テルサのFantastic Stories

今まで書きためていたとりとめもない物語を少しずつ連載していきます。ファンタジー物が多いです。ぜひ読んでみて下さい。

5-8 「ある国の物語」 第七章 思惑

2013-05-31 00:50:33 | 「ある国の物語」第七章
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このお話は・・・

森と湖の国ファンタジア帝国の少年帝は,実は宇宙を創世した天帝の12番目の息子にして運命の輪を廻す月の神の降臨した姿だった。彼をめぐる光と闇との戦いが今、始まろうとしていた。そして彼自身がもつ聖と魔性の両面性。果たしてこの世に月の聖帝は黄金の夜明けを告げるのかそれとも黄昏の時を告げるのか・・・・・。

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第5節 つかの間の安らぎ  第8話

「陛下」
「マリオ・・・私は幼少の頃より王子として何不自由なく暮らしてきました。そしてアシュラル帝からも皇帝となれば自分の思うがままの生活ができると常々言われ続けてきました」
「その通りでございます,陛下。我が国全ての者は人の子から大地,あり一匹にいたるまでみな陛下のものでございます。陛下の望まれる通りに全ての者がなりましょう。陛下にはそれだけの御力をおもちでございます」
「なのに・・・」

 少年帝は哀しい瞳で遙か遠くにまで青く広がる海を眺めやる。

「陛下?」
「私はこのファンタジア帝国の皇帝で,ルナ王国の国王だから私の望むものは全て叶えられるはずでしょう?どうして・・・どうしてその皇帝たる者のただ自分の国にいたい,という願いが叶えられないのですか?」
「ラミエル陛下・・・」
「私は何も望まない。このファンタジアにいられるなら皇帝でなくてもいい。ただ一生を静かに,この森と湖に囲まれた自然豊かな国で過ごしたい。それだけなのになぜみんなは私を他の国へ行かせようとするのですか?」

 月の君はやり切れない思いをマリオ最上大臣にぶつけた。彼が,いくら守り役と言えどこれほど自分の気持ちに素直に感情を言葉にするのは滅多にないことだった。
 マリオ最上大臣は落ち着いた優しい眼差しでラミエル帝を見る。

「陛下はこの国の当主。正統なルーン皇家とルナ王家の血を受け継ぐ者。何にも恐れることはございません。この国は陛下の物ですからずっとおいでになればよいのですよ。御自分をしっかりおもちなさい。既に陛下はそう決めていらっしゃるのでしょう?」
「でも,私が20歳になったらクリスタリア神皇国へ行けとみんなが言います。そうしなければこの国どころか世界が滅びてしまうと・・・。この身体は月の神レイミール・ラ・ルネシス神に支配されてしまいます」
「御案じなさいますな,陛下。陛下はずっとずっとこの国におられる御方です。月の神様なんか放っておかれませ。この私が陛下をお守りいたします。この命に替えましても・・・・・」
「マリオ・・・」
「陛下にはその権利がおありになるのですよ。周りの者の言うことなど捨ておかれませ。陛下が20歳になられる日にどこにおいでになろうと陛下の勝手でございます」

 ラミエル帝は,その言葉にマリオ最上大臣の方に体を向ける。

「でも,このままでは私は魔性となってこの世を滅ぼしてしまうかもしれません。月のサークレットがなければ私は魔性となってしまいます。この5つの聖石も不要なのにこの首からはずすことができません」
「大丈夫,魔性の月神様もこの国をとても愛して下さり,一生懸命陛下のように政務もされておりましたよ。聖石もたとえあと2つが揃おうと持ち主がしっかりと強い心をもっていればそれでよいのです」
「本当に・・・私はずっとこの国にいていいのですか?20歳過ぎても?」
「もちろんです。私がついていますから大丈夫だと申し上げたはず」

 ラミエル帝はその時,コップを持ったまま嬉しそうに笑った。冷静沈着なこの天下のラミエル・デ・ルーン帝をここまで不安にさせるとは・・・。月の神の恐ろしさをマリオ最上大臣は感じていた。そして目の前の少年帝を見ながら本当に命を捨てることになっても,この皇帝を守ろうと改めて心に誓ったのだった。

「マリオ・・・私はこの都に来て良かったと思っています。一度・・・どこまでも広がる海を見てみたかった」
「それは良かったですね,陛下」

 月の君は,またふと哀しい表情に戻って遠くまで広がる海を見る。

 静かな時間が流れていく。


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「ある国の物語」
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5-7 「ある国の物語」 第七章 思惑

2013-05-27 22:15:13 | 「ある国の物語」第七章
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第5節 つかの間の安らぎ  第7話

「陛下のお心の底が見えませぬ」
「は?マリオ最上大臣・・・今・・・何と」
「私には陛下の言動全てが上辺のものにしか見えぬのです。お二人のためにわざと楽しそうにから元気で振る舞われて・・・。本当は一人きりで静かに水平線の彼方をご覧になっていたいでしょうに」
「し・・・しかし,あんなに笑顔で楽しそうなご様子ですが」
「陛下・・・」

 マリオ最上大臣は3人の中の1人の姿をずっと追っていた。本当は月の神に絡んで不安であろうに。あと2年で自分が自分でなくなってしまうことから逃げてしまいたいであろうに・・・。18歳の若い小さな胸にそれを受け止め,二国の将来を案じるラミエル帝の胸の内はいかほどのものであろう。

 皇帝が3歳の時からずっとお世話をしてきた守り役の彼には,あの月の君とは信じ難い明るさと幼さが胸の内の不安を吹き消すかの如くわざと創り出されているように思えて仕方がなかったのだ。

「おーい,泳ごうぜ。競争だ」
「だからあ,俺泳げないって言っただろう」
「マリウス,男だ,飛び込め」
「わあ~」

 アデル王子とフェリス皇子を大臣に預け,3人は高い岩場からエメラルドグリーンの美しい海に飛び込んで少し離れた岩場まで泳いでいく。やはり一位はラミエル帝で優雅に余裕ですいすいと泳いでいく。マリウス皇子は飛び込んだものの溺れそうになりながら必死で泳いでいく。ハービア王子は教えてやると言いながら無情にもラミエル帝に負けまいと必死で泳ぐ。ラミエル帝は岩場に着くとすぐさま折り返してマリウス皇子救出に向かった。

「サンキュー,ラミエル。お前だけは見捨てることはないと思ってたよ」
「世界皇帝会議の開催国の世継ぎに何かあっては困りますからね」
「・・・・・・」
「でも,泳げてますよ。マリウス皇子。ほら・・・・」
「え?あ・・・・浮いてる」
「ここは波もないですし,向こうまで行けそうですね」
「よし,フォスター初の泳げる皇子を目指すぞ~」
「頑張って下さい」
「ああ,お前ってば・・・最初とっつきにくい奴だと思ってたけどいい奴だなあ」

