OSS技術者育成日記

デージーネットでオープンソース技術者を育成する時に私が考えたこと、大切にしていることを書いていきます。

重要事項に取り組む

2013-08-19 09:11:45 | 仕事のコツ

■ はじめに


先日から、若手社員が緊急の仕事ばかりをしていることがとても気になっています。上司が余裕を持って渡した急ぎではない仕事も、納期のぎりぎりまで手を付けないために、結局のところ緊急の作業になってしまっています。また、顧客へスケジュールの約束をするのを後回しにしたために、顧客から厳しいスケジュールを連絡され、さらに仕事の緊急度が増してしまいました。

これは、重要な仕事を後回しにして、緊急の仕事ばかりをやっていると起こる症状です。これでは駄目だということを、どう説明しようかと考えていて、一つのストーリーを思いついたので紹介しておきます。

■ 堤防工事を請け負ったA社の例


土木工事の請負をしているA社は、4月に堤防の増強工事を受注しました。営業担当者の努力のおかげで、工事が完了するまでの間に堤防に問題が発生した場合には、堤防の補修をするという約束をする替わりに、納期については1年以内に実施すれば良いという好条件での受注です。

A社は、他の納期が迫っている工事を優先し、堤防の増強工事を後回しにしました。しばらくすると、梅雨になり、例年よりも多くの雨が降りました。堤防の一部が壊れ、A社は慌てて土嚢を積み増す補修工事を実施しました。さらに、夏になると何度もゲリラ豪雨が街を襲いました。その度に、堤防に問題が発生し、さらに多くの土嚢を積み増す補修工事をする必要が出てきました。

街の住人からも不安が表明され、行政も追い詰められることになりました。ついに行政の担当者から大規模な補修を緊急で行うことを求められ、応じなければならなくなりました。A社は、夜も休日も使って、緊急で予防的に土嚢の積み増しを行うことになりました。さらに、別の堤防でも問題が出たため、A社はその工事も同じ条件で引き受けることになりました。

こうして、A社は、雨が降る毎にあちこちの緊急対応に追われることになります。A社の社員は、必死になって、土嚢を作り、緊急対応を繰り返しました。しかし、状況は改善されません。秋になって台風が来ると状況はさらに悪くなりました。

■ 同様の状況に陥っていませんか?


何が悪かったのでしょうか? この事例の答えは難しい事ではありません。A社は、本来の堤防の増強工事を行わず、緊急の補修工事ばかりを繰り返して来ました。そのうちに、緊急の工事に振り回され、増強工事どころではなくなってしまいます。しかし、どんなに土嚢を積み増す補修工事を行っても、本来の堤防の増強工事をしないことには何の解決にもならないのです。

私たちの仕事ではどうでしょうか? 顧客にとって重要なシステムを納入し、プログラムに問題が発生すれば、緊急での改修を求められることがあります。その時に緊急の対策を行えば、一時的に顧客の問題を解消することができるかもしれません。しかし、その緊急対策は、真の問題の解決になっているでしょうか? 重要なのは、真の問題を発見し、それを解決することなのです。それをしなければ、目の前の問題に一生懸命に必死になって対処しても、いつまでたっても改善されることは期待できないのです。

■ 重要事項を優先する


このような状態になってしまうことを避けるために、仕事の優先順位を決める時には、緊急度だけではなく重要度を考慮する必要があります。



この図は、仕事を緊急度と優先度で表したものです。(I)は、緊急度も重要度も高い仕事です。これは、迷いなく実施する必要があります。先ほどの堤防工事の例では、緊急の補修工事が該当します。この工事を行わなければ、堤防が壊れてしまい、洪水が発生するかもしれませんので、極めて重要なことです。

緊急度ばかりを考える人は、次に余力があれば(III)を行おうとします。しかし、それでは、この堤防工事の例のような問題に陥ってしまいます。つまり、(II)の重要度が高く緊急度が低い工事を(III)よりも優先して、何とか時間を確保して実施する必要があるのです。

実際には、(II)の仕事は、例え(I)の仕事があったとしても、何とか時間を確保して取り組むことが必要です。そうしなければ、最初は緊急度が低かったとしても、次第に緊急度が高くなり、すべてが緊急度の高い仕事になってしまうからです。こうなると、もう次の重要事項に割く時間を捻出することも難しくなってしまいます。ですから、(II)の仕事は、早めに計画を立て、少しずつ時間を作って、こつこつと実施しておくのがベストなのです。

■ 緊急事項ばかりになってしまったらどうすれば良いのか


それでは、緊急度の高い仕事ばかりになってしまい、重要事項など考えていられない事態になってしまったら、どうしたら良いでしょうか?

先の堤防工事の例で考えてみたらどうでしょう?あなたがA社の社長だったら、どう手を打ちますか?

このような場合には、もう自分だけで抜け出すことは無理だと考えましょう。誰かに相談して、緊急事項を肩代わりしてもらうか、重要事項を肩代わりしてもらうかしか方法がありません。先ほどの堤防工事の例では、A社は、補修工事をどこかに外注し、本来行うべき増強工事を行う時間を確保するというのが解決策になるでしょう。

ただし、誰かに(I)の緊急事項を肩代わりしてもらっても、自分が(III)の緊急事項の対応に当たっていたのでは意味がありません。必ず重要事項を解決する人を作る必要があります。

■ 重要度の高い仕事とは?


それでは、重要度の高い仕事というのは、どのような仕事でしょうか?一般的には、次のような仕事は重要度が高いと考えられます。

・いわゆる上流工程の仕事
顧客との仕様決め、作業の計画など、いわゆる上流工程の仕事は一般的に重要度が高いはずです。ここでの検討が不十分だと、後から大きな手戻りや修正が発生する原因になってしまうからです。

・利害関係者の多い仕事
多くの人と調整が必要な仕事は、重要度が高いと判断してよいと思います。合意形成に時間がかかることが予想され、一度決定したことを変更する事が難しいからです。

・多くの人が利用する部分の仕事
プログラムでは、多くの部分から共通して利用するような共有度の高い部分は、重要度が高い部分です。例えば、プログラムの様々な部分で利用するログ記録関数のようなものは、共有度が高く、早めに作っておく必要があります。もし、インタフェースを修正することになれば、プログラムのあちこちを修正しなければいけなくなってしまうからです。
また、システムのハードウェアに近い部分にも重要な部分が多いようです。例えばファイルシステムのフォーマットを変更するような仕事を、データを大量に書き込んでから行おうとすれば、データのバックアップなど別の仕事ができてしまうからです。

・リスクに対する調査や対策
上記以外でも、リスクのある仕事では、その調査や対策をきちんと行うことは重要度の高い仕事です。次は、よく見られるリスクの一覧です。

- 顧客の仕様変更
- 新技術の利用
- 技術的な難易度
- 作業の不確定性
- あいまいな仕様
- 政治的な要因
- 斬新なデザイン

■ 終わりに


この「重要事項を優先する」というテーマは、「7つの習慣」に出てくる主要な話題の一つです。そのため、多くの自己啓発本でも取り扱われています。しかし、知識として知っていても、なかなか自分の行動に当てはめて考えることが難しいようです。自分が、緊急事項に振り回されてしまっていないか、重要事項を実施しているか点検してみることをお勧めします。
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