うるしのまわり

   塗師の日々から

japan 蒔絵展

2008-12-06 | うるしのまわり
京都国立博物館で開かれている「japan 蒔絵 宮廷を飾る 東洋の燦めき 展」を観てきました。
会期ギリギリで滑り込みでしたが、やはり行って良かったと思います。

いやぁ すごかった、精緻で美しかった、
蒔絵がこれほどまで愛されてきたことを再認識して嬉しかった、という感想だけでもいいのですが、
これから東京展(12/23~1/26 サントリー美術館)もありますから
ちょっと違った視点も紹介したいと思います。

まず、平安期から桃山までの蒔絵の純粋な美しさを味わって下さい。
金銀の粒もまだ粗く、技法的にはおおらかながら厳かな雰囲気をもつ平安のものから
次第に発達洗練を経て、
桃山の高台寺蒔絵では 伸びやかな筆遣いで華やかさを爆発させています。

キリスト教の伝来、南蛮貿易の開始から漆器の輸出が始まります。
ここからがこの展覧会の目玉ですが、よくよく観ていると意外なこともわかります。

【 蒔絵が素晴しいのではなく、ボディ=器胎がその美しさの大半を支えているものが多い 】
(木地と漆下地の堅牢さと形の繊細さ)

西洋の王侯貴族が競って買い求めた品物だからといって、
当時の最高品質のものばかりが輸出されていたわけではないようです。

その証拠に、一見きれいに金で蒔絵されているように見えても
すぐに下の黒や茶色が出てくるような消粉に近い蒔絵だったり、さらに
豪華に見せるための高蒔絵の盛上げが実に適当で、
山水楼閣が掘建て小屋かテントにしか見えないもの、
金具の豪華さに助けられているものなどが数多く見られます。
ちょっと意識して観てください、かなりユーモラスなものもあります。

金は金、蒔絵は蒔絵だから口出しすべきことではないのかもしれませんが、
ここを御覧になっている人には チェックしていただきたいですね。

一方で、「マザラン公爵家の櫃」のような飛び抜けて高度なものもあり、
製作工房内の興奮を想像するだけでも しびれます。

「蒔絵に限って」申し上げれば、玉石混淆と言っていいでしょう。(蒔絵展ですが)
それは、質量共に随一といわれるマリー・アントワネットのコレクションも例外ではありません。


しかし展示品全体を見渡せば、
時代を経ても、赤道直下を通る過酷な船旅を経ても、乾燥したヨーロッパにあっても びくともせずに
生き残らせた 木地と下地の技こそが影の主役であることがわかります。

もちろん、どうしようもなく歪んだり壊れてしまい廃棄されるなどして
現代に伝わっていないものもかなりの割合で存在していることは間違いありません。
下地あってこその蒔絵、そのハーモニーだということは押さえておいて下さい。


それにしても展覧の後半から出てくる小物類のつくりの繊細なこと。
ちょっとやそっとでは真似できないものです。
これらは輸出用として作られたのではなく、
日本国内で流通したものや、そのつもりで作られたものでした。
ここにこそ当時の職人たちの本当の気合いが込められています。

そしてもうひとつ、輸出用の品物は図柄のバリエーションが少ないのです。
ひとえに注文主の意向が大きいと思うのですが、ざっと見渡しても意外なほどです。
日本も中国も区別が曖昧な当時の東洋趣味のイメージは、
やはり山水楼閣など限られたものなのかもしれません。

それから、最後の方に王室や貴族のコレクションを並べているコーナーがありますが
中でもバーリーハウスコレクションは出色です。
ここには目利きがいらしたんでしょうね。
蒔絵の質というものをしっかり見抜いた上でコレクションされています。
まだ先がありましたが、個人的にはここが展覧の最後の盛り上がりでした。


とにかく盛り沢山の内容ですので、私でも最後には疲れてしまいました。
第一室から名品の目白押しですが、まずは各部屋ごとにさっと流し見て
目に留まったものを重点的に鑑賞していくことをおすすめします。


振り返って、この展覧会の最大の魅力は
輸出漆器とその歴史を通して 作る人 - 商う人 - 買う人の顔が見えてくるような
人間臭さを感じさせてくれるところにあるのではないかと思います。
コメント (2)
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