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新・我歩我遊

~walkman・徒歩日記~

     

三鷹の森でコンサート。

2007-09-04 | ◆ディーノ
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先日、寄稿してくれたディーノが主宰している声楽集団「ヴォーチェ・アプリート」の14回目のコンサートが10月13日(土曜日)に行われます。
誰もが知っている身近な曲が盛り沢山で今回も楽しませてくれそうです。
秋のひととき、たまには素晴らしいコンサートを鑑賞するのもなかなか良いものです。
帰りは、井の頭公園まで歩いて伊勢屋でも、イタリアンでも・・・生が一段と美味になると思います!!
*ヴォーチェ・アプリート 第14回 声楽コンサートのご案内*
日時  2007年10月13日(土曜日) 
    P.M 1:30 開 場  P.M 2:00 開  演
会場  三鷹市芸術文化センター風のホール(JR三鷹駅南口下車徒歩15分)
    入場無料
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〔寄稿〕ギリシャ神話 「アプロディテの腕」/作・ディーノ

2007-05-23 | ◆ディーノ
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 夏の強烈な日差しにも、ようやく陰りがみえはじめたころ、私の所へ一つの小包が届いた。松崎美奈子からである。彼女は、私のイタリア語の家庭教師をしてくれている音大の4年生で来年の10月からは、ローマのサンタチェチリア音楽院に留学が決まっており、ヨーロッパの生活や習慣に慣れるため、この夏2カ月ほどヨーロッパ各地を旅行している。時おり絵葉書が届いていたが、小包は初めてである。中を開くと手紙に添えて白い石の塊がでてきた。手紙には、ギリシャの印象が簡単に記されていた。なにしろ暑い。頭と足下から猛暑が押し寄せてくる。まるでテンピの中にいるようだ。暑さと排気ガスのせいかオリーブの葉先も縮れ精気を失っている。男達も無表情で、黒い短い影だけを地面に残し寡黙に歩いている。何処も同じ女達だけが快活だ。ギリシャの栄光は過去に潰え、エーゲの碧だけが永遠である。そのエーゲ海クルーズのおり海にもぐって拾いあげたのがこの石だそうだ。私は石の快い冷たさと感触をあじわい誕生祝いにもらったオルゴールの箱にしまいこんだ。その夜私は、こんな夢を見た。白き衣を身にまとった老人が現れ私にこう告げた。私は、ギリシャの 盲目の詩人ホメロスである。これから、その石の由来について全てを語ろう。老人は、壮大な叙事詩を語りはじめた。
 始めにミュートス神話があった。このミュートスは、ロゴスとは異なりさまざまに変様を繰返し、このミュートスからは、人間の心、芸術、そして世界がうまれた。まず世界の始めにカオスがあった。カオスはぽっかりと大口をあけ中に生成の力を秘めていた。このカオスから揺るぎない大地、ガイヤ、そして奈落の底 タルタロス、そして愛エロスが生まれた。さてガイヤは甘美なしとねも無しに同じ大きさのウラノス、天空を生みだし自
分の体をすっぽりと覆わせた。ついで、高き山々と荒波打ち騒ぐふもうの海、ポントスとを生みだしたのである。さてガイヤはウラノスと伏床を共にすることにより、チタンの神族と呼ばれる巨人族を生みだした。その末なる最も感知にたけた恐るべきクロヌスが、ウラノスに代わって世界を治めたのである。さてクロヌスは妻レイヤを娶り次々に子供をもうけたが、生まれくる子供を次から次へとその腹へ納めてしまったのである。両親の予言によりレイヤの膝の間に生まれ落ちる子供が王座を奪うだろうという予言があったからである。それを悲しんだレイヤは、ゼウスが生まれるにいたって両親に相談し、クレタ島の洞窟でゼウスを産むとニンフに預け、大きな石を産着に包み、クロヌスに差し出すとクロヌスは怪しむことなくそれを飲み込んだ。ゼウスは、山羊の乳で育てられ泣き声がクロヌスにとどかぬよう、妖精達が鎗で盾を打ち鳴らし、その泣き声を隠した。すばやい速さでゼウスは成長し、まいもどったゼウスは、薬を用いてクロヌスから兄弟達を皆吐き出させたのである。こうしてクロヌスを中心とする古いチタンの神々とゼウスを中心とする新しい神々との間に戦いが始まったのである。戦いは一進一退をきわめたが、祖父母の助けによりゼウスは雷電をハデスは隠れ帽子をポセイドンは三叉の矛を授かり、ようやくのことクロヌス達をタルタロスの底へ追い落とした。今天から金敷を投げ下ろすと九夜九日落ち続け、十日目にやっと地上にたどりつきます。地の表面から同じだけ潜った所に奈落の底、タルタロスがあるのです。 
