悪魔の囁き

少年時代の友達と楽しかった遊び。青春時代の苦い思い出。社会人になっての挫折。現代のどん底からはいあがる波乱万丈物語です。

第三部【悪魔の囁き】 第三話 【嘆き】

2018-07-06 10:16:54 | 日記
第三話 【嘆き】

得意先まわりは、関東自動車道から京葉道路に入り――
首都高速道路を抜けて東北自動車道で行く左回りと――
国道51号線から16号線に入り――
松伏町を抜けて新四号線バイパスに出て小山市を通るストレートコースに――
国道409から国道51号線をまたぎ――
国道408号線美浦トレーニングセンター脇を通り牛久大仏を右に見て――
国道125号線に移り――
国道294号線通り筑波山を右に見て――
国道50線を抜けてから真岡市に入る右回りと――
曜日ごとにコースを変えて気分転換をしていた。
ストレートコースを通る時は……
マイホームの庭を見栄えのする配置をレイアウトするために……
埼玉県の造園業者の庭づくりなどを参考にと……
途中下車して見歩いていた。
また、得意先の営業ルート上にある宇都宮市や鹿沼市の花木センターに寄り、自分の庭の背丈に合った庭木は無いかと物色していた。
4月から一週間の鹿沼市花木センターの植木市の時は、主に庭木を中心に買い集めていた。
先に書いたように、普段から時間が有る時はマメに寄り、自分の家の庭に合いそうな植物に目星を付けて置いた。
金が貯まると庭木だけでなく、鉢植えなども買っていた。
植木鉢は、そこそこ安かったが、花瓶は高かったので、得意先のホームセンター園芸部門で買った。

「すいません。温室にある植物は全部一年草ですか」
と温室担当の40代後半の女性に聞いた。
「違いますよ。こまめに水やりをして大事に育てれば、毎年花が咲くのもありますよ」
「この上に並べてある庭木は、いつも同じで種類が偏っているけど、新しい物は置かないのですか」
「あれは、春の植木市の残りなのですよ」
「そうなんですか。いつ来ても代わり映えがしないから、おかしいなと思っていたんですよ」
「植木市の一週間で殆ど売れてしまうから、お客さんも植木市のときに来れば、いいものが買えますよ」
「来年から、そうしますよ」
4月~5月のゴールデンウイークかけて、開催している鹿沼市植木市に買いに行くようになった。

部屋の中には、最低限必要な家具食器類以外は何も置いていなかった。
何しろ性格がずぼらな為に食器洗も面倒臭く、料理などする気はなかった。
それで適当にあるものをフライパンにブッ込み味を濃くして炒めた食材を、酒を飲みながら、食べていた。
“春夏秋冬”目で味合う気持ちなどなかった。
うっかり落として皿が割れるまで白い中皿一枚を使っていた。
肉・魚・野菜と兼用で山済みに重ねて食べていた。
冷蔵庫やテレビなど高額白物家電を買うと、朝、一時間早く起きて昨日の残りのオカズで弁当を作り、河川や山の中で車を止めて食べていた。
ホームセンターマイライフで家電を買った金額をペイするために、昼飯代を一食分ランチセット650円として、冷蔵庫が8万円÷650円=123日÷24日=切り捨てて5ヶ月で“チャラ”にした。
20インチテレビ6万円÷650円=92日÷24日=切り上げて5ヶ月でチャラと相殺して“ムダ”を切り詰めていた。
高額になる飲み代と女遊びは会社のつけにして、領収書をもらって落としていた。
コンビニやスーパーなどの食材は丼勘定で、家計簿までは作らなかった。
家裁道具のない各部屋は、空間が多かった。
見た限り余りにも殺風景だった。
客が来た時に恥ずかしい時もあった。
「やもめ暮らしに蛆が沸く」ではないが――
「これでは間が抜けているな」
と和室や洋間に合わせた、季節感のあるオーガスタ・鉢植えのフラワーや、観葉植物を出窓や下駄箱の上に置くことにした。
濡れ縁は作ってもらったが、どうも盆栽は手入れが面倒臭そうなので、買う気にはならなかった。
草花等は季節に合わせて胡蝶欄・カトレア・デンドロビウム・シンビジューム・スイートピー・フリージア・シクラメンなど……
