Kaz Laboratory  (KazLab)

Knowing the A to Z of :-)
Kazが読んだ本、考えたこと、日々の記録

橋本治という行き方

2005-11-29 00:41:02 | 哲学・心理学・自己啓発
橋本治という行き方 WHAT WAY TO GO!

朝日新聞社

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橋本さんは、教養というものを標準語と同じような意味合いを持つものだと主張する。

自分の生活圏だけを基盤にして成り立っている方言は、生活圏の違う人間との意思疎通を困難または不可能にする。だから生活圏を超えた、広い領域でのコミュニケーションを成り立たせるための共通語‐標準語を必要とする。
そして標準語は、個々の生活圏に特有の諸々を捨象‐つまり切り捨ててしまうから、方言から標準語に入った者は、そこから再び自分の独自性を表す方言を作り出す方向へ進まなければならない。方言と標準語は両極になって、人はその間をグルグルと螺旋状に回り続けるのだと。
かつての日本語の過ちは、標準語を「達成すべきゴール」とだけ設定して純化をめざしたことだと。

教養もまた同じ。

教養の価値を認めず、自分の現在を成り立たせる興味本位の「雑」なる知識だけでよしとすることは、人としての思考のフォーマットを捨てることになる。
「雑」を吸収し得ない教養だけでよしとしてしまったら、そこでは個なる人間の「生きることに関する実感」が捨てられてしまう。



空中ブランコ

2005-11-19 23:18:36 | エンターテイメント
空中ブランコ

文藝春秋

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「人間の宝物は言葉だ。一瞬にして人を立ち直らせてくれるのが、言葉だ。」


小説中の患者の一人、恋愛カリスマの女性作家の一言。

人が神経症やうつになる原因は、ストレスや人間関係いろいろある。
この短編集は、そうした患者達と規格はずれの神経科医のユーモラスな治療風景なのだが、人を傷つけもするし、立ち直らせ、あるいは至福に導くことが出来るのも言葉であることをしみじみ感じる一冊。




蝶のゆくえ

2005-11-15 00:25:49 | 人間・家族・教育
蝶のゆくえ

集英社

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橋本治という人は、同時代で最大の思想家だと僕は思っている。
彼の著作は出るたびに買うのだけれど、現代小説はとても珍しい。
しかし、ストーリーのバックボーンにあるのは、現代日本を生きる人の苦悩、哀しさ、人生との折り合いといった彼が問い続けるテーマそのもの。

ネグレクト、結婚しない女、悩みのなさそうなエリート家庭の苦悩、中年夫婦の哀切と親子関係、地方の衰退と故郷、介護・・と「今」を考える論点が、それを語るのにまったく過不足のない日本語で著述される。

哲学とは世界の真・善・美について考えることだと教科書は教えるけれど、もっと手前にある「現実」と折り合う手段としての思想を持たなければ、人は決して救われないのだ。



帰ってきたもてない男

2005-11-04 00:27:41 | 人間・家族・教育
帰ってきたもてない男 女性嫌悪を超えて

筑摩書房

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「もてない男」で一世を風靡した小谷野氏の続編。

たしかにもてないだろうね、この人。
自らをコミュニケーション下手な恋愛弱者と定義しつつ、男子校-東大文学部ー大学院という女性が少ないという環境のせいにしてみたり、論理が破綻している。
周囲に女性が多かろうが少なかろうが、もてるやつはもてるし、もてないやつはもてない。
東大なのにもてないと嘆くのだが、じゃあ、その学校歴アセットが有効に「もて」に働く私大の文系大学院の院生あたりと共同研究でも企画すればよさそうなものだが、そういう働きかけもしてそうにない。

さらに、近松門左衛門やクラシックが好きで、才色兼備な人がタイプらしいのだが、村上春樹や江国香織くらいの「文藝好き」の女性を、自分の力で近松好きになるまで育てよう(これこそ恋愛の醍醐味のひとつ)という気概もお持ちでない。

突っ込みどころ満載なのだが、なぜか読むのをやめられない。
こうした「もてない」という論点設定をして、あけすけに世間に公表する潔さがある当たり、きっと人としての「可愛げ」はあるのだろう。
この「可愛げ」をきちんと理解してもらうことは「もて」への第一歩ですよ、小谷野さん。



下流社会-新たな階層集団の出現

2005-11-04 00:06:17 | 法律・経済・政治
下流社会 新たな階層集団の出現

光文社

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最近の「格差社会」「二極化」論をマーケターの視点から論じたもの。

・下流とは生存そのものが脅かされる「下層」でなく、上昇志向や意欲、世の中へのコミット意識の低い層のことである。
・「下流社会」に属するか否かは、所得や資産だけでなく、コミュニケーション力の有無の影響が大きい

といった主張は、この手の論議の王道。
目新しい視点は、階層によって消費者が分裂し、中流化モデルが無効化するという話。
たしかにね。男性誌に出てくるBerlutiの20万円の靴なんて、誰が買うのと思ったりもするが、売れてるみたいだし、一方でクールビズの浸透をはじめとするビジネススタイルのカジュアル化で、革靴すら履かない男も増えているしね。

ただ、「下流社会」って明らかにセンセーションを狙ってつけたタイトルは煽りすぎの感あり。随分取り上げられてるので成功しているんだろうけど。
皆が皆、立身出世やお金持ちになることを目指す必要はないし、生まれた地域に根を張って生きるという選択肢も悪くはないとおもう。それを「下」と見るのはどうなのかな。



ベター・ハーフ

2005-11-03 23:41:59 | 人間・家族・教育
ベター・ハーフ

集英社

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バブル絶頂期にフォーシーズンで結婚式を挙げた2人が、「不倫、リストラ、親の介護、出産、お受験」というミクロの問題、ブラックサースデー(株の暴落)、不況、神戸の震災といったこの10年のマクロの問題それぞれを縦糸、横糸にしながら夫婦として人間として成長して行くストーリー。
筆者の唯川さんは、男性心理の描写も相当にうまい。
さらに都市博中止やお受験殺人など、印象深いイベントもさりげなくモチーフに取り込み、リアリティを高めているあたりはさすが。