 さて、新しき神々は世界を治めるにあたって、クジ引きを行い、ゼウスが天空を海と陸地をポセイドンが冥界をハデスが治めることにした。しかし、オリンポスの山だけは神々の共通のものとし多くの神々が、ここに集い住んだのである。 
 さて、オリンポスの山に住む神々は、まず、神の中の神、雷電を駆使するゼウス、海と泉の神であり、陸地と地震の神でもあるポセイドン、死者の住む冥界の王、ハデス。ゼウスの姉でもあり、妻でもある黄金の靴をはいた女神の中の女神、ヘラ。穀物と収穫の神、デメテル。狩と出産の女神、アルテミス。いろりと火の神、ヘスティア。英知と戦いの神、アテナ。太陽神でもあり、音楽、医術、そして弓術の神でもある、アポロン。軍神アレス、神々の伝令であり、旅人の守り神でもある、ヘルメス。ヘラの子供であり、火山と鍛冶屋の神である、ヘパイストス。これらが有名なオリンポスの十二神と呼ばれる神々です。そのほかにも、多くの神々が、オリンボスには住いし、昼間は、ゼウスの神殿の大広間に集まり、神の食べ物である、アンブロシア。神の酒である、ネクタルを用いて大宴会を催し、その時、音楽の神、アポロンの奏でる得意の縦琴に和して、文芸の女神、ムーサ達が歌ったり、詩を詠じたりしました。この席で人といわず、神といわず、天と地におこる あらゆる事が話されたのです。
 さて、ここで愛と美の女神、アプロディテの誕生について、お話しなければなりません。話を 少し前にもどしましょう。ガイヤとウラノスとの間には、巨大で奇怪な子供達が数多く生まれましたが、ウラノスは、これらの子供達を憎みガイヤの奥深く押し込んでしまったのです。さしも強大なガイヤも、腹の中がいっぱいになり苦しさにたえきれず大きな鎌を造りこれで父に仇を報ずる者はないかと子供達に問かけましたが、一同皆 恐れをなし声もたてません。その中で末なる感知にたけたクロヌスが、名乗りをあげたのです。さてウラノスが、ニクス、夜を伴いやって来て、ガイヤの上に長々と覆いかぶさった時、隠れ場所からクロヌスが左手を伸ばし、鎌を右手に持ってウラノスの陽物をスッポリと刈りとり、肩越しに後に投げますと滴る血を普くガイヤが受け、そこから復讐の女神達、ギタンテスとトリネコの木の精達が生まれたのです。陽物を肩越しに投げる仕種はローマのトレビの泉で願いを適える為にコインを投げる起元となったのです。さて、クロヌスの手を離れた陽物は、波うち騒ぐ不毛の海に落ちましたが、漂ううちに泡が生じ、その泡の中で一人の乙女が育成されました。これこそ、アプロス、泡から生まれたアプロディテ ヴィーナスの誕生です。ヴィーナスの誕生といえば、フィレンツェのウフィッツィ美術館に所蔵されている、ボッティチェリーのヴィーナスの誕生を思い浮かべる人も多いでしょう。泡立つ海の上にホタテ貝の舟が浮き、今、生まれたばかりのヴィーナスが恥らいのポーズをとる。左上部には、ニンフ フローラと抱きあった西風の神ゼヒィロスが頬をいっぱい膨らませ、息を吹きかけヴィーナスを陸地へ運ぼうとしています。陸地では、時のニンフ ホーラが、赤いマントを持って ヴィーナスを包むよう待ちかまえている構図です。さてオリンポスの十二神の仲間入りをしたアプロディテは 軍神、アレスとの間にエロスという子をもうけました。このエロスの弓矢で射ぬかれると神といわず人といわず愛の情念に狂うのです。ある日エロスが、弓矢で遊んでいますと運命の三女神モライが現れ、エロスを驚かしたので、エロスは、こともあろうに母親であるアプロディテに矢を射かけてしまったのです。人に愛をもたらすアプロディテが愛の虜になってしまったのです。相手は、野山を狩して歩く雄鹿のような若者クリュータンスでした。ミケールの森が美しきプラタナスの泉に二人を誘ったのは若葉さやぐ初夏のことでした。狩でひと汗流したクリュータンスが、泉で汗を拭いていると真新しい衣服を手にしたアプロディテが現れ、これに着替えるよう差し出しました。