1年で終わる植物や、細目に水やりをしていれば、毎年花を咲かせてくれる植物を各部屋に並べた。
二階踊り場には、かぁちゃんに無理やり持たされた丈夫で手のかからない、ホンコンカポックや観葉植物などを置いた。
アスプレニウムは二階の出窓に置いていた為に、寒暖の激しさで枯れてしまった。
かぁちゃんに持たされたアロエは、真冬外に置いていたら同じく枯れてしまった。 
床置きには私の疲れた体や、ストレスが溜まって精神を癒してくれて室内を明るくしてくれる、目に優しい観葉植物を置いてみる事にした。
部屋に入って1番多く時間を費やすリビングを中心に、部屋の壁際や4隅に置く事にした。
夏場は土地柄もあり、周りは広々とした田園風景ばかりだった。
風を遮る障害物も無かった。
冷房器具を使かなくとも窓を開けて置けば、昼夜関係なく涼しく過ごす事が出来た。
植物の成長にもあまり影響が無かった。
濃い緑の葉が目に優しく長距離運転の疲れを癒してくれた。
冬場はストーブを置く為に、寒暖の激しさで枯れてしまう植物もあった。
調節が難しく、1人暮らしの私には面倒を見るのが大変だった。
私自身は観葉植物の育て方に全く知識が無かった。
時の勢いと家の体裁だけで置いているだけだった。
仕事の忙しさに戯けて勉強する気も無かった。
出窓に置いて締め切った部屋でカーテンを開けていた。
「昼間は十分に日が当るようにしたのが良いだろう……」
と間違った考え方をした。
夜になると“グーン”と冷え込んだ。
寒暖の激しさで枯れてしまう事が殆どだった。
こんな無責任で残酷なバカは、相手の気持ちを知ろうとせず残酷な事をしていた。
          ******
ある夜から夢の中で真っ赤に燃え上がる火の玉が……
遠くから彗星の如く――
私を飲み込む勢いで追いかけて来た。
慌てて逃げても、両足がスローモーションになった。
歯を食いしばって力一杯走ろうとした。
が、50cmも進まなかった。
直ぐに火の玉に追いつかれた。
私は火だるまに成った。
屍臭臭い煙を出して髪の毛と肉を焼き、骨まで焼け落ちた。
灰になると……
強風に煽られて空に舞い上がった。
「夢か――」
パジャマも敷布団もぐっしょりと濡れて、汗だくで目が覚めた。
「晩酌で大酒飲んで寝るもんじゃないなぁ~」
とタオルで汗を拭き取った。
布団から抜け出し、多少ヒヤリとする畳の上にごろ寝していた。
「毎晩暑苦しいなぁ~」
分かっているが、やめられなかった。
次の日も同じく追い掛けられた。
逃げても捕まり丸焼けになった。
汗をびっしょりかき――
また、目が覚めた。
「今日も同じ夢かぁ~」とパジャマは毎日変えて洗濯して置け済むが、布団は晴れていても、普段の日は仕事に行っていて干すことが出来なかった。
畳にまで汗が染み込んでいた。
寝ていて気持ちが悪く成る程だった。
寝苦しい毎晩だった。
奇妙な事に同じ夢が三夜つづいた。
4日の夜からは、寝ていると急に家が燃え上がった。
消防車のサイレンの音が、遠くから近くへと鳴り響いて来た。
「助けてくれぇ~ 焼け死ぬ――」
叫んでも一向に誰も火消しに来る気配がなかった。
大金を使かって作り上げた自慢の庭だった。
南側から西側に向かい、桜の木を残し燃え広がっていた。
勢い良く燃え上がる飛び火が降りかかった。
慌てて逃げる自分の背中に燃え移った。
真っ赤な火と共に蒼い炎が天まで昇り上がった。
私は煙に巻かれて苦しんでのたうち回っていると……
――火炙りにされた。
自分の体が薄い灰になり、強風に揺られて撒き散らされて、落ちて行く夢を何度も見るようになった。 
連夜、不吉な夢ばかり見ていた。
朝から気分が悪かった。
その内に本当に火事を出すのではないかと思った。
暖房機は使用するのは暫く止め様と思った。
「寒そうだなぁ~」
風呂上がりに震えてリビングで酒を飲んでいても、美味くなかった。
仕事のストレスを解消することも出来ないだろうし、と思うと……
