ヒトへの進化。そしてヒトの限界と可能性。

私たちの体には38億年の歴史が詰まってます。偶然と必然が組み合わさり進化をしてきた我々の祖先の謎とは?

湿地帯の試練と肺の進化(4)

2008年02月29日 | Weblog
肺は海で誕生した

ところで生物の肺はいつ誕生し、われわれも祖先はどのように肺をしんかさせていったのだろうか?実はこの答えを求めるのは非常に難しい。というのも肺の組織は柔らかいため、化石に残りにくいのだ。

かつて肺は魚の浮き袋から進化したものだと考えられていた。かのチャールズ・ダーウィンは鰓呼吸をしていた魚類が浮力調節する器官として浮き袋を進化させ、のちにそれが肺になったと考えた。多くの科学者も100年以上にわたってこの解釈に同意していた。

ところが最近の学説でこれは完全に否定されている。浮き袋が先に進化したのではなく、むしろ肺が先に誕生し、それが浮き袋に姿を変えたという考え方が主流だ。

デボン紀のデルタ地帯で乾期の厳しさに耐えたのは私たちの祖先だけではなかった。同じ頃、条鰭類(じょうきるい)と呼ばれるグループの魚たちも肺呼吸を行い、湿地帯に住み着いていたのだ。実はこの条鰭類こそ、現代の海や川で最も繁栄を遂げている魚たちのグループなのだ。

しかしデボン紀当時はまだ小魚に過ぎず、われわれの祖先よりももっと弱い立場にあった。ところが条鰭類の多くは中生代に再び海に戻って大繁栄を遂げる。このとき不要となった肺を浮き袋に変え、浮力調節をすることで、海中でより効率よく、そして早く動くことが可能になったと考えられている。

その後、条鰭類の中には再度淡水に戻るものもでてきて、その中から再度肺機能を持つものも現れているのだ。

浮き袋のある海水魚はデボン紀に肺を持った淡水魚の子孫なのである。

※参考文献
 NHK地球大進化プロジェクト・地球大進化・日本放送出版協会・2004

湿地帯の試練と肺の進化(3)

2008年02月29日 | Weblog


肺を持った魚の登場

水中が定期的に酸欠に見舞われるアマゾンでは適応の結果、空気呼吸ができる魚が数多く住んでいる。古代魚ピラルクーも肺呼吸に頼っている。定期的に水面に出ては空気を吸っているのだ。このようにアマゾンでは何らかの方法で空気呼吸をする魚が生息している。

中でも私たちに関係が深いのは
肺魚(※写真)と呼ばれる魚だ。肺魚は文字通り「肺」を持った魚だ。鰓も持っているが、呼吸はもっぱら肺に頼っているため水中にいたままだと溺れ死んでしまう。

肺魚は肉鰭類(にくきるい)と呼ばれるグループに属している。彼らはデボン紀にカレドニア山脈のふもとに進出した私たちの祖先、ユーステノプテロンと同じグループである。

じつはかれらは、私たちの祖先がまだ魚だったデボン紀の時代から生き残っている古代魚なのである。現在生き残っている肉鰭類は、この肺魚2属と、シーラカンス1属の計3属にすぎない。そして最新の研究で肺魚はシーラカンスよりも私たち人間に近いとされている。つまりデボン紀に生きていたユーステノプテロンとはいわば従兄弟にあたるような関係なのである。

現在生息している肺魚3種はアフリカとオーストラリア、アマゾンのいずれも熱帯の沼地に生息している。

アマゾンの肺魚、レピドレシン・パラドクサは幼魚の頃は外鰓(がいさい)と呼ばれる体の外に出ている鰓(えら)を持ち、成魚になると肺呼吸を始める。そして成魚は乾燥した夏季になると水底の泥の中に穴を掘って夏眠する。このとき、泥で繭のようなものをつくるものもいる。全長は2メートル近くにもなる。


※参考文献
 NHK地球大進化プロジェクト・地球大進化・日本放送出版協会・2004


湿地帯の試練と肺の進化(2)

