デザイン思考が世界を変える―イノベーションを導く新しい考え方 (ハヤカワ新書juice) | |
ティム ブラウン | |
早川書房 |
appleの初代マウスやPDAのpalm Vをデザインしたことで世界的に著名なデザインコンサルティング会社IDEOのトップ、ティム・ブラウン氏による著。
高度に情報化された我々の社会はますますデザインを必要としている。
それは工業的な意匠に留まらず、ビジネスにおける思考そのものにおいて。
実際IDEOの活動領域はIT、ファーストフードから、医療、大学にまで及ぶ。
この本の中でも、一見”デザイン”とは無縁そうな医療業界におけるデザイン思考の例として、米国メイヨークリニックが既存の病院施設を使いながら、患者の新たな治療アプローチを考案、視覚化、プロトタイプ化する環境を築きあげられるかといった事例や製薬業界が特定薬剤を患者が服用ルールを守るためのアプローチに取り組む事例などを紹介している。
日本の大学受験、高校受験制度にどっぷり浸かった僕たちは、国語・英語・数学・理科・社会のみを主要科目と捉え、音楽・美術・保健体育を軽視しがちだ。
だから、無味無臭の文字と数字とグラフが並んだ書類を作ったり、眺めて議論することが「仕事」だと思い込んでる。
そんな環境で”デザイン”なんて言葉やアイデアを、ビジネス上のコンテクストに織り込むのは勇気がいる。
でも、それが必要な時代だ。
だってデザインを考えることは「人間中心」に考えることなんだから。
iPhoneにおけるappleの成功一つとってもデザインの必要性は明らか。そんな証左を挙げながら、そ上司や同僚を巻き込んでしまおう。
(なんで啓蒙調になってるんだ、オレ 笑)
(以下引用)
イノベーションを技術に偏った視点でとらえるのは、従来と比べて持続可能とはいえなくなってきている。また、既存の戦略から選ぶだけの経営哲学では、国内外の進展に圧倒されてしまうだろう。そこで、新たな選択肢が必要になる。個人と社会全体のニーズのバランスを取る新たな製品。医療、貧困、教育といった世界的な課題に取り組む新たなアイデア。重大な差別化を生み出し、それに触発された人々に目的意識を芽生えさせる新たな戦略。われわれの抱える問題が、問題に取り組むクリエイティブな人材と比べてこれほど多い時代は、今までなかっただろう。
いわゆる”ブレインストーミング”セッションに参加したり、ちょっとしたコツやトリックを学んだりしている野心的なイノベーターは確かに存在している。しかし、そういった付け焼刃の手段では、新製品、新サービス、新戦略が送りだされることはほとんどないのだ。
したがってわれわれには、イノベーションに対する新しいアプローチが必要だ。強力で、効果的で、幅広く利用できるアプローチ。ビジネスや社会のあらゆる面に適用できるアプローチ。個人やチームが画期的なアイデアを生み出して、実行し、影響を与えられるアプローチ。このようなアプローチを提供するのが本書のテーマである「デザイン思考」なのだ。
デザイン思考では、デザイナーが長きにわたって培ってきたスキルを利用する。デザイナーたちは、ビジネスの実務的な制約の中で、人々のニーズと利用可能な技術的資源を結び付けようと模索してきた。つまり人間的に望ましい物事と、技術的・経済的に実行可能な物事を結び付けることで、今日のような製品を生み出してきたのだ。しかしデザイン思考はそれだけにとどまらない。自分がデザイナーだと自覚したこともない人々にデザイナーの道具を手渡し、その道具をより幅広い問題に適用するのが、デザイン思考の目的なのだ。
デザイン思考では、誰もが持ってはいるものの、従来の問題解決方法では軽視されてきた能力を利用する。デザイン思考は、人間中心であるというだけでなく、人間本質そのものといえる。直感で判断する能力。パターンを見分ける能力。機能性だけではなく感情的な価値を持つアイデアを生み出す能力。単語や記号以外の媒体で自分自身を発信する能力。それを重視するのがデザイン思考だ。
(P10-12)