訝しく思ったクリュータンスもアプロディテのあまりの美しさに素直に従いました。神の衣に着替えたクリュータンスはいよいよ輝き、もうアプロディテは嬉しさでいっぱいです。 クリュータンスもアプロディテに愛を感じるようになるのにさほど時間は要しませんでした。森の木々が葉裏をかえすほど二人の愛には烈しいものがありました。しかし、人間界と係わりをもつカイロス、神の時は短くアプロディテはオリンポスに帰らなければなりません。このように短い逢瀬を続けているうちアプロディテの心には、いつまでもずっとクリュータンスと一緒に居続けたいという思いが占領したのです。そこで、アプロディテは、一つの策略を巡らしたのです。クリュータンスを神にしたてれば何時も一緒にいられる。そこで腹臣、ヘルメスに頼み神の食べ物であるアンブロシアと神の酒ネクタルを貯蔵庫から盗みださせクリュータンスに与えますとクリュータンスは、日に日にその輝きを増し、美しさと英知を兼ね備えるようになったのです。 これに目をとめたヘラが、いぶかしがりヘパイストスに命じ、鍛冶屋の技を駆使し目に見えない鋼鉄の網を造らせ貯蔵庫の入り口に仕掛けました。それとは気づかぬヘルメスがやって来てまんまと、この網に捉えられヘラのもとに引き出されたのです。今はこれまでとヘルメスは全てをヘラに告げるとヘラは激怒しゼウスのもとに走りました。日ごろヘラに弱味を握られているゼウスは、しかたなくアプロディテとクリュータンスを引き離しました。クリュータンスと引き離されたアプロディテは、この苦しみが未来永劫に続くのなら死んだほうがましだと思いクリュータンスが神になれないのなら自分が不死なる神を捨て、人間となり、限りある愛に生きようと決心したのです。眠りの精、シュプノスの助けをかり、ヘラと暁の女神、エオスの瞼を重くした。                     
 さて、アプロディテはクリュータンスを誘い船を仕立て夜陰に乗じ、アテナイの港を出奔したのです。行く先はゼウスの生まれたクレタ島です。西風の神、ゼフィロスは頬をいっぱい膨らませ、順風を送ります。航海も半ばに差しかかったころ、暁の女神も、神々と人間達の為に朝の光をもたらす為、栄えある添い寝のふしどから起き上がったのです。時をうつさずヘラも目覚め、この船に目をとめポセイドンに命じ、暴風雨を起こさせ船を海中深く飲み込ませたのです。アテナイから200粁ほど離れた所にミロス島があり、ここにアプロディテはたどりつきましたが、クリュータンスを失っては、もはや生き長らえる術もなく天を仰ぎ大神ゼウスよ、私に死を賜らんことを。しかし、私が、愛と美の女神であった証に私の姿を石像に替え、後の世の人々に 伝えてくださいと懇願した。憐れんだゼウスは、願いをききとどけた。石像になってもアプロディテの高雅さと美しさは朝の光の中で、いよいよ輝くばかりです。これに目を止めたヘラが又横槍を入れました。大神ゼウスよ。あなたの雷電をもってアプロディテの腕を砕いてください。二度と人間の男を抱くことのないように。しかたなくゼウスは、雷電を飛ばしアプロディテの両の腕を砕くとカケラは四方に飛び散り、エーゲの水底ふかく沈んでいったのです。その時ゼウスはヘラに聞こえない声でこう囁きました。あのカケラを全て水底から拾い上げ、あなたの両の腕を再生する者があったら、その時あなたは、又、もとの女神にもどれるでしょうと予言したのである。両の腕を失ったアプロディテがあまりにも哀れだったので、ゼウスはハデスに命じ、大地を割らせその姿を地中深く隠した。 
 さて、アプロディテが再び、光の世界に戻ってくるのは、1820年のことです。エーゲ海地方を大地震がみまい、その後ミロス島でアプロディテの石像が発見されましたが不思議なことに両の腕のカケラがどこを捜してもみあたりませんでした。
 今、アプロディテの像は、パリのルーブル博物館二階の一番奥まった部屋に飾られています。かつて、自分が愛と美の女神であったことのほこりとクリュータンスを愛しきった満足感にひたって、ひそやかに佇んでいるのです。 
 そこまで、老人は話すと、ふっと姿が消えてしまった。 
 カーテン越しに夏の強烈な光が、部屋いっぱいに差し込んでいた。  
 目を覚ませ、もう昼だ!
      ギリシャ神話 (アプロディテの腕)[完]