暖かくしてテレビを観ながらリラックスするのが、一番精神的によい事だった。 
今日1日の出来事から気分が良かった事や、面白く無かった事など思い起こして、悪い方は忘れて嬉しかった事だけ思い返した。
ゴールデンタイムからお気に入りのテレビ番組を観て、バカ笑いをして酒のつまみで1杯飲んでいた。
痩せ我慢をしてストーブを消していた。
厚着をしていても、体の芯から冷え込んで来た。
春夏秋冬関係なく、熱めの風呂が好きだった。
「入っていろ」と言われると半日は風呂に浸かっていられた。
明日の仕事の予定や……
岡惚れしている女を物にする口説き文句や……
凡人が奇跡的なきっかけで天才になり有名人になる歓喜や……
芸能人の美人タレントにモテまくる事や……
他人にキチガイ扱いされる妄想など――
訳のわからない事を長時間考えているほどの風呂好きだ。 
深めの浴槽に入り1時間は肩までつかり、目一杯汗を流した。
風呂上がりに冷蔵庫を開けた。
500mlの缶生ビールを出した。
一気に口に流し込み、喉鳴らして顔をくしゃくしゃに歪めていた。
「生きていて良かった」
と独り言が出た時に……
1日の疲れが取れて、僅かな幸せを感じる瞬間だった。 

せっかく風呂で暖まった体も、寒過すぎて震えが来た。
根性無しの私にとっては誓いを立てても、30分も経たない内に意志の弱さを出てしまった。
会社のガソリンカードで買っている、20リットポリ缶650円の灯油を中型と小型の石油ストーブを惜しみなく消耗した。
気が付くと――
いつの間にか部屋の中は2台のストーブで猛火になっていた。
それでも寝るまでは汗ばむほど真っ赤に燃やし続けていた。 
「7月8月は1番暑い月だから、季節を逆にすれば、1月2月が1番寒くなるのが当然だな」と、いつも冬になると夏の事を思い出し我慢して、春を待つ事にした。
今年は2月の中旬頃から寒波が押し寄せて来ていた。
冷え込みがきつく、今日1番の寒い夜だった。
その為に布団が体温で暖まらなかった。
0時を過ぎると・・・
夢の中に平安絵巻から出てきた、富士額の女が現れた。
クラッシクな美しさが見るからに頭の良さそうだ。
“あれが”好きそうな顔は美形とまでは言い切れない女性だった。
「どこかで見た事がある。確か、誰かに似ていたな」と考えて見た。
「そうだ。男を見つめる時の暖かな優しい瞳が、レオナルドダビンチのモナリザだ」
しっとりとした艶めかしい微笑みだった。
私の男心を掻き立、天に向けて突き立てた剣を刺激して、武者震いをさせた。
「いざ、出陣――」
した時に目が覚め た。
“ゾクゾクゾク”と体の芯から震えが来た。
あまりも冷たかった。
背中を丸めて布団に頭まで潜り込もうとした。
“ズキン・ズキン・ズッキン~”と背骨に電気が走った。
――瞬間息が止まった。
振動が下がってくると腰までが痛かった。
曲げる事が出来なかった。
痛くて寝返りすら出来なくなった。
その夜は、寒さの震えと痛みが朝まで続いた。
柱時計を見つめているだけで、眠る事が出来なかった。 

「得意先への納品は早い者勝だ。出遅れたら負け」
悔しさが込み上げて来た。
「仕事に行かなければ・・・
根性 根性 ド根性」と気合を入れて、起き上がろうとした。
“ぐにゅ~”
背骨が左右に捻られる感じで、雑巾を絞る時のきしむ痛みが出た。
布団から四ツン場で這い出た。
ドアーの6寸柱に手を掛けて立ち上がった。
両膝の関節が震えていた。
二階から降りる時も手すりにもたれ、静かに脚を下した。
左から右へ片足を下ろした。
着くたびに背骨と首に――
“ビリビリ ジリジリ”と電気が走った。
痛みを我慢し、どうにか下りる事が出来た。
トイレに入り考える人の形になると楽だった。
歯を磨くときも、顔を洗う時も腰をかがめていると痛みが出なかった。
リビングの椅子に座り“ホット”した。
途端に・・・
また背骨が濡れたタオルを絞るような、締め上げられた痛みで、息が出来なくなった。