 マリウス皇子はラミエル帝の真似をしながら泳いでいく。

「へえ,泳げるじゃん」
「ハービア~,お前って奴は・・・・この薄情者」
「いいじゃん,おかげでほら・・浮き輪でばしゃばしゃしなくてすんだ」
「何だと~」

 また3人のじゃれ合いが始まる。3人は暫く泳いていたが,昼に近くなったので一度宮殿に戻り,シャワーを浴びて寛いでから昼食をとった。

 ラミエル帝は弟達と3人ととり,午後からはハービア王子達は昼寝,ラミエル帝は1人静かに海の見える部屋の机に向かって仕事をしていた。波の音が耳に心地よい。窓から吹いてくる潮風もとても気持ちがいい。

「陛下,お飲み物でも」

 マリオ最上大臣がそっとアイスティーを差し出す。

「ああ,ありがとう」

 ラミエル帝はペンを置くと少し喉を潤して,遠く彼方まで広がる青い海を見つめる。

「陛下,何をお考えです?」

 一番身近な大臣が優しく問いかける。マリオ最上大臣は言わばラミエル帝の親代わりと言っても過言ではない。彼が3歳の時にファンタジア帝国に連れてこられてからずっと彼を一番に思い,仕え,育ててきた守り役である。

「やはりお前を誤魔化すことはできないな」

 ラミエル帝はちらっとマリオ最上大臣を見ると,またアイスティーで満たされたグラスを手にとった。


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5-6 「ある国の物語」 第七章 思惑

2013-05-27 20:15:02 | 「ある国の物語」第七章
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第5節 つかの間の安らぎ  第6話

 ファンタジア帝国へ戻ったラミエル帝は取り敢えず急ぎの政務を済ませ,森と湖の国でありながら海にも接している大都市リフ・レインの都へ行くことにして出発の準備をしていた。そこへちょうどハービア王子がマリウス皇子を連れてファンタジア帝国へ遊びに来たので,ラミエル帝は2人も連れて旅立った。リフ・レインの都はファンタジア帝国の中でも南端に属するので船で5日ほどかかる。ファンタジア帝国とイリュージョン帝国の国境を流れるアフタル川に沿って,彼らは南へと下った。5日後,リフ・レインの都に到着。一行は地方宮に落ち着き,ラミエル帝は2人に紅茶を入れてもてなす。

「あ~,素晴らしいなあ。一面に海が見える。さざ波の音も聞こえる。最高の贅沢だぜ」

 太陽の君は大きな窓の向こうに広がる広大な海を見つめて感動している。

「おい,明日は浜辺で思いっきり遊んでさ,泳ごうぜ」

 ハービア王子のうきうきした言葉にマリウス皇子はええ~と言った。

「何だよ,ハービア。俺が泳げないの知ってるくせに」
「知ってるさ。遠くに行かなければいいんだよ。浮き輪も用意してやるからさ」
「やだ。一国の皇太子が浮き輪でばしゃばしゃなんて」
「悔しいなら特訓して泳げるようになれよ」
「大地の国に泳ぎはいらないんだよ。フォスターの血筋は代々金槌なのさ」
「何だよ,それ。いつ何がどうなるか分からないっていうのにそれじゃ困るだろ。世継ぎだからこそ何が起こっても切り抜けられるようにしてなくちゃ」

 ハービア王子の言葉にマリウス皇子はムッとなる。

「ラミエル,何とか言ってくれよ~。こいつめ」

 2人の言い合いに月の君は1人すまして紅茶を飲んでいる。

「必要に迫られれば人間何でもできるようになりますよ」
「おい,それってフォローになってないんじゃ・・・・」
「贅沢言うな,マリウス。ラミエルの言う通りだ。さ,もうこの話は終わりにしようぜ。明日,俺様が特訓してやるからさ」
「ちぇっ,お前に借り作るのなんか嫌だなあ」
「ふふん」

 ハービア王子はよいしょっとソファに腰を下ろすと,カップに手をかけた。

 ラミエル帝は弟達も連れてきていて,兄らしくフェリス皇子やアデル王子の世話をしている。

 翌日,5人は大臣達やお付きの内官達も連れて浜辺に遊びに行った。皇宮のプライベートビーチなので彼らの他に人影は見られない。彼らは波打ち際で水を掛け合い,幼いフェリスとアデルはもう嬉しくて嬉しくてきゃいきゃいと大はしゃぎで走り回る。そのうちラミエル帝,ハービア王子,マリウス皇子の3人は本当にごく普通の少年らしく3人でじゃれあい,ふざけ合う。

「マリウス~!てめえ俺様の美しい肌に砂かけたな,許さ~ん,覚悟しろ」
「わあ,知らないよ。ラミエル,見てたよな」
「さあ」
「ほら見ろ。ラミエルを楯にするとは卑怯な奴。出てこ~い」
「マリウス皇子,ここは逃げた方が良さそうですよ」
「わあ,ラミエル。置いていくな,待ってくれ」
「マリウス,つ~かまえた」

 3人は膝までの波に浸かりながら水を掛け合い,追いかけたり引っ張ったり走り回ったりして,最後には3人もろともこけた。

 その様子を見ていた大臣達はそれこそ大興奮していた。

「ルーラ最上大臣,マリオ最上大臣,陛下が・・・・陛下があのようにはしゃがれるなんて,初めて見ました」
「海にお連れして良かったですな。まして,ハービア王子様,マリウス皇子様が加わってくださったおかげで陛下も嬉しいのでございましょう。本当にまるで子供のように・・・」
「何を言っておる,陛下は子供ではないか」
「は,そうでございました」

 ルーラ最上大臣も目を細めて悪友達と笑顔を見せる月の君に目を細める。しかし,守り役であるマリオ最上大臣だけは違う思いでラミエル帝を見つめていた。

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5-5 「ある国の物語」 第七章 思惑

2013-05-27 02:07:21 | 「ある国の物語」第七章
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第5節 つかの間の安らぎ  第5話

 ファンタジア帝国皇帝の後ろ姿を見送りながら,デーリー帝はやれやれと溜息をついた。

「似合いの2人なのだが・・・何とかならぬものか」

 それを少し後ろで聞いていたルチア女官長は思わず吹き出していた。

「陛下,それは前に私が陛下に申し上げた言葉でございますよ」
「そうであったな・・・。いや,まいった」
「ファンタジアでは,魔性の月神に姫様を引き合わせては・・・という話も出ているとか。魔性のレイミール・ラ・ルネシス神様は噂では女性の扱いもお上手でその気にさせてしまうのもお得意とか・・・。既成事実を先に作ってしまうという手を考えられている方もいるとか・・・。ファンタジアにしてみれば,それは皇帝陛下のご実子に世継ぎになっていただきたいと思うでしょう。ラミエル皇帝陛下が御結婚自体を拒否されているとなれば,そういう強硬な手も仕方ないと考える者が出てくるのも仕方がないと言えば仕方がないかと思われます」
「博愛精神の聖なる月でもなく,女性を本気で愛そうとしないラミエル帝でもなく・・・か。魔性のレイミール・ラ・ルネシス神は特定の人を一途に愛すると言われているが・・・・しかしな,ルチア女官長,今まで愛した人がいるという神話は聞いたことがないぞ。魔性のレイミール・ラ・ルネシス神に愛した人が今までいたか?」
「彼の神様の神話の中で唯一出てくるのが星の女神スターリア様だと言われております。一説に我が姫様はスターリア様の生まれ変わりとも言われておりますが」
「となると?」

 興味深くデーリー帝が尋ねる。

「魔性のレイミール・ラ・ルネシス神様が,姫様と出会われた時,そのままお召しになって下さればよいのです」
「ふ・・・む」

 デーリー帝は考え込む。

「しかし・・・やはり娘にはラミエル帝と結ばれてほしいのじゃが・・・。姫の恋いこがれるはラミエル帝じゃ。レイミール・ラ・ルネシス神ではない」
「ラミエル様とていかに自分に記憶がなかろうと,既成事実を前に突っぱねるわけにはいきませぬ。姫君の貞操を奪った責任はとても重いのです」
「それでは姫が可哀想じゃ。処女をレイミール・ラ・ルネシス神に捧げることになってしまう。やはりラミエル帝でなければならぬのじゃ」

 デーリー帝の言葉にルチア女官長は深い溜息をついた。

「ほう・・・・世界に殿方はたくさんいらっしゃるのに・・・・。月の君以外の方なら姫様との仲を何とでもできましょうものを。でも,よりによって難攻不落と名高いラミエル様に恋いこがれていらっしゃるとは・・・」

 2人はまた溜息をついた。

「姫にはファシス王子との件もある。好青年とお見受けしたが,姫は乗り気ではないようじゃ」
「まあ,陛下。こう言ってはなんでございますが,あの天下のファンタジアのラミエル様を目の前にして心奪われない姫君などおりません。まして,近づけないならともかく,こうしてお話ができたり一緒にいられたりすることがあればあるほど,諦めはつかないでございましょう」
「ふむ・・・・」

 デーリー帝は何とか可愛い愛娘の淡い恋心を叶えさせたいと思った。

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5-4 「ある国の物語」 第七章 思惑

2013-05-23 23:23:17 | 「ある国の物語」第七章
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第5節 つかの間の安らぎ  第4話

「陛下,噂ではラミエル様はあと2年で月の神様に覚醒されるということですが・・・」
「うむ,そうじゃ。しかし・・・本当にそうなるかどうかは誰にも分からぬ。ラミエル帝は両親の愛を十分受けずして育った不幸な御方じゃ。せめて今のうちでも幸せになってもらいたい。それは先帝アシュラルの旧友としての私の責任だと思っておる」
「姫様はかなりラミエル様をお慕いしていらっしゃるご様子。ラミエル様もまんざらではなさそうなのですが・・・うまくいきません」
「こればかりはのう。私でもどうにもできん」
「そうでございますよねえ,陛下。アルコン様は本当の兄上になって欲しいと口癖のようにおっしゃっておられますが・・・」
「あいつはラミエル帝をこの上なく尊敬しているからな」
「なんとかなりませんか」
「なんとかならぬのはそなたが一番よく知っていると思うが?」

 デーリー帝とルチア女官長は遅くまで話し込んでいた。

 夜中,ふと目を覚ましたセイラ姫は辺りを見回してどきりとした。満天の星が煌めく薄暗い部屋の中でいつの間にか自分は眠ってしまっていたらしい。ふと横を見ると,ラミエル帝も静かに目を閉じて眠っている。珍しく横向きで自分の方を向いている。父が掛けてくれたのだろう,2人にはそれぞれ軽い薄手の掛布が掛けられていた。

 普通ならすぐ気が付くはずのラミエル帝である。まして,人前では寝顔を見せないので有名なあの冷たき月の聖帝が今,自分の横で眠っている。自然と胸がときめき,自然と顔がほてってくる。寝顔を見るのは初めてではない。でも,久しぶりなのでドキドキしてしまう。

 眠っている時の月の君はとても可愛い。あの哀しそうな冷たい瞳が見えないせいだろうか。幼く,全くの少年の顔である。星姫はそれからはあまり眠ることができず,ずっと起きていた。すぐ側には憧れの君が眠っている。

〈この時間がずっと続いてくれたら・・・。いつまでも陛下とここでいろいろなお話ができたら・・・〉

 星の国の姫君は時が止まってくれたらいいのに・・・と思ってしまうのだった。

 そんなセイラ姫もまた気持ちよくうとうととなってきて目を閉じる。

 2人が起こされたのは日が昇って間もなくの頃だった。

「ラミエル皇帝陛下,姫様,おはようございます。朝ですよ」

 女官長ルチアが声を掛ける。その声にハッと飛び起きたのはラミエル帝だった。

「お目覚めでございますか?ラミエル皇帝陛下」
「あ・・・おはよう,女官長。すみません,今,何時ですか?」
「今でございますか?6時でございますが・・・」
「6時・・・。しまった・・・ちょっと寝過ごした・・・」
「お急ぎでしたか,陛下」
「9時から会議を入れていたのです。今から帰っても間に合わないな」

 掛布をさっさとたたみながら月の君は溜息をつく。

「また随分とお忙しくスケジュールを組まれたのですね,陛下」
「昨夜ファンタジアに帰るつもりだったのです。すっかり寝てしまってました」
「そうでございましたか。でもまあ・・・・今からですときっと急いでご帰国されても到着されるのは11時を回ることでしょう。それならば遅れついでにゆっくりなさってはいかがですか?とりあえず泉の間にどうぞ」

 女官長は時間を気にしている月の君を泉の間に通し,セイラ姫の身の回りの世話をする。
 
 朝食もデーリー帝,セイラ姫,アルコン皇子達と一緒にとって,月の君はお礼と挨拶を丁寧にしてまた1人自国に帰っていった。 


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5-3 「ある国の物語」 第七章 思惑

2013-05-23 00:49:46 | 「ある国の物語」第七章
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第5節 つかの間の安らぎ  第3話

「あの星は知っています。南の赤い瞳・・・さそり座のアンタレスですね」

 月の君は南の空に光る巨大な赤い星を指さして言った。

「はい。もうかなり年老いた星です」

 星姫もその星に目をやりながら優しく言った。

「今日は銀河がよく見えますね。何だか吸い込まれていきそうです」
「本当に・・・。月がだいぶ細くなったので星が見えるのでしょう」
「星見の塔とはよく言ったものだ。私も自分の宮殿にこのような星の見える塔を建てようかなあ。ここの隣国なら星も見えそうだけどな」

 長い足を投げ出し,彼は少年に戻ったように可愛い表情で独り言のように呟いた。

「それはいいお考えです,陛下。ぜひお作りになって下さい。そこにベッドを置いたら最高の気分ですよ,きっと・・・」

 セイラ姫はにっこりして星空を見ていた輝く瞳をいったん月の君に移し,再び上を見上げた。

「そうだな。星空の見える寝室なんて最高の贅沢だ」

 その日のラミエル帝は本当に普通の少年になっていた。セイラ姫とよく話し,笑顔を見せる。

「陛下・・・」
「こうして夏の星空を一度ゆっくり見てみたかったのです。母シフェラザードの好きな空で,会えた時はいつもいろいろな話をしてくれていました。今なら,星座の1つ1つの形がよく分かります。白鳥座やこと座,わし座に射手座などわりとたくさん見つけられるようになりました」

 星座図の通りに並んでいる星空を見ながら月の君は少し嬉しそうに話す。その顔が18歳の少年らしいとても可愛い顔で,セイラ姫はますます月の君の引力にとらわれてしまった。

「本当によく御存知ですね。望遠鏡で見られたらもっと興味深く面白いのですが,生憎今,ちょっと修理中なのです。お見せできなくて残念です」
「望遠鏡ならあの星の点が違う物に見えるのでしょうね」
「はい。1つの星のように見えて星雲だったり星団だったり違う色だったり・・・特に白鳥座の二重星は美しいですよ」
「そうですか・・・・見てみたかったな」
「望遠鏡が直ったらまたぜひおいでください,陛下」

 飲み物を勧めながら星姫は言った。
 ラミエル帝はひどく星見の塔が気に入ってしまって夜が更けてもそこにいた。デーリー帝が彼がそんなに気に入ったのならと掛布を持ってきてくれた。月の君と星姫は何やら2人で話をしていたが,デーリー帝が寝ころんで星空を見るなら枕も・・・と上がって来た時,2人はそのまま眠り込んでしまっていた。

「やれやれ」

 デーリー帝は困ったが,2人の掛布をそっと直してやり,枕を側に置くとクスッと笑ってまた下へ降りていった。

「あの月の君がなんと無防備な・・・・。他国なら姫と一緒に休んだと大騒ぎになるところだ。セイラがよほど信頼されているのか,それとも女性として意識されていないのか・・・ラミエル殿はよく分からぬ」

 苦笑いしてデーリー帝は女官長のルチアに言った。ルチア女官長はそのふくよかな体の上についた穏やかな顔をほころばせる。

「陛下,ラミエル様は何だかんだ言ってもまだ20歳にも満たない18歳の子供ですよ。姫様とは昔からの知り合いでございますし,前は2人で何日も旅をして帰ってこられたではありませんか。私はその旅の途中の方を心配して・・・・いえ・・・一部は期待をしていたのですけれども・・・。お二人とも子供だから大体の想像はつきます」
「ほう」
「お2人の場合,男とか女とか関係なくて本当に仲の良いお友達なのでしょう。まあ,ラミエル陛下を困らせてみることはできますけどね。姫君と一夜を共にした・・・責任をとれ・・・とね」
「ははは・・・・面白い趣向だがラミエル殿をいじめるつもりはない。最近ようやく子供らしくなられたとファンタジアの大臣達は大喜びじゃ。ま,ラミエル殿もいずれは大人の恋を知ろう」

 デーリー帝はゆっくりとコーヒーを飲みながら星見の塔の2人を思った。

  
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5-2 「ある国の物語」 第七章 思惑

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第5節 つかの間の安らぎ  第2話

「恐らくは,やはりレイミール・ラ・ルネシス神にすがっている者がいるのでしょうな。この世を変えることができるのは運命の輪を廻すあの御方だけと言われておるからな」

 デーリー帝の言葉に森と湖の国の主は少し首を傾げる。

「デーリー殿,私にはよく分からないのです。何故みんなわざわざ魔性の月を呼び出そうとするのでしょうか。人間に幸福と平和をもたらすのは聖なる月神のはず。なのにわざわざ天帝大神に封印された魔性の月神にすがるなんて,これは一種の天帝大神への背信行為になりませんか?」
「確かにな。そなたもかなり迷惑しておろう。しかしな,ラミエル殿,中には今の世に絶望している者もおるのじゃ。その者にとっては新しい世はとてつもなく魅力的なものとなるであろう。まして,その力をもつものが今,降臨しているとあれば・・・。人間にとって魔性は至上の魅力。その恐怖がさらに心を惹き付ける。伝説の月神レイミール・ラ・ルネシス神は魔性となった時,その圧倒的な美貌と力で全ての生きとし生けるものの心をとらえ,惑わせたと聞くが・・・。その話を知る者がその皆を強烈に虜にした魔性の月に魅せられ,美貌を見たいと思っても仕方があるまい。まあ・・・・人間の弱い心を思い知らされるところではあるがのう」

 ラミエル帝は,デーリー帝の言葉を黙って聞いていた。2つの聖石が行方不明になった。もしそれが魔性の月神・・・即ち本来の持ち主に渡ったらどうなるのだろう。

 彼は左手で継ぎ目のない5つの聖石がはめこまれたペンダントの鎖にそっと触れた。このペンダントはもともと7つの土台をもっている。しかし,今,5つしか揃っていないのであとの2つの土台は聖石の代わりに月の神の象徴である黄水晶がはめ込まれている。もし,そこに黒と緑の水晶・・・あの闇と生命を司る聖石がはめこまれたらどうなるのだろうか。

 月の君は暫く黙っていたが,やがて美しい顔を少しあげて遠くを見つめているような眼差しで口を開いた。

「私は天帝大神のこの世が好きです。もし,月の聖帝がこの聖石を使ってこの世の破壊を企むなら,私は私の首を切り落とし,聖石を封印しなければなりません。聖なる方はともかく,今の魔性の月はただの父親への復讐の鬼と化しているだけです」
「ラミエル殿・・・」
「私は世間を騒がせ過ぎてしまいました。イリュージョン国から帰ったらもう当分は自国から出してもらえそうにありません」
「それはお気の毒なことだ。まあせいぜいこのイリュージョン国でゆっくりされるがよろしかろう」
「ありがとうございます」

 その夜,ラミエル帝は星見の塔の最上階でセイラ姫と2人で座り込んでいた。辺りはガラスドームで覆われ,さながら星の中にいるような綺麗さである。床はベージュのふかふかの絨毯で覆われ,2人はその上にぺたんと座り込んでいた。これは,つい先ほど珍しくラミエル帝の方から星が見たいと申し出て,デーリー帝がそれならと星に詳しいセイラ姫をつけてくれた結果であった。
 前に見たのはもっと寒い時だったので,冬から春の星座が見えていたが,今は夏の星座が見えている。


