合わせ鏡を使った、奇妙な魔術のとりこになってしまった妹が、
突然消えてしまった!
彼女は四次元の世界へ迷い込んだのか……。
●鏡が作る、別の次元
ある晩、良子が帰宅すると、家中の灯りが消えていた。
鍵を開けて中に入ると、良子の部屋からだけ、わずかに
光が漏れていた。
「みっちゃん!いるの?」
ドアを開けると、美知がふいを突かれて、びっくりした顔で
振り向いた。
良子の三面鏡の前で、手鏡を握って――。
翌朝、美知は説明した。
「合わせ鏡といって、鏡を向かい合わせると、鏡が幾つも
重なって見えるでしょ。
それが鏡の道で、そこを通れば、別の次元に行けるよ。
ある秘法を知っていると、それが自由に出来るらしいけど、
私は知らないから、偶然と勘が頼りなの。」
●そして、美知が消えた
美知は相変わらず熱心に、奇怪な魔術を試みていた。
「ちゃんと勉強はやっているのかしら」
良子はそう思いながらも、無理に止める事もないと考えていた。
8時頃、良子が帰宅すると、また家中の明かりが消えていた。
嫌な予感がして良子は、三面鏡のある自分の部屋に突進した。
内側から、鍵が掛けられていた。
「美知、開けなさい!美知!」
ドアに体当たりしてこじ開け、明かりをつけた。
しかし、美知の姿はなく、三面鏡の前には、手鏡が投げ出されて
あった。
そして周囲には、ヌルヌルとした暗緑色の液体が、巨大な
カエルの足跡のように、いくつもいくつも……。