3歳、4歳、くらいの頃、カセットテープレコーダーに赤く丸いしるしのついたボタンがあって、それだけ何やらかたいんですな。押そうにもなかなか押せない。ちょっと特別なボタンのような気がした。力を込めて押せば動いたけど何も鳴らない。これはきっとこちらから音を出さないといけないんじゃないかと本能的に思ったんでしょうか。いきなり本番に挑んだわけです。当時マイブームだった「近鉄特急のうた」(仮) / 即興作詞作曲 おぎのやすよし(3,4歳?) 渾身の一発録り!!!
そんなことすっかり忘れて新しいおうちに引越した小学一年生の頃、「あんた知らん間にこんなものを」と母に謎のテープを発見された。もちろん再生です!「速い~速い~近鉄特急ーっ♪」と絶叫してるんですな。絶叫。あちゃー。咄嗟に思い出した、あの時のレコーディング!(笑)恥ずかしかった。。。
今思えば「おまえ乗ったことないやんけ!」と3,4歳の自分にツッコミ入れたいわけですけど、“即興”というワードを聞くと必ず思い出すんですよね、録音ボタンと近鉄特急。誰にも言ったことなかったけどせっかくの機会だから言いました。
今とても暖かい部屋にいます。外は最高気温が-6°C、最低気温-13°C予報。数十年ぶりの大寒波と、ギターを置いて奈良・吉野の天川村というところに“遊びに”来るスケジュールが重なりました。この後、深い雪で帰れるのだろうか?と心配しながら、ここに「執筆しにやってきた!」とか言ってみたいもんです。文筆家は憧れなんです。あとF1ドライバー。コックピットとか書斎にひとりこもって、それを皆に見られるのが好きなんだろうか。音楽の練習も似ている。スタジオとか音楽室でひとり集中する。うちではギターを弾いて音を出さないとなんだかもったいない気がするので、こんな風に出先で文章を書くのは理想的です。近い将来このように過ごしたい。
木村雅子さん率いるインプロ劇団、トランク企画。我々はどうやって知り合ったんでしたっけ?まわりには、気が付けば一緒にやってたね、というインプロヴァイザーが大変多いですね。これはインプロが大きな渦になってシーンを形成してる証です!
さてここはひとつ、赤い録音ボタン、ではなく、インプロスイッチが押された瞬間の出来事からお話ししたいと思います。
あ、この宿、オーディオルームがあって、なんか書斎みたいでスゲーいいんですよ。適当に置いてあったCDを入れてPLAYボタンを押しました。マイルスにしよかなと思ったけれど、聴いたことのないアルバムにしようと、ノラジョーンズのNot too lateというアルバムが流れてます。いまのところドラムレス、ギターとチェロがいい感じです。
ある日、ゴロさんという大先輩ボーカリストから「おぎぴ、コミックジャズやろう」と電話、「なんですかそれ?」と訊いてみるも「とりあえずコミックジャズ!っていう言葉だけでやってみよー」と仰る。ふっふ~ん、なるほどねー!分かりました。なにやらワクワクして待ち合わせの店に着くと、ボーカリストにゴロさんとぴあぴさん、コメディアンに松竹芸能のナオユキさん、他はドラマーにベーシストにピアニスト、そしてギタリストはボク、なんだか勢揃いで初めましての人がいらしたり久しぶりの人がいらしたり。そして打ち合わせなどせぬまま全員守備位置につく。“よーい、ドン”だなこれは。なぜだか既にお客さんも居るし!(笑)やはりこれから即興でLIVEをするらしい。おーめっちゃワクワクするー!!!
コメディアンが居るのだ。
ボーカリストがふたり居るのだ。
想像力を掻き立てられる。
当時のボクがまだ経験したことのない、超面白いことになるに違いない。即興で音を探り、その音の中にコメディが絡み、笑いを誘われながら合間合間に歌やコーラスが乗ることだろう、あるいは言葉がたくさん発せられたなかに、音が斬り込んでいくのだろうか、どうなっていくのだ!?期待大◎
なんとなく年功序列的になのかなんなのかよく分からないが、一番年上のピアノの方から音を始める空気に一瞬なったのかもしれない。そこはよく覚えていない、なにせこの後が衝撃的だったから。まさか、いきなりブルースの伴奏を弾き始められるとは思ってもみなかった!なんということだ!
魅力的なフィーリングのブルースという音楽に罪はない、歴史的にはやがて12小節になったというフォームにも罪はない、しかしもうこのトラック、先が読めてしまっているではないか。ボクの期待と想像力は水の泡、そう、その通り、案の定ブルースの伴奏の上でコメディが繰り広げられ、歌が入る。そりゃね、一見面白いですよ、とても分かりやすい。と同時に「そういうことじゃないだろ!」と強く思った。
もっとこう、渦をグネッとこねくり回し、壊れそうなキワキワなところ、あるいは壊れてしまってる状態、とにかくグシャグシャのなかから形を整えたり、ひとりになったり、エナジーに任せたり、押したり引いたりして、得体の知れない表現に近づくんじゃないのか?
