人類が知っていることすべての短い歴史 | |
ビル ブライソン | |
日本放送出版協会 |
10のマイナス何十乗秒という時間に起きたビッグバン、DNAの螺旋構造の発見、プレートテクトニクス、地球の軌道とニアミスする小惑星、氷河期と人類誕生・・・テストのために丸暗記しただけの用語や数字の奥には、驚くべき物語が隠されていた。
宇宙の誕生、ダークマター、恐竜の消滅、小惑星、海底、地球の中心のマグマ・・・タイトル通り人類が知っている科学史にして、壮大な知的エンターテイメント。学校の教科書やテーマごとの新書で断片的に知っていた事象も、こうして包括的に読んでみると全く違った世界が見えてくる。何とラッキーにラッキーを重ねた自然の事象のうえに僕たちは立っているのだろう。
地球はまるでご都合主義の絵空事のように、太陽からの「正しい」距離に位置している。金星は地球より4000万キロ太陽に近いだけだ。その熱が到達する時間差は、わずかに2分。大きさと構成要素において、金星は地球に非常に似ている。太陽系が出来て間もない頃、金星は地球よりほんの少し暖かいだけで、おそらく海洋も有していたらしい。しかしその数度の余分の熱のため、表面の水を保つことができなくなり、金星は息が出来なくなった。表面の温度は摂氏470度と鉛も溶かす高温。表面の気圧は地球の90倍、人体に耐えられる限度を超えている。逆に遠ざかるほうの旅では、火星が冷ややかに証明しているように、暑さではなく寒さが問題になる。火星もかつてはずっと快適な場所だったが、凍てつく荒野になり果てた。(P337-338)
世界の海はどこもかしこも豊かなわけではない。自然のままで潤沢とみなせる海域は全体の10分の1以下だ。オーストラリアは3万キロ以上の海岸線と2300万平方キロの領海をもち、ほかのどの国よりも海に恵まれているにも関わらず、漁獲高では世界の50位以内に入っていない。(P382)
わたしたち人類は、自分たちが支配的な種であることを当然のように受け止めている。そのため、人類が存在するのは、地球外の爆発やその他の偶然の出来事がぴったりのタイミングで起こったにすぎないという事実を、なかなか理解できない。(P468)
すべての生き物は、たったひとつの原案にもとづいて入念に作りあげられている。わたしたち人類は、単にそれが増強されただけの存在だ。わたしたちひとりひとりが、38億年にわたる、調整、適合、修正、神の手による修繕などの黴臭い記録だ。特筆すべきは、わたしたちが野菜や果物とさえも密に結びついている点だろう。バナナの内部の化学作用は、根本的に、あなたの内部で発生する化学作用と同じだ。(P554)
ここにきわめて重大な問題がある。それは運命と呼んでも、神意と呼んでも、なんと呼んでもかまわないが、わたしたちはすでにそういう役割を担う存在として選ばれているということだ。周囲を見るかぎり、わたしたちがいちばんの適任者というほかない。唯一の適任者かもしれない。恐ろしいことに、人類は現時点における宇宙の最高の創造物になれると同時に、宇宙に最悪の悪夢をもたらす存在になれる。(P633)