2008年02月29日 | Weblog

楽園が地獄と化す


乾期がピークとなる10月、水没林の豊かな生態系とは対象的な状況になる。アマゾンでは乾期になると水位は最大で18メートルも下がる。ジャングル内の水が引くこの時期、無数の残留湖が出現し、場所によっては干上がるところも出てくる。

水の量が減り水温が高くなると水中の溶存酸素が少なくなってしまう。このため水中は酸欠状態に陥る。さらに、こうした水位の低い場所では、植物の存在が酸欠を加速させてしまう。バクテリアが水中の葉を分解するときに酸素を大量に消費してしまうためだ。魚たちに恵みを与えていた植物が大きな試練をもたらす存在となるのだ。こうなると水中は地獄と化してしまう。

私たちの祖先が暮らしたデボン紀のデルタ地帯も雨季と乾期がはっきりした気候だったことが分かっている。このアマゾンで見られるような乾期の厳しさは当然あったと考えられている。


熱帯地方の湿地帯で生き残るには、酸欠をいかに克服するかが鍵となるのだ。

※参考文献
 NHK地球大進化プロジェクト・地球大進化・日本放送出版協会・2004

湿地帯の試練と肺の進化(1)

2008年02月28日 | Weblog


アマゾン川は3億7000万年前のデボン紀の様子を現在もそのままに再現している場所と言える。湿地帯の豊かさと、私たちの祖先が直面したであろう困難を目の当たりに出来る場所であるからだ。

雨季、アマゾンは増水により氾濫し、ジャングル内部まで水が入り込む。こうして生まれる水没林は、アマゾンの中でも最も多様な生物を育む場所になる。多くの魚がこの複雑な環境を隠れ家として利用し、木々が水没する時期に合わせて産卵する魚も多い。

アーマードプレコはナマズの仲間で、デボン紀の板皮類を彷彿とさせる鎧をまとっている。水底に住み、木の表面につくバクテリアを餌にしている。表面のバクテリアを口の中に吸い込んで鰓で濾過している。

タンパキーは水に落ちた木の実を食べる。硬い実をかじるための強力な顎と歯を発達させている。タンパキーは雨季のあいだに木の実を食べ、体内に油を蓄え乾期に備えるのだという。

アロワナはぎょろっとした特殊な目を発達させている。その目は水中と水上両方を見ることができる。この目を生かし、水上に現れた虫をキャッチ。さらには水面から1メートル近くジャンプし、捕食を行うことでも知られている。

アマゾン川の最大の捕食者はピラルクー(※写真下)で、1億年前からアマゾンに生息している古代魚だ。大きなものは体長4メートル、体重200キロにも達する世界最大級の淡水魚だ。

このように熱帯の淡水域は地球上で最も多様な生命が存在する場所となっている。そしてこれら多様な生き物たちに支えられ、アマゾンの食物連鎖はとりわけ大きなピラミッドを形作っている。大型の捕食者の生息できるのだ。

これと同じ状況がカレドニア山脈のふもとに広がるデルタ地帯にもあったと考えられている。いまは絶滅して存在しない珍しい魚が湿地帯の特殊な環境に適応し、豊かな生態系を築きあげていたのである。

その中で私たちの祖先も子孫を残そうと必死の生き残りを模索していた。

※参考文献
 NHK地球大進化プロジェクト・地球大進化・日本放送出版協会・2004


木との出会いと共生への道(3)

2008年02月27日 | Weblog

共生


「共生」をするということは、生命が陸上という極めて過酷な環境に進出するにあたって、極めて重要な意味を持つ。

スコットランドのライニー村は3億9000万年前のデボン紀初期、ロレンシア大陸の端にあった。ここで
植物が菌類と共生していた証拠が見つかる。

この菌類は菌糸を植物の根の中に入り込ませ、そこから植物が作った栄養素を吸収して生きている。 しかし、一方的に吸い尽くすと植物(宿主)が死んでしまうため、菌類は栄養を吸い取る代わりに植物にリンなどの重要な栄養塩を供給している。

