第三話【崩れる神話】
「そでいいんだよ。以下に、時間をかけて商売をするかだからな」
「でも、あまり長いと、逆に嫌われてしまいますよ」
「そのくらいしつこくないと、注文は貰えないよ」
「そうですかねぇ~」
「何しろ、訪問したら相手が根気負けするまで、居座り注文を出させるんだよ」
「課長はそうして売上を伸ばしたんですか」
「そうだよ。やる気と、根気と、集中力で、お得意先を納得させるんだよ」
「誠実さはいらないのですか」
「お前、そう言う揚げ足を取るから嫌われるんだよ」
「そうか。自分じゃ、気がつかないうちに言っいるんだなぁ」
「得意先に行ったら、言葉を選んで慎重に話をすれば、嫌われる事はなくなるよ」
「これからは、肝に銘じて得意先周りをします」
「その息で、頑張りな」
「はい< 」
「オッ 1時だ。今月の目標を達成して来い」
「分かりました< 」と立ち上がり後ろを振り向いた。
「いつまでやっているんだ。仕事に行け」と石野係長に怒られた。
「うるせぇな。これから出かけるんじゃねぇかぁ。この タコヤロ――」
と腹の中で口答えした。
***◆◆◆***
PM6時になると、麻布店で将棋好きの連中を12人集めて、参加料金一人千円を出し合い、優勝賞金1万2千円を賭けて将棋トーナメントと開いた。
噂が流れ、野次馬が集り大人数になると、必ず博打好きがいた。
高校野球でも何でも勝負になると、出馬表の枠順を作り出場者の経歴まで書き込み連勝複式を買わせた。
「うまいもんだなぁ~」
「プロだよ」
「よく、ここまで情報を知ることが出来ましたね」
「綿貫主任も競馬好きだし、15年イーストにいるから殆どの社員情報は知っているんだよ」
「昨日今日で出来るもんじゃない訳か」
「まぁ~ そんなところだな」
「本命は◎誰なの」
「やはり、熊倉課長だな」
「対抗は○ 」
「内勤セールスの下村さんだな」
「穴は△ 」
「業務課の乾さんだよ」
「大穴は×× 」
「無印の、瀬川かな」
「誰が勝ちそうだい」と沢田店長が聞いた。
「おそらく、熊倉課長だと思いますよ」
「課長はそんなに強いのか」
「他の連中より頭2つ抜けています」
「ふん~」
「店長も買いますか」
「買うから、俺にも出馬表をくれよ」
「はい」
「それじゃ、店長も参加でいいですね」
「よろし――」
欲の皮がツパッた30人から賭け金が30万円集まった
1枠・△1番、乾、業務課所属、気が弱い性格が、上位に食われている。
2枠・2番、上村、業務課所属、決め手がない為に詰が甘いが、ツボにハマると一発がある。
3枠・○3番、下村、都内課電話取り所属、先手になると、大崩しないのが強み。
4枠・×4番、片岡、都内課電話取り所属、銀櫓を組むとしぶとく粘る。
5枠・5番、瀬川、地方課電話取り所属、相手なりに手を打てる。
5枠・◎6番、熊倉課長地方課所属、テンよし、中よし、終よし、守りと攻めのバランスがよく不動の本命。
6枠・7番、鶴見、都内課電話取り所属、後手に回ると何処にも来ない。
6枠・8番、中、都内課営業所属、根気がない為に、先手を取っても、後手に回っても詰めきれない。
7枠・▲9番、野島主任業務課所属、守ると弱く攻めると強い。
7枠・10番、三浦、電話取り所属、気むらの為、何時勝つか分からない。
8枠・注11番、増山、地方課電話取り所属、忘れた頃来て、一発大駆けがある。
8枠・12番、渡部主任業務課所属、詰が甘いため切れ味なし。
不公平が無いように強い者は強い者同士弱い者は弱い者同士で戦った。
午後6時から4階の営業部で始まった。
縁台将棋なので、一局1時間程で終わった。
熊倉課長VS下村都内課電話取り・乾業務課VS瀬川地方課電話取り・渡部業務課主任VS三浦電話取り・中都内課営業VS上村業務課・鶴見都内課電話取りVS増山地方課電話取り・野島業務課主任VS片岡都内課電話取りで、一日目一回戦を戦った。
熊倉課長VS乾業務課・瀬川地方課電話取りVS中都内課営業・増山地方課電話取りVS島業務課主任で、二目日に2回戦を戦った。
大波乱が起き、大本命の熊倉課長が2回戦で消えた。
三日目決勝戦は乾業務課VS中都内課営業VS増山地方課電話取の、三つ巴で3回戦を戦った。
2勝した者は優勝となった。
ジャンケンで対戦を決めた。
“ジャンケンポン”
業務課のコーヒー買いでペテンに引っかかった私がパーを出し勝った。
決勝戦が始まった。
乾業務課VS増山地方課電話取、玉手雪隠詰で、乾さんが勝った。
四日目、乾業務課VS中都内課営業、逆転一手で私が勝った。
五日目、中都内課営業VS増山地方課電話取、私の得意技穴熊を崩せず、私が勝った。
馬の2着争いで、乾さんが勝ち、連勝複式1-6で決まった。
茶封筒に入れた賞金1万2千円を有り難く受け取った。
「おめでとう 」
「有難うございます」
「優勝の挨拶をして」と熊倉課長に言われた。
このたびは、多くの強豪がいる中か、皆様方のご声援に後押しされて、らみごとに、第一回将棋大会で優勝することができたことは、この上もない歓びです。
ますます将棋道に精進して、次回も栄えある将棋大会での、優勝を狙っていきたいとおもっています。
本日は、第一回将棋大会を企画していただいた、幹事様ならびにご参加の皆さま、誠にありがとうございました。
会社に置いてある、マニアル本を参考にして挨拶した。
拍手!! ――喝采!!
