Kaz Laboratory  (KazLab)

Knowing the A to Z of :-)
Kazが読んだ本、考えたこと、日々の記録

恋愛の格差

2005-08-31 01:03:47 | 人間・家族・教育
恋愛の格差

幻冬舎

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このblogでは、村上龍さんに言及することが多いのだが、昔から好きだったわけではない。
「愛と幻想のファシズム」は読んだが、あとは青春小説「69」くらい。
彼の世界が、SMやドラッグ、売春をモチーフとしていた頃は、僕にはつらかった。
彼がJMMを始めた頃、小説のタイトルで言うと「希望の国のエクソダス」や「最後の家族」あたりから関心領域が重なってきて、現在に至る。

「恋愛の格差」はその頃に女性誌に連載されたエッセイで、編集部としては「すべての男は消耗品である」的な辛口恋愛評を期待したのであろうが、本の途中から「なぜ恋愛の話なのに経済のことばかり書くのか読者は不思議かもしれないが」というフレーズが多くなり、彼の関心が移る様がわかって面白い。

印象深いフレーズがあるので、いくつか記しておく。

都心のスノッブなレストランには、きれいな女、金持ちの女、仕事ができる女の三種類しかいない。
もちろん、都心のスノッブなレストランに行くことが出来なければ充実した人生とは言えないというわけではない。しかしおいしい食事やワインは確かに充実感を与えてくれるものだ。ちょっとした悩みが消えることもあるし、豊かな気持ちになれることもある。
都心のスノッブなレストランに行けなくてもわたしは十分に充実した人生を送っていると言えるのはどういう女性だろうか。

***

確かに魅力的な女性はいる。外資系で英語と金融工学を駆使しているわけでもなく、ブランドに身を包んでいるわけでもなく、特別に才能や技術があるわけでもなく、特別に美人というわけでもなく、有名大のMBAホルダーでもない。それでも「魅力的だ」と思う女性は今の日本にかなりの数が残っていると思うのだが、彼女たちを形容する言葉がない。
積極的に、ポジティブに生きていて、かつ必死で競争したりせず、他人を押しのけたりもせず、会社で認められるために「頑張ってなんかいない」魅力的な女性をどういう風に形容すればいいのだろうか。

***

わたしは、失恋を筆頭とする精神的な苦悩が人生には必要だと思っているわけではない。苦悩が人間を豊かにするなどとも思っているわけでもない。苦悩なんか大嫌いだ。
だが精神的な苦悩に耐えている人は、何も起こらない退屈な人生を送っている人よりもはるかに充実しているように見えるときがある。それが退屈だとしらずに、平穏だと勘違いして、退屈な人生を生きている大勢の人達がいる。最悪なのは、そういう人たちだろう。



君たちに明日はない

2005-08-28 22:53:18 | 経営戦略・仕事スキル・キャリア開発
君たちに明日はない

新潮社

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前職に勤務しているとき、露骨なリストラというものに初めて遭遇した。
終身雇用、潤沢な退職金・年金がそれまで当たり前の会社だったので、より悲劇は大きかった。
指名解雇が日本の法制下では許されないので、辞めてほしい人=**、辞めるといってきたら引き止めない人=*、辞めたいといったら引き止める人=” ”という全社員のリストを作り、大規模な面接を行った。
面接の言動が後々面倒にならないよう、弁護士監修のもと、面接者である管理職のロールプレイング研修を一泊二日で実施する手の込みようだった。

ほかに労力使うところあるだろっちゅうの。

リストラ策の結果、浪人生の子どもや介護中の親を持つ人もなかにはいたのだが、中高齢で会社評価の低い”**”がリストの横に付いた万年課長クラスはみな会社を去った。
それで会社は立ち直ったか。
否。
いまやリストラを潜り抜けた”優秀な”中高年者でポストや美味しい出向先を奪い合い、ミドル・若手は、ポスト不足や展望のなさに苛まれている。
ただ、「この会社は困ったら平気で人を切る」というトラウマだけを皆の心に残して・・・。
マトモな中堅どころは、みな退社し、世間の景気は回復中というけれど、あの会社だけはゆっくり死んでいっているように見える。