テーブルにうつ伏せになり、背筋をゆっくりと伸ばした。
反るようにすると10分後に痛みが緩み、息も出来るようになった。
それから20分程して痛みが消えて息苦しさが無くなり、歩く事が出来る様なった。
食事を済ませて車に乗り込んだ。
「また、痛みが出ると苦しくなるだろう」
と、晒しの腹巻をして置いたのが良かったかなと思った。
着替えが終わり外に出た。
やはり、走り出して車に揺れると痛み出した。
もう一度部屋に戻るのも面倒になった。
いちか、ばちか、でそのまま出かける事にした。
栃木県の得意先に着くまでは2時間近く掛った。
車が揺れるたびに納まっていた背骨が痛みだした。
1番目の真岡営業所では車から降りる事もできなくなった。
幸いワンボックスカーだったので、体をクの字の曲げて降りる事しかなかった。
背筋を伸ばし痛みを堪えると、何とか降りる事が出来た。

「毎度。中原所長。今日は腰が“痛くて。痛くて”車内の商品の出し入れは出来そうも無いですよ」
「何か悪い遊びでもしたんじゃないの」
「それなら諦めるんだけど、意味がない痛さだからたまんないですよ」
「辛そうだねぇ~ ところで、客注は持ってきている」
「それは、大丈夫です」
「ありがとう。見せて」
「はい>」
「純正は高級感があるな。これなら客も文句言わないだろう」
「弁償でも古いから、社外でもいいかと思ったんですけど、客に『同じ物にしろ』と、ごねられて交換するのも二重の手間になるので、高くても純正にしましたよ」
「それでいいんですよ」
「客とのトラブルは避けたいですものね」
「こんな田舎だと、直ぐ噂が流れますからね」
「それに同業者のサービスステーションがあるから、向こうで入れられたら2度と戻って来ないですものね」
「それが怖いんですよ」
「目標が行かないと、本社会議の時に部長に怒鳴られるのでしよぅ」
「怒鳴られるだけならいいけど、会議が終わるまで立たされているんですよ」
「やはりその話はホントなんですか」
「そうだよ。気の弱い店長なんか辞めましたよ」
「それで東松山の店長が飯田さんに変わったんですか」
「そう。彼は部長の懐刀だからね」
「切れるんですね」
「なにしろ、結婚式の時は仲人をしましたからね」
――なるほどぉ. ――
「しかし、新人だとミスが多いですからね」
「そうなんだよ。ところが洗車するときは、手動アンテナをしまうのは覚えているんだけど、モーターアンテナだと、しまい忘れるんだよな。だから気をつけるように口を酸っぱくして、何度も言っているんだけどね」
「やはり、頭で覚えるより、体で覚えないと忘れるんですよ」
「ドァーミラーが解禁になり出だしたころは社員も慣れていないから、洗車機に入れると、ミーラーをたたみ忘れて洗車機に回すから、ロラーブラシに絡まって巻き込んで、折れてしまうんだよ」
「そうですよねぇ。最初の頃は社外品でも電動ミラーより手動の方が多かったですよね」
「慣れるまでは、注意事項を洗車機の横に張り付けて置いたんだよ。それども、忙しいと忘れるもんなぁ」
【ドアーミーラー・アンテナ・ワイパー・フロアーマット・灰皿・注意!!】
【外車は手洗い!洗車機は厳禁!?】
「それども忘れるから、洗車代より弁償代の方が高くなるよ」
「俺の方も注文来がたら・・・必ず。車検証をコピーすることを義務付けて貰わないと、純正だと商品が出ないんですよ」
「純正は面倒くさいんだよな」
「そうなんですよ。その為に入荷が遅れて、お客とトラブルになる事が、結構あったんですよ」
「外車のドアーミーラーなんか、壊したら弁償代が高すぎて、目が飛び出すからな」
「片側だけでなくセットで取らないと、日焼けしてボディーが変色しているから右と左の色が違ってしまい、トラブルのもとになりますものね」
「そうなんだよ。一度ロールスロイルのドァーミーラーの注文が来たけど、セットで20万円しましたよ」
「本当に、高いよなぁ~」
「いつどんな時でも、気を付けないといけませんね」
「そう。灰皿なんか注意しても、月2~3回は壊すからな」
