めて書かれていますが、それを訳すと、
本当に純粋で熱いハートを秘めている人だと思っています。
そう思って訳すと『Love for sale』のヴァースの部分も、
この女性の気持ちになるとなんとも複雑すぎる女心が伝わってきて、
先述の「古い愛も、新しい愛も、みんなある。ただし、本当の愛意外はね。
の下線の部分が「ドキッ!」とするわけです。
その「ドキッ!」を歌でどう表すかが、
自然と歌うときにも気持ちがこもってきます。

そんなわけで、直訳、対訳、文法、正しさというよりも、
歌手の立場で「きっと、作詞作曲された人はこんな思いで描かれたのではないか?」
ということに重きを置いた立場で訳したいと思い、このコーナーを始めました。
ジャズの歌詞には、男女の愛や人生の辛さ、楽しさ、素晴らしさはもちろん、
それぞれに『一つの凝縮されたドラマ』がギュッと詰まっています。
今、本の世界でも、偉人の名言、ニーチェや論語、般若心経など
今更ながら、改めて見直されている時代で、
物にあふれかえって物におぼれたあと、私たちに何が残ったか?
それを世界や自然界から突きつけられているような日常の中で、
こういったものに改めて「いかに生きるか」の答えを一生懸命探しているような気がします。
今歌われているジャズの歌詞は、1910年代頃以降のものがほとんどです。
まさに先人の知恵が、皮肉やユーモアと一緒にギュギュッと詰まっている、とも言い換えられます。

世界恐慌の時代に作られたとは思えない、
『On the sunny side of the street(明るい通りで)』のような歌があったり、
『Moon river(ムーンリバー)』や『As time goes by(どんなに時代が流れようとも)』
『Smile(スマイル)』のような、昔から親しまれている映画の中で流れていて
日本でもなじみのあるジャズを歌わせていただいているうちに、
誰よりも私自身がその歌に癒され、励まされてきました。

時代背景や、何よりも、色々な思いをこめて作詞作曲された人たちの
思いを知ることによって、異国の歌を歌わせていただく一人の歌手として、
ただ言葉を覚えて歌うだけでなく、更にその歌の本質に近づきたい、
という気持ちだけで、今日まで、本当に私なりにですが、訳してまいりました。

プロの翻訳家や英語がペラペラの方から見たら、
また、学校のテストだったら、
私の訳詩は、もしかしたら『間違っている』かもしれません。

「Smile」の出だしの歌詞も、
Smile tho’ your heart is aching
(さぁ、笑って たとえ辛い時でも)
Smile even tho’ it’s breaking
(そう、笑うんだ たとえくじけそうになっても)

と訳しておりますが、最初の『Smile』も、
「笑え」「笑顔!」「笑う」など、
色々な言い方ができると思います。
しかし一方私の訳はというと、
「さぁ」や、「そう」という言葉がついています。
「さぁ、笑って」と言えば普通は単純に「Let's smile」
「そう、笑うんだ」と言えば普通は単純に「Yes, smile」

って付かないと正しくないかもしれません。
でも、この歌の歌詞を何度も読んでいると、
そもそもこの歌の「笑顔」という意味は、
宝くじが当たってラッキー!的な喜びではなく、
大人になると、色々な立場になり、誰もが毎日が色々な困難の連続だよね・・・。
というようなことが書かれているようです。

素敵な人にめぐり合いたいと思ってもなかなかめぐり合えなかったり。
憧れてやっと入った会社で、思っていた仕事に就けなかったり。
夢に向かって頑張って打ち込んでいたことがある日病気で出来なくなってしまったり。
自分なりに毎日こんなに頑張っているのに、どうして報われないのだろう。
だれもがそれぞれの立場で「なぜ思い通りに行かないのだろう!」
と投げやりになりたくなるようなことってありますよね。

しかし『Smile』の最後の方に、それまで私も知らなかった単語、
『Worthwhile』という単語が出てきます。この言葉には、
時間、金、労力をかける価値がある。やりがいのある。むだではない。