☆デイーノ!!ありがとうございました。・・・ディーノは、今年も真夏の太陽を浴びながらヨーロッパ大道芸をしていると思います。もし、欧州(イタリアあたりが出没地域)へ出掛けて、街中で日本人が「オー・ソレ・ミヨ」を歌っていたら「ディーノ」と声をかけてみてください!!その日の稼ぎによりますが、ピザくらいはご馳走してくれるかもしれません。・・・今秋には、ディーノが主宰している「ヴォーチェ・アプリート」のコンサートも開催されます。ブログでお伝えしますので、是非ディーノに会いにきてください。**また、寄稿はしていただく予定(勝手に思っている)ですので、お楽しみに!!                                         






[寄稿]ローマ・四季の泉/ディーノ作

2007-04-22 | ◆ディーノ
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 もし貴方にローマを訪れる機会がありましたら、必ず立ち寄ってほしい所があります。
 システィーナ通りとクワトロ・ホンターネ通り、クイリナーレ通りと9月20日通りとが交わる所に春・夏・秋・冬の四季の泉があります。
 かつては清らかな水が滾々と湧き出て旅人の喉を潤しておりましたが、今では泉もすっかり涸れはて水音を聞くことは出来ません。
 しかし各季節のほんの一時、泉の水が湧き出ることがあるのです。その水を汲み取り空からふり撒き各季節をよび覚ますのがファータ、妖精の仕事です。

☆primabella 春☆
システィーナ通りを北西の方向へ進むとトリトーネの噴水、トレビの泉、スペイン階段、そして緑深きボルゲーゼ公園が広がります。
ミモザの花が黄色く咲きみだれるころ、この公園のお花畑にローマで一番早い春を運ぶために春の泉は使われます。

  白きふくよかなる指の間から ぽっちりと顔を出したあなた
  急に差し込んだ陽光に凛と身を震わせる
  その時あなたの鼓動に大気の一粒一粒が美しくきららぐ
  こっくりと小首をかしげたマドレーヌの黒ずんだ瞳の中に
  あなたはある
  先刻生まれたばかりの透きとおるような清潔さ
  あふるるばかりの生命力 少女の慎みが今朝の私を快活にする
  春の仙女の来訪は そんな朝にはじまった