「そうですよね。弁償の注文で、一番多いのが灰皿ですよ」
「古くなるとチョット入れ方がずれると、簡単に爪が割れてしまうから、気をつけろ。と言っているんだけど、ダメなんだよなぁ」
「お客さんにしてみれば、サービスで古い商品を新品に変えてもらえるんだから、ありがたいですよね」
「お客に、そんなこと言ったら怒るよ」
「ここだけの、笑い話ですよ」
ウァハハ八八ノヽノヽノヽノ \
「しかし、新入社員なんかは、一度は誰でも経験する事だから、勉強と思って怒ることもできないよ」
「この前辞めた、江戸川営業所の大平主任なんか、洗車して車内を掃除している時に、リヤーシートに香水こぼして弁償させたれたけど、相手がヤクザでリヤーシートを交換させられたんですよ」
「可也脅されたでしよぅ」
「そうなんですよ。これには『10万円かかり、高い勉強代だった」と言っていましたよ」
埼玉南営業所のアルバイトの川俣くんは白いベンツに燃料入れた時に、給油を見ていたお客の前で、ガソリンをボディーにこぼしてしまった。
運悪く――
お客様は、色白で20代後半の身長190cmほどの、大柄な坊主頭のヤクザだった。

「何やてんだ。てめぇは。早く拭けよ」
「すいません。すぐやります」と何度も何度もタオルを変えて、拭き取った。
「おぉ。ボディーに、ガソリンが染み込んで色が変わったじゃねぇか」
と言い張り因縁をつけられていた。
「よお。所長を呼べよ」
「はい>」
ヤクザは、事務所に入った。
「はい<」
“トントントン”
「何――」
「所長。お客さんが……」
「そう」
・・・?・・・
「お客様。どうかしましたか」
「お前のところの、従業員が俺の車にガソリンをブッ掛けたんだよ」
「すいません」
「『謝れただけじゃぁ、済まないんだよ。乗って来た車は、俺の兄貴のベンツなんだよ。このまま帰ったら、俺が怒られて不始末の責任取らされるんだよ。そうなると、指を詰めなくてはならなくなるから、新車交換しろよ』と事務所に居座られていましたよ」
「それで、どうなったの」
「酒井所長が本社に電話していたんですよ。でも、俺も30分はいたけど、次の営業所に移動があるから、そこまでしか見ていなかったんですよ」
「外車だけは慎重にやらないと、後が怖いよな」
「だから問屋もいい加減なものを持ってこられないですよ」
「やはり外車も車検証がないとダメなんでしよぅ」
「そうです。それとボンネットを開けて、シーリンナンバーを見ないと、同じ商品が出ないのですよ」
「面倒臭いんだね」
「間違っても返品が出来ないから、注文を受けたら慎重に慎重を期してやりますよ」
「そうなると弁償以外は、客注だけは取らない方がいいですね」
「そうです。知り合い以外は外車のディーラーに行ってもらった方がいいですね」
「もし、うちも注文があったらそぅしますよ」
「それがいいですね。ところで所長。今日の納品は止めて、在庫切れがありそうな商品を注文取って、帰りますよ」
「これから、上三川に行くの」
「いぇ。鹿沼店に行きます。そのあとから高速で西那須店に行き、各店周りをして、上三川店に寄り帰りますよ」
「相変わらず、きついローテンションだねぇ~」
「どこの店にも商売敵がうろついているから油断ができませんよ」
「タカベ商会のスパイの野田所長や桜田おバァバァ所長もいるからな」
「そうなんですよ。なにしろ、やりにくくてしょうがないんですよ」
「あの、二人は中さんの天敵だから仕方ないよ」
「他県に飛ばす事、できないですかね」
「野田は女好きだから、そのうちに尻尾出すよ」
「綺麗で女臭い色っぽい奥さん持っているのに、どうしてですかね」
「幼なじみの、同級生だったらしいよ」
「ホントですか。長い付き合いなんですね」
「田舎だから、他に女がいなかったんじゃないかなぁ」
「でも、嘘であってほしいけど……
――くやしいですねぇ~」
「本人が言うんだから、間違えないよ」
「俺は、いつも思うんだけど。タコ助みたいなヤローに限って、いい女が付くんだよなぁ」