そうした瑕をもつKから見ても、この小説の設定はよく出来ているし、外部からみたカイシャ、世の中、人の人生が旨く書き込まれていて実に面白い。
時代に流されて転職願望のあるひとには、転職のpros/consをよく考えてもらう意味で(むしろ僕は転職志向にはポジティブですよ)、お薦めできる一冊ですね。




メディアの支配者

2005-08-21 00:33:53 | 法律・経済・政治
メディアの支配者 上

講談社

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メディアの支配者 下

講談社

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80年代以降に青春を送った人間は、必ずフジテレビの影響を受けていると言われるほど、このメディアの存在感は大きい。
「きっかけはフジテレビ」のキャッチコピーもむべなるかなである。
一方で、「新しい歴史教科書」をはじめ、保守的・反動的な主張を根底にもつ産経新聞・扶桑社もグループの一員である。このヌエ的状況を捉えればよいのか。
そもそもフジ・サンケイグループなるものは、いかなる成り立ちをもっているのか知らないことがあまりに多かった。
「僕は鹿内家三代のハイブリッドだ」とM&Aのときにホリエモンが発言したと筆者は記すが、それが真実なら、実質オーナーである議長解任クーデター劇をやってのけた経営陣は瑕もつ過去が蘇って、恐怖に慄いたことだろう。ホリエモン恐るべし。

文藝春秋出身の筆者は、15年という驚嘆に値する取材を通して、丹念に鹿内家によるメディア支配、体制に対するクーデター、蠢く政財界という構図を丹念に描く大変な力作。
読後にプリンスホテル・堤家の謎にせまった、猪瀬直樹の出世作『ミカドの肖像』を想起したのは僕だけではないだろう。


さよなら玄界灘

2005-08-18 17:38:14 | 人脈・交遊・ネットワーキング

11年通った飲み屋、“玄界灘”が一帯の再開発のため、いったん店を閉めることになりました。
博多で水揚げしてその日のうちに空輸された新鮮な魚の美味しさ、そして十四代、義侠、磯自慢といった銘酒のうまさを、ぺーぺーの会社員だった僕に、「出世払いたい」と振る舞ってくれた大将、本当にお世話になりました。
ラーメン屋だった頃、テレビの取材にサクラになったり、常連客同士がみんな知り合いになって色んな価値観に刺激を受けたり、たまに恋が生まれたり…
この店と出会ってなかったら、僕の東京暮らし、会社生活はずいぶんかわったものになってただろうなーと想像します。
ゆっくり休養して、またいい店創ってくださいね。


半島を出よ

2005-08-16 00:53:53 | エンターテイメント
半島を出よ (上)

幻冬舎

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半島を出よ (下)

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自分で課した、今夏の課題図書を読破した。
村上龍がいつも僕達に問い書けるテーマ、そう自分の頭で考えるということ、行動するということ、死とか破綻といったものは僕達の人生の案外身近にあるのだけど、幸せに包まれているとそのことに気付かないのだということ・・・そうしたテーマを、北朝鮮のコマンドが福岡を占領するというテーマを通して存分に掘り下げる。

特定のヒーローがいないこの小説は、決してエンターテイメントでない。”胸のすくような”という形容は一箇所として似つかわしくない。
たとえ最終章で、創意工夫の末に、テロリストの牙城を少年達がぶっ飛ばすシーンがあったとしても、そこには小説に描かれなくても子どもを心配する優秀で哀れな女性市職員の死があるわけだし、少年達にしてからが「誰かのために」とか「誰かを助けるために」命を賭して北朝鮮の屈強な戦士に挑んだわけでないから、ハリウッド映画的大団円は望みようがない。
村上龍はかつて何かのインタビューに答えて「この小説で一番描きたかったことは何かなんて、それがわかれば僕は小説なんて書かない」と言っていた。
最初から最後まで、人生とは、幸福とは、国家とは、家族とは、友とは、正義とは、美しさとは・・・読み手のひとりひとりが自分の状況に照らして考え続けるためのテクストとして、この本は読まれるべきだと思う。

読み終えてひとつだけ言えるのはエピローグに出てくる「楽しいというのは仲間と大騒ぎしたり冗談を言いあったりすることではない。大切だと思える人と、ただ時間をともに過ごすこと」だというフレーズにしみじみとリアリティを感じずにはいられないのだ。