☆estate 夏☆
6月23日のサンジョバンニの祭でローマにも夏が訪れます。 
ローマが最もローマらしくいきいきと輝く季節です。
クワトロ・ホンターネ通りを南東の方向へ進むと聖母マリアのために世界で最初に造られたサンタマリア・マッジョーレ教会、コロッセオが滅びる時、ローマも滅び、そして世界が滅びると言われた壮大な円形闘技場ロッセオ。3000人が一度に入浴出来たと言われるカラカラ浴場があり、その先はイタリアの最南端ギリシアへの渡航地ブリンディシに終るアッピア街道が始まります。この辺りには地下数100にも及ぶ埋葬墓地カタコンベが広がります。
街道沿いにはわずかに笠松が影をおとしその中を6月の花嫁を乗せた婚礼の馬車がマッジョーレ境界えと急ぎます。
  
  道端の叢にシャレコウベ一つ
  埃にまみれ両の眼にはたたえる涙もなく虚空をまどろ見る
  かつてこの道は幸福へと続いていた
  男と女の関係では 去りし者が勝利者
  私はひさびさに軽やかな馬車の歩調りを聞いた
  どうやら婚礼の列らしい
  どうしてこんなに胸が高鳴るのか俺には訳がわからない
  俺は見えぬ目をば見開いた
  馬車より投げられし花一輪 残されし者への憐れみか
  私はしばしまどろむ
  その時馬めの蹴った石俺の顎をば砕きおった

激しい夏の太陽から緑を守るためにつかわれる夏の泉は、若者の迷える魂を鎮め心の乾きを癒すために使われるようです。


☆autunno 秋☆
雨の少ないローマにも、夏の強烈な太陽を鎮め秋を迎えるためにひとしきり雨を降らせるのが、秋の泉の仕事です。
クイリナーレ通りを南西の方向へ進むと大統領官邸、ローマの中心地ベネチア広場、真実の口、そしてテベレ川につきあたります。雨は川沿いのマロニエの並木を濡らし、対岸にあるトスカが身を投げたサンタンジェロ・サンピエトロ大聖堂が雨簾の中にけむっております。

  そとは雨 時おり聞こえる轍の音
  長く厳しかった夏を耐え雄々しく成長した木々の葉面に
  涼しげに降りかかる雨粒
  短き生命の燃焼を終え土にかえる束の間の静寂
  乳色のモヤの底からバッハの二声のインベンションが
  聞こえてくる
  たどたどしくはあるが決して留まることのない
  過去から未来へ突き通す時のおもみ
    
☆inverno 冬☆
9月20日通りを北東の方向へ進むとバルベリーデ宮殿があり、その先はピア門、この門をぬけるともうローマの市街地です。
アグロロマーノの田園地帯を通りぬけ、そのまま進むとアペニン山脈の麓アマトリーチェという小さな村に突き当たります。
白きものが大地を覆い生命のいぶきは閉ざされたかにみえましたが、生命力は営まれ小さな灯火は燃えつづけております。

  乙女は歌う子守歌 童は眠る傍らで
  機織コットン コットント 楽しき夢路に誘います
  灯火明るき部屋の内 外は真白き雪野原
  今夜も通るよ氷姫 いじわる 泣きむし連れてくぞ
  春の仙女はまだまだ来ない 静かにふけゆく冬の夜
  南の国の戦争が二人を山へ追いやった
  童は歌う子守歌 戦き眠る乙女子わ
  松の葉擦れはザワザワとまどろみ果てることもなし