この行為を通して菌類と植物は共存を始めた。この「共生」は現在ではほとんどの植物の根に認められる。 これはデボン紀の時点に完成したシステムである。

デボン紀の頃の陸は、長年水の中で暮らしてきた植物にとっては生きていくのが厳しい場所であったと考えられる。植物が上陸をしようとしたときに、土壌からリンなど成長に必要な栄養塩を供給してくれる菌類は魅力的であったはずだ。

だからともに陸という新しい未開の地を開拓していくために、植物と菌類はパートナーとして共生していくことを選んだと言えるのだ。

時を同じくして、リニアと呼ばれる高さおよそ10センチの維管束植物も水辺にコロニーを作っていた。その中から次第に水辺を離れ、乾燥した場所に進出しはじめた植物も出てきた。植物が水辺を離れることができたのもこの菌類のおかげだと考えられている。

そして植物の上陸を追うように魚が淡水域に進出してくる。裏を返して言えば、植物がいたからこそ魚は淡水域に進出できた、とも言える。

さらに植物の大型化と時を同じくして魚も大型化する。一説にはそこには植物と動物の共進さえあるとされている。そして魚たちも大型化と平行して多様化も始めた。

しかし私たちの祖先が乗り越えるべき試練は続いた。植物の恩恵を享受するために、魚たちもさらに進化をせざるをえなくなるのである。


        <木との出会いと共生への道・完>

※参考文献 ・出典
 NHK地球大進化プロジェクト・地球大進化・日本放送出版協会・2004

木との出会いと共生への道(2)

2008年02月26日 | Weblog
(※デボン紀から生き続けていると言われるシーラカンス)

デルタ地帯に誕生した新たな世界


デボン紀後期の初頭、アーキオプテリスが繁茂した地帯は北緯30度という温暖な地域であった。その頃のアーキオプテリスはまだ初期型で、幹の太さもせいぜい直径30センチ程度である。しかし、それまで川沿いにしか生えてなかったのが、次第に内陸へとデルタ地帯を覆い始めることになる。
(これより100万年後、最盛期には幹の太さも1メートルに達する。)

アーキオプテリスの誕生は陸上の環境を大きく変えた。初めて地上に大きな陰を作ったからである。このことで、
この陰の下に立体的な生態圏が出来上がる。

さらに根の存在も大事である。根によって土壌が形成されて大地の保水力が増し、川の氾濫が抑えられるようなった。そして土の中にはバクテリアや菌類、虫などが繁殖し新たな生態系が生まれたのである。その後デルタ地帯は現在のアマゾン川のような熱帯性の湿原が出現する。


魚の時代を支えたアーキオプテリス

アーキオプテリスの葉は枝ごと落ちる構造になっている。それまでの植物は葉を落とすことはしなかった。葉っぱは太陽光を受け止める大事な器官であり、栄養分をたっぷり含んだ場所なので、それをみすみす落とす理由もなかったのである。

さて、アーキオプテリスが葉を落とすきっかけになったきっかけとしては、より高く幹が伸びることを選択した結果であると考えられている。アーキオプテリス同士が大繁茂しあうと、必然的に高い場所に葉を付ける必要が出てくる。そうなると、光の当たらない下の葉は木にとって栄養を吸収されるだけの存在になってしまう。ならば、自ら枝ごと落葉させよう、という選択をしたものと考えられる。

いずれにしても、この落葉によってデボン紀のデルタ地帯には突然大量の有機物が供給されることになる。その頃は葉を食べる動物も存在しなかったので、そのほとんどが原型を留めたまま川に流れ込んだと考えられる。

そしてこの葉が水中の多くの生命を支える餌として、また住みかとしても活用されたと考えられている。

デボン紀は「魚の時代」とも呼ばれている。魚が急速に多様化し、現生のグループのほぼすべてが出揃ったためだ。中でも注目すべき点はその大きさである。デボン紀前までせいぜい20センチだった魚たちはデボン紀後期になると最大6~7メートルにまで大きくなっていたのだ。

葉の養分が水中に加わったことで、食物ピラミッドの底辺が広がり、結果的により大きな生物が住める環境が整ったのだ
。デボン紀の魚たちはアーキオプテリスと共進化していたと言っても過言ではない。水中生物は植物の進化と歩調を合わせるように進化していったのである。

