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SS【彩の雫】懸想ノ怪




 契りました。もうこの人は俺の妻です。契ったのです。これからは、嫉妬も不安もなくなります。一生、俺の妻なのです。想うことに罪は無くなったのです。この思慕は法によって守られるのです。偉業さえ成せば、史書にも刻まれ、生き続けるのです。
 けれど、もうどうでもよくなりました。国も、民草も、地方領主の苛斂誅求も。
 俺は俺の、一個人の、ひとりの男の幸せを掴み取ればいいのです。名誉も権力も要らないのです。この人に所有された証がひとつ、俺の指に嵌められていれば。
 俺は"愛"によって染まったのです。"愛"によって、色移(こころがわ)りしたのです。
 

 「俺」は早くその欲望に呑まれるべきなのです。
 
 






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