春など来るまい。 泉は凍りついたままです。

*[完]・・次回は5月末にギリシャ神話 (アプロディテの腕)をお送りします。




[寄稿] 和毛鈔・にこげしょう(2)でぃーの:作・絵

2007-03-29 | ◆ディーノ
 あたりが元の様に暗くなると十五夜の月の光に照らされて美しい娘が大銀杏の根元にたおれております。どこか面差しが女神に似ております。みみをすませてごらんなさい。誰かやって来ますね。そうです、名主の息子が許婚の家からの帰りなのです。何か独り言を言っていますね。ちょっと聴いてみることにしましょう。
 やれやれ、随分遅くなって、しまったわい。この森には、悪い狐が、でて人を化かすそうな。早く通りすぎてしまおう。おや大銀杏の根元に何か白い物がいるぞ。さては狐め、化けおったな。こういう時には、眉につばを付けるにかぎる。
 若者は、おそるおそる大銀杏の根元に近づきますと、あなたのお祖父さんもそのまたお祖父さんも見たことのない、それは美しい娘が倒れております。「このまま置いておくと夜露に濡れて、たいへんだ。」若者は娘を家に連れて帰ることにしました。
  「おーい、聴いたか名主さまの家へ美しい娘が、来たそうな。」
  「なんでも鎮守の森の大銀杏の根本にたおれていたのを若様が連れて、帰ったそうな。」
  「狐の 化身かもしれんのう。」
 小さな村のことです。翌日は娘の話で村中もちきりです。名主の家では、しばらく娘をおくことにしました。娘は掃除や雑用をしながらも、若者と一緒にいられるので大変幸せでした。若者も日がたつにつれて娘が好きになりました。二人の愛が大きくなればなるほどお月様も大きくなり、その輝きを増すようになりました。
 とうとう十五夜の日が来てしまいました。朝から娘がもの思いにしずんでいるので若者が娘にたずねますと初めは何でもありませんと娘は答えるだけでしたが重ねて問いただしますと、とうとう娘はことの次第を若者に告げました。若者はどんなに驚いたでしょうか。しばらくは、口もきけませんでしたが「今夜、お前が鎮守の森へ行ってしまったら、もう永久に私達は、会えないだろう。女神さまには、気のどくだがしかたがないだろう。」
若者の悪い心が勝ちました。その夜、名主の家では早くから戸を閉めて寝てしまいました。
 真夜中、娘は悪夢にうなされ喉が渇いたので庭に降り井戸のツルベを回しながら、ふと空を見上げますと十五夜の月が美しく輝いております。いまごろ女神さまは、私の為に魔法使いに殺されているでしょう。私一人が生き長らえることは出来ません。娘は心の中で若者に別れを告げるとそっと家をぬけだし小川の1番深い淵を見つけると「女神さま、お許しください。」と言って身を投げました。すると娘の魂は、一条の星となって鎮守の森の方へ飛んでいきました。
 一方、鎮守の森では魔法使いが馬に乗って帰って来ました。
 「ふんふん臭いぞ。獣の匂いがするぞ。おや、こんなに狐の毛が、落ちているぞ。さては、狐を人間に変えたな。掟を破るとどうなるか、わかっているだろうな。」
魔法使いは、手にした蛇の杖で大銀杏の幹を叩きますと、ごおーっと風が巻き起こり女神の金色の衣を一枚一枚剥ぎとってゆきます。女神は苦しさに身悶えしております。その時一条の星が魔法使いめがけて飛んできました。女神に気をとられていた魔法使いはよけるひまもありません。どかーんという大音響と共に黒煙を巻き上げて消えてしまいました。
 そのあとどうなったかは、あなたの想像したとおりです。200年もの間とけなかった魔法がとけ銀杏の精は元のお姫様にもどりこの国の若君様と幸せにくらしたそうです。そうそう気になることがありましたね。名主の息子の許婚はしばらくの間若者の心が離れ大層苦しみましたが、やがて若者の愛が戻り二人は目出度く祝言をあげることになりました。
 信太の森には、もうこんぎつねはおりません。でもみなさん、悲しむことはないのですよ。こんぎつねの魂が娘の心にいきずいているのですよ。その証拠には、お嫁さんがツノカクシをするでしょう。あれわね、狐の耳を隠すためなんですよ。(にこげしょう・完)次回は4月末に「アプロディテの腕」をお届けします。
       
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[寄稿] 和毛鈔・にこげしょう(1)でぃーの:作・絵

2007-03-27 | ◆ディーノ
  おおきな おおきな いちょうのき
  その むかし いちょうのせいが 
  いたと いう
  とおい むかしの おはなしです
  こんこんぎつねが こいをした
  なぬしの むすこに こいをした
  こんこんぎつねは かなしんだ
  なぬしの むすこに いいなづけ
  むら いちばんの きりょうよし
  むらの はずれの おじぞうさまに
  こんこんぎつねは がんかけた
  おじひぶかい おじぞうさま
  どうぞ おねがいいたします
  わたしの すがたを にんげんに
  どうか かえて おねがいです
  そんなに おまえが たのむのならば
  ちんじゅのもりの いちょうのせいに
  わたしが たのんで あげましょう
  ひがさ かぶって つえついて
  おじぞうさまは ぽっくりこ
  おひるさがりの あぜみちを
  ちんじゅのもりへ ぽっくりこ
  ぽっくり ぽっくり ぽっくりこ

