ぱれお・はぺとろじー
古代の爬虫類・両生類についてのあれこれ




トリケラトプスの全身骨格。国立科学博物館の常設展示から。「角のある角竜」の代表と言える存在である。

 

トリケラトプス。

さして恐竜に興味がない人にも名前を知られている恐竜の一つであろう。

「三本の角を持つ顔」という意味の学名が示す通り大きな角が印象的な恐竜である。

 

彼らのような角を持つ恐竜を含むグループを角竜類といい、トリケラトプスは「角のある角竜類」の代表種と言える存在だ。

わざわざ「角のある角竜類」なんて書き方をしているのは、世の中には「角のない角竜類」というものもいるからである。

恐竜のことをあまり知らない方からすると、「角のない角竜類」という言葉は奇妙に感じられるかもしれない。

しかし、角竜類には図1のプロトケラトプスのような角を持たないものも一定数存在するのである。

(今日の本題ではないので深入りはしないが、図の下のキャプションに少し説明を書いたので気になる方は見てみてほしい。)

 

図1「角のない角竜」プロトケラトプス。兵庫県人と自然の博物館「ひょうごの恐竜展」の展示から。目立つ角はないが、後頭部に襟飾りがある、上あごの口先に吻骨という骨がある、といったトリケラトプスと共通する特徴が見られる、れっきとした角竜の仲間である。

 

トリケラトプスのような「これぞTHE 角竜!」と言える「角のある角竜類」の化石の大半は北アメリカで見つかっている。

アジアで見つかる角竜の化石は「角のない角竜類」のものがほとんどで、「角のある角竜類」のものはあまりない。

「角のある角竜類」のものと言えるアジアの化石は、中国産のシノケラトプス、ウズベキスタン産のトゥラノケラトプス※1、そして日本の九州で見つかっている化石が挙げられる程度である。

 

・・・えっ、日本の九州・・・!?

そう、実は日本でも「角のある角竜類」のものと考えられる化石が見つかっているのだ。

 

鹿児島県の下甑島に分布する後期白亜紀カンパニアンの地層から産出した図2に示した化石がそれである。

 

図2 下甑島で見つかった角竜の化石。丹波竜化石工房ちーたんの館の「角竜の進化」展の展示から。丸で囲んだ部分が化石。

 

ちょっと恐竜に詳しい人でも、この薄い破片を見て、「角竜の化石だ!」と理解するのは難しいかもしれない。

 

これは「角のある角竜類」の歯の一部と考えられている。

 

「角のある角竜類」は角だけでなく歯にも変わった特徴が見られる。

一般的に爬虫類の歯は歯根が分岐しないが、彼らの歯は歯根が2股に分かれているのである。(図3)

 

図3 トリケラトプスの歯のレプリカ。著者所蔵。歯根が2股に分かれているのがよく分かる。

 

この下甑島の化石は「角のある角竜類」の2股に分かれた歯根のうちの薄い方であると考えられている。

私の手持ちのレプリカでは中々「これは標本の写真と瓜二つだ!」というアングルが見つけられないが、そういわれてみると確かに微妙な凹凸の感じなど似ている部分はある(図4)。

 

図4 (a) 図3のトリケラトプスのレプリカを別のアングルから見た写真。(b) 下甑島の化石を同じアングルから見た写真(参考文献の Fig. 3 より)。(a) の丸印を付けた部分が下甑島の化石に相当する部分。全く同じ形とまでは言えないが、写真でいうと右側の方向に向かって凸にカーブを描く感じは確かに両者とも共通している。

 

冒頭ではさらっと書いたが、「なぜアジアに「角のある角竜類」があまりいないのか?」というのは、実は恐竜界の大きな謎の一つである。

 

というのも、彼らが栄えていた時代には北アメリカとアジアが陸続きになっていた時期があり、来ようと思えば来られる状況ではあったからだ。

実際、「角のある角竜類」たちの強力なライバルだったとされるティラノサウルスの仲間は、アジアと北アメリカの両方で多くの化石が見つかっていたりする。

 

この下甑島の化石は、「なぜアジアに「角のある角竜類」があまりいないのか?」という問いに対してズバリの回答を与えてくれるわけではない。

 

しかし、当時、アジアの東の端に「角のある角竜類」がいたというのは、この謎に迫る上で興味深い発見であり、今後さらなる発見によりアジアの「角のある角竜類」の歴史に関する解明が進むことに期待したいところである。

 

※1トゥラノケラトプスについては、真の「角のある角竜類」より若干原始的な角竜だという説もある。

 

参考文献

Makoto Manabe, Takanobu Tsuihiji, Yuka Miyake and Toshifumi Komatsu "A possible ceratopsid tooth from the Upper Cretaceous of Kyushu, Japan" Bull. Natl. Mus. Nat. Sci., Ser. C, 42, pp. 29–34, December 22, 2016 

 



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