※参考文献
 NHK地球大進化プロジェクト・地球大進化・日本放送出版協会・2004

木との出会いと共生への道(1)

2008年02月25日 | Weblog

地球最初の木アーキオプテリス
(※写真上がアーキオプテリス、下がその木と出会った我々の祖先ユーステノプテロン)

3億7000万年前の地層から木の切り株の化石が見つかる。直径は25センチほどあり、放射状に根が伸びている。切り株はデボン紀中期に突然登場した地球最古の木、アーキオプテリスのものだ。

アーキオプテリスの繁殖器官はシダ植物と大差ないが、栄養器官が裸子植物と同じなので、前裸子植物と呼ばれるグループに属し、種子植物の祖先と考えられている。その姿は針葉樹のように見えるが、現代の針葉樹とは違い、葉に胞子嚢を持ち、空気中に胞子を散布して子孫を残していた。

アーキオプテリスの最大の特徴は太い幹にある。それは現代の木と同じように固く、年々成長した。それまでの植物は1、2年で成長が止まり、死ぬまで大きさが変わらなかったとされている。それに比べて最大40~50年という寿命を持ち、年々成長する能力を持ったアーキオプテリスは、植物の革命児であった。

さらに地中深くまで根を張って、地中の栄養分や水を吸収する能力に長けていた。根の深さは1メートルに達したと考えられている。


ところが地球上すべての陸地にひろがった大繁栄を遂げたアーキオプテリスはデボン紀末3億5000万年前までに忽然と姿を消した。その原因はいまだ謎であるが、そのアーキオプテリスがたくさん繁茂したデルタ地帯で私たちの祖先はその木と運命的に出会う。

※参考文献・出典
 NHK地球大進化プロジェクト・地球大進化・日本放送出版協会・2004

動く大地に翻弄される生命(4)

2008年02月24日 | Weblog


我々の祖先と板皮類

これまで穏やかな母なる海の底の泥をこして食べていた私たちの祖先もこの時代、顎を持った魚へと進化してしていた。私たち人類へとつながるのは、およそ3億8000万年前に登場したユーステノプテロンという魚だ。

ユーステノプテロンは
アランダスピスの子孫として脊椎を引き継ぐとともに、顎と鰭を進化させていた。アランダスピスが体を安定させるための鰭を持たなかったため、泳ぎが不安定だったのに比べ、ユーステノプテロンは鰭を持つことで高度な遊泳能力持っていたと考えられている。

こうした特徴からユーステノプテロンの仲間は肉鰭類(にくきるい)と呼ばれている。現在も生きている肺魚やシーラカンス、そして陸上に住む脊椎動物はみなこの肉鰭類が祖先なのである。


板皮類類王国の誕生

ところが、ユーステノプテロン以外にも顎を発達させた魚が数多く誕生していた。中でも最大の勢力を誇ったのがダンクルオステウスをはじめとする板皮類(ばんぴるい)と呼ばれる魚たちだった。

板皮類は体の前の部分が鎧のように硬い甲羅で覆われていて、現在のどんな魚とも似つかない不思議な姿をしていた。歯の代わりに皮骨性のプレートを上下の顎に持ち、それがはさみのように獲物を切り刻む構造をしていた。


しかも比率で言えば板皮類はすべての魚の90%ほどを占めていたのである。彼らの化石を探るとき、他の硬骨魚類の化石はごくわずかしか見つからない。それほど板皮類は圧倒的な存在だった。それだけ板皮類はありとあらゆるニッチ(生態的地位)を支配していた。

われわれの祖先であるユーステノプテロンなどは、板皮類の陰に隠れているしかなかったのである。

では祖先たちはいったいどこで成功を収め、上陸を果たしたのであろうか?

