今から460年ほど前、ドイツでルーカス・クラナッハという人物が「若返りの泉」という絵を描いた。

この絵には、その題名の通り入ると若返る泉が描かれている。中央にある泉を目指して画面右側から老婆たちが
ぞくぞくと集まって来る。一転して左側にはすっかり若返った元老婆達が凛々しい姿で泉から立ち上がる。
画面の右上には若返った人々がパーティを繰り広げる様子が楽しげに描かれている。
実はこの若返りの泉、ドラえもんの秘密道具にもちゃんと用意されている。
その名も「年の泉ロープ」、このロープを繋いでボタンを押すと、ロープの中に水が湧き出る。
赤い水をコップ一杯飲むと一年歳を取り、青い水を一杯飲むと一年若くなる、といった道具だ。
この道具が登場する話はこのようなものだ。
いつものようにママに注意されたのび太はドラえもんにこの道具を出してもらう。10歳としを取ったのび太はパパの服で外に出る。そこでスネ夫をいじめるジャイアンを注意する。静香にあったのび太は静香にも赤い水を飲ませ成長させるが、逆に困らせてしまうことになる。のび太が油をうっていたことを知ったママはカンカンに怒るが、のび太が青い水をママに飲ませ若返らせることによって機嫌を直す。
子供は「早く大人になりたい」と願うが、大人は逆に「若返りたい」と願う。これはドラえもんの世界に限ったことではない。
クラナッハの絵からさらに1700年ほど前の時代の中国で不老不死を求めた男がいた。
後の世で始皇帝と呼ばれることになる男は、中国統一を果たしてから永遠の命を求めるようになった。
当時信じられていた不老不死の薬「仙薬(水銀)」を飲み、自らの命の永遠を夢見たのだが、ほどなくして
水銀中毒で死んでしまうことになった。彼は最後の最後まであきらめることはしなかった。
その結果、当時の凄腕医者であった徐福を蓬莱国に派遣し不老不死の薬を探させた。
始皇帝の影響であるのか定かではないが、日本最古の物語と言われる竹取物語にも不老不死の薬は登場する。
かぐや姫が月に帰った後に、かぐや姫から帝へのプレゼントとして贈られた不老不死の薬は使われることは一度もなかった。
「かぐや姫のいない世界で長生きしても意味がない」という帝の意向で富士山の頂上で燃やされることになった。
始皇帝が渇望し、帝が諦めた不老不死は現代でも人々から忘れられることはない。
最近は“アンチエイジング”という言葉をよく耳にすることになった。年齢に抗うという意味のこの言葉は
女性を中心にブームを巻き起こそうとしている。今では「アンチエイジングサプリメント」という商品まで登場している始末だ。
“若返り遺伝子の活性化を科学的に解明した”という謳い文句の商品は後を絶たない。
これは始皇帝が水銀を若返りの薬と信じて飲んでいたのと何も変わらないではないか。
2000年以上経過した今でも、人々は若返りを盲信しようとしている現実がある。いつになったら人類は竹取物語の帝のように諦めることができるようになるのだろうか。
《Tomiyama Tenyou》

この絵には、その題名の通り入ると若返る泉が描かれている。中央にある泉を目指して画面右側から老婆たちが
ぞくぞくと集まって来る。一転して左側にはすっかり若返った元老婆達が凛々しい姿で泉から立ち上がる。
画面の右上には若返った人々がパーティを繰り広げる様子が楽しげに描かれている。
実はこの若返りの泉、ドラえもんの秘密道具にもちゃんと用意されている。
その名も「年の泉ロープ」、このロープを繋いでボタンを押すと、ロープの中に水が湧き出る。
赤い水をコップ一杯飲むと一年歳を取り、青い水を一杯飲むと一年若くなる、といった道具だ。
この道具が登場する話はこのようなものだ。
いつものようにママに注意されたのび太はドラえもんにこの道具を出してもらう。10歳としを取ったのび太はパパの服で外に出る。そこでスネ夫をいじめるジャイアンを注意する。静香にあったのび太は静香にも赤い水を飲ませ成長させるが、逆に困らせてしまうことになる。のび太が油をうっていたことを知ったママはカンカンに怒るが、のび太が青い水をママに飲ませ若返らせることによって機嫌を直す。
子供は「早く大人になりたい」と願うが、大人は逆に「若返りたい」と願う。これはドラえもんの世界に限ったことではない。
クラナッハの絵からさらに1700年ほど前の時代の中国で不老不死を求めた男がいた。
後の世で始皇帝と呼ばれることになる男は、中国統一を果たしてから永遠の命を求めるようになった。
当時信じられていた不老不死の薬「仙薬(水銀)」を飲み、自らの命の永遠を夢見たのだが、ほどなくして
水銀中毒で死んでしまうことになった。彼は最後の最後まであきらめることはしなかった。
その結果、当時の凄腕医者であった徐福を蓬莱国に派遣し不老不死の薬を探させた。
始皇帝の影響であるのか定かではないが、日本最古の物語と言われる竹取物語にも不老不死の薬は登場する。
かぐや姫が月に帰った後に、かぐや姫から帝へのプレゼントとして贈られた不老不死の薬は使われることは一度もなかった。
「かぐや姫のいない世界で長生きしても意味がない」という帝の意向で富士山の頂上で燃やされることになった。
始皇帝が渇望し、帝が諦めた不老不死は現代でも人々から忘れられることはない。
最近は“アンチエイジング”という言葉をよく耳にすることになった。年齢に抗うという意味のこの言葉は
女性を中心にブームを巻き起こそうとしている。今では「アンチエイジングサプリメント」という商品まで登場している始末だ。
“若返り遺伝子の活性化を科学的に解明した”という謳い文句の商品は後を絶たない。
これは始皇帝が水銀を若返りの薬と信じて飲んでいたのと何も変わらないではないか。
2000年以上経過した今でも、人々は若返りを盲信しようとしている現実がある。いつになったら人類は竹取物語の帝のように諦めることができるようになるのだろうか。
《Tomiyama Tenyou》
