テルサのFantastic Stories

今まで書きためていたとりとめもない物語を少しずつ連載していきます。ファンタジー物が多いです。ぜひ読んでみて下さい。

「ある国の物語」 第二章 運命の輪を廻す者

2008-02-29 01:37:03 | 「ある国の物語」 第二章
第11節 砂漠の国の王子 第2話

 結局ラミエル帝とアイシス姫はダンスを踊るでもなく,二人でひそひそと話をして夜会を過ごした。周囲の者にすれば二人が何を話しているのか気になって仕方がないのだがもちろん内容が分かるはずもない。

「今日はありがとう。部屋までお送りしましょう」
「送って下さるの?嬉しいこと」

 アイシス姫は上品に笑うとすっと席を立った。真昼の太陽の姫君と言われるはっきりとした顔立ちの美姫である。彼女にほのかに憧れを持つ王子も多いが,彼女は好みもはっきりしているので自分のタイプではない王子からの誘いはきっぱりと断っていた。

 夜会が終わり,アイシス姫を虹の館まで送ったラミエル帝が霧の館の自室に戻った時,彼は扉に白い紙がはさんであるのを見付けた。

“夜会後,来てもらいたし  迎えをよこす”

 月の君はこれから何が起ころうとしているのか分からなかった。が,その紙をそっと机の引き出しにしまった。

 夜中,ラミエルが仕事をしていると,来客を知らせるチャイムが鳴った。

「はい」

 彼がドアを開けると複数の男達が立っていた。彼らのマントの留め具の紋章は紛れもなくアイシス姫が見せてくれた例の紋章だった。

「私に何か用でしょうか」

 月の君は静かに尋ねた。

「あなた様をお迎えに参りました。ラミエル・デ・ルーン陛下」
「あなた達は何者です?」
「おいで下さればお分かりになると思います。我が陛下がお待ちしております」
「面会でしたら正式なルートを通して欲しいのですが」
「いえ,それはできませぬ。諸事情がございまして・・・。陛下,どうぞこちらへ。ご心配には及びません。我が陛下はあなた様の母君様に縁の者です」
「母君の?」
「はい。ですからどうぞこちらへ・・」

 ラミエルは一瞬どうしようか迷ったが,亡き母シフェラザード女王の縁の者と聞いてはそのまま放っておくこともできなかった。好奇心もあって月の君は男達についていくことにした。何かまだよく分からないが悪い人たちではなさそうだ。

 霧の館を出て,暫く行くと大きな屋敷に着いた。案内されて中に入る。長い廊下を歩いて突き当たりの部屋に入ると,高貴な一人の男が椅子に座っていた。まだ,あまり歳をとっていない感じである。その男はラミエル帝を見ると椅子から立ち上がり,

「よく来て下さった。ラミエル・デ・ルーン帝」

と声を掛けた。
 ラミエルはその男を真っ直ぐに見つめた。思わずはっとするような美しく冷たい顔だ。
 その男はラミエル帝を向かいの椅子に座らせ,自分も座った。

「私はアルファルド・ミザール・レグルス。太陽の国ベテルギウス帝国の皇帝です」
「ベテルギウス?あの・・・南の神秘に閉ざされた昼の光の都としてみんなから恐れられている国・・・・」
「よく御存知じゃ,ラミエル殿。そなたは本当に、シフェラザードによく似ている」
「母であるシフェラザードの縁の方とお聞きしましたが,母とどういう関係ですか?」

 質問をするラミエル帝をアルファルド帝は優しい眼差しで見つめた。

「私は,そなたの父にそなたの母を奪われた男だよ」

 まだ若々しい皇帝は月の君の質問に静かに答えた。

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「ある国の物語」 第二章 運命の輪を廻す者

2008-02-28 01:18:03 | 「ある国の物語」 第二章
第11節 砂漠の国の王子 第1話

 夕方5時きっかりにラミエル帝は盛装でアイシス姫を迎えに行った。王子・王女達の集う虹の館では月の君の出現に大変な騒ぎだ。

「どなたを迎えにいらしたのかしら」
「今晩は出席されるのね」

 みんなひそひそと噂し合っている。彼は周りの様子を気にとめることもなく,アイシスの部屋をノックする。やがてガチャッと音がして扉が開き,美姫が顔を出す。

「ラミエル様,よく来て下さったわ」
「お支度はよろしいか?」
「ええ」

 アイシス姫は部屋の外に出た。「行ってらっしゃいませ」とお付きの者が頭を下げて送り出す。

「今夜の月のお相手はアイシス姫だぞ」
「お二人が並ぶと絶世の美男美女でお似合いだなあ」
「かなわないや」

 更にみんなはひそひそと噂し合う。そこに偶然居合わせたセイラ姫は胸が締め付けられるような気がしていたたまれなかった。自分はここまでラミエル帝のことを思っていたのだということを改めて思い知らされる。これを嫉妬心と言うのだろうか。そんな思いを抱く今の自分をはしたないと思いつつも,星姫はその湧き起こってくる静かで激しい感情をどうすることもできなかった。

 夜会では二人は目立たない隅のテーブルに座っていた。とは言っても何分目立つ二人なのでどこにいても注目の的になっている。しかし,二人はそんなことおかまいなしで話をしていた。
 アイシス姫は辺りを伺いながら慎重に本題を切り出した。

「あのね,ラミエル様。あなたなら分かるかもしれないと思って・・・。これを見て下さる?」

 そう言ってアイシス姫は一枚の小さな紙を取り出して広げた。そこには何かの紋章が書かれている。

「これ・・・どこの国の紋章かお分かりになるかしら?」

 ラミエル帝はしばらくその紙を手にとって見る。

「これは・・・見たことのない紋章ですね。少なくともこの皇帝会議に参加している国々の紋章でないことは確かです」
「そう・・・・やっぱりね」
「これがどうかしたのですか?」
「やたらとね・・・あなたの事を聞き回っている人達がいて・・・。その人達が付けていた紋章なのよ,これ」
「私のことですか?」
「気味悪いでしょう?得体の知れない者がいろいろと根ほり葉ほり・・・。とても気になったので,それで・・・」
「ありがとう。知らせてくれて」
「気を付けて下さいね」
「ところで良かったら私の何を聞いていたのか具体的に教えていただけますか?」

 ラミエルはアイシス姫に紅茶とクッキーをすすめながら尋ねた。

「ここにいる王子や王女達に『月の君』とは何者か,とか月の君の父君と母君は誰かとか,月の君はどんな人物かとか・・・・あと,結婚しているかどうかとか,何歳かとか・・・」
「そうですか。その内容ではその人達は私とは面識のない人達ですね」

 ラミエル帝は暫く紋章を見つめながら考えていた。

「分かりました。私も調べてみましょう」
「それがいいわ。何かに巻き込まれたらそれこそ大事ですわ」

 二人はヒソヒソと話し合っている。星姫は二人の様子に気が気ではない。もちろん他の王女達もそうである。

 一体何の話をしているのか・・。

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「ある国の物語」 第二章 運命の輪を廻す者

2008-02-27 02:54:08 | 「ある国の物語」 第二章
第10節 月の国の世継ぎ 第8話

 それから一ヶ月後,ルナ王国カルナール王の急死とそれに伴うラミエル帝の都合で中途半端に終わってしまった世界皇帝会議の再会議が大地の国フォスター帝国で開催された。今回の会議は各国の貿易の調整や条約の締結等重要な議題ばかりなので再開せざるを得なかったのである。
 ラミエル帝もその頃までにはあらかた目途をつけていて,会議には参加していた。それにしても驚異的な仕事の量をすませて来るあたり,やはりラミエルはただ者ではなかった。

 会議二日目の昼,ラミエル帝は虹の館にあるハービア王子の部屋に招待された。月の君もこの太陽の君にだけは気を許していて仲が良かった。

「ラミエル,エルアとの結婚式には是非出席してくれよな」
「はい。必ず」

 ハービア王子は彼のその返事を聞くと嬉しそうな顔で紅茶を出す。

「あ~あ,俺も18かあ。お前はいいな,まだ16だもんな」
「そうですか?私は早く成人したいと思っているのですが」
「なぜなんだ?歳を取るばっかりだぜ?」
「早く一人前になりたいからです」
「なんだ。それならもうお前は一人前じゃないか」
「でも,みんなは私のこと子供扱いしています」
「ラミエル・・・」
「まあ,そんな事はどうでもいいことですね」
「そうだよ。逆になりたくないって言ったって,4年経ったらお前だって必然的に20だもんな。ところでさ・・」