実はそのヒントはカレドニア山脈沿いの大陸内部にある。そこの4億年前の地層から私たち四肢動物につながる魚と四肢動物の化石が多数発見されているのだ。

この事によって次のことが分かる。

私たちの祖先は大陸衝突によって誕生したローラシア超大陸のカレドニア山脈沿いのデルタ地帯(雨が降り、土砂が流されて、それが堆積し形成された三日月地帯)に逃げ込んだ。そしてこのデルタ地帯こそが彼らにとっての新天地になった

もちろん、板皮類に追われてデルタ地帯に逃げ込んだという直接の証拠はまだ見つかっていないし(※写真は仮説に基づきブログ主が作成したもの)、海での競争の激化が内陸域への進出に直結するのかどうかもまだはっきりとは分かっていない。

ただ、同じ時期に顎が誕生し、海の中が競争の激しい環境へと変貌したことは確かだ。そして時を同じくして私たちの祖先は海を離れ、新たに生まれたローラシア大陸に姿を現したのだ。

海からのエクソダス──およそ4億年前、私たちの祖先は大陸内部へと脱出し、そしてそこでさらなる進化を遂げることになる。


         <動く大地に翻弄される生命・完>


※参考文献
 NHK地球大進化プロジェクト・地球大進化・日本放送出版協会・2004


動く大地に翻弄される生命(3)

2008年02月23日 | Weblog


超大陸ローラシアとカレドニア山脈の誕生


アイアペタス海の消滅と大陸同士の衝突で出来た超大陸ローラシア。実に現在の北アメリカ、グリーンランド、イギリス、北欧、そしてウラル山脈以西のロシア平原までを含んでいる。

その後も大陸の衝突は進行し、およそ5000万年後のデボン紀前期にかけて大地が盛り上がり、巨大山脈カレドニア(アメリカではアーケディア山脈と呼ばれている)が誕生する。ちょうどヒマラヤ山脈と同じような産物であるが、それは長さ7500キロにわたって続いた。


アイアペタス海消滅と生命への影響

大英博物館のフォーティ博士は三葉虫を通してアイアペタス海の消滅が生命に与えた影響を研究してきた。結果、アイアペタス海の消滅とともに、三葉虫のあいだに熾烈な競争が起き、急速に種が淘汰されていったことが明らかになった。

化石を調べてみると、ロレンシア、バルチカ、アバロニアの3つの大陸が離れていたころ、それぞれの大陸には固有の三葉虫が数多く存在していた。ところが大陸が近づき、お互いを隔てる外洋が消滅すると、三葉虫の標準化が進行するのである。

デボン紀に入ると三葉虫は驚くべき姿に進化する。体を丸めたときに、ちょうどウニのようにトゲが外側に突き出る構造となっている
(※写真)。フォーティ博士は生存競争の激化によってこのトゲを防御装置として得たものだと説明する。

ここまで三葉虫を武装させたきっかけになったのは、「弱肉強食」の海の出現、すなわち外敵の出現である。それまでの原始的な魚である無顎類が進化し、顎を持つようになったのだ。

顎を持つことで、魚はより積極的に行動できるようになり、受動的な生き方から能動的な生き方に変わった。またそれは脳の発達も促し、感覚器官を発達させ、また筋肉をも発達させたものと想像される。

顎の誕生によって魚の時代が始まるのである。

※参考文献
 NHK地球大進化プロジェクト・地球大進化・日本放送出版協会・2004


動く大地に翻弄される生命(2)

2008年02月23日 | Weblog


アイアペタス海を消した大地

アイアペタス海に死をもたらした天変地異大陸移動であったと前記事でもご紹介した。4億3000万年前にアイアペタス海を囲むように存在していたロレンシア・アバロニア・バルチカの3つの大陸は次第に近づき、ついに海を消滅させた。
※大陸がどのように移動したかは過去の岩石の地場データを時代ごとに比べることで推定される。


話は4億3000万年前よりさらに遡る。地球南半球には超大陸ゴンドワナ大陸があった。そしてアバロニアはこのゴンドワナの一部だった。今から5億年前、アバロニアはゴンドワナから分裂し、次第に北半球に移動を始める。

現在のイギリスのウェールズとアイルランドはアバロニア大陸の一部だったとみられる。この大陸は、カンブリア紀にゴンドワナ大陸から分裂した後、南半球からはるか北半球に移動してきたのである。一方現時のスコットランドはロレンシアと呼ばれる大陸の一部だった。ロレンシア大陸は赤道付近にあり、現在の北米大陸とグリーンランドなどを含む比較的大きな大陸だった。そして、ロレンシアの南東海上にはバルチカと呼ばれる第三の大陸があった。これは現在のノルウェーや北欧、そしてウラル山脈の以西のロシア平原にあたる。