 
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5-1 「ある国の物語」 第七章 思惑

2013-05-19 21:38:21 | 「ある国の物語」第七章
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このお話は・・・

森と湖の国ファンタジア帝国の少年帝は,実は宇宙を創世した天帝の12番目の息子にして運命の輪を廻す月の神の降臨した姿だった。彼をめぐる光と闇との戦いが今、始まろうとしていた。そして彼自身がもつ聖と魔性の両面性。果たしてこの世に月の聖帝は黄金の夜明けを告げるのかそれとも黄昏の時を告げるのか・・・・・。

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第5節 つかの間の安らぎ  第1話

 ハービア王子がレイクント王国に帰国して間もなく,どこからともなくファンタジア帝国のラミエル帝が結婚するとかどこそこの国に狙われているとかいろいろな噂が飛び交うようになった。
 相手があの天下の月の君だけに大丈夫なことは分かっているが,それでも太陽の君は気が気ではなかった。

「あー気になる。いつも側にいて見ておきたい。何か心配だ」

 レイクント宮でハービア王子はうろうろ落ち着きなく歩きまわっていた。

「殿下・・・」
「エルア・・・ごめん。お前には本当に悪いと思ってる。いつもほっといてさ。でも,今,あいつの周りは不安定でなぜかあいつが心配なんだ」
「分かります。でもあの御方は1人でも大丈夫ですよ」
「うん,分かってる。それはこの俺が一番よ~く分かってるつもりだ。でも気になって仕方がないんだよ。変な噂がいっぱいあるからさ」

 エルア王子妃はそんなハービア王子を優しく見守っている。エルア王子妃は太陽の君の良き理解者だ。彼女にはハービア王子は絶大の信頼をおいている。そして王子妃も決してその信頼を裏切ることはなかった。とても仲の良い2人である。

 いろいろな噂をよそに,当のラミエル・デ・ルーン帝は政務に追われ,そのうちアフタル川にもう1本ルナ国側からイリュージョン国へ橋を架けるということで,彼は星の国イリュージョン帝国に赴いていた。
 はずすと頭痛に襲われる月のサークレットとはずそうと思ってもはずれない5つの聖石のペンダントをしたまま,彼は相変わらず供も連れず,1人でやってくる。すぐ近くの隣国なのでラミエル帝もルナ国へ行く時の気軽さで遊びに来たような感じである。

「では,そういうことで。設計は今年中には完成させ,来年着工予定でいいですか」

 ラミエル帝はいつものようにさっさと話を進めていく。デーリー帝はいつもその彼の無駄のない仕事ぶりに感心させられるのである。
 会議後,彼はアルコン皇子に頼まれていた本を渡した。

「わあ,まさか本当に手に入るなんて・・・。ありがとうございます。本当に嬉しいです」

 アルコン皇子は大喜びである。

「大切にして下さいね。その本は伝説の書。世界に100冊しかないと言われていますから」
「はい,もちろんです。ありがとうございます,兄上」

 イリュージョン帝国の第一皇子は有頂天になって喜んでいる。その様子をラミエル帝は優しい眼差しで見ていた。

 そのうち夜になり,デーリー帝主催の夜会が開かれた。ラミエル帝はデーリー帝と政治の話をしていた。

「ところで・・・御存知かな?ラミエル殿」
「何をですか?」
「これは・・・本当かどうか分からない話ではあるが・・・。我が国の高名な占師によると,クリスタリア神皇国に封印されていると言われる7つの聖石のうちの残りの2つの聖石が行方不明になっているそうじゃ」

 デーリー帝は低い声でそっと言った。

「聞けば最も恐ろしい闇と生命を司る2つの聖石だそうだ。気を付けられよ,ラミエル殿。レイミール・ラ・ルネシス神に渡れば今度は間違いなくこの人界はとんでもない恐怖にさらされることになるだろう」
「お気遣いありがとうございます」

 ラミエル帝は落ち着いた態度を変えない。


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4-11 「ある国の物語」 第七章 思惑

2013-05-19 12:14:52 | 「ある国の物語」第七章
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第4節 聖なる月  第11話

 夕食も済み,ハービア王子は強引にラミエル帝を誘ってムーンレイク宮殿の3階テラスに行った。月の君を真っ白い椅子に座らせると,自分はテーブルをはさんで向かい側に座った。
 月の君は5つの聖石をあしらったペンダントをしたまま黙っている。

 この前,天照教のルベール大司教から,この聖石をはずそうと思えば,聖石自らが主人として認めず放棄するか,ラミエル自身が首を切り落とさなければならないだろうと聞いた。そして,あと2つの聖石が封印されているが,もしその2つの聖石が解印され,5つの聖石と揃って7つとなった時,もはやそれを使いこなせる月の神レイミール・ラ・ルネシス神がこの人界においては実質の天帝になるだろう,とも言われた。

 実は,ラミエル帝はそれでもいろいろと鎖を切ろうと密かに努力していた。しかし,何を使ってもどんなにしても鎖は傷1つつかず,全く切れなかったのである。どうやったら聖石が主人として認めず,見放すのかも分からず,彼は何の手も打てないままだった。

 月のサークレットをし,5つの水晶をはめ込んだペンダントをした彼は本当に美しい。ハービア王子も同性ながらほれぼれと見つめる。

「ラミエル・・・お前・・・本当に変わった奴だな」

 ハービア王子はボソッと聞こえないように呟くと,給仕が持ってきてくれたコーヒーを一口飲む。ラミエル帝は相変わらず黙って人形のように座っている。

 〈でも,不思議だな。あの5つの聖石・・・本来に近く,力も強いはずの魔性がなぜ使うのを嫌がり,偽りの姿で癒しの力しかない聖なる方がいとも簡単に使ったのだろう。本来ならその逆のはず。あと2つの聖石は魔性が自分の物だと言っていた。じゃあなぜ残りの5つの聖石を使わなかったのか・・・〉

 太陽の王子はぼんやりと考えていた。あと2つの聖石・・即ち生命を支配する緑水晶と闇を支配する黒水晶は一体どこにあるのだろう。目の前の皇帝は知っているのだろうか。

 もうすでにルベール大司教から聞いてラミエル帝が知っていることを知らないハービア王子はあれこれと考えていた。少年帝はハービア王子が上を向いたり考え込んだりぶつぶつ独り言を言ったりしているのを,紅茶を飲みながら黙って見ていた。

「なあ,ラミエル。お前に聞いてもいいか?あと2つの聖石・・・緑水晶と黒水晶のある場所をお前は知っているのか?」

 ハービア王子の質問にラミエル帝は横に首を振った。

「皆目見当もつきません。神話によると天帝が封印しているとか。それならば安心なのではと思うのですが・・・」
「そうだな。どこに封印したのかにもよるけど。それから・・・・」

 少しためらわれたが,金髪の王子は思いきって口に出してみた。

「お前さ・・・何があったんだ?昔・・・・マリエルムの花に関係あるんだろ?」

 その言葉を聞いて,目の前の栗色の髪の少年帝は暫く突っ込まれたくないように黙っていた。でも,少し時間が経って,彼は一言だけそれに応えた。

「マリエルムの花は・・・私の思いの全てです」
「思いの全て?」

 ラミエル帝はそれ以上はどんなに聞かれても一切答えなかった。誰にも触れられたくないような・・・そんな感じである。

「ラミエル・・・・」
「明日,レイクント王国へ帰れるようにルベール大司教にお願いしておきました。国に帰ったらゆっくり休んでください」
「う・・・ん,悪いな。いろいろと世話になってさ」
「いえ・・私の方こそ。あなたには何度も助けられました。本当に・・・ありがとう,ハービア王子」
「みずくさいな~。王子なんてつけるなよ。まあ,俺も一国の皇帝相手に失礼なこと言ってるけどな」

 月の君の表情がふと柔らぐ。優しい聖なる月のような眼差しで,彼は太陽の君を見た。それ以上月の君から聞き出すこともできず,ハービア王子はラミエル帝に促されるまま部屋に戻った。

 静かに夜がふけていく。

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4-10 「ある国の物語」 第七章 思惑

2013-05-19 01:45:57 | 「ある国の物語」第七章
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第4節 聖なる月  第10話

 暫くして辺りが夕焼けの茜色に染まり,静寂に包まれた頃,大臣とともに給仕がいろいろな果物を食べやすく切って持ってきた。

「ハービア王子様,どうぞこれを・・・・。夕食までもう暫くお時間がありますから,この後,森の泉にご案内いたします。
「うまそうだな。ところで大臣,ラミエルは果物の中で何が一番好きなんだ?」

 太陽の君の質問に大臣は首を傾げる。給仕も困ったように顔をさらに俯かせる。

「すみません,分かりません。いえ・・・・ないのかも」

 大臣から返ってきた答えはとても曖昧なものだった。

「分からない?」
「はい。何分我が陛下はお口にされるものに関しましてこれが好きとか嫌いとか一切言われたことがございません。表情1つ変えず,出された物は文句1つおっしゃらず,何でもお召し上がりになりまので」
「ふうん」

 ハービア王子はメロンを一切れ口の中に放り込みながらボソッと呟いた。

「やっぱり何も分かってない」

 深く礼をして退出した大臣を見ながらさらにいくつか果物を口の中に放り込む。

「ま,俺も知らないけどね。俺が奴のことについて知っていることと言えば・・・う~ん」

 確かに彼については分からない。どんな食べ物が好きで,どんな本を読んで,どんな花が好きで,どんな話が好きなのか・・・。そう言えばラミエル帝とそんな話をしたことがない」

「一度聞いてみるか・・・」

 ハービア王子は漠然とそんなことを考えながらフルーツがいっぱい盛られた器を空にした。

 やがて森の泉に案内され,太陽の君はとても良い気持ちで湯船につかっていた。

「あ~気持ちいいなあ。幸せだ~」

 パシャパシャとしぶきをあげてみながら彼は大満足だ。大浴場で,大きな窓からは美しい森が彼方まで見え,本当に湧き出でる泉のように思えた。
 すっかり寛いだ後,ハービア王子は夕食会に招待された。ラミエル帝は始めに簡単な挨拶をした後,やっぱり何も言わずに食べている。

「おいしいな,ラミエル。ところでさ,お前の一番のお勧めの料理はなんだ?」

 さりげなく聞いてみる。しかし,月の君の答えは相変わらずそっけなかった。

「全部です」

 一言だけ言うと,おかわりを勧める。

「だからあ,中でもお勧めはどれなんだよ」

 太陽の質問に月は暫く黙って考えていたが,
「全部お勧めですよ,ハービア王子」
と,言うだけだった。

「ふうん」

 ハービア王子はそれでも上品に教え込まれたマナー通りに食事を終えるとコーヒーを飲んだ。

 ファンタジア帝国では客人が来た時だけ料理が豪華になる。それ以外は質素であるという。と言うのも,ラミエル帝は少食で肉や魚よりも野菜を中心とした食事をとるからである。それでも料理長は育ち盛りのラミエル帝のことを考えて肉や魚の料理も必ず出すことにしている。ラミエル帝は出されたものはよほどのことがない限り全部食べるので,料理長もほっとするのだった。宮廷料理長を始めとする料理人達の努力のおかげで,月の君もすくすく成長して今では178㎝ある。 

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4-9 「ある国の物語」 第七章 思惑

2013-05-18 20:51:17 | 「ある国の物語」第七章
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第4節 聖なる月  第9話

「何でございましょうか,ハービア王子様」
「お前はラミエルとマリエルムの花の関係を知っているか?」

 ルーラ最上大臣はハービア王子を見た。

「マリエルムの花・・・・でございますか?」
「うん。あいつ・・・あの花については何かあるらしくてとても敏感に反応するんだ」

 大臣は暫く考えていたが,横に首を振った。

「残念ながら私には分かりません。が,かつて陛下が父君と大げんかをされて宮殿を飛び出され,暫く行方不明になられていた時があったのですが,その時に何かあったのかもしれません。陛下が薬で眠らされて連れ帰られた時,その小さな手に一輪のマリエルムの花をしっかりと握っておられましたから」
「それは・・・いつのこと?」
「陛下が御年8歳,母君様がお亡くなりになった翌日に父君と言い合いされていましたからそれから2週間は経っていたかと・・・」
「10年も前か。随分昔だな。よっぽど心に残る何かがあったんだな」
「はあ・・・よく分かりませんが,マリエルムの花に関しましては陛下は非常に大切になさっておられます。宮廷にもマリエルムの花が植えられていますが,陛下は必ずそこに行かれて様子を見ておられますから」
「そうか。ありがとう,ルーラ最上大臣」
「ハービア王子様」
「うん?」
「本当に・・・我が陛下を助けていただいてありがとうございました。陛下は特別な御方。王子様には随分とお世話になりました。お命を危険にさらしてしまったこともございます。ですが・・・どうぞこれからも陛下をよろしくお願いいたします。ずっと同年代のお友達と遊ぶこともなく,大人の中でお育ちになったので少しというか・・・だいぶ冷めた性格になってしまわれていますが・・・」

 ルーラ最上大臣の言葉に太陽の君は明るく笑った。

「分かってるって。俺はあいつが気に入ってるんだ。でもさ・・・・フレイア姫とも仲が良かったじゃないか。世界皇帝会議の時なんか噂になってたぜ」
「それは・・・母君様同士がとても仲良しでしたから。ちょくちょく遊びには来られていました。シフェラザード皇妃様がルナに帰られた後もたびたび・・・。フレイア姫に剣をお教えしたのは我が陛下で,姫様が唯一の同年代のお友達でした。とは言ってもたまにでしたから・・・・。母君様が亡くなられてからはそう交流はなくなってしまいました」
「ふうん」

 ハービア王子はソファーに座ると呟くように言った。

「ではごゆっくりとおくつろぎを・・・」

 大臣はそう言うと深々と礼をして出て行った。

「ふぁ~~あ」

 大きなあくびをして足を投げ出し,その太陽は部屋を眺める。

「ファンタジアの大臣でもラミエルのこと知らないんだな。ま,あいつのことだから,何でも分かるって言える奴は1人もいないだろうけどね。つくづく宇宙人みたいな奴だなあ,あいつは。何考えてんだかちっとも分からない。だからこそ・・・俺をこんなにも惹き付ける。もっと知りたいな,あいつのこと・・・。覚醒する前にラミエル・デ・ルーンという奴を分かりたい。でもあいつは相変わらずつれないしな~」
 
 ぶつぶつと独り言を言いながら太陽の王子はそのまま目を閉じた。

 

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4-8 「ある国の物語」 第七章 思惑

2013-05-17 03:15:53 | 「ある国の物語」第七章
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第4節 聖なる月  第8話

 師匠と自称不肖の弟子とのやりとりを太陽の王子は黙って見ていた。月の君はそんなことを言っているが,ハービア王子は知っている。魔性のレイミール・ラ・ルネシス神は自由自在どこでも瞬間移動をすることができることを。それならば,ラミエル帝にもできるはずであった。

「なるほどの。確かにあなた様は魔術師に関しては不肖の弟子であった。よしよし,それでは帰るとするかの」
「お世話になります」

 魔術師マリアドルは2人を連れて呪文を唱えた。ふっと気が遠くなったような気がして,我に返った時はもう目の前にファンタジア帝国のムーンレイク宮殿が厳かにそびえ立っていた。

「ありがとうございます。助かりました」
「いやいや,あなた様のお役に立てて嬉しいですぞ。では,また。政務がいやになったらいつでも訪ねてこられるがよい。修行を続ければ今度こそ良い魔術師になれますぞ」

 はっはっはっと笑ってその老魔術師はフッと消えていなくなってしまった。

 その時,ヒンと鳴き声がしてカパカパと蹄の音がした。途中取り残されて一足早く帰った月の君の愛馬シルベスターが主人に寄り添う。ラミエル帝はシルベスターの鼻をそっと撫でてやる。真っ白い姿の彼は目を細め,月の君を鼻でつつく。

「お前が無事で良かった,シルベスター」

 ラミエル帝は優しく語りかけ,真っ白い愛馬はスリスリと甘えている。

「さ,向こうへ行ってゆっくりお休み」

 月の君に促されて,シルベスターは後ろを振り返り振り返りまたカパカパと蹄を鳴らしながら歩いて行った。

「ハービア王子,どうぞこちらへ」

 彼はそう言うとさっさと歩いていく。

〈ちぇっ,相変わらず他人行儀だな。いつになったら近づけるんだ?〉

 王子はそのままラミエル帝の後をついて行った。

 ファンタジア帝国の本宮殿ムーンレイク宮は一切ゴタゴタとした装飾がない。旧ムーンレイク宮は柱には彫刻,天井や壁には壮大な美しい絵,しかもあちこち金,銀,宝石が散りばめられていて廊下1つとっても大きな美術館のようだった。しかし,新ムーンレイク宮は大理石の美しさをいかしてシンプルに品よくまとまっていてスッキリしている。その感じがこの美しい少年帝にぴったりと合う。
 入り口に近付くと,大臣達が総出で出迎えようと並んでいた。君主が封印された時はもうダメかもと思っていただけに,嬉しく,安心していることがみんなの表情によく表れていた。

「お帰りなさいませ,陛下」
「心配をかけました。ルーラ,一息ついたらハービア王子を森の泉に案内してあげてください」
「かしこまりました。ささ,ハービア王子様,こちらへどうぞ」

 太陽の君はルーラ最上大臣に促されて後をついて行った。ラミエル帝は彼の金髪の後ろ姿を見送った後,私室に入った。

 一室に太陽の王子を案内した大臣は,彼を座らせた。

「お疲れでございましたでしょう,ハービア王子様。今,果物でも・・・・」

 そう言って退出しようとする大臣を「ルーラ最上大臣」と王子は呼び止めた。
 

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4-7 「ある国の物語」 第七章 思惑

2013-05-16 02:25:47 | 「ある国の物語」第七章
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第4節 聖なる月  第7話

 ラミエル帝はマスタタール王に会うと帰国する旨を伝えた。

「もう帰られるのか?時間が許されるのであればもう少しゆっくりされても・・・・」
「ありがとうございます。でも,もう視察の用件も済みましたし自国のことも気になりますのでこれで失礼させていただきます」
「そうか,それでは無理にお引き留めすることもできますまい。どうぞお気を付けて。ラミエル殿」
「はい。あの・・・マスタタール王,1つだけお伺いしてもよろしいですか?」
「何なりと。若き森と湖の国の主人よ」
「名を・・・この大地に雨を降らせた者の名を教えてください」

 ラミエル帝の質問にマスタタール王は残念そうに少し顔を曇らせた。

「それがのう,ラミエル殿。余にも分からぬのじゃ。ただ分かるのは・・・その方はクリスタリアの者でも最果ての塔の者でもなく,彼ら以上の力をもっておられて,魔術や魔法でと言うよりごく自然に雨を降らせたらしいのじゃ。そう・・・それはまるで妖精王のように」
「妖精王?」
「もし,自然ではなくある力があっての雨であればそうとしか言えぬ。これだけ素直に自然が反応するのはきっと自然界の王である妖精王に違いありませぬ。おられるのでしょう,この世の中に・・・・まさに自然界の王が・・・・」

 パイオニア王国の国王は落ち着いた声でゆっくりと答えた。ラミエル帝は納得するのに時間がかかったがそれ以上は聞かなかった。

「そうですね,きっと。ありがとうございました」

 ラミエル帝とハービア王子は丁寧に挨拶をすると,パイオニア宮を後にした。

「なあなあ,これからどうするんだ?」

 ハービア王子が頭をかきながら隣の皇帝に聞く。月の君はまっすぐ前方を見つめたままである。

「本当はせっかくの旅のチャンスですからあちこち寄らせてもらって視察させてもらってから帰りたいのですが,さすがに10日のブランクは少々私にとってはきついのでそのまま帰るつもりです。師匠を使うのは申し訳ないのですが,背に腹は替えられませんからまたマリアドル様にお願いしてファンタジアまで帰ることにしましょう。ハービア王子はそこからルベール殿に頼んで送ってもらうことにします」
「いいよ・・・俺のことは別に・・・」
「まだ体調がよくなってはいないはずです。私のせいであなたを苦しめてしまって申し訳ありませんでした。ファンタジアには『森の泉』という病や疲れなどに効く天然の温泉があります。ぜひつかって行ってください」

 月の君はそう言うと,ハービア王子の返事も聞かずにマリアドルを呼び出した。2人の目の前にいつの間にか一人の老人が現れる。

「ラミエル殿,御用は済まれたかの?」
「はい。すみませんが帰りをお願いできますか?」
「お安い御用じゃ。しかし・・・ラミエル殿,あなた様ほどの方なら御自分でおできになるはずですがのう」

 老魔術師は首を傾げながら言った。
 月の君はいとも簡単に

「私は何分魔術師の落ちこぼれで修行不足ですから・・・」

と,答えた。

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4-6 「ある国の物語」 第七章 思惑

2013-05-13 01:18:16 | 「ある国の物語」第七章
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第4節 聖なる月  第6話

 翌日は朝から雨だった。目覚めたラミエル帝はしばらく茫然として外を見ていた。ベッドから出るのも忘れて上半身を起こしたまま,遠く霞んで見える雨の風景を見ている。

「おっはよ~,ラミエル。すごいだろ?夜中からいきなり降り出したんだぜ。きっと魔術師か祈祷師か雨乞いをしてくれたんだよ」

 ハービア王子が嬉しそうに言う。太陽の君はこの頃月の君を騙すのもうまくなった。月の神に頼まれている以上,そうとしか言えなかった。そして,そのことはもうマスタタール王を始めみんなに言って口裏を合わせてある。

「雨乞い・・・」

 ラミエルは呟くように繰り返すと,そっと起き上がって夜着のまま窓辺に立ち,更に遠くを眺めやる。

「始めから・・・頼んでおけばよかったですね。でも・・・これほどの力をもった魔術師がいたなんてすごいです」

 暫く外を見ていた月の君が着替えながら言った。

「だろ?本当に凄いよな~。まあ,そんなことしなくても,もともと降るようになってたのかもしれないけどな」

 ハービア王子も調子を合わせる。

「でもこれで私達のいる理由はなくなりました。ただ,今後のために水路はやはり造っておいた方がいいと思うから,計画案はマスタタール王にお渡ししておきましょう。私達も安心して帰国できますね」

 ラミエル帝は少し嬉しそうに言うと,身支度をささっと調えた。

「うん」
「行きましょうか」
「おう」

 月の君が重い扉を開ける。目の前には広く長い廊下が続く。パイオニア王国の本宮殿はとても豪華な宮殿だ。その宮殿内にいる貴族,貴婦人,給仕達全てが1つの所に目が惹き付けられる。そう,あの月の聖帝ラミエル・デ・ルーンをほれぼれと見ているのである。後から行くハービアはそういう彼らの様子がよく分かった。しかし,当の本人は無頓着で全く気にしていないようであった。

 最も聖なる者でありながら魔性をも秘めた危険な月の神を封印している美しき月の皇子。その神秘性,危険性はますます彼の美貌と絡んでみんなの心を強烈に惹き付けた。ハービア王子は彼の三様の顔を知っている。同じ顔,同じ器なのに人格によって人間,聖なる方,魔性の方で少し違って見える。
 ラミエル帝の美しさは哀しく儚く,触れれば消えてしまいそうな,そんな切ない美しさである。彼の泣きそうなほど切ない表情は見る者の心にグッと迫ってくる。いつも遠くを見ているような彼の瞳はとても澄んでいて綺麗だ。その目を見て嘘をつける者はいないと言われている。
 聖なる月の美しさはまさに洗練された神の美しさである。優しく温かい瞳で全てを包み込む。安心できてまさに触れてはいけない,と思わせる美しさだ。
 魔性の美しさは本当に危険な美しさだ。冷たくゾッとするような澄んだ瞳で見つめられると動けなくなってしまう。女性も男性も虜にし,その気にさせてしまう妖しい美しさである。
 
 どの美をとってもこの世に右に並ぶ者はいない。眉毛,目,唇,その1つ1つが美しく配置され,そのどれを少し動かしても美しさが損なわれると思われた。

 みんなが見ほれ,溜息をつき,中には綺麗に着飾らせてガラスケースの中にしまい込みたいと思う人もいた。動くのが不思議・・・まさにそう思わせる月である。


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「ある国の物語」
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4-5 「ある国の物語」 第七章 思惑

2013-05-11 22:03:00 | 「ある国の物語」第七章
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このお話は・・・

森と湖の国ファンタジア帝国の少年帝は,実は宇宙を創世した天帝の12番目の息子にして運命の輪を廻す月の神の降臨した姿だった。彼をめぐる光と闇との戦いが今、始まろうとしていた。そして彼自身がもつ聖と魔性の両面性。果たしてこの世に月の聖帝は黄金の夜明けを告げるのかそれとも黄昏の時を告げるのか・・・・・。

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第4節 聖なる月  第5話

「それにしても・・・」

 月の神の表情がふと哀しくなる。ラミエル帝もよく見せる表情だ。

「彼の心をあそこまで哀しくさせてしまった人は誰なのですか?彼の心の扉はきっとこの世を破壊する力をもってしても開けることはかなわないでしょう。いつもいかなる時も彼の心は固く閉じられたままで,何を思っているのか全く分かりません。伝わってくるのは本当に切ない哀しみだけです」
「ちょっと御両親のことでゴタゴタがあったらしくてね。父親をひどく憎んでいた。いや・・・今もそうかもしれないけど。ラミエルの奴,父親のこと他人のようにアシュラル帝って言うんです。確か和解したはずなんだけど・・・」
「そうですか。魔性が・・・・」
「え?」
「もう一人の私がそうなのです。父神である天帝大神を天帝ノブレスと呼び捨てにすることさえあるのです。よく似ていますね。でも,彼の哀しみはちょっとそれとは違うような気がします」
「そうなの?」

 ハービア王子は目をぱちくりさせてレイミール・ラ・ルネシス神を見る。

「マリエルムの花を知っていますか?」
「マリエルムの花?」
「その花に対して彼はひどく反応します。何があったのかは知りませんが,そのことが分からない限り,彼の心にもつれた哀しみの糸はほどけないことでしょう」

 それだけ言うと,身支度を調え,何事もなかったかのように月の神はベッドに入り込む。

「ラミエルが気付きそうです。私はこれで,後はよろしくお願いしますね。お休みなさい,ハービア王子」

 ハービア王子が自分のベッドに辿り着いた時,その美しい月神はもう眠っていた。

「ありがとうございます,レイミール・ラ・ルネシス神様。感謝します」

 眠る月の神にそっと言うと,太陽の王子も目を閉じ,眠りについた。外はまだザーッという雨の音が聞こえ,西の大地は潤いを取り戻しつつあった。
 


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