「野田はガタイがデッカクてハッタリが効くし、世渡りも上手く本部の北村部長に可愛がられているし、部下の使い方も上手いから子分も多いんだよ」
「俺はとは、まるきり違うな。それじゃ適わないやぁ」
「中さんは付き合いがいいし、金払いもいいからタダ酒が好きな奴はついてくるけど、東商事の社員だけあって、仕事となると自分の上司に付くから、安心しているとすぐに寝返るから、気を付けないと危ないよ」
「人間なんて、そんなもんですよ」
ウァハハ八八ノヽノヽノヽノ \
「そう言えば野田は家を建てるんで、土地を探していたみたいだったな」
「所長になると、高い給料もらっているんですね」
「そんなことないよ。おそらくタカベ商会から裏金もらっているかもしれないな」
「あいつが所長になると、必タカベ商会もセットでついてきますね」
「野田も元は、タカベ商会の社員だからな。ありえる話だよ」
「しかし美人をかみさんにしていると、ブスと浮気したくなるんだな」
「だから、ブサイクな事務員と噂が出るのか」
「よく。知っているじゃない」
「店に行くと、雰囲気で分かるんですよ」
「女遊びに磨きをかけていると、違うところで感が働くねぇ」
「第六感は鋭いですから」
「桜田バァーさんも危ないところがあるから、その内に首飛ぶよ」
「1度退職していますからね」
「でも、店長が出来る人材がいないから呼び戻されたんだよ」
「それで新規オープンする氏家店の店長になるんですか」
「そうだね」
「でも、去年入社した息子が、悪そうですもんね」
「あれも、“ガッチガチ”のタカベファンだからな」
「タカベ寄りの従業員は、気をつけて見ていきますよ」
「あいつ、出来ちゃった結婚で子供も小さいのに、どうするんだろうなぁ」
「どうしたんですか」
「うぅん~」
「何かやらかしたんですか」
「中さんだから言うけど……」
「俺口硬いですから」
「東商事のプリペイドカードを暴走族仲間に横流ししていたんだよ」
「そうなんですか」
「それにオイル交換に来ると、5ツ星オイルを入れて伝票は3ツ星オイルにして安く計算して、ごまかしていたんだよ」
「ガソリンとオイルで2重損したんですね」
「そういことだね」
「それじゃぁ、自業自得なんだから仕方ないですよ」
「親のコネで入ったから、他のスタンドには就職ができないだろうな」
「四光商事だって不始末を知っているだろうから、行っても不採用になるよ」
「狭い街ですからね」
「栃木地区には大型サービスステーションは、東商事と四光商事だけですからね」
「そう。あとは地主のガソリンスタンドか」
「そうなると社会保険がないから、将来が不安になるよ」
「やはり年金も国民保険ですか」
「そう思うよ」
「定年退職して受けつる額が半分になるでしよぅ」
「もしかすると入っていないかもしれないよ」
「うちと同じですね」
「中さんところも入っていないの」
「そうなんですよ。だから社長に『入ってくれ』と何度も言っているんですけど『俺たちが貰う頃には金がないよ』と言って入らないのですよ」
「国のやることだから、そんなことないと思いますけどねぇ」
「俺もそう思うんですよ」
「それで中さんはどうするの」
「今までの会社は入っていたから継続したいと思っているんですけどね」
「根気よく説得して入った方がいいですよ」
「松島専務に言ってもらいますよ」
「それがいいですね」
「あの人も35年ローンで家を建てたばかりだから、年金は欲しいでしよぅ」
「専務って、丸顔の人ですか」
「そう。俺と1番最初挨拶周りに来た人ですよ」
「取引するのが当たり前だと、偉そうな態度だったな」
「昔は1匹狼でやっていたから言葉使いがわからないのですよ」
「もし、あの人が来るようなら、取引は中止しますよ」
「まず、俺と担当が変わることはないと思いますよ」
「なら、いいけどね」
「今後共よろしくお願いします」
「まぁ、任せなよ」
「ありがとうございます」
「ここの営業所は中さん寄りの人間ばかりだけど、他の営業所では気をつけて方がいいね」
「今度。塩原温泉に行きましょうよ。面白いですよ」
「そぅらしいね。金田所長と一緒だろう」
「そうですよ」
「年がら年中栃木に泊まるなら、こっちに営業所作ればいいのに」
「営業所構えるほど、売上があればいいんですけどねぇ」
「東商事の店舗だけでは儲からないのかい」
「あと10店舗有れば営業所作れるんですけどねぇ~」
「それなら小山に建売でも買いなよ。新幹線も止まるし、東京まで一時間で帰るから、楽でいいでしょう」
「そうですね。小山は50号バイパスが開通しても、新幹線が止まらなければ何も無いところだからな」
「今は南側から区画整理されていて、住みやすくなっているから、一昔前とは全然違うよ」
「三年前に駅前のビジネスホテルに泊まったけど、夕方飲みに行こうと外に出たら、角かどに立っている男たちなんか、目つきが悪くてみんなヤクザに見えたもんなぁ~。とてもシラフでは歩けないから、コンビニで酒と食料買って、部屋に戻って飲んで寝ましたよ」
「今は大違いで、駅前から4号線まで居酒屋が並んで建っているしねぇ」
「そうなんですよ。旨いか?不味いか?疑問だけど……
いつ行っても若い連中でいっぱいですよ」
「竹山さんたちと小山のスナックで飲んだとき、女性はママさんしかいないので、野田所長の奥さんの妹が、近くのアパートに住んでいるから呼び出したんですよ。来たら奥さんに似て美人でしたよ。それから上三川北の杉田所長と付き合いだしたらしいですよ」
「それで。結婚する事になったんだ」
「そうなんですか」
「らしいよ」
「でも、いい女だなぁ~ 」
「惜しいことしたね」
「密かに目をつけていたんですけどね。残念だなぁ~」
「だからさ。こっちに引っ越してくれば結婚なんか、いつでもできるよ」
「考えて置きますよ」
「なんなら、俺が紹介するよ」
「でも……なぁ~」
「好みは……」
「ガリとデブ以外はなんでもいいですよ」
「それならうちの営業所にいるじゃない」
「でも、どこか“帯に短し襷に長し”なんですよね」
「中さんの年で贅沢言っちゃいけないよ」
「それもそうですけど」
「30代前後の女性で手を打った方がいいですよ」
「俺はどっちかと言うと、いしだあゆみ系の顔立ちが好きみたいですよ」
「そんないい女栃木にはいないよ」
「でしょうねぇ~」
「それに近い人を探しておくよ」
「よろしくお願いします。ところで、建売だといくらぐらいなんですか」
「駅の周りの50坪の土地で、3500万だよ」
「こんな田舎で、結構高いですね」
「新幹線が止まるようになったからね」
「だと、手頃な、値段ですかぁ」
「だ、ねぇ」
「4号線の方は昔のままだけど、50線側は区画整理されていましたからね」
「50号線バイパスが出来たら早かったよね」
「あれで、茨城から栃木に来るのが、ホント楽になりましたよ」
「そのうち東北道も上三川インターまで来るから、もっと早くなるよ」
「そうかぁ~ しかし、今の家があるからそうもいかないんですよ」
「その家売って、越してくればいいじゃない」
「あんなド田舎、買い手がないですよ」
「そう言えば、ここと変わんないよな」
「ですねぇ」
「この前、東商事チェーンの合同運動会をやったところの近くだったよね」
「あそこから、30分ぐらいですよ」
「周りは、畑とゴルフ場ばかりだったな」
「しかし、海には近いですよ」
「栃木だと、海水浴は茨城県に行くからな」
「50号線で行けば、茨城県の方が近いのか」
「今度建売のチラシ入ったら見せてやるよ」
「あまり辛いようだったら、考えますよ」
「車だから駅に近くなくてもいいよね」
「マンションじゃないですからね」
――OK――
「それじゃ、明後日、また来ます」
「用があったら電話するよ」
「お願いします。塩原温泉も考えておいてください」
「わかったよ」
          ***◆◆◆***


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