このときの不完全燃焼感は、後に本当にいい体験になったと思えるようになる。イマジネーションスイッチを逆説的に押してもらった瞬間でもあり、なんでも受け入れるマインドの基礎となった瞬間でもあった。
その後このバンドは、作ってくれたゴロさんとぴあぴさんの提案で、ナオユキさんのスタンダップコメディと、当時アメリカ帰りの栗田洋輔さんのサックスとボクのトリオになり、“史上最強のジャズパンクコミック”知恵蔵知恵蔵【ちえくらちえぞう】と名乗って活動を継続することになった。たくさんLIVEをしたので知ってくれてる人も多いだろう。そこでは音楽とネタをこねくり回すことが出来た。形を作ろうとしてみたり、作ったら壊そうとしてみた。今思えばそれでもジャズやロックに近いスタンスの演奏をしたけれど、スタンダップにはメッセージとパッションがあって、いつもカッコ良かった。
即興演劇(インプロ演劇)との出会いは、そんな知恵蔵知恵蔵で出演したイベントでした。なんとそこにフリーフライツが出演されていました。それで初めて即興演劇を観たんですよね!それはものすごい衝撃でした。もうね、一瞬で虜。
ある日、大阪駅で口から火を噴いてる人を見つけた!暫くしてからフリーフライツの楽屋でその方にお会いしたこともあった。「あのぉ、あのとき大阪駅で火を噴いていらっしゃいましたよね?」「はいそうです」これ、滅多にお目にかかれない会話フレーズの登場ですよw
役者をする人はなんにでもなれるのか、なんにでもなれる人が役者もしているのか、どっちですか?
あれから十数年、すっかり魅せられた演劇のインプロとともに歩んできた自分には、後に言いますが役目があるような気がしてならんのです。
音楽のインプロの場も、あの頃ゴロさんの提案で「水曜接音倶楽部」というネーミングセンス抜群の即興セッションが始まった。「セッションしよう言うてんのに何の曲しよう?ておかしな話やなー」と笑ってらしたゴロさんが印象的で、当時毎週水曜日にアメ村の秘密基地で始めたのを皮切りに、天満満天堂、伊丹Always、梅田Alwaysと場所は変われど、さらに個人的にも上京したり帰阪したり住む場所も変われど、毎月欠かさず継続しています。
そんな音楽の純即興の継続で得たレンジの広い体験とカラフルな人脈をもとに、「演劇と音楽のインプロヴァイザーを繋げること」
与えられた役目はこれに尽きると思っています。最近はダンサーとの絡みも多く、先日念願だった演劇・ダンス・音楽の即興を対等に扱う公演を金沢市民芸術村でさせてもらったばかり。
ここはひとつ、役者の皆さんにも音楽の純即興を見て聴いて観察してもらいたいですし、演奏の皆さんにも演劇の数々のフォームを稽古から本番終わりのフィードバックまで観察してもらいたい。ボクはダンスカンパニーの公演を観に行くこともありますし、演劇の発表会を観に行くこともあります。互いに観察し合えるといいなぁと思っています。特に、役者さんたちが毎回するフィードバック、あれいいですね!とても好きな習慣です。
わたしとインプロ。
ボクの習慣は、毎回何かしらの「初めてのsomething」を用意することにしています。
フレッシュであるためのおまじない。
初めて使うピックだとか、そんな一見些細なことでもいい、初めてのエフェクトの接続順だとか、おっとこれはちょっとマニアックになってきたぞ、やめとこう、初めて一緒にやる人や場所とか、そういう大きなことでもいい。
初めてのsomething。
そいつに何かしらスイッチを押してもらえるかもしれません!
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
荻野やすよし (ギタリスト/ソングライター)
1978年奈良県出身
オリジナルインストゥルメンタルの制作をベースに、即興音楽、ワールドフュージョン、劇伴、JAZZ、J-Pop、アコーステイックソロギターの分野で活動するギタリスト/アーティスト。
2005年スタンダップコメディと即興演奏の融合トリオ「史上最強のジャズパンクコミック 知恵蔵知恵蔵」(ちえくらちえぞう:松竹芸能スタンダップ・ナオユキ氏、ジャズサックス奏者栗田洋輔氏とのトリオ)などでプロ活動スタート。
同時期に結成した主宰グループ音・人・旅【おとなたび】で2010年にアルバム全国デビュー、
大手CDショップ試聴機展開などで好評を得て完売。2016年現在2ndアルバム発表間近。
2006年より即興演劇の音楽を絶賛継続中、2007年より即興音楽セッションを毎月継続中。
2012年上京、2014年シンコーミュージック「日本のジャズフュージョンギタリスト100人名鑑」に掲載。
同年帰阪。金沢市民芸術村で行われた「即興天国2015」の芸術監督を務め、音楽・演劇・ダンス・朗読を対等に扱う表現を創作するなど、現在は大阪を拠点に全国各地でがんばる音楽家。最近「Oggi Recordsギター研究所」という名のギター教室を始動。
ホームページ http://yasuyoshiogino.com/
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます