務のよしなしごと

ハンプトン・コート宮殿の人々(完成時期未定)
「オペラ座の怪人」勝手に解説
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「オペラ座の怪人」25周年記念公演 主な登場人物

2021-03-29 | 趣味

2011年10月1日と2日にロンドンのロイヤル・アルバート・ホールで行われた「オペラ座の怪人」25周年記念公演の主な出演者は次のとおり(登場順)。

Le Vicomte de Chagny (Raoul) シャニュイ子爵(ラウル) 役 Hadley Frazer (ハドリー・フレイザー)
プロローグでは老人(70歳頃の設定らしい)として昔語りを始めるが、本編が始まってからは終始若い青年、オペラ座のパトロンとして登場する。アップで撮られると無理した老け役であることがはっきりわかるが、ミュージカルそのものには全く影響がない。
後述のクリスティーンとは幼なじみで「ラウル」というのが姓名の名に当たるもの(姓に当たる部分はシャニュイ)。二人は別れ別れになっていた期間があるが、クリスティーンが主役として出演した最初の公演で再会する。クリスティーンだけが彼を「ラウル」と名で呼び、他の登場人物は「(シャニュイ)子爵」と彼のタイトルで呼ぶ。
※シャニュイとはフランス南東部のソーヌエロワール県にある小さな共同体で、昔は子爵領であったようだ。簡単に例えるなら日本で言えば江戸時代の伊達藩の一部である田村藩のようなもの。Le Vicomte de Chagny を英語に置き換えると The Viscount of Chagny。爵位の後に治めている地域名が来る(例:(The) Duke of Edinburgh エジンバラ公爵=エリザベス2世の夫君、(The) Duchess of Cornwall コンウォール公爵夫人=チャールズ皇太子の配偶者カミラ夫人:いずれもタイトルは2021年3月現在)。といっても実際に昔のように政治力を発揮しているのではなく単なる名称(日本では越前守、丹波守、上野守等の名称がこれに近い)。

Carlotta Giudicelli カルロッタ・ジュディチェリ 役 Wendy Ferguson (ウェンディー・ファーガソン)
イタリア人のソプラノ歌手。数年オペラ座でプリマドンナを勤めてきた。ミュージカルの冒頭、今夜が初演のオペラ「ハンニバル」(ロイド・ウェバーによる架空のオペラ)のリハーサルでアリアを歌うが、怪人によるちょっとした事故があり途中で投げ出してしまう。そこでクリスティーンが代役を勤めることになり初演は大成功する。その後、オペラ「イル・ムート」(これも架空のオペラ)では伯爵夫人役になるが、怪人に邪魔される。更にオペラ「ドン・ファンの勝利」(同じく架空のオペラ)では端役として登場。
ウェンディー・ファーガソンは英語を母語とする俳優であるが、イタリア語訛りの英語を上手に真似ていて、本当のイタリア人オペラ歌手のように演じている。

Ubaldo Piangi ウバルド・ピアンジ 役 Wynne Evans (ワイン・エヴァンス)
イタリア人のテノール歌手。カルロッタの恋人という設定で、カルロッタに引きずられいつも二人で行動している。オペラ「ハンニバル」ではハンニバル役を勤めるが、カルロッタと共にリハーサル中に去ってしまう。その後彼女と共に戻って来るが、オペラ「イル・ムート」では出番なし。次の「ドン・ファンの勝利」ではドン・ファン役を勤めるが、途中で怪人に殺され役を入れ替わられてしまう。
ワイン・エヴァンスは英国ウェールズ出身であるが、彼もイタリア語訛りの英語を上手に演じ、いかにもオペラ歌手であるかのような雰囲気を出している。

Monsieur Reyer レイエ 役 Philip Griffiths (フィリップ・グリフィス)
オペラ座の音楽監督・指揮者。俳優に音楽的な指導をしたり、オペラの進行を裏から支える人物。音楽に関しては俳優たちに厳しく対応する。

Monsieur Lefèvre ルフェーブル 役 Simon Green (サイモン・グリーン)
オペラ座の経営者(マネージャー)。数年来のオペラ座での度重なる事件(具体的には言及されていない)に愛想をつかし経営から手を引こうとしている。新しい経営者を紹介すべく「ハンニバル」のリハーサル中に2人の男性を伴って現れる。紹介後にちょっとした事件が起き、カルロッタとピアンジが逃げ出し、彼もすぐにその場を去って、それ以降オペラ座に顔を出すことはない。サイモン・グリーンは、ルフェーブル役の後、他の場面で名もない端役として出演しているかもしれない。

Richard Firmin リシャール・フィルマン 役 Barry James (バリー・ジェイムズ)
ルフェーブルが連れてきた新しい経営者の一人。現実的で主に金銭や興業の成功に関心がある。経営的な観点からクリスティーンとカルロッタの起用について揺れるが経験のあるカルロッタにすることで怪人の怒りを招く。「ドン・ファンの勝利」では、シャニュイ子爵の案及び怪人の要求通りクリスティーンが、ドン・ファンの罠にはまるアニタ役になる計画に同意する。
ストリーの舞台がパリなので英語ではリチャードという綴りがフランス人の同じ綴りの人名はリシャールと発音される。

Giles André ジル・アンドレ 役 Gareth Snook (ガレス・スヌーク)
フィルマンとオペラ座を共同経営する人物。2人は苗字を呼び捨てにしてお互いを呼ぶ。フィルマンとは対照的にお調子者の傾向があり、登場早々にカルロッタにおべっかを使う。また、フィルマン同様、プリマドンナを誰にするかで迷うが、心ならずも状況に流されカルロッタを選ぼうとする。彼もシャニュイ子爵やフィルマンと同様、怪人を捕えるためにクリスティーンにアニタ役をやってもらうことに望みをかける。

Meg Giry メグ・ジリー 役 Daisy Maywood (デイジー・メイウッド)
クリスティーンの親友。後述のマダム・ジリーの娘。クリスティーンがマダム・ジリーに引き取られてから2人一緒にオペラ座のバレリーナとして出演している。「ハンニバル」では奴隷の踊り子、「イル・ムート」では伯爵夫人付きの侍女、「ドン・ファンの勝利」ではドン・ファンの召使という役。クリスティーンが誰かに歌のレッスンを密かに受けていることに気づいている。また、怪人の存在は知っているが、クリスティーンに歌を教えているのが彼であることは分かっていない。「ハンニバル」のリハーサルでは怪人のことを最初に口にしたり、クリスティーンを最初にカルロッタの代役に推薦したり、初演成功後にクリスティーンと会話(二重唱など)を交わしたりする。その後もたびたびマダム・ジリーと登場し、その場を彩る重要な人物である。ミュージカルの最後の場面では、舞台で一人、怪人が姿を消した後に椅子の上に残された仮面を手にして静かに辺りを見回す。

Joseph Buguet ジョゼフ・ブケ 役 Nick Holder (ニック・ホルダー)
オペラ座の大道具主任。「ハンニバル」リハーサル中の事件で怪人の存在を匂わしたり、バレリーナたちを脅したりするが、「イル・ムート」上演中に起きた混乱の中で怪人に首を吊られて殺される。

Madame Giry マダム・ジリー 役 Liz Robertson (リズ・ロバートソン)
オペラ座のバレー監督。メグ・ジリーの母親でありクリステイーンを引き取ってバレリーナとして育てている。怪人に関する昔のことやクリスティーンに歌を教えているのが怪人であることを知っていて、これまでオペラ座で起こった奇妙な事件は怪人の仕業だと薄々気づいている。また、怪人のメッセンジャー役をせざるを得ない立場に立たされることもあり、穏便に事を済ませようとして努力するが、最終的に知っていることをシャニュイ子爵(ラウル)にすべて教え、皆で怪人を捕えることに力を貸す。

Christine Daaé クリスティーン・ダーエ 役 Sierra Boggess (シエラ・ボーゲス)
クリスティーという表記は英語の発音に近い表記である。パリが舞台であるから他の人物のようにフランス語に近い表記をすればクリスティーになるだろうが、ミュージカルの中ではクリスティーと聞こえるのでそのように記していく。
スェーデンのヴァイオリニストを父に持ち、父が存命中はラウル(シャニュイ子爵)と一緒に遊んだ仲だったが、父の死後マダム・ジリーに引き取られラウルとも別れ別れになってしまった(このあたりの経緯はミュージカルの中でそれとなく分かる程度)。メグと共にオペラ座のバレリーナをしているが、秘密裏に怪人から歌のレッスンを受けていて主役を務めることができるほど上手になってきている。クリスティーンはカルロッタの代わりに「ハンニバル」で見事にエリサ役を演じ初演を成功させる。その初演後にラウルと再会するがすぐに怪人によって地下へと連れ去られる。
怪人が音楽の王国と呼ぶ地下で恐ろしくも不思議な時を過ごした後地上へ戻ったクリスティーンは「イル・ムート」でカルロッタが怪人によって歌えなくなるのを目の当たりにする。彼女はラウルの腕の中で怪人の恐ろしさを思い出し震えるが、同時に彼の音楽への思いを改めて認識する。しかし、クリスティーンはそれとは別に、幼なじみのラウルとの再会によって自分でも知らず知らずのうちに秘めていたラウルへの思い、ラウルの優しさ、そしてラウルの彼女に対する思いを知ることによって彼の求めに応じ密かに婚約する。その様子を見ていた怪人はクリスティーンを自分に取り戻そうと決心する。オペラ座の舞台ではクリスティーンがカルロッタの代わりに伯爵夫人を演じるが、怪人の怒りによってシャンデリアが落ちる。
半年後の演目「ドン・ファンの勝利」でクリスティーンはいやいやながら説得に応じて怪人をおびき寄せるため怪人の要求通りアニータ役を演じるが、途中で怪人に連れ去られてしまう。
他の出演者がほとんど英国で学び英国を本拠地としているのに対し、シエラ・ボーゲスはアメリカで演劇を学び、デビューもアメリカだった。そして2・3の作品を除いてアメリカでの出演が多い(ウィキペディアより)。「オペラ座の怪人」25周年記念公演のクリスティーン役はたった2日間の出演だったがその評価は最高レベルである。

The Phantom of the Opera オペラ座の怪人 役 Ramin Karimloo (ラミン・カリムルー)
生まれつき醜い顔のためサーカスの見世物として扱われてきたが、多彩な才能を持っている。ある時逃げ出して、オペラ座の地下室に隠れ住みクリスティーンに歌の指導をし、彼女をプリマドンナにすべく手を尽くすようになる。同時に彼女に対する思いが募り、ラウルと彼女が恋仲になると怒りと嫉妬を燃やすようになって、様々な災いを引き起こす。自分が作曲したオペラ「ドン・ファンの勝利」上演中にクリスティーンを拉致するが、ラウルたちに追いかけられる。追ってきたラウルを罠にかけるが、クリスティーンの思いを知ると2人を逃し、姿を消す。
ラミン・カリムルーはイラン生まれのカナダ人。正規の音楽教育を受けていないが、ロンドンに向かう船内ショーの役者としてイギリスに渡りロンドンで認められた。俳優としてのキャリアはほとんどロンドンでのもので、ミュージカルへの出演を数多くこなしている(ウィキペディアより)。


「オペラ座の怪人」の舞台

2021-03-28 | 趣味

ミュージカル「オペラ座の怪人」に関する劇場を3つ取り上げる。パリのオペラ座、ロンドンのハー・マジェスティーズ・シアター、同じくロンドンにあるロイヤル・アルバート・ホールである。

まず、パリのオペラ座であるが、この劇場は題材としての舞台となっているだけで、ここでミュージカルが上演されているわけではない。しかし、ガストン・ルルーの原作に大きなインスピレーションを与えているので情報として知っておくべきである。この劇場はシャルル・ガルニエの設計によって1875年に完成し、ガルニエ宮とも呼ばれ、2,100余りの客席が5層に配分される大きな歌劇場である。豪華絢爛なネオ・バロック様式 の外観と内装を持ち、正面を入ると客席に向かう大階段があり、大ホールの観客席頭上には大きなシャンデリアとシャガールの天井画がある。大きな建物を支えるために深い基礎が必要で、建設中に基礎壁から水が浸入してきてポンプで排水したが、思うようにならず、結局基礎を二重構造にして外からの圧力に対応するため基礎の一部として水路と防火用の貯水池を造った。また、1896年にはシャンデリアが、それを吊り下げているワイヤーが切れて落下するという事故があり観客に死者が出た(ウィキペディア)。これらのことはガストン・ルルーに小説の題材として取り上げられ脚色された。そしてロイド・ウェバーのミュージカルのシーンにも使われている。

ハー・マジェスティーズ・シアターはロンドンのピカデリー・サーカスからトラファルガー・スクエアに向かって徒歩で数分のヘイ・マーケットという場所にある1705年に完成した劇場で、当時のアン女王(在位1702~1714)にあやかって名付けられた。女性が君主として在位中であれば、ハー・マジェスティーズ(女王陛下の)になり、男性が君主であればヒズ・マジェスティーズ(国王陛下の)と名前を変える。1830年代にはメンデルゾーンが指揮者・作曲家として活躍した劇場でもある。これまでに火災で2回全焼しているが、現在の建物は1897年に建てられ客席は4層1,216席になっている(ウィキペディア)。1986年10月の初演以来今日まで(2021年現在)35年以上もロイド・ウェバー版の「オペラ座の怪人」の上演劇場となっていて世界中のミュージカル・ファンには欠かせない訪問先である。開演前の舞台上には大きなシャンデリアが覆いをかけられて置かれており、開演後、プロローグの終了と同時に覆いが取り除かれワイヤーで観客席の上に吊り上げられる。そして第1幕の終了直前に舞台上に落ちる(といってもワイヤーが切れるわけではない)ように降りてくる。舞台と客席最前列の間にはいわゆるオーケストラ・ピットがあるが、1階席からは演奏者はほとんど見えない。

ロイヤル・アルバート・ホールはロンドンのケンジントン公園の南側に通りを挟んで隣接しており、ビクトリア女王(在位1837~1901)の夫君であるアルバート公を記念して1871年(彼の卒去約10年後)に完成した演劇場である。ここではさまざまなイベントが開催されコンサートばかりでなく、テニスやボクシングも行われる。収容人数は最大9,000人ということだが、現代の安全基準に照らして7,000人となっている(ウィキペディア)。2011年10月には「『オペラ座の怪人』25周年記念公演」が行われ、その様子がDVDやBDに収められ発売された。ハー・マジェスティーズでは地声で演じることができるプロの俳優であっても小さなマイクを頬のあたりに設置して音声を増幅させなければならないほどロイヤル・アルバート・ホールは客席が大きく広い。記念公演では、オーケストラはピットで演奏するのではなく、舞台の奥の2階に当たるほどの高さに特設した場所で演奏している。会場の都合だと思われるが、舞台上の大階段を含む大道具の位置や演者の出入り、こまごまとした台詞やそのタイミング及び演出に関してハー・マジェスティーズでの通常公演とは少々違っている。


「オペラ座の怪人」はじめに

2021-03-27 | 趣味
2011年10月にロンドンのロイヤル・アルバートホールで行われたミュージカル「『オペラ座の怪人』25周年記念公演」のDVDをベースに個人的な解釈や解説をアップしたいと思う。投稿は気まぐれになりそうなので、いつ最後まで到達することやら・・・

原作はフランスの作家ガストン・ルルーによって書かれた同名の推理小説で1909年9月下旬から翌年の1月上旬まで新聞に掲載された。この小説はこれまでに何度か映画化され、ミュージカルにもなっている。ミュージカルで知られているのはケン・ヒル版(1976年初演)とアンドリュー・ロイド・ウェバー版(1986年初演)であり、ケン・ヒル版の方が原作に近いあらすじになっている。しかし、今ではロイド・ウェバー版が代表作のようになっていて、ロンドンでの初演以来、ミュージカルとしては「レ・ミゼラブル」についで2位のロングラン記録を更新中(コロナ・ウィルス感染症の影響で約1年強の中断あり。2021年3月末現在では同年6月下旬に再開の見込み。)で、ニュー・ヨークのブロードウェイでは1位のギネス記録を更新中である。このことからもロイド・ウェバー版がいかに人気があるかがわかる。

ガストン・ルルーは原作を、怪人に指導を受けて頭角を現す歌手クリスティーンと、彼女が怪人に傾倒していく様子を見て悩み苦しむクリスティーンの幼なじみのシャニュイ子爵(ラウル)、そして怪人のクリスティーンやラウル等を巻き込む異常な行動を軸にした怪奇ロマンとして描いた。それをアンドリュー・ロイド・ウェバーはラブ・ストーリーのミュージカルに仕立て直し、1986年、ロンドンの劇場「ハー・マジェスティーズ・シアター」で初演。彼のミュージカルでは原作の内容が大幅にカットされているが、同時に原作にない設定も組み入れられており、原作よりも単純化されているとはいえ、ストーリーや背景の複雑さの点で他のミュージカルよりも内容を深く楽しむには難しさがあるように感じられる。しかしストーリーの背景に関するある程度の予備知識を持ち、あるいは回数を重ねて劇場に足を運べばミュージカルとしての素晴らしさをより堪能できるだろう。

米英ではトップに位置付けられている「オペラ座の怪人」ではあるが、日本では残念ながら公演回数から見る限りトップではない。日本では厳密な意味での連続公演記録は存在しないが、公演回数のランク及び人気では「ライオン・キング」や「キャッツ」の後塵を拝している。これは、「オペラ座の怪人」のストーリーが登場人物の相関関係及び背景の複雑さ、彼らの(劇中劇になっている)舞台での役割、そして劇中劇がストーリーの中で果たす登場人物とのオーバーラップが要因として挙げられるだろう。これらが舞台で日本語訳の歌詞や台詞を用いて提供されても、日本人にとっては深く理解し味わうことを難しくさせているからだと思われる。

本稿では、「『オペラ座の怪人』25周年記念公演」の台詞や歌詞とともに、ストーリーにまつわる一見蛇足とも思える事柄を気の向くままに記していこうと思う。