という意味があるそうです。
そう。全ての経験に無駄はない。
だから、さぁ、元気を出して!
顔を上げて笑ってごらん!!
そうすればいつか必ずきっと報われる日が来るから。
その日を信じて生きていこうよ。
辛いことがあったって、泣いたりグチっぽい顔していたら
幸せが逃げていくだけさ。
だからやせ我慢してでも、無理してでも笑顔でいるんだ。
自分を信じて、笑顔で生きていこうよ。


と、そんな日本語での気持ちをベースにかためて訳してみました。

そうそう、『Smile』を調べているうちに晩年のオードリー・ヘプバーンの笑顔を思い出し、
彼女を調べていくうちに、彼女の愛した素晴らしい詩を見つけ、
「試練を乗り越えるための秘訣」を訳したときには、すでにこの歌への想いは深くなり、
震災後も私を励ましてくれました。

ジャズ評論家に以前こう言われました。
「Smileなんてさぁ、みんな歌うからつまんないよね。」
そんなこと、ジャズ歌手が言わせてなるものか!!
そんな気持ちも、訳詩をする原動力になっています。

歌手として、日ごろ日本語で生活しているのに、
母国語でない英語の歌を歌うときは、事前の自分の中で
「こう歌いたい!こう演じたい!」がはっきりしていないと
とても歌えません。

もちろん、ライナーノーツやネットにも素晴らしい、正しいプロの訳詩は
たくさん載っていると思いますが、そんな思いで、私の場合は、
一人の歌手という立場で、英文を訳すというよりも、
大好きなジャズの歌詞のいいところ、楽しさ、素晴らしさを含め、
これからもマイペースで、早く訳すよりも、深く訳すことを大切に、
掲載を続けていけたらと思います。

なお、ご自身のブログやフェイスブック、ツイッターなどで
リンクをしていただく場合は、
若生りえの名前と、このブログのリンクをお願いしております。
一言でも、コメントやメッセージでお知らせしていただければ
時間をかけて訳した本人としては、なお嬉しいです。

私は読んでくださっているみなさんのお顔をすべて存じ上げませんが、
一言、検索キーワードや閲覧数の上昇とともに、一度改めて
御礼と思いをお伝えしたくて書かせていただきました。

なんていうとカッコつけてしまう感じですが、
ヴァースがあとから見つかったのにまだ訳せていなかったり
ご指摘いただいたところを直せていなかったり
誤字脱字も、気をつけてはおりますが
この私のすることですのでどこかでやらかしていると思います

そんなまだまだ至らない部分はございますが、
「良くしていく」ことへの努力は
限られた時間の中で出来るだけして参りですので、
どうぞ今後とも、皆様からのかわらぬあたたかいご支援ご鞭撻を
心よりよろしくお願い申し上げます。


2013年6月吉日 

若生りえ











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12 コメント

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間違いました(汗) (礒村敏彦)
2013-06-09 17:15:05
先程の私のコメントですが、すっかり若生さんの訳を引用させて頂いたと思っておりましたが、違うようでした(汗)
アップされると混乱をきたしご迷惑をおかけしますのでどうか削除してくださいませ。大変申し訳ありません。

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りえさんの・全て好きだと・アメンボウ (haram1044)
2013-06-09 18:03:30
夏風邪ですか、知恵熱ですか。りえさんの努力と苦悩は訳詞から窺えます。その上で、気に入っているのですから、ご自身の解釈で表現すれば良いと思います。ただ、気懸りは音楽著作権との兼ね合いです。例え無料でも100曲以上をプロ歌手のブログで公開することは協会の承認が必要かも知れません。よって、私は”解説訳詞”つまりは説明として受け取っています。趣味の域を超えれば仕方のないことですが、事務所と相談なさったら如何でしょうか。1ファンとしての懸念です。応援は惜しみません。
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言語の限界と歌の持つ力 (マスター)
2013-06-09 18:31:54
りえさんの苦労がよ~く分かります
Facebookの友だちでナイジェリアの友人たちの英語は
例えばYouはyだったりdoはdだったりします
そうしたボキャブラリーだけでなく
内容によっては肯定的だったりネガティブだったり(ー ー;)
ウエルカムかザッツオーライツなのか
はー(゜o゜;;疲れる~笑
りえさんお陰で外国のー爆笑
名曲がより身近に感じられます
ありがとうりえさん
*・゜゜・*:.。..。.:*・'(*゜▽゜*)'・*:.。. .。.:*・゜゜・*
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うん…!! (Burt)
2013-06-09 18:44:42
委細了解っ!
今まで、折に触れ或いは繰り返し主張されてきたこと。「りえワールド全開」こうやって改めて読ませて戴くと、センテンスそれぞれの原曲ブログ記事とメロディーが頭の中で交錯してきます。

「効率??」そんなの○○食らえ!!これからも、ご自分の言葉とペースでがんばってください。
いつも楽しみにしています。
返信する
頑張ってネ (小林 泉)
2013-06-09 23:35:45
りっえっさん。
頑張ってネ。

心ない批評家がなんか言ってくる時があるかも知れないけど、りえさんの気持ち、みんなに伝わるヨ。
いっつも応援してます。
頑張ってネ。
返信する
りえさ~~~~~~~ん (シフォン)
2013-06-10 19:27:04
りえさんのお陰で
JAZZなんてよくわからなかった私が
JAZZを楽しめるようになったんです。
それまでは、何か難しい音楽という
先入観があって、JAZZクラブって、
渋い男性が、大人の女の人と
グラスを傾けて聞くイメージ(←すごく偏ってますね)
で、それが、難しいこととか考えずに
この世界へ引きづりこんで下さったのが
りえさんです
素敵なJAZZの歌を、あったかい優しい声で、
おまけに歌手の立場で丁寧に訳してくださって
いたれりつくせり
いつも一緒にライブへ行くMちゃんも
りえさんって、どこまで親切なんだ~と
感心してますよ
真のエンターテイナーって、そういう人のことを
いうのではないかしら・・・と、
りえさんの歌を聴きながら思うんです
20日のライブも楽しみにしていま~~~す
あ、フライミートゥーザムーン
先日一段とかっこよかった
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Unknown (ポロマー二)
2013-06-10 20:58:55
りえさん 5年に亘って100曲以上の訳詞ヽ(*´∀`)ノオメデト─ッ♪ございます。訳詞制作の裏で、ジャズや人に対しての絶え間ないリエリズムがあったんですね。だからこそ、今りえさんの歌手・人としての価値が磨かれているんだと思います。特にりえさんのブログは真に心に響きます。そして、色んな意見があるかもしれませんが、全てりえさんへの応援と思って、これからも益々のご活躍を陰ながら祈っております。頑張って下さい!! そして、また「やらかして」下さいね(^^)
返信する
Unknown (somebody)
2013-06-10 22:20:05
訳詩って、100人が訳せば
100通りの詩が出来上がるんでしょうね。

大事なのは、原語の詩がどんな言葉に
なっているかで、後は個人個人が
それなりに訳してしまって
構わないのではないでしょうか。

譜面通りに演奏する人もいれば
譜面に忠実ではない演奏家も
多々居ます。

同じ景色を見て描く絵も
100人描けば100通りの絵が出来るので
この景色はこう描かないといけないと
言われる筋合いのものでもありません。

もちろん空は必ず青く描かないといけないものでもなく、
海も青く描かなければならないものでもありません。

訳詩もJAZZってしまいましょう・・・・。(笑)

返信する
Unknown (mari)
2013-06-11 00:01:48
「深く訳すことを大切に」に、
りえさんの人柄がよ~く伝わってきます。
双子座の世界に象徴される「言葉」「意味」「物語」
ここで結びつけるのは違うかもしれないけど、
これからも私達にいろんな物語を聴かせてください。

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Unknown (おやぶん♪)
2013-06-13 21:53:47
はじめまして。心を鷲掴みにされたようです。
これからもちょくちょく覗きにきます。
いろいろおしえてくださいね。
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