契りました。もうこの人は俺の妻です。契ったのです。これからは、嫉妬も不安もなくなります。一生、俺の妻なのです。想うことに罪は無くなったのです。この思慕は法によって守られるのです。偉業さえ成せば、史書にも刻まれ、生き続けるのです。
けれど、もうどうでもよくなりました。国も、民草も、地方領主の苛斂誅求も。
俺は俺の、一個人の、ひとりの男の幸せを掴み取ればいいのです。名誉も権力も要らないのです。この人に所有された証がひとつ、俺の指に嵌められていれば。
俺は"愛"によって染まったのです。"愛"によって、色移(こころがわ)りしたのです。
「俺」は早くその欲望に呑まれるべきなのです。