うるしのまわり

   塗師の日々から

京都の棗 その2

2010-08-01 | うるしのまわり
前回は話がそれましたが、文明の利器を活用すること自体に何か問題があるとは思いません。

うるしの作業工程だと皆さんにあまり馴染みがないかもしれませんので
陶芸を例に挙げるとよくわかると思います。
プロが使うのはほぼ確実に電動のロクロ。そして電気窯かガス窯。
その対極は、足で蹴って回す蹴ロクロ(けろくろ)と薪窯でしょう。
あくまでこれは 何を選択するか、何をつくり、何を目指したいかの問題です。
薪で焼成する窯などは、ある意味で恵まれた人しか選択できませんが
表面上は真偽と別問題です。

うるしにおける真空ポンプは、器物をコンプレッサーの力で器具に吸い付け
回転させながら下地を付けたり研いでいくための助けとなるものです。
電動ロクロは下地や塗面を研いで整える作業で使います。
人によってはうるしを刷毛で塗る時にも活用します。
同心円のラインがいとも簡単にできてしまうのは、非常に羨ましくもあります。

回転風呂はうるしを最後に上塗りして乾燥させる際に使います。
上塗りはある程度厚めにふっくらと塗って仕上げます。
固まるまでにうるしが垂れてしまうと具合の悪いことになるので、
乾燥途中何分かおきに器物を天地ひっくり返して何とか面倒を見ますが
しょっちゅう乾燥空間(風呂もしくはムロ)の扉を開け閉めしていると
ホコリが付いたり余計なところを触ってしまったりします。
回転風呂を導入すれば自動的に器物の向きを変えてくれるので
うるしが垂れる心配もホコリが付く心配もなく大量の品物を塗ることができるのです。

これらが作業の効率化とコスト削減に果たした役割は限りなく大きいです。
お椀を例にとっても
ケヤキなどの木材を挽いた木地を漆で固め、縁などに麻布を貼って補強し
うるし下地を何層にも重ね、研ぎ上げて、塗りを重ねて仕上げる。。
一連の作業が、徒手のわずか数分の一の労力でできるようになりました。
これにより、高品質の一生ものの塗椀が、作家ものでも15000円以内で供給できるのです。

これほど便利なものを活用しないのは どうかしていると思われるかもしれません。
先に申し上げた通り、これはあくまで何を目指すのかの問題です。

どんな分野であれ、同じ作業をしていても駆け出しとベテランでは
その目に見えている世界が違います。
また、便利な道具がその人の目をふさいでしまうこともあります。

たまたま自分が学んできたこと、そこで見えた何か大事なもの、
それは自らがよって立つ柱として 大切にしていいと思うのです。

そうすると、私の好きな棗に関していえば
ロクロを使用してつくられたものは数あれど、
これは美しいと思えるものに まだ出会っていないのです。

コメント
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