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プラムフィールズ27番地。

本・映画・美術・仙台89ers・フィギュアスケートについての四方山話。

< 浮世の画家 >

2025年06月26日 | ドラマ。
何ヶ月か前に録画していたドラマ。
……もっと前に見れば良かったなあ。スキャンダルの前なら普通に見られただろうけど、
イロイロあると作品を見るのに脳内にノイズが入って邪魔なんですよね。

まあそれはそれとして。


そもそもカズオ・イシグロの原作小説がふわーっとした話なんだよね。
当時イシグロの作品をだいたい読んで(といっても寡作な人なので数作)、
それなりに気に入った方なんだけど、今となって振り返ると、
状況をあいまいにして(サスペンスフルにして)、その宙ぶらりんの読み手の心理を利用し、
そこに詩的な文章を使って文学性の高さと錯覚させる……という気がして、
ノーベル賞……?と思うようにはなっています。
まあわたしは読解力がないからね。シンプルに面白いエンタメ小説が好きですよ。


それをドラマ化したものなので、ドラマとして話がわかりにくいという前提はある。
だからといって話をわかりやすくすると、それは全然イシグロではないわけで、
これはそういう意味ではかなりがんばったドラマだったと思う。難しいと思うよ。
イシグロらしい、不安定さ、不安感、ふわふわ感がよく出ていた。
しかしその不安定で不安でふわふわしているドラマが面白いかどうかというのが。

結局節子の台詞の謎とかは明かされませんからね。
これがミステリなら、伏線回収が出来てない!といいたいところですよ。
最後の方で、斎藤博士がお父さまのことを知らないというのも……一体ナニ?と思うんだが。

というか、そもそも何が起こったのかが、なかなか出て来ないのよねー。
見方によっては最後まで出て来なかったと言ってもいい。
本人も疑っているし、他人が断言するわけでもない。
むしろ「気のせいだよ」って言いくるめられている世界。「ガス灯」ですな。
そのサスペンスを延々と見せられるドラマ。

しかしどうかなー。一番ドラマとしてツライというか難しいと思ったところは、
小説と違って、ドラマでは「絵」を見せなきゃいけないじゃないですか。
そこらへんは結局文字で説明するしかない――文字で逃げられる小説が楽。
「絵」を見せちゃうとね、その絵に納得できるかどうかで説得力が全然違う。

あの絵でわたしは納得出来たとはいいかねる。
だって日本画で美人画を描いていた人ですよ?あれ油ですよね?急に油ってどうかと思う。
それまでどんな絵を描いていたのかは結局出て来ないんだからあれだが、
全然関連性がないのではないか。

あと「独善」の文字が。あれは原作由来の言葉なんでしょうか。
独善の言葉の意味がわからないよ。独立した善といいたいのか?とか。
それも無理があるよなあ。

黒田に喋らせないのがイシグロなんだろうね。喋ると決定的になっちゃうしね。
黒田の弟子の演技が上手かったし、台詞回しの台本が上手いなあと思って見ていた。
ただ萩原何某も何だかありましたよね……またノイズが。そもそも渡辺謙もノイズが。

それも遠因だと思うけど、ここ最近、渡辺謙のこってり具合に食傷している。
食傷するほど見てない気もするけど。
ずっといい役者だと思っていたんだけどなあ。今もいい役者ではあるんだろうけど、
上手なのが鼻につく気味がある。年も年なのに脂が抜けずしつこい。
松本白鴎なんかも同じカテゴリですかね。
そろそろ年齢相応に枯れた味わいが出てもいい気がするが……

「国宝」に出るんですねえ。これは原作を読んだばっかりで、
……って、もう1年経ってましたか!?(この時点で5月頭)
せいぜい半年くらい前の感覚なんだが。げげげ。
原作が面白かったので、映画も期待してます。



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◇ カズオ・イシグロ「浮世の画家」

2010年08月21日 | ◇読んだ本の感想。
カズオ・イシグロの最初期に位置する作品。
読む前は、彼にとって日本を定義づける作品だと勝手に決めていたのだが、
どうもそういうものではなさそうだ。

また何だか奥歯に物が挟まったような書き方を……と思いながら読み進む。
一人称なんだけれども、言葉のはしばしに「……はい?」というような意味ありげーな
言葉が挿入される。いや、だからそこをもうちょっと詳しく喋らんかい!

これは「信頼出来ない語り手」と名付けられ、カズオ・イシグロを代表的な作家として
他に何人かの作家が使う技法らしいが……
でも「信頼出来ない語り手」というと、そこには作為のイメージが強くありすぎないか。
もっと微妙な方法で語っている気がする。

虚実皮膜の間の小説。というのが一番近いのではないか。
最初は、カズオ・イシグロが厳密に公平に書こうとした結果だろうと思ったんだよ。
語り手は、どうやら戦争中に大勢に従った行動をしたことで、非難・忌避されている人物のようだ。
(でも具体的に何をしたか、ほんとにほんとにうっすらとしか書かれないの!!)
だが、何しろ一人称だし、その後悔や葛藤をテーマとするんだろうなと思いきや。
多分……葛藤……してる……よね?
程度にしか書かれていない。本人の無意識の自己弁護。人間はそういう弱い生き物なのである。


そして、その行間を読み取るのが読み手の責務だと言われれば一言もないが、
いや、ちょっとワタシには高度すぎます。もう少しはっきり書いてもらった方が安心です。

とはいえ、(読み込めないなりに)凄さも十分感じる作家である。
この繊細な書きぶりは……しかし、これ翻訳なので、この部分のテガラは訳者にも
あるんだよね。そして、あまりにも微妙、繊細な内容なので、訳者の読み方一つで
相当に内容が変わってしまいそうな気がする。
今回の訳者の読み方は、多少疑問を感じる。根拠はないんだけど。

読んでいる間、“スフマート技法”という言葉が頭に浮かんでいた。
ダ・ヴィンチが使用した、輪郭線を用いない絵画技法。
丹念に色を塗り重ねて行くことで描き出す。




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この本の原題は「An artist of the Floating World」。
数日前、たまたまワタシの大嫌いな建築家である原広司の本の英文タイトルを
目にする機会があって、それが「Hiroshi Hara: The Floating World of Architecture 」。
……影響受けてる?かね?





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