 鎮守の森には、もう二百年もたちましょうか、それは大きな銀杏の樹がありました。村人達の間には、銀杏の精が住んでいると言い伝えられておりますが、まだその姿を見た者はありません。この銀杏の精ともうしますのは、とある国のお姫様でしたのが悪賢い魔法使いに騙され連れてこられ、この樹に閉じ込められてしまったのです。話し相手といえば時おり森へ散歩に来るお地蔵さまぐらいのものでしたから、お地蔵さまをたいそう尊敬し又頼りにもしておりました。
  おーい、銀杏の女神さん居たら返事をしておくれ。居たらすがたを見せてくれ。
  はいはい、何時もお優しい、お地蔵さま何のご用でございましょう。
  じつはな、今日は一つ頼みがあって来たんじゃよ。おまえさまも知っておるじゃろう。あの信太の森のこんぎつねがな、こともあろうに名主の息子に恋をしおったんじゃよ。所詮は獣と人間うまくゆく訳がないと留めたんじゃよ。しかしな泣いて頼みおるんじゃよ。それではと出かけてきたんじゃよ。どうだろう女神さん、こんぎつねの願いを聞いてはもらえないじゃろうか。
  お地蔵さまのお頼みならば是非かなえて差し上げたいのですが、獣の姿を人間に変えることは魔法使いから堅く禁じられております。もし、この掟を破ると私は、金色の衣を剥ぎ取られ死なねばなりません。どうぞ、それだけは、お許しくださいませ。
  そういう訳があるのならば無理にお頼みも出来まい。これを聞いたらどんなにか、こんぎつねが悲しむじゃろうな。この願いをかなえられるのは、お前様ぐらいのものじゃからな。
お地蔵さまは、とぼとぼと帰りはじめました。その後姿が、あまりにも寂しそうだったので女神は声をかけました。
  お地蔵さま、ちょっと、お待ち下さい。幸い今は、魔法使いが旅に出ていて今度の十五夜の晩まで帰りません。その間で宜しかったら、こんぎつねの姿を人間に変えてさしあげましょう。
  おー、そうか。それを聞いたらどんなにか、こんぎつねが、よろこぶだろう。
お地蔵さまは、吾がことの様に喜び、急いで帰り、こんぎつねに告げました。
  喜べ、こんぎつね。お前の望みは、かなったぞ。今夜、十五夜の月が、鎮守の森にかかったら大銀杏の根元に行き、銀杏の精を呼びなさい。そうすれば、お前の望みは、かなえられるじゃろう。
  それを聞くと、もうこんぎつねは、嬉しくてたまりません。小川の水に自分の姿を映しては、どんな娘になるんだろうか。若者に嫌我はしないだろうかなどと考えながら日暮れになるのが待ちどうしくてたまりません。お日さまが西の空に傾き、十五夜の月がぽっかりと顔を出すと、もう居てもたってもおられません。こんぎつねは急いで鎮守の森へ行き大銀杏の根元に来るとこわごわ「女神さま 女神さま」と呼びました。すると辺りが急に真昼のように明るく輝き、金色の衣を身に着け手似銀杏の杖を持った女神が現れました。
  「来ましたね、こんぎつね。あなたの願いをかなえましょう。さあ、目を閉じてお祈りしなさい。」
こんぎつねは心の優しい美しい娘になれるよう祈りました。女神が手にした銀杏の杖で、こんぎつねの頭にふれますと、こんぎつねはくるくる回りだし大銀杏の根元に倒れました。どこかで「次の十五夜の晩までには、必ず戻って来るんですよ」と女神の声が聞こえたような気がしました。(つづく)
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