OSS技術者育成日記

デージーネットでオープンソース技術者を育成する時に私が考えたこと、大切にしていることを書いていきます。

スキルを身につけるために環境を変える

2013-03-11 11:19:57 | 仕事のコツ

■ はじめに


これは、2013年3月1日に社長トークで社員に話した内容のうちの後半部分をまとめたものです。NLPの本を読んでいて出てきた図を見て、私が考えたことを中心に説明しています。特に、なかなかスキルが身につかない人が、スキルを身につけるためにはどうするべきなのかということを中心にしています。またそうした傾向の強い新入社員に対して、どのように接していくべきなのかということも取り上げます。

■ 人間の脳の5つの思考レベル


私が何気なく本屋でビジネス書のコーナーを見ていると、一冊の本が気になりました。「悩みの9割を消す技術」(田中ちひろ: ダイヤモンド社、2013年1月31日)という本です。この本を開いてみると、次のような図が目に入ってきました。



これは、人間の脳にはいくつかの思考レベルがあることを示している図です。この本の主題を簡単に要約すると、話し手と聞き手が意識している思考レベルが違うことにより、様々なコミュニケーション上のすれ違いが起きてしまうため、逆に思考レベルを意識してコミュニケーションを取ることで、多くの悩みが解決できるということです。例えば、仕事での先輩社員と新入社員の会話を例に取って考えてみます。

新入社員の仕事を見ていた先輩社員が、見るに見かねて話した会話です。

先輩社員:「そんなやり方でいいの?」
新入社員:「すいません。丁寧さが足りませんでした?」

文章にすると、ちょっと会話がかみ合っていない気もしますよね。でも、少なくとも私の会社では良くある会話です。この時、先輩社員は新入社員の行動を見て聞いています。しかし、会話がかみ合わないと感じるのは、新入社員側は自分の性格やアイデンティティの問題だと受け取り、「自分は大雑把な性格だから、そこを指摘された」と勝手に思い込んで思い込んで、返事をしてしまっています。

先輩社員は、「もっといいやり方があるから考えてほしい」と思って、質問を投げかけています。しかし、性格やアイデンティティを指摘されたと思った新入社員は、おそらくとても嫌な気持ちになっているでしょう。多分、それ以上深く考えることはしないと思います。

これが、コミュニケーションのすれ違いです。この本では、レベル1~2を「目に見えるレベル」、3~5を「目に見えないレベル」として、「目に見えるレベル」でコミュニケーションを取るようにすることを薦めています。

私は「事実と感情を分けなさい」と指導していますが、ここでいう事実は「目に見えるレベル」、感情は「目に見えないレベル」の事です。この図は、これまで私が考えていたことをより深く示していることに気がつきました。

■ どのレベルが変えやすいか


私は、次のようにレベル1~レベル5の思考レベルでは、「変えやすさ」と「考えやすさ」に大きな違いがあることに気がつきました。

・レベル1(環境) ~ すぐにでも変えられる。ただし、変える方法を考えるのは難しい
・レベル2(行動) ~ 工夫をすることで変えられる。一時的に変えることは簡単。継続は難しい。
・レベル3(スキル)~ 簡単には身につかない。数日~数ヶ月の時間が必要となる。
            勉強や知識の習得などを通して、スキルが足りないことに気づくことができる。
・レベル4(価値観)~ 容易には変わらない。数年の時間が必要。比較的簡単に考えることができる。
・レベル5(個性) ~ ほとんど変わらない。変えるには大きなきっかけが必要。
            考えたり想像するのには、何の努力も必要ない。

個性や価値観を変えるのは極めて難しく、逆に環境や行動を変えることは、それほど難しくありません。また、多くの人が、どのように環境や行動を変えたら、自分の仕事の成果が改善されるのかを結びつけて考えることができません。そのため、好き、嫌いといいった価値観のレベルで仕事を判断したり、失敗をスキルが足りないからと考えたりということにつながっているのです。

■ スキルを身につけるには


以前、このブログでも書いたことがありますが、スキルというのは知識とは違います。例えば、Webサーバの設定方法を知識として知っていても、サーバを作るスキルがあるとは言えません。実際にやってみたら、あちこちで問題にぶつかり、完成させることができないかもしれないからです。スキルと呼べるには、何度やってもスムーズに実施できるようになっている必要があります。このようなスキルは、繰り返し実施すること、つまり訓練によって身につくのです。

これを思考レベルに当てはめて考えてみると、スキルを身につけるには、行動の繰り返しが必要ということになります。そして、実際に多くの人にとって最大の支障になるのが、この「繰り返し」という部分です。なかなか継続して訓練することが難しいのです。では、どうしたら良いかというと、より低次のレベルで変化を起こす必要があります。つまり、継続して訓練を行うためには、それができる環境を整える必要があるということです。先ほどの例で言えば、繰り返しWEBサーバを設定することができるような業務に参加するとか、定期的に開催されている勉強会に参加する、ということになります。

■ 部下のスキルを向上するには


さて、最近気になっているのは、若い社員の中には、「行動を変えろ!」と伝えても、方法が分からない人や習慣化できない人が多いという事です。そのため、先ほどのコミュニケーションのすれ違いと同様に、「スキルがないからできない」、「苦手だからできない」、「性格的に難しい」というところに行き着きがちです。

ですから、まず「行動や環境を変える方法」から指導していく必要があるということです。「考えろ!」と言っても、難しいですから、まずは手本を見せていくことから始めないといけません。

コミュニケーションや指導では、次のようなことに気をつけることが大切です。

【コミュニケーションや指導で気をつけること】
・行動や事実を中心に話をする(性格、価値観を表す言葉を使わない)
・育成者が「行動」を変えるように促す
・具体的な行動のレベルで話をする
・育成者の「環境」を変えることで、行動の変化を促す

そして、さらに、次のようなステップを考えて指導をしましょう。

【指導のステップ】
 1. 育成者が環境を変える
 2. 行動を変えるように指導する
 3. 行動や環境を変える方法を一緒に考える
 4. 行動や環境をどう変えるか自分で考えてもらう

最初は、指導する側が環境を変えてあげて、それで効果が出ることを見せることからスタートです。環境を変える方法は様々ですが、私が推奨しているのは仕事ツールやコミュニケーションツールを作ることです。例えば、仕事を開始する前に、チェックリストを作成させるようにするとか、役割分担を明確にするように話し合って記録に残すとか。そして、実際にやって効果が出たら、次からはそのツールを使って行動するように指導します。

さらに、そのツールを作る方法を一緒に考えたり、どのように行動を変えたら仕事の成果があがるのかを徐々に一緒に考えるようにするとよいと思います。最終的には、自分で環境や行動を変えることができるようになる必要があります。

このように、指導は「環境」と「行動」のレベルで行う必要があり、最初は環境や行動を変えることの重要性から教えていく必要があるのです。

■ 終わりに


ところで、私はとても「忘れっぽい」という個性があります。子供の頃から、忘れ物が多く、頻繁に先生に叱られていました。小学校の頃は、どんなに叱られても、まったく克服できませんでした。「次は注意しよう!」とくらいにしか考えていなかったからです。しかし、中学、高校と成長するうちに、これは自分の性格だということが分かるようになり、これを補う方法を少しずつ使えるようになりした。

現在でも、私は男性には珍しく、小さなポーチやカバンを常に持って歩いています。忘れると困るものが、一式このカバンに入っているのです。これは、「忘れっぽい」ことを克服するために身につけた習慣なのです。このように、性格を補うような行動を身につけるためには、まずは自分の個性を受け入れることが欠かせません。周囲の人から指摘を受けると、私もとても嫌な気持ちになります。しかし、一旦自分を受け入れて補う方法を考えていくことが、とても重要なことなのだと思います。


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