全身を様々な器具で拘束され、露出した肩や腕には、無数の針が深々と刺さってる。
粗末な布のようなもので身を包む彼女の顔色は悪く、血が通っていないだろう太ももより下は、土色を越えて腐敗が始まっていた。
辛うじて上下する胸は、儚く消えてゆく蝋燭の灯火の如く酷く危うい。
その力なく閉ざされた瞼が、ゆっくりと持ち上がった。
長いまつげの下の宝石のようだった瞳は、今はもう、光を映すことなく空ろに揺れている。
「こんな姿は、あなたたちに見られたくなかったのに」
浮かんだのは自虐的な苦笑。「ティウ――」僕は、搾り出すような声しかあげることができなかった。
「誰が、誰がこんなことを!」
怒りに髪を逆立てる君は、背後で固まっていた学生たちを睨みつけた。
その眼光の鋭さに、体を竦ませる学生たち。
「私だ」
学生の群れの中から、そんな声が上がった。
「お目にかかれて光栄だ、女神どの」
潮が引くように道を開けた学生の前で、不遜な態度で一礼をする初老の男。張り付いた笑顔には嘲りの色が濃い。
「あんたは?」
ともすれば飛びかかりそうな君を押さえ、僕は硬い声で聞く。
「それの――その子の父だ。もっとも血は繋がってはいないがな」
「ティウの義父?」
「あなた方のことは、娘からよく聞いている。その節は世話になった」
「心にもないことは言わなくていい。不愉快だ」
制止を振り切り、君が一歩、前へ出る。「その父親であるお前が、ティウをこんな姿にしたと?」
「全ては人の行く末を案ずるがゆえ――」白衣の男は嘲笑う。
「もっとも、それ程役に立ったわけでもないがな」
「お前は――」
弾かれたように君が走る。だが、
「動くな」
ほんのわずか、数メートル。その先で男は笑う。懐から取り出した拳銃を、僕たちに向けて……。
「古来より、銀は魔を滅ぼすという。果たして神はどうなのだろうな」
手のひらで弄ぶ一発の銀製の銃弾。拳銃にはそれが詰まっているといいたいのだろう。
「動くなよ。指一本動かせば……」
発砲――凶弾は、君の髪をかすめ、ティウの左足を破壊した。
「あ……あああ――!」
すでに痛覚はないのだろう、悲鳴をあげるでもなく、呆然と消失した左足を眺めるティウ。
「こうなる」男は銃口を君に向けた。
「本物の女神にであるのは初めてでな。ついつい手が滑ってしまった」
「私も」君も笑って応える。「ここまで殺してやりたい人間に出会ったのは初めてだ」
寒気がするほど静かな声音。男は動じることなく微笑んだ。
「一つ聞かせろ。お前は、人の行く末を案ずるがゆえ――そう言ったな」
「言ったな」
「ティウから、何か引き出すことはできたか?」
「それはもう――」まるで与えられた玩具を自慢するように男は続ける。
「すでに多くの知識は失われたが、今から数百年分の未来は、私の手の中にある。そして、その未来を覆すだけの力もな」
「そんなものを、お前は欲しかったのか?」
「そんなもの?面白いことを言う、女神どの」
男の目がすっ、と細まる。
「なんだったら、その男――あなた様の仲間がどこでどのように殺されるか詳細に語ろうか?」
粗末な布のようなもので身を包む彼女の顔色は悪く、血が通っていないだろう太ももより下は、土色を越えて腐敗が始まっていた。
辛うじて上下する胸は、儚く消えてゆく蝋燭の灯火の如く酷く危うい。
その力なく閉ざされた瞼が、ゆっくりと持ち上がった。
長いまつげの下の宝石のようだった瞳は、今はもう、光を映すことなく空ろに揺れている。
「こんな姿は、あなたたちに見られたくなかったのに」
浮かんだのは自虐的な苦笑。「ティウ――」僕は、搾り出すような声しかあげることができなかった。
「誰が、誰がこんなことを!」
怒りに髪を逆立てる君は、背後で固まっていた学生たちを睨みつけた。
その眼光の鋭さに、体を竦ませる学生たち。
「私だ」
学生の群れの中から、そんな声が上がった。
「お目にかかれて光栄だ、女神どの」
潮が引くように道を開けた学生の前で、不遜な態度で一礼をする初老の男。張り付いた笑顔には嘲りの色が濃い。
「あんたは?」
ともすれば飛びかかりそうな君を押さえ、僕は硬い声で聞く。
「それの――その子の父だ。もっとも血は繋がってはいないがな」
「ティウの義父?」
「あなた方のことは、娘からよく聞いている。その節は世話になった」
「心にもないことは言わなくていい。不愉快だ」
制止を振り切り、君が一歩、前へ出る。「その父親であるお前が、ティウをこんな姿にしたと?」
「全ては人の行く末を案ずるがゆえ――」白衣の男は嘲笑う。
「もっとも、それ程役に立ったわけでもないがな」
「お前は――」
弾かれたように君が走る。だが、
「動くな」
ほんのわずか、数メートル。その先で男は笑う。懐から取り出した拳銃を、僕たちに向けて……。
「古来より、銀は魔を滅ぼすという。果たして神はどうなのだろうな」
手のひらで弄ぶ一発の銀製の銃弾。拳銃にはそれが詰まっているといいたいのだろう。
「動くなよ。指一本動かせば……」
発砲――凶弾は、君の髪をかすめ、ティウの左足を破壊した。
「あ……あああ――!」
すでに痛覚はないのだろう、悲鳴をあげるでもなく、呆然と消失した左足を眺めるティウ。
「こうなる」男は銃口を君に向けた。
「本物の女神にであるのは初めてでな。ついつい手が滑ってしまった」
「私も」君も笑って応える。「ここまで殺してやりたい人間に出会ったのは初めてだ」
寒気がするほど静かな声音。男は動じることなく微笑んだ。
「一つ聞かせろ。お前は、人の行く末を案ずるがゆえ――そう言ったな」
「言ったな」
「ティウから、何か引き出すことはできたか?」
「それはもう――」まるで与えられた玩具を自慢するように男は続ける。
「すでに多くの知識は失われたが、今から数百年分の未来は、私の手の中にある。そして、その未来を覆すだけの力もな」
「そんなものを、お前は欲しかったのか?」
「そんなもの?面白いことを言う、女神どの」
男の目がすっ、と細まる。
「なんだったら、その男――あなた様の仲間がどこでどのように殺されるか詳細に語ろうか?」