 ハービアは急に話題を変えた。

「今晩の夜会,誰をパートナーにするんだ?前がアイシス姫でその次がセイラ姫だろ・・・・。いいなあ,美女とばっかり。ま,フリーはやめとけよな。王女どもが殺到するからさ」
「ご心配は有り難いですが,私は夜会に出るつもりはありません」
「もったいない事言うなよ。相手なら探してやるぜ?そんなこと言ったらまたお前狙われるじゃないか」
「もう大丈夫ですよ。武術も習いましたし・・・」
「そう言わずに夜会に出ろよ,な」
「考えておきましょう」

 ラミエル帝は相変わらず物静かだ。

「もう,こんな時間に・・。お昼が過ぎてしまいましたね。私はそろそろ失礼します」
「昼食ぐらい一緒にとらないか?ラミエル」
「すみません。昼食の時間に大臣達と会議を開くことになっているのです。またの機会にでも・・・」

 ラミエル帝はそう言うと帰っていった。
 彼がハービア王子の部屋を出ると一斉に注目の的になる。

「月の君だ・・・」
「ラミエル様よ」

 虹の館の王子や王女達はラミエルを見つめる。彼はそんなこと気にもとめずに歩いていてばったりとアイシス姫に会った。

「ラミエル様」
「これはアイシス姫,こんにちは」
「ご機嫌いかが?それより今夜の夜会,私のパートナーになっていただけないかしら。ちょっとあなたのお耳に入れておきたいことがあるのよ」
「いいでしょう。では夕方5時に迎えに行きます」
「お願いね。ちょっとした事件になりそうなのよ」

 アイシス姫はそう言うと「じゃ」と去って行った。ラミエルはその時,姫君の表情にただならぬものを感じていた。
 一体何を姫君は月の君に伝えようとしているのか。

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「ある国の物語」 第二章 運命の輪を廻す者

2008-02-26 02:54:45 | 「ある国の物語」 第二章
第10節 月の国の世継ぎ 第7話

 ラミエル・デ・ルーンは月の国ルナ王国での数々の儀式を終え,正式にルナ国王となった。
 彼はやはり国王代理として,ファンタジア帝国での皇帝代理だったフィラを任命し,ルナ国に派遣して統治させることを公表した。そして,二国の国主として務まるよう徹底的に政務を見直し,合理化を図った。

 暫くごたごたが続いていたがようやく落ち着いた一ヶ月後,ラミエルはイリュージョン帝国デーリー帝の訪問を受けていた。

「大変でしたな,ラミエル殿。もう落ち着かれましたかな?」
「はい。皆様には大変ご心配をおかけしましたが,もう大丈夫です」
「しかし・・・」

 デーリー帝は良い香りのする珈琲をゆっくり味わいながら向かい合った美しい少年帝を見る。

「フィラ皇上大臣がルナに行かれるとなるとファンタジアの方はどうされるおつもりか?」
「フィラがいなくなるのはファンタジアにとって大きな痛手ですが,ファンタジアにはマリオ,ルーラを始めベテランのしっかりした大臣達がついていますからさほど心配はしていません。当面,ルーラ最上大臣を皇帝代理にしようと思っています」
「世継ぎはどうされるのじゃ」
「私はまだ16ですから,第二のフィラを育成しても間に合うでしょう。探しますよ,私の目にかなう者を」
「御自分が結婚して世継ぎをもうけようとは思われませんでしたか?」
「ルナ国に関してはさすがに私もそのことは頭の隅をよぎりました。叔母君一族がこのように断絶してしまうとは私も予想していませんでしたから・・・。でも,私の子供が必ずしも王にふさわしい者になるかどうかは本当に疑わしいのです。もし,暴君になったとしても皇族の血を引いているということになれば,むやみに追放したり罰したりできないでしょう。ファンタジアの皇帝でありながらルナに私の子供が行っても何故ファンタジアではないのだと大事になるでしょうし・・・。そうなればうやはり混乱を避けるためにも私が自分で見付けてきた者に国を任せた方がいいと思うのです」
「そなたの子供なら名君になること間違いなしですぞ」
「そうでしょうか。私は二国を託すのにそのような賭けを信じたくはありません」
「もし,見つからなければどうするつもりじゃ」
「さあ・・・・。その時は私も母君を裏切り信念も曲げなければならないかもしれません。私にはさすがに二国をつぶしてまで自分の信念を貫き通す勇気はありませんから」
「そなたが結婚となればまた各国が賑やかになるでしょうな」
「まあ,万が一にもそのようなことはないと思いますが・・・」

 ラミエルは紅茶を飲みながら静かに答える。

「そのことはあなたの姫君にも言えますよ。私の知人の中には姫君を得るためなら何でもする,と言う王子が数知れずいますからね」
「セイラか・・・。姫は何を考えておるのか私にはさあっぱり分からん」

 デーリー帝は溜息をつく。ラミエル帝は品の良いカップをソーサーに戻すと改めて星の国の皇帝に向き直った。

「デーリー殿,今までのいろいろなお心遣いありがとうございます。でも,私は一人で大丈夫ですからどうぞご心配なく」

 彼は隣国の皇帝との間でも一線を画し,親密になろうとはしなかった。

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「ある国の物語」 第二章 運命の輪を廻す者

2008-02-25 00:02:15 | 「ある国の物語」 第二章
第10節 月の国の世継ぎ 第6話

 ラミエル帝が部屋に飛び込むと,ルナ王国の大臣達が集まっていた。

「叔父上のご様子は?」
「これはラミエル様。さ,こちらへ・・・」

 大臣達に案内され,月の君はカルナール王の所へ行った。月の国の王は青白い顔をしてベッドに横たわっていた。ルナ王国の典医ルシルが側についている。聞くとかなり容態は悪いと言う。

「叔父上」

 ラミエル帝の呼びかけにカルナール王はゆっくりと目を開け,甥を見た。起き上がろうとするがそれはかなわない。

「ラミエル・・・すまぬな・・・心配をかけてしまって」
「そんなことはどうでも良いのです。それより,お体の方は・・・痛むところは・・・」
「ラミエル・・・もう良いのだ。それより,私の話を聞いてくれぬか?」

 カルナール王はそう言うとラミエルを側に座らせ,彼の両手を握った。

「ラミエル・・もし,今度倒れるようなことがあれば,私の命は危ぶまれる。なあ,ラミエル・・・私はこうして生きているうちにそなたを正式にルナの世継ぎにしたいのだ。今更反論はできまい?もはやルナ家ゆかりの者はそなた一人。そなたの言うように後添えを持つことはもう私には出来ぬ」

 ラミエルは言い返すことができなかった。今,カルナール王がいなくなれば,本当にルナ王国は国主のいない国になってしまう。

「でも,私にはいくら隣国とは言え,複数の王位を兼ねることは出来ません」
「そなたならできるはずじゃ。そなたは真の皇帝なのだから」

 カルナール王は大臣に合図をした。大臣は深く礼をすると姿を消し,やがて金色の小箱を持って現れた。その小箱には金の豪華な彫刻が施された指輪が入っていた。
 王は大臣からその指輪をそっと受け取るとラミエル帝の右手をとり,その薬指にはめてそのまま彼の右手を握りしめた。本当に弱々しい力でラミエルは叔父君の衰弱を実感した。そして,ラミエルはその行為を拒否することはできなかった。

「ラミエル・・・ルナを・・・そなたの大好きな故国を頼むぞ・・・・ラミエル・・・ラ・・・」

 カルナール王はそのまま意識不明となってしまった。

「叔父上,しっかりなさって下さい。叔父上・・・」

 ラミエルは声を掛けてみたがカルナール王はもう反応しなかった。典医ルシルは
「このまま意識がご回復されなければ危ないです」と言った。
 ラミエルはそのままつきっきりで看病していたが,その翌日早朝,月の国の王は静かに息を引き取った。

「ラミエル様,我が国王陛下は体中悪性の腫瘍に冒されておりました。手の施しようのないほどに・・。それでもなお,仕事は休めぬと無理をされて・・・・」
「叔父上・・・何という無茶を・・・」

 ラミエルは哀しく澄んだ瞳をし,まだ温かい叔父君の手を握りしめた。彼の右手の薬指にはルナ王国の世継ぎの印である黄金の指輪が輝いている。しかし,彼は世継ぎになった途端月の国の王となってしまった。

 その日の会議は中断され,カルナール国王の追悼式が行われた。喪主は甥のラミエルで,彼は喪服の黒い衣装を身につけていた。ラミエルが白以外の服を着ているのを見るのはみんな初めてだった。彼の姿はまるで魔性の月のように妖しく見え,背筋がぞくっとなる者もいた。
 ここでルナの世継ぎがラミエル帝であることが正式に発表され,彼はそのままルナ国王として即位することになった。
 ラミエルは追悼式が終わり次第そのまま会議を早退し,ルナ王国とファンタジア帝国とカルナール王の故国ノスタルジア王国の三国関係者はルナ王国でカルナール国王の葬儀とラミエル帝のルナ国王即位式及び戴冠式を執り行うべくフォスター帝国を後にした。他国の君主達も気にはなっていたが重要会議なので中止するわけにもいかず,引き続き会議を進めることになった。
 そうは言っても三国関係者が出発した後は会議場は騒然としていて会議どころではなかった。

「とうとう月の君は月の国の王になってしまったな」
「二国を支配するとなるといくらラミエル帝でも大変だぞ」
「月の君はどうなさるおつもりか・・」

 フォスター帝国はその話題で持ちきりで会議は一向に進まなかった。

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「ある国の物語」 第二章 運命の輪を廻す者

2008-02-24 19:45:07 | 「ある国の物語」 第二章
第10節 月の国の世継ぎ 第5話

 やがて会議が始まった。ラミエル帝にすれば時間がもったいないので効率よく議題を進めていきたいのだが,自分が黙っているとどうも協議も沈滞気味で一向に進まない。暫く他国の意見を聞いていたラミエルだったが,あまりにもお粗末な意見にだんだんと退屈になってきた。

(やれやれ,これではいつになっても一つの議題すら終わらないな)

 この日,ラミエルには気になることがあった。つい先日会ったばかりのカルナール王がさらにやつれて青白い顔をしており,無理をしてこの会議に参加していたからである。隣に座っている叔父君は「大丈夫だよ」と笑っているが,ラミエルは早く会議を終わらせて叔父君をゆっくり休ませたいと思っていた。

「議長」

 たまりかねてラミエルが手を挙げる。ラミエル帝が動くとみんなは安堵するとともに緊張が走る。それだけの威厳をまだ16歳の彼はすでに身に付けていた。

「仮定条件の下での議論をいくら交わしたところでそうなる保証はありません。ここは,もっと現況下で考えられることを意見として出した方が現実的だと思います。ファンタジアはこの件に関し,次のことを提案します」

 こうして今回もまたラミエルがまとめてさっさと議題を片付けていく。月の君にすれば悠長に雑談に走りながら進んでいくこの会議がどうにも合わず,時間の無駄だと感じているので早く済ませられるものは早く済ませてしまおうと考えていた。
 おかげでその日の会議も予定より早く終わり,カルナール王を部屋に送り届けたラミエルは久しぶりにハービア王子とテラスのテーブルを囲んで紅茶を飲んでいた。

「何ヶ月ぶりかなあ,ラミエル。お前とこうしてお茶なんか飲むのは」
「半年です」
「お前なあ,もちっと可愛らしく言えないのかよ。こう,感慨に耽りながらとか」
「言えません」

 太陽の君はがっくりきた。

「相変わらずお堅いなあ,お前は」
「そうですか」

 ラミエルはそのまま平然と静かにカップを口に運んでいる。

「ところでさ,ラミエル。明日の予定は?」
「明日ですか?明日は9時から経済援助についての申し合わせをして,1時からは輸出入調整と戦争を起こした国の処分と領地配分が議題となっています」
「ふうん,大変だなお前も」
「あなたもいずれ経験できますよ,ハービア」
「俺・・・そんなの苦手だなあ」

 月の君は太陽の君を見て少し笑う。月の君と太陽の君,この異色のコンビはとても有名である。

「頑張って下さい,未来のレイクント国王」
「いやあ・・・まいっちゃうなあ」

 ハービアは照れている。
 二人がそんな話をしていると突然ルーラ最上大臣が血相を変えて駆け込んできた。

「陛・・・陛下,た,た,大変でございます。カ・・・カルナール王がお倒れになって・・・い・・今ルナ王国の大臣達が知らせに・・」
「叔父上が?」
「急いでお越し下さい」

 ラミエルはすぐに立ち上がると急いでカルナール国王の部屋へ走った。嫌な予感がする。あの様子で大丈夫なはずがなかったのだ。

「待って・・・俺も」

 ハービア王子もラミエルを追いかけて走った。
 月の君の心臓が高鳴る。これは走っていることばかりが理由ではない。

「叔父上・・・ただ一人の私の親戚・・・」

 ラミエルは霧の館のルナ王国の部屋へ飛び込んだ。

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「ある国の物語」 第二章 運命の輪を廻す者

2008-02-23 02:03:59 | 「ある国の物語」 第二章
第10節 月の国の世継ぎ 第4話

 月の国ルナ王国のカルナール国王の体調が最近すぐれないと言うこともあり,そのうち,ルナ王国の世継ぎ問題も人々の口にのぼった。歴史が古く最古の王家と言われる名門ルナ王家直系の血を引くのは他ならぬラミエル帝ただ一人である。

 ファンタジア帝国の国力に負け,ルナ王国の世継ぎであったラミエル第一王子を奪われたものの,他のどの国よりもその伝統の血を重んじる月の国は何とかしてラミエルを次代国王にしようとしていた。それ故にルナ王国ではラミエルは王子と呼ばれ,母であった亡きシフェラザード女王の第一王子としてその名を留められていた。正統な世継ぎの君であるため,ルナ国側は何とかしてラミエル帝にルナの王位継承者を納得させ,世継ぎの印である月の指輪を彼の指にはめさせようと必死だ。

 しかし,ラミエル帝は「ファンタジアの皇帝として即位したため,複数の王位にはつけない」とはっきりと拒否していた。ルナ国側は月の君からそう言われてもなおあきらめてはいなかった。

 ラミエル帝を巻き込んだルナ王国の王位継承問題は各国の関心事となっていた。白色が基調のファンタジア帝国の皇衣も彼には似合うが,彼にルナ王国の王衣を着せても似合うだろう,とみんなは思った。

「しかし,ラミエル帝はどうなさるおつもりか・・・」
「ここのところ,カルナール国王は病気がちだしな」
「一説ではラミエル帝が国王として国を継ぎ,代理としてフィラ皇帝代理にルナ国の政務を委任するとか・・・。もちろん世継ぎはラミエル帝の第二子ということだそうだ」
「不安だな。第二子どころか御結婚自体拒否されているラミエル帝にそのようなこと・・・」
「月の君とて,自分が世継ぎを残さなければならないことをよく御存知のはず」
「しかし,フィラ様のようなアカの他人を立てたらどうなさる?」
「さて・・・」

 フォスター帝国では集った各国の王達がそのような噂をしていた。

 四ヶ月後・・・同じフォスター帝国で世界皇帝重要会議が開催された。これにはラミエル帝も出席しなければならない。普通の会議は滅多に出席しないラミエルだが,この重要会議だけは議長から出席するよう要請されていた。
「ファンタジア帝国より,ラミエル・デ・ルーン皇帝ご到着」

 ラミエル帝到着の知らせが入ると,各国の君主達が早速いそいそと挨拶に行く。

「ご機嫌麗しく,ラミエル殿」
「お元気でしたか?」
「こんにちは」

 ラミエル帝は相変わらず軽く受け答えをしている。衣装は相変わらず白を基調としていて,変わった箇所と言えばサークレットの彫刻の模様とアームレットのデザインぐらいである。皇衣のデザインは少しずつ変化している。

「ラミエル様よ」
「ラミエル陛下がお着きになったわ」

 王女達は遠くから彼の姿を眺め,胸をときめかす。しかし,ラミエル帝はそんな姫君達には目もくれず,さっさと自分の部屋へ入ってしまった。

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「ある国の物語」 第二章 運命の輪を廻す者

2008-02-22 01:57:32 | 「ある国の物語」 第二章
第10節 月の国の世継ぎ 第3話

 ラミエル帝も自国でありながらなかなか地方へは行けないので,別宮である森の宮殿周辺の国民達は皇帝を熱烈に歓迎し,祝賀会が盛大に開かれた。

 夜,ラミエル帝はベランダに立って典医アロウと遠くに輝く湖を見ていた。

「久しぶりですね,陛下。この宮殿からこうして景色を見渡すのは・・・」
「うん・・・もう,2年になるかな。前に来たのは春でしたね」
「地方大臣達が随分大きくなられたと驚いておりましたぞ」
「あの頃から10㎝は伸びているからな。大分逞しくなったでしょう?もう16になったから大人にも負けないよ」

 ラミエル帝は視線を向こうにやったままはっきりと言った。

「陛下もあと4年で成人式ですね。前まで,こんなに小さいと思っていたのに・・・・もう大人に近付いて・・・」
「早く大人になりたい。成人したらもっともっと見聞を広めていくつもりだ。私にはどうしてもやらなくてはならないことがある。それを果たさなければ・・・」

 いつもは少々ひねくれている月の君も,その夜は割と素直だった。しかし,相変わらず何を考えているのか分からない。一歩も彼に近づけた気がしないのだ。

「アロウ,今日はこれで・・・。私はもう部屋に帰ります。お休みなさい」
「お休みなさいませ,陛下」

 ラミエルはそのまま自分の部屋へと帰っていった。

 ラミエル・デ・ルーンは森と湖の国ファンタジア帝国の幼き皇帝である。どの国の占い師もが真の皇帝と褒め称えてやまぬ月の皇子でもある。
 彼を恋に落とすは満天の星を落とすよりも難しいと言われる月の君は,栗色のしなやかな髪,そして同じ栗色の澄んだ瞳を持った美しい皇帝で炎を氷で覆ったような若者である。
 どの国もファンタジアを敵に回すのを恐れている。何故ならラミエル帝は剣を持たせば右に出る者はいないといわれるほどの戦神であり,また,策略にも長けた軍師だからである。

 翌日,ラミエルはそこでの政務を済ませ,一人で散歩に出掛けた。森の中はとても気持ちが良い。

「ああ,私は何年もこの時を忘れていたような気がする。ゆっくりと流れていく時間・・・吹き渡る風・・・ざわめく木々・・・今という時を止めることができたらどんなにいいだろう」

 ラミエルは初秋の森の中をゆっくりと歩いていた。心が安らいでくる。月の君は一人,そんな気分を楽しんでいた。

 その頃,フォスター帝国では気の抜けたサイダーのようにみんな活気がなかった。ハービアも月の君の不在でつまらなさそうにしている。彼という存在は本当は夢だったのではないか・・・と姫君達はいつも不安になる。どこを捜してもラミエル帝の姿はない。
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「ある国の物語」 第二章 運命の輪を廻す者

2008-02-21 00:00:03 | 「ある国の物語」 第二章
第10節 月の国の世継ぎ 第2話

 宮殿に戻ったラミエル帝はそのまま私室にこもり,珍しくぼんやりとしていた。夜もずっとベッドの中から窓の外に見える天空に輝く青白い月を眺めやっていた。
 今や「月の君」から「月の皇子」と呼ばれるようにもなったラミエルである。彼はあまりに夜景が綺麗なのでまた起き出して改めて窓の外を見る。遠くでその月の光を受けて湖が白くきらきらと幻想的に光っている。彼は時が経つのも忘れてその美しい様子をずっと見つめていた。

 その頃,やはり月を見つめている皇女がいた。星姫として名高いセイラである。ラミエル帝とはそれでも会う機会が増えたものの,ここのところずっと彼とはゆっくり話ができていない。

(今頃はもう眠っていらっしゃるのだろうか。それともまだお仕事をしていらっしゃるのだろうか・・・・)

 星姫は辺りを優しく照らし出す月を見ながら月の君のことを思っていた。
 
 月の君との数々の思い出が次々と思い出されてくる。無愛想だが,いろいろと心配してくれ,幾度となく助けてくれたラミエル帝・・・しかし,今はそれもまるで夢のように思えてくるのだった。
 夜は更けていき,風はカサカサと木々の葉を揺らして通り過ぎていった。

「おはようございます,陛下」
「おはよう。フィラはいますか?」
「御前に,陛下」
「今日から湖の宮殿まで各地の様子を視察しながら行ってきます。3ヶ月ほど留守にしますから後のことを頼みます」
「はい。虹の宮殿,空の宮殿,森の宮殿,風の宮殿にもお立ち寄りになられますね」
「はい。それで,次回の世界皇帝会議は出席できませんから,その旨フォスター帝国に連絡しておいてくれますか?それから,私の留守中は我が国への訪問は遠慮してもらって下さい」
「分かりました。くれぐれもお気を付けて・・・陛下」
「ありがとう。ルーラ,マリオ,フィラの補佐を頼みます」
「承知しました」
「では,行ってきます」

 ラミエル帝は10人ばかりの騎士とドクターアロウを連れて別宮巡りへと出発した。

 フォスター帝国へは速やかに次回の皇帝会議でのファンタジア帝国ラミエル帝の欠席連絡が届けられた。

「ラミエル帝は参加されないのですか?」
「すみません。陛下は自国の視察に出掛けていらっしゃいますので」
「そうですか,残念ですね。分かりました。結果は後ほどファンタジア帝国に知らせることにしましょう」
「よろしくお願いします」

 ルーラ最上大臣は丁寧に伝えると,ほっと一息ついた。

 次回皇帝会議では,ラミエル・デ・ルーン帝の欠席が公表され,みんなはがっくりきていた。

「今回は月の君は欠席か」
「会議も進みませんな,彼がいないと・・・・」

 当然王女達もがっかりしていた。せっかくラミエル帝に会えるのを楽しみにしていたのに肝心なラミエル帝がいないのだ。彼がいないとこのフォスター帝国の地も何の魅力も感じなくなってしまうのだ。輝きを失ってしまたように,フォスター帝国は盛り上がらず,当然会議もあまり進まなかった。
 セイラもがっかりしていた。せっかくラミエル帝に会えるのを楽しみにしていたのにラミエル帝がいないのだ。

 その頃,ラミエル帝は森の宮殿にいた。
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「ある国の物語」 第二章 運命の輪を廻す者

2008-02-20 01:41:45 | 「ある国の物語」 第二章
第10節 月の国の世継ぎ 第1話

「ようこそ,叔父上。おっしゃって下されば私から伺いましたものを」
「いや,良いのだ」

 月の国ルナ王国のカルナール王は甥のラミエル帝と向かい合って座る。

「ラミエル・・・ルナはやはりそなたの第二子を世継ぎにすると再議決されたよ。私もこの頃体調がすぐれないのでな,そなたも早く結婚して世継ぎをもうけてくれ」
「叔父上,前より痩せられましたね。どこがお悪いのです?」
「話をはぐらかさんでくれ。ラミエルよ,そなた,好きな姫の一人でもおらぬのか?」
「はい。結婚するつもりもありませんので」
「そなた・・・本気で一生独身で過ごせると思っているのか?」
「はい」
「そなたの母の国の将来がかかっているのだぞ?」
「仕方がありません」
「思い直してくれ。な?ラミエル。そなたも16になった。結婚を考えても良い年頃じゃ」
「叔父上がどうか再婚なさって下さい。今,私の第二子という形のない者に大切なルナを任せることはできません」
「ラミエル・・・・お前という奴は・・・」

 ラミエル帝は暫く黙っていた。が,その眉目秀麗な顔を真っ直ぐカルナール王に向けると静かに口を開いた。

「叔父上,形だけでもどうか再婚を・・・。王族の者が一人と言うことは他国が狙いやすく,とても危険です」
「それはそなたも同じではないか。そなたがもしいなくなれば,ファンタジアにとどまらず,世界中大戦争が起こるぞ」
「私の方には代理のフィラがいますから。叔父上はまだ37歳。十分第二の人生が送れますよ。私は故国ルナをカルナール王に全て委ねました。私はファンタジアの皇帝,ルナに対して何の権限も持ちません」

 カルナール王は出された紅茶を飲みながら溜息をつく。どうも納得がいかないのだ。

「ルナはそなたの愛すべき母君の国,ファンタジアは憎むべき父君の国ではないか。ルナの存続が危ぶまれていると言うのