Tony's One Phrase

観察日記

「カナリア諸島にて」月夜の海解釈

2021-08-12 07:24:42 | EACH TIME

安藤まり子「花の素顔」を聴いていて、「カナリア諸島にて」のある解釈がぽっと浮かびました。

「恋するカレン」千早ぶる解釈
「雨のウェンズデイ」色恋忘れ解釈
に続く、ロンバケ異説シリーズ第3弾です。

まず、おさらいを兼ねて「カナリア諸島にて」の成立過程を簡単におってみます。


〇「カナリア諸島にて」の成立過程

松本隆のコメントは次の通り。
『BRUTUS』2016 7/1
”ロンバケ”は大滝さんとは事前に「AORにしよう、大人っぽいポップスでいこう」という話をしていたんだ。でも、舞台を都会にすると陰鬱な世界観になってしまう。大滝さんのボーカリストとしての魅力を引き出すには、もっと開放的な場所にしたい。そこで舞台を海にもっていきたいと僕は考えた。
(略)
結局、昔観た映画や小説から想像を膨らませて書くことが多くなるから、逸話もいろいろあって。有名なのは、「カナリア諸島に行ったことがないのに「カナリア諸島にて」を書いたことだよね(笑)。はっぴいえんどの頃に読んだ小川国夫の小説に一言だけ出てくるんだ、「カナリア諸島」って。ああ、そんな名前の島があるのかとずっと印象に残ってて。カナリア・アイランドっていう言葉の響きもいい。

小川国夫がキーワードです。
30年以上ロンバケにつきあってきましたが、ロンバケとは、とどのつまり、詞も曲も含めて、この「カナリア諸島にて」につきるのでは、と思っています。

一方、大滝詠一の方は次のようなコメントをしています。
『宝島』 1981年7月号
そのころ、ポッと『カナリア諸島にて』ができて、朝妻さんとこ行って喜んだんだけどね、"あ、そう"なんて、意外に本気にされなかったの、実は。レコーディング始めてからでも、まだ本気にされなかったみたいよ。それだけ、過去裏切った事実ってのが深く残ってたんじゃないかな、みんなに…。

A LONG VACTION VOX()2021 2011.2.9 大滝詠一4万字インタビュー
ソニーが出版部を持ちはじめて、絵本をやろうって話があったのです。(略)
(『ロンバケ』発売の)2年前です。
(略)
松本くんなんかは詞をつけるときに届いた「カナリア諸島にて」を聴いて、あの絵本を思い浮かべたっていうのだから、バンドルの話はあちこちに行っていたってことですよね。だって「こういう感じにしてくれ」ってのはお互い一度も話し合ったことはないのよ。我々は一度もそういう作り方をしたことはなく、まあ、毎回真剣勝負みたいなものでしょうから。
(略)
7月28日(の発売を)目指して順調に、6曲くらいかな、録ったのだけど、突然松本くんの妹さんが亡くなられてね。「ちょっとかけそうにない」っていうから「いいよ。休んだ方がいいよ」「いつ戻れるかわからないよ」「いいって。こっちは気にしないで」って。だから1回チャラにして、夏は遊び呆けてましたよ。それでも夏も終わろうかという頃、「そろそろかけるかも」って2つくらい来たのよ。でもね、なんか妹さん引きずった暗い感じの詞だったから「まだ本調子じゃないなあ」と思っていたら、「ようやくそろそろかけそう」ってなってきたときに今度はそれこそスペクターから何からいつもレコードを世話してくれた大阪のフォーエバーレコードの宮下(静雄)さんが突然亡くなられたのです。

このことから大滝詠一は歌詞に口出しせず、曲先で詞が後からつけられたという背景を窺い知ることが出来ます。


「カナリア諸島にて」製作にかかる系譜を次のとおりまとめてみました。

〇「カナリア諸島にて」製作系譜(VOX RECORDING DIARY等参照)
4月24日 <Rec>18~24 [Take1] [Take2 OK]
     “M-3”として録音(手書きトラックリストではKeep all your love
6月13日 松本隆の妹(由美子さん)亡くなる
7月9-12日 松本隆、大滝詠一軽井沢旅行・打合せ
7月31日 宮下静雄氏亡くなる
8月28日 <Dub>18~ 前田憲男:M-2 & M-3 & M-7 Strings
     <Dub>Chorus
9月2日 <カナリアン・アイランド詞あがる 良い出来!>
9月4日 <Vo>18~  ※
9月5日 <Vo>18~  ※
9月8日 <Dub>13~ @3st 松任谷正隆 M-3Piano
     <Re-mix>19:30~ M-3「カナリア諸島にて」
9月12日 <Dub>19:30~ Jake H.Conception:M-3 Flute
10月13日 <Vo>21:30~@3st  ※
10月15日 <Mix>18~ M-3 「カナリア諸島にて」[Take2] OK

※ボーカル音入れ。ボーカルには2チャンネルを使用。特定の日に「カナリア諸島」の記載はないが、詞が上がったあとの9月はじめ、あるいはミックス直前のどちらかと推察。

この系譜と次の松本隆インタビュー(地の文)をもとにすると、大滝詠一が「2つくらい来た」と語った2曲は「カナリア諸島にて」と「君は天然色」であったと考えられます。

『PEN』2021年4月1日号
当然、セールスの実績もない。「歌詞を待つ」という大滝の強い言葉に押されて、松本はペンを走らせた。最初に書いたのは「カナリア諸島にて」、次が「君は天然色」。この2曲でアルバムのゴールまで〝見えた〞という。

また、7月の軽井沢旅行は4人で行ったようです。
『ヒットこそすべて 〜 オール・アバウト・ミュージック・ビジネス』朝妻一郎 (2008)白夜書房
『A LONG VACATION』を作るに当たって、軽井沢のホテルで合宿した。メンバーは僕と大滝君、松本君、白川君の4人。一緒にご飯食べて、ワイワイ話をして。その中で、僕はひたすら "ともかく胸キュンの曲、悲しい曲を書いてよね" って言っていた。

大滝詠一の「妹さん引きずった暗い感じの詞」という発言と、松本隆の「ゴールまで見えた」という発言のどちらも正しいとすると、ゴールまで見えた詞が書きあがったのは9月2日。暗い感じの詞がきたあと、そろそろかけそうとなったのは7月31日前。

もしかすると、7月9-12日の軽井沢では、暗い感じだった詞の片鱗が、朝妻一郎、白川隆三、大滝詠一の3人に披露されたのかもしれません。このときはそこまで出なかったかなぁ。


〇3羽のカナリヤを追え

松本隆は、「君は天然色」の「想い出はモノクローム」は妹を亡くなった後に自分が見た渋谷の風景だと、雑誌やテレビのインタビューで語っています。

それでは、「君は天然色」だけに心象風景を書き込んでいたのでしょうか?

「外出できない病弱な妹を海外のリゾート地に連れて行けたら」というようなことでなく、「カナリア諸島にて」の曲自体にも妹や自分の思いを込めていないのでしょうか。

ということで、長くなりましたが、ロンバケ異説シリーズ第3弾です。

今回は、次のとおり少しとがった仮説(異論)を立ててみました。

「カナリア諸島にて」月夜の海解釈
仮説「カナリア諸島にて」の「カナリア」には、妹への思いが込められている!

それでは、カナリアを追いかけていきます。

〇3羽のカナリアを追え
世界にはどんな「カナリア」が分布しているのか、少し調べてみると、
1.「青いカナリヤ(Blue Canary)」雪村いづみ
2.「青い眼のジュディ」クロスビー、スティルス&ナッシュ
3.「かなりや」西條八十
が見つかりました。

この3羽に絞って追いかけていきます。
(ほかにも、ビートルズ「Bad Boy」やエヴァリーブラザーズ「I'm Not Angry」などでもあちこちにCanaryは飛んでいますが)

〇1羽目の「青いカナリヤ」


雪村いづみの「青いカナリヤ」は次のような歌詞です。

さみしいカナリヤ わたしのお友達 
夢見て歌えよ 青いカナリヤ 
やさしいあの人が いつも歌ってた 
愛の子守歌を 歌いましょうよ

かなしい言葉は 小川に捨てよう
つらい想い出なら 森に捨てよう

”Blue”とうたうところは、妹を亡くした松本隆の当時の心情と近いと思いますが、自分がさみしいのでなく、カナリヤがさみしいところ。”海”ではなく、”小川”や”森”に生息しているカナリヤということで、近縁ながら別物として、次のカナリヤに当たります。


〇2羽目「青い眼のジュディ」



クロスビー、スティルス&ナッシュ「青い眼のジュディ」には次のような歌詞が登場します。
Chestnut brown canary.
Ruby throated sparrow. 
Sing a song, don't be long. 
Thrill me to the marrow. 

Voices of the angels. 
Ring around the moonlight
Asking me said she so free. 
How can you catch the sparrow?

栗色がかった茶色のカナリヤに歌を歌えとする詞は、スティーブン・スティルスから別れたジュディ・コリンズに向けたメッセージだったようです。

CSNははっぴいえんどとの関係も強く、この詩的な部分にカナリアが登場することは、参照するしないに関わらず、知っていたことは間違いないと思います。
で、月光を受けて響く天使の声は、海の上なのか、小川や森なのかは判別できませんでした。ということで、すぐに次のカナリヤに当たってみます。


〇3羽目「かなりや」

大滝詠一は松本隆を称して、次のように発言されていました。

1999/1/17 新春放談 TOKYO FM
西條八十だと思うよ、彼は。
だから、西條八十は純粋詩から入って「ゲイシャ・ワルツ」まで書く人だから。その幅から言ってね、あれは戦後の西條八十だと思うなぁ。
というイントロ付きで、最後の1羽を追いかけます。



西條八十「かなりや」((もともと雑誌「赤い鳥」発表時は「かなりあ」だったそうです)の歌詞は次のとおりです。

『砂金』の関係頁を引用します。


ー唄を忘れた金絲雀は、
 象牙の船に銀の櫂、
 月夜の海に浮べれば、
 忘れた唄をおもひだす。

唄を思い出したら、また歌えるようになるということから、この最後の4行は非常に意味深です。

西條八十本人が「かなりや」についてコメントをしているという記述をネット上で見つけました。以下、関係部分を引用します。

「日本童謡全集」昭和12年 株式会社日本蓄音器商会
「かなりや」  西條八十
きれいな聲で、毎日歌つてゐた籠のかなりやが啼かなくなりました。
一週間待つてゐても啼かないのです。一月待つてゐても啼かないのです。
「お母さん、どうしませう。」
子供たちは、籠の前にすわつて相談をはじめました。
籠をのぞいてみると、可愛いい桃いろのくちばし、淡黄いろの羽根、かなりやは淋しさうにとまり木にとまつてゐます。
かはいさうなかなりやは、自分でも歌がうたいたいのです。忘れた、昔の歌をおもひだしたいのです。だがどうしてものどに出てこないらしいのです
「お母さん、こんな歌はない鳥、棄てちやいましようか。」
ひとりの子供がいひました。
(略)
けれど、だまつてヂッと、いぢらしさうに籠のかなりやを見つめてゐたお母さまは、静かにいひました。
人間でも、鳥でも、獣でも誰にでも仕事のできないときがあります。かういふとき、わたしたちはそれを大目に見てやらなければいけません。ほかの人たちには、なまけてゐるやうに見えてもその當人は、なにかほかの人にわからないことで苦しんでゐるのかも知れません。たとへば、このかなりやも、このあいだまで歌つてゐた歌よりも、もつといい歌を美しい聲でこれからうたいださうとして、いま苦しんでゐるのかも知れません。ね、だから、みんなで、いぢめずに氣を永くして待つてやりませう。
かういつて、或る月のいい夜、お母さんはそのかなりやを、やさしく、きれいな船にのせて海にうかべてやりました。
静かな世界に置かれて、すがすがしい氣分のなかで、かなりやははつきり昔の歌をおもひだしました。さうして、まへよりもずつと美しい聲でうたひだしました。
みなさん、ほんたうになやんでゐる者に同情してやりませう。


この詞を西條八十が書いたときには、父の急死などもあって、株や商売に精を出し、詞が書けなかったようで、鈴木三重吉の「赤い鳥」への寄稿依頼は、月夜の海に航海に出る助けとなったようです。

で、これを援用し、
歌を歌えなくなったかなりや=妹を亡くして詞を書けない詩人
と考えると、
「カナリア諸島にて」は、詞がかけなくなった詩人かなりやが、12編の詞(=「諸島」)制作に漕ぎ出そうとする決意の詞だ、と重ねることができないでしょうか。

そして!

西條八十には、”かなりや”にこだわった詞がもう1つあるのを見つけました。

「赤い鳥」の大正8年9月号に掲載されたときは「たそがれ」という題名だったようですが、『砂金』に収録されるときには名前が変わりました。

題して「海のかなりや」
その詞も引用します。



かはいさうにと
妹が
涙ぐみつつ 
解いてやる

と「妹」まで登場してしまったことから、もし直接引用していなくても、松本隆の深層心理には、どこかにこの西條八十の「かなりや」のイメージがあったのではないか?とニラんでいます。

・妹に心をほどいてもらい、詞を書きはじめる
・ペンだけ滑らせていた作詞家の周りの「風が動かない」というのは「想い出はモノクローム」状態
・「ぼくの岸辺で生きていく」というのは、あなたはあちらの岸辺で見守ってくださいというメッセージではないでしょうか!?

ということで、これまで語られてこなかった誕生秘話的な話になりましたが、月夜の海に漕ぎ出したカナリア詩人の歌の推論の巻、終了です。


追伸 原稿修正
VOXに掲載されている松本隆の生原稿をみると、1点修正が入っています。
具体的には、「夢中で踊る若い愚かさが懐かしい」の「愚かさ」に×印をつけて、「かがやき」となっています。

この書き直した字体は、松本隆のものではなく、大滝詠一のものに見えますが、修正提案はだれがしたのか、歌を聴いて松本隆が直したのか、直したとしたら、いつ直したのか、そんなエピソードを訊く機会があれば、ぜひ聞いてみたいものです。


追伸×2 ホニオリン
「恋するカレン」の「相撲~な曲」みたいな息子のホニオリン、
それほど秀逸なものはないように思いますが、いくつか並べておきます(^^)。

・夏の宴が砂浜の・・
・夏の禿が砂浜の・・
 #花火前の宴?禿に季節があるのか?

・あの混み出した夏によいしれ~
・あの声出した夏によいしれ~
 #ソーシャルディスタンス、熱闘甲子園?

・カナディアン・アイスランド
 #どっちもオーロラが見えるかもしれないが夏っぽくない。

・風はもう動かない
・風に羽毛はない
 #カナリアに羽毛はあっても、風にはないですね。

おあと大勢_(. . )_


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