ノーマークの私が勝ち大穴が空いてしまい誰も的中しなかった。
私も自分が勝つと思っていなかったので買っていなかった。
集まった金は返さず関係者全員、食堂で宴会をした。
「上村と沢田でキリンビール大瓶30本。剣菱6本、買ってきて」
「寿司屋にも寄って10前頼んできて」
「分かりました」
「後は、自分の好きなつまみを買ってこいよ」
業務課の若手が手分けして宴会の準備をした。
***◆◆◆***
「バカ< 何でお前が優勝するんだよぉ」
「大損だよ。金返えせ。コノヤロ――」とおめでとうの祝福の言葉より罵声の方が多く飛んだ。
「中。お前は、買っていたよな」
「とんでもない。買ってねぇよ」
「どぅして。だいたい、自分から買うのが当たり前だろう」
「絶対に、俺は勝てないと思っていたから、買う気がなかったんだよ」
「来ないと分かっていても、保険として1〇〇円で自分か総流しをするんだよ」
「そこまで、気が回らなかったな」
「だから、競馬も抜け目になるんだよ」
「そうだなぁ。1着が来ても2着のヒモを買ってないものなぁ」
「次はないからな」
「俺もそう思うよ」
不思議な事に私はゴルフコンペでも人気が無いと優勝していた。
穴人気になるとドン尻負けをした。
「お前は解んねぇなぁ~」
「何が」
「買うと来ねぇもんなぁ~」
「俺、プレッシャーに弱いから、期待されると肩に力が入って実力が出せないんだなぁ~」
「タコ助。練習しないからだよ」
「練習しても金の無駄だよ。そんな金が有るなら酒と女に使うよ」
「それも、そうだよなぁ」
「コースに出て実践練習で十分だよ」
ウァハハ八八ノヽノヽノヽノ \
「俺は、別定戦だとダメだけどハンデ戦だと力を出すからな」
東京の狭いゴルフ練習所だとネットの真ん中に当たった。
「ナイスショット」
其の距離まで飛んで当たっても実践だと、其の後からボールが右に大きくスライスするので実践には参考にならなかった。
得意先の週一ゴルフで、三回コンペに優勝した。
優勝カップのリボンに初めてサインをするので、舞い上がった。
黒のマジックで書き込もうとするとリボンの目が粗く、名前が滲んでしまいミミズが這ったような字になってしまった。
歴代の優勝者と並んで自分の名前が優勝カップのリボンに下がっていると、優勝した実感が沸いてきて嬉しくてたまらなかった。
「優勝のご挨拶をお願いします」と祝賀会で言われ満願の笑顔で挨拶した。
“いざ”となると・・・
考えていない珍事でしたので挨拶の仕方も分からず、自分で何を言っているか判らなくなった。
それからイナボレスのチューちゃんとも呼ばれる事になった。
***◆◆◆***
沢田店長も運が悪かった。
太田課長横流し事件、松島商事商品貸出事件、佐藤一味の商品窃盗横流し事件など次から次と発覚して店長としての監督不行き届きの責任が問われ始めていた。
就任して一年、量販店が伸び盛りの時に、SS業者の得意先が多摩に大型カーショップをオープンする事になった。
「藤崎さん。来年の4月に多摩にカーショップをオープンさせようと思っているのだけど、イーストがメインで商品搬入してもらえるかい」
「初耳ですね」
「私独自の計画で、他の仕入れ業者には、まだ、話はしていないのだよ」
「それじゃ、噂は流れないですね」
「最近は、用品業界も量販店に押されて何処も売上が落ちているから、ここで、大型カーショップをオープンさせて、お客を引き戻そうと思いっているのだよ」
「場所は見つけてあるんですか」
「自前の土地だから、まるっきりゼロからのスタートではないのだよ」
「それは、いいですね。それで、敷き坪はどのくらいになるのですか」
「300坪の敷地に建坪が二階建て100坪で、駐車場が100台止められるようになるのだよ」
「可也、カーショップとしては、大きいですね」
「ホームセンターもカー用品には力を入れてピットを持っているから、こちらもピットを充実して行きたいと思っているのだよ」
――なるほどぉ. ――
「それで、オープンの日程は決まっているのですか」
「4月末から5月のゴールデンウィークにオープンの予定なのだよ」
「ほぅほぅほぅ・・・」
「店舗申請が12月に通ると思うから、1ヶ月後には工事を始められるよ」
「それなら、予定通りに行きますね」
「それで、搬入はオープンの一週間前にやって欲しいのだよ」
「それだけ時間があれば、楽に出来ますよ」
「それなら、二階の用品アクセサリーや部品は、藤崎さんのところに全部任せるから、ゴンドラを埋めてもらえるか」と平面図を見せられた。
「壁面を入れた60本ですね」
「全部埋められるかい」
「出来ると思います」
「後は、日用雑貨を置くのだよ」
「日用品なら足が速いから回転率が上がっていいですね」
「只、利益率が低いのだよ」
「雑貨用品は、そんなに掛率が悪いのですか」
「初めて扱うから安いのか高いのか判らないのだけど、業者の言うことには量販店も同じらしいよ」
「ふぅん~ 」
「それで、カー用品も量販店と同じ店づくりにして欲しいのだよ」
「それでは、商品構成は用品アクセサリーを中心にレイアウトしますよ」
「それなら、売れそうだなぁ~」
「本当は、お客は、二階に上がるのは面倒になるから、平屋がいいらしいけどね」
「魅力のある用品が豊富にあれば、お客も二階に上がってきますよ」
「それで、どのくらいの商品アイテムを入れることが出来る」
「ゴンドラの本数に寄って変わりますけど、見せる商品と売る商品で2千アイテムは収めることが出来ると思います」
「それだけあれば、ボリュウムが出るな」
「それで、他の卸業者の納品はあるのですか」
「一階は、オーディオ・フォーグランプ・アルミホイール、各、メーカー純正社外のオイル、レジャー用品など金額の張る大型商品はメーカー直で納品して貰うのだよ」
…..なるほどぉ.…
「ピットはタイヤメーカーが工具など揃えてくれるので、任せることにしたのだよ」
「外装部品用品は、何処のカーショップも、メーカー直ですからね」
「これなら、量販店に負けない店づくりが出来るだろう」
「で、しょうねぇ」
「チラシも2万枚は撒くつもりだよ」
「そうすると、オープン特売は、赤を切らないとダメでしょうね」
「そうだね。目玉商品や日替わり商品は、最大の客寄せだからね」
「やはり、魅力がある商品じゃないとダメですものね」
「この前、近所にオープンしたホームセンターのチラシがこれなのだよ」
と二つ折りの大判チラシを見せた。
「いやぁ~ 大きいですねぇ~」
「日替わりと目玉商品が第3弾まで載っているのだよ」
「こんな値段、何処が出すのですかね」
「量販店専門の卸問屋があるのだろうな」
「ウインドウォッー液1円、バッテリー液1円、半ネリワックス350g、98円。曇り止め98円。潤滑剤98円。グローブモップ10円。カー香水が198円。HB・BKT共通汎用シートカバー980円。12vバッテリー1980円。三ツ星オイル4Lが398円!?考えられない値段ですね」
「どうも、オイルは財閥系の商社らしいよ。解るかい 」
「おそらく、量販店だけに取引のある卸問屋かもしれないですね」
「間違えなく、赤出しだと思うけど、何処が出しているかだよね」
「可也、大きい問屋か、バッタ屋が入っているかですね」
「だから、量販店と取引のある問屋は、今回は遠慮してもらったのだよ」
「コンパイヤーやルールサービスに吉橋ブラシですね」
「うん――」
「このチラシを預かって行っていいですか」
「いいよ。これで、同じものが出せるか検討してもらいたいのだよ」
「これから帰って沢田店長と相談して“よろし”が出たら、特売リストを制作して持ってきます」
「宜しく、頼みますよ」とヨツバ商事の持田社長が頭を下げた。
「出来るだけ期待に添えるよう、前向きに努力します」
「近いうちに、私から、沢田店長に挨拶に行きますよ」
「社長。気を使わなくてもいいですよ。こちらから挨拶に来ますから」
「御社には、可也、無理な事をお願いするからね」
「我が社は業界でも最大手ですから、大船に乗ったつもりでいてください」
ウァハハ八八ノヽノヽノヽノ \
「うちも、このくらいの大きなカーショップは名古屋に直営店を持っていいますから、それを参考にして商品構成しますよ」
「売れているのかい」
「調子はいいみたいですよ」
「そう 」
「じゃ、リストを持って、また来ます」
「よろしくお願いしますね」
「はい<――」
***◆◆◆***