ご存知の方も多いだろうが、これは「犯罪加害者の家族の人権」や「マスコミの過剰報道」を題材とした映画だ。いわゆる社会派娯楽作ってヤツ。で、まあ、それなりに見応えはある。少なくとも退屈はしない。ただし、それは佐藤浩市や志田未来など役者が頑張っているからであって、脚本及び演出が上手いわけではない。というより、はっきり言って脚本はほころびだらけだ。もっとはっきり言えば、ズサンで横着。
※お気に入り度→★★☆☆☆
※公式サイト→http://www.dare-mamo.jp/
序盤の展開はスピード感があって悪くない。加害者の家に警察やら役人やらが乗り込んで「いったん離婚してすぐに再婚」という手続きで名字を変えさせる辺りは単純に「へーっ」と思わせる。しかし、そんな手際の良さを見せた直後、大勢の警察官がいる中で母親が自殺するわけだから「なにやってんねん」という気分になっちまう(まあ、無名の女優さんを使っているという時点で予測できるが)。さらに、志田未来演じる妹がマスコミから追われるシーンでは「そんなことあり得るか?」と思わざるを得ない。堀江ナントカや小室哲哉みたいな有名人が逮捕される場合ならともかく、実行犯でもない中学生女子をあんな風に追っかけたらテレビ局の方が大ヒンシュク買うでしょ。
佐藤浩一が自分のアパートに志田未来を匿い、その見張り役として木村佳乃が登場する時、「この物語、なんかヘン」という違和感は早くも頂点に達する。重要な関係者であり、しかも未成年である中学生女子の保護を、単なる一般人に任せるなんて! そもそも警察には婦警だっているでしょ。なんで佐藤浩市に担当させたんだ?
もうひとつ思ったのは、「これ、『誰も守れない』(映画公開日の前日にオンエアされたTVドラマ)を未見の人には意味不明すぎない?」ってことだ。木村佳乃が精神科医であり、佐藤浩市がその患者であることは台詞でサラリと紹介されるだけだもん。もしかしたら『誰も守ってくれない』の説明不足を補うために『誰も守れない』が作られたのか?
と、まあ、いちいち挙げればキリがないほどツッコミどころが多い。あまりにも多いので際立った部分だけ書くと、志田未来の彼氏を佐藤浩市が探す場面。駅に行ったが見つけられず、再び街の中を走る(なんの当てもないのに!)。すると、偶然にも彼氏を発見(ホント、すげー偶然)。で、佐藤浩市は彼氏の首根っこを押さえ、志田未来の居場所を訊く。すると、彼氏はこう言うのだ。「あっちのホテル」と。あっちのホテル?
当然、佐藤浩市が「どのホテルだ!」とか「そこに案内しろ!」とか言うと思うでしょ? ちっちっち、なんと佐藤浩市は、その場に彼氏を残して脱兎のごとく駆け出すのだ。「あっちのホテル」だけで場所が分かったらしい。もしかしたら「あっちのホテル」ってのは固有名詞? それとも、この街にはホテルが数えるほどしかなくて、「あっち」方面には一軒しかなかったってこと?
ホテルに着いた佐藤浩市は、ほとんど迷うことなく志田未来がいる部屋を見つける。これは探すシーンを省略したのか、はたまた刑事の勘か? で、部屋に入って志田未来に声をかけ、次いで隠しカメラを見つける……と言いたいところだが、これ、全然「隠しカメラ」じゃないのだ。部屋の中にいればイヤでも目に入ってしまうような、ごく普通の監視カメラじゃん。それまで志田未来が気付かなかったのが、むしろ不思議。
そんなこんなでツッコミどころ満載なわけだが、これはすべて物語が「結論ありき」で進んでいるからだろう。ここでは登場人物たちは「物語を進めるための道具」でしかない。もちろん、それはあらゆる映画やドラマや小説やマンガに関しても同様だろうが、人の心を動かす作品の多くは「登場人物が起こした行動によって物語が進む」ような錯覚を抱かせるものだ。
この映画における「結論」ってのが、またタチが悪い。犯罪加害者の家族を追うマスコミやインターネットの執拗さを糾弾しているように見えて、実際は「一番悪いのはネットの連中」と印象づけているのだ。なんせ描かれる順番がテレビ局→新聞社→ネット住人(いわゆる2ちゃんねらー?)であり、順を追って悪辣さが増していくわけだもん。これはまあ、やはりテレビ局が作った映画だからだろうね。「自己批判もしてます」というポーズを見せつつ、「でも、ウチよりあくどいヤツら、いますんで」と言ってる感じ。
長々と書いてきたけど、冒頭に記した「大失策」ってのは、それらとは別のこと。この映画、肝心な場面で思いっきりヘマこいているのだ。
終盤、こんな場面がある。自分のお腹に手を置く石田ゆり子の横で、柳葉敏郎が「コイツのお腹、赤ちゃんがいるんですよ」と言うのだ(すんません、正確な言い回しは忘れました)。
ここで僕は「ええっ」と叫びそうになった。いや、妊娠していることに驚いたわけじゃない。そんなことは、石田ゆり子がお腹に手を置いた時点で分かっている。僕がビックリしたのは、そこで役者に「赤ちゃんがいる」というような芸のない説明台詞を言わせるセンスだ。この映画の監督である君塚良一って、テレビドラマの世界じゃ有名な脚本家なんでしょ? で、今回は自分で脚本も兼ねているわけでしょ? だから「現場で勝手に台詞を変えられた」ってわけじゃないよね?
この映画をご覧になった方々は、あのシーンを思い出してほしい。で、柳葉敏郎の台詞をこんな風に変えてみて。
「○○○(亡くなった息子の名前)ね、もうすぐお兄ちゃんになるんですよ」
僕だったら、これで確実に泣く。というか、この場面、一番の泣かせどころでしょ。数えきれないほどの欠陥がある映画だけど、この「希望」を描いた場面で気持ちよく泣かせてくれれば、満足度は増したろう。なのに、なんで無粋な台詞でぶち壊しにしたんだ? ああ、もったいない。もったいないったらありゃしない。
ちなみに、その息子を殺した犯人を演じていたのは、日本映画界のホープ、柄本時生。いつもながら、人相の悪さが最高。
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