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うるしのまわり

   塗師の日々から

おりだめ

2008-05-19 | うるしのまわり
久しぶりに仕事のお話をします。
木地づくりの技法のひとつに「折撓:おりだめ」というものがあります。
その名の通り、板を折り曲げ、ためて形をつくっていきます。

復習になりますが、例えば楕円形の入れ物を作ろうとした時に
うるし工芸ではどのように素地をつくるでしょう。
おおよそ次のような方法があります。
1)曲げもの
2)くりもの(ノミ一本ですべて彫り出していく)
3)乾漆(型の上に素材を積み重ねていく:例 麻布、紙、紐、薄板(巻胎)など)
4)おりだめ
5)彫りもの+底板(側面は筒状に彫り出してつくり、後から底板を付ける)
6)網代(竹を編んでつくる)
7)その他(アルミなどの金属、べークや木くずを固めた合成樹脂)

丈夫さを考えると、おりだめはちょっと見劣りします。
それは何故かといえば、構造に理由があります。

おりだめは板に切込みを入れてつくるものです。
例えば3ミリ厚の杉の板に 少しずつノコギリで切込みを入れていき
その切込みを内側にしてそっと曲げていくと少しずつ板がカーブしていきます。
たった3ミリの板をけっして切り破らずにノコギリで目を入れていくことを考えると
木地師の熟練の技がわかると思います。

さて、切込みの間隔によってどのようなカーブでも作れるというのが利点ですが、
ノコ目を入れますので、その板は皮一枚で保っているとも言えます。
むろんその隙間に漆を摺り込んだり接着剤を流し込めば丈夫さは確保できますが
同じ3ミリの板と比較すれば劣ってしまうのは致し方ありません。

しかし、切込み方を変えることでS字のようなカーブも自在につくれる点は曲げ物には真似できません。
いきおい、繊細な造形に向く技法となり、一般の食器よりも茶道具に多く用いられます。

また、表から見るとそのカーブは面の集合体となり、なんとも言えない柔らかなリズムを刻みます。
これを和紙を貼った一閑の技法と組み合わせるといい味わいになるのです。
この表情を活かすためにも、こってりと下地をするわけにはいかない、、
かといって、触れれば崩れてしまうような脆さでもないことは
念のために申し上げておきます。

画像は杉でつくった木地ですが、微妙なカーブをノコ目の幅で整えているのがわかるでしょうか。
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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (monaco)
2008-05-20 17:44:27
私の持っている唯一の棗が折撓なんです。
木地をくりぬいたものとはちょっと違う表情や
雰囲気があって、とっても好きなんです。
どうやって作るか聞いてはいましたが、
こうして木地の状態を見せていただくと、
よりはっきりわかりますね。
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Unknown (岩渕)
2008-05-20 22:06:32
>monacoさん
唯一のお棗が折撓とは、これまた渋いチョイスですね。
あれはまた一段と高度な構造です。

今でこそ各地にこの技法を使える方がいらっしゃいますが、昔は京都の独壇場だったと聞いています。
すごかったんですね。
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