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本・映画・美術・仙台89ers・フィギュアスケートについての四方山話。

◇ 小林恭二「父」

2021年11月07日 | ◇読んだ本の感想。
小林恭二は4年前からぬるっとつぶしている。
最初の小説で「ゼウスガーデン衰亡史」を読んだ。
これがけっこう特異な小説でねえ。「すごく」はつかないけど、
面白かったし気に入った。地味に読み続けている。

普段変な作風の人だけど、本作はタイトル通り、自分の父について書いた
限りなくノンフィクションに近いであろうフィクション。
いや、フィクションの可能性を含んだノンフィクションというべきか。

純粋に面白かったです。面白かったっていうか。感慨深いものがあった。


父が特異。
小さい頃は神童。長じてエリート。知的で探求心があり、頭がいい。
しかし情緒的には発達していない。情緒を切り捨てて、効率的に邁進するタイプ。
本人は現状に満足しておらず、色々生き方を模索する。

外から見れば神戸製鋼のエリートコース。社長にこそなれなかったけれども
切れ者として能力は認められており、鬼上司で部下に怖れられながらも尊敬され、
満足してもいいように見える。

が、本人的には挫折の連続。若い頃に結核を患って療養生活を送り、その後も病弱。
終戦時に弟妹を失い、引き揚げてからも苦労する。
どうしてこの俺様がこんな生活を。高いプライドを持て余しつつ、悶える。

神戸製鋼に入っても、大酒は飲み、金遣いは荒く、いつも午前様。
子どもに対する当たりもきつく、自分のエリート意識をそのまま反映し、
理不尽に厳しい。

こういう人がお父さんだと家族は非常に苦労するだろう……。
息子である小林恭二は父に縛られる。
荒れた時期を過ぎて、より穏当な趣味に時間を費やすようになっても
園芸でも、仏教でも、哲学でも、俳句も短歌も、父の弟子兼助手のように扱われる。

時間的には普通の親子の数倍は濃密な関係だった。
通常、こんなに父の思考の推移を説明出来る息子はいないだろう。
しかし息子が父に向ける視線は冷めている。強権的な父に使われてへとへとになり、
息子は東京大学へ行くことによって、関西在住の父から物理的な距離を置いた。

……だめだ、要約は出来ないな。小説はその後も長く続く。
曾祖父の頃から親戚なども含めて、膨大な人数の人生に触れており、
それを読みやすく(しかし決して整理してというわけではなく)まとめた作家は、
(普段は変な話を書く人なのに)、やはり頭がいいのだと思わされた。
父の描写もさりながら、そこから導き出す作家の言葉もまた考えさせられる。

一週間ほど前に読み終わっていたので内容を忘れており、確認するつもりで
ページを開いたら再読してしまった。
ページターナーでしたよ。少なくともわたしにとっては。

自分は何者か、いかに生きるべきか死ぬべきかを求め続けた人生。
壮絶であり、――鮮やかでもある。寒色の極彩色。



まあわたしは小林恭二は、いつものユーモアとシュールさが漂う、
いつもの作風の方が本領だと思いますけれども。



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