オルドビス紀にこれらの大陸はゴンドワナから離れ、次第に熱帯地域へと移動していく。そしてオルドビス後期になると、アバロニアはバルチカに近づき始める。

4億4000万年前までに、北に向かっていたアバロニアは南西に移動していたバルチカと衝突する。さらにバルチカに衝突したアバロニアは、シルル紀末までにロレンシアとも衝突、
こうしてアイアペタス海は完全に消滅してしまうのだ。

サンゴの化石が見つかるシュロップシャー州に残されている4億3000万年前のアイアペタス海の海底地層は、アバロニアとバルチカが衝突した直後、ロレンシア大陸に衝突する直前のものである。(※母なる海との決別(3)を参照)

当時はロレンシアとバルチカの間にアイアペタス海がわずかばかり残っていた。それから1000万年の後、アバロニアとバルチカの両大陸はロレンシア大陸と衝突する。

浅い海は土地が迫った結果、、土砂で埋まり、やがて隆起して陸となってしまったのだ。4億2000万年前の地層から、陸地であったという証拠が見つかるのはこのためなのである。

このように、アイアペタス海を消滅にいたらしめたのは、地球上を絶え間なく移動し続ける大地だったのだ。

※参考文献・出典
 NHK地球大進化プロジェクト・地球大進化・日本放送出版協会・2004


動く大地に翻弄される生命(1)

2008年02月22日 | Weblog
古生物学の研究が進むにつれて、生命と地球の地殻変動との間には、これまで考えられなかった関連のある事が明らかになってきている。

生命はそれ自体の要因で進化したのではなく、
地球環境の変動が深くかかわっているという。生命の進化に大きな影響を及ぼしきたのは、絶え間なく動く大地であった。

地球表面にある地殻は十数枚のプレート(陸地)に分かれており、これらは絶えず動いている。大陸同士はすれ違ったり、ぶつかったり、離れたりを繰り返しながら激しく活動し、大規模な地殻変動を引き起こしているのである。

こうした地殻変動は単に地形を変えるだけでなく、私たち生命の進化と深くかかわり、想像以上の影響を及ぼしてきたことがわかってきたのだ。

※参考文献
 NHK地球大進化プロジェクト・地球大進化・日本放送出版協会・2004


母なる海との決別(6)

2008年02月22日 | Weblog

消えたアイアペタス海

ところが楽園は長続きしなかった。4億2000万年前までにアイアペタス海が跡形もなく姿を消してしまったのだ。

まずアイアペタス海の豊かな生態系が消滅するきっかけとなったのは火山活動や地震の頻発であった。マグマは海に流れ込み、たび重なる地震で断層が生じ、水中でも大規模な岩盤の崩落が起きる。 火山噴出物の破片も飛んでくる。そして大量の土砂が海に入り込み、サンゴ礁を埋め尽くしていく。土砂は逃げ遅れた生き物を巻き込み、生き埋めにしていくのだ。 そしてこのとき土砂に埋まった生き物たちが、現在化石となって私たちの目の前に姿を見せている。

そして大陸移動によって押しつぶされるようにしてアイアペタス海はついに消え去った。

この異変で、多くの定着性の生物が死に絶えてしまう。 一方泳げるものは逃げ去ったが、サンゴ礁というすみかと豊富なプランクトンを失った生き残りの生物も苦難の道を歩むことになった。




 この時起きた出来事は「海の死」であった。
アイアペタス海はなくなった。そしてシュロップシャー州のオルドビス紀の地層からも、豊かな海の証拠が見つかるのは4億3000万年前が最後になった。

豊かな海は消え去り、生物は陸へ追い込まれた。しかし
生命にとっても変化の時期が訪れたとも言える。永遠に変化しない生命などはありえないのである。

だがこの異変は、私たちの祖先にあたる魚たちにとっては乗り越えなければならない新たな試練でもあった。


              <母なる海との決別・完>

(※アイアペタス海の消滅の謎は20世紀に入り、大陸が移動するという知識が鍵となってようやく解かれた)

※参考文献・出典
 NHK地球大進化プロジェクト・地球大進化・日本放送出版協会・2004

母なる海との決別(5)

2008年02月21日 | Weblog

さて、一方この頃(約4億5000万年前、オルドビス紀)の陸上はどうなっていたのであろうか?

バクテリアマットやシノバクテリア、地衣類などがカンブリア紀から上陸していたと考える研究者が最近は多いという。(不完全ながらも胞子の特徴を持つ細胞は5億年前の地層からも見つかっている。)

植物上陸までの陸地は太陽が容赦なく照りつけ、その熱によって岩石が膨張し砕かれ、現在の火星のような赤茶けた大地がひろがる不毛の地でありつづけた。

陸も深海も外洋も私たちの祖先にとっては厳しい環境であった。その地球上でアイアペタス海が出来た。そこで我々の祖先はサンゴ礁というすみか、そしてプランクトンに恵まれた環境を与えられ、そこはかけがえのない特別な場所となった。

※写真は火星の氷塊近辺

※参考文献
 NHK地球大進化プロジェクト・地球大進化・日本放送出版協会・2004


母なる海との決別(4)

2008年02月21日 | Weblog


アイアペタス海と私たちの祖先


アイアペタス海は約5億年前に誕生し、オルドビス紀からシルル紀にかけておよそ1億年にわたって存在した。

同じ頃、私たちの祖先は無顎類(むがくるい)と呼ばれる顎(あご)や鰭(ひれ)を持たない原始的な魚に進化していた。体長はおよそ20センチ、あたりの微生物や泥の中の栄養分をすくって食べるおとなしい生き物だったと考えられている。

アランダスピスとサカバムバスピスは
背骨を持つ最古の魚で、私たち脊椎動物の共通祖先にあたる。いずれも魚雷のような姿かたちをしている。 この2種の魚はともに億7000万年前~4億6000万年前の互いに遠く離れた地層から見つかっているので、無顎類は当時の世界各地の浅い海に広く生息していたのではないかと考えられている。


※中国の澄江(チェンジャン)では5億年以上前の地層から脊椎動物の祖先である脊索動物の化石が相次いで発見されている。ハイコウチクスとミロクンミンギアがその代表である。
※参照画像
http://www.phys.kanagawa-u.ac.jp/~usami/cambria/cambriaL.jpg



アイアペタス海があった場所からはいずれの化石もまだ見つかってないが、当然そこにも住んでいただろうと考えられている。 私たちの祖先は、まさにこの熱帯の楽園で種の繁栄を謳歌していたのだ。

※参考文献
 NHK地球大進化プロジェクト・地球大進化・日本放送出版協会・


母なる海との決別(3)

2008年02月21日 | Weblog


古生代の生命を育んだアイアペタス海

私たちの祖先が上陸を果たしたのはおよそ3億6000万年前。進化カレンダーでは12月3日にあたる。1年の最後の一ヶ月で私たちは上陸を果たし、爬虫類から哺乳類へ、さらに霊長類となってヒトとなったわけである。

逆に言うと、それまでの11ヶ月間、つまり地球史の大半の時間を私たちの祖先は海で過ごしてきたことになる。海こそ生命がすみかとしてきた場所なのだ。

イングランド・シュロップシャー州の丘陵地は4億3000万年前
アイアペタス海と呼ばれる穏やかな浅い海のそこであった。更にはカンブリア紀からデボン紀にかけての古生代の全ての地層が揃っている。
(※チャールズ・ダーウィンも「古生物学の聖地・シュロップシャー州」の出身である)

ここからサンゴの化石が発見される。ウミユリや三葉虫、腕足類、層孔類、巻貝などもみられる。どれもここが熱帯地方の穏やかで浅い海が広がっていたことを物語ってる。化石となるための硬い殻を持たない動物も何百種類もいたと推定されている。つまりアイアペタス海ではサンゴ礁を中心とする複雑な生態系が存在していたのである。

※参考文献 ・出典
 NHK地球大進化プロジェクト・地球大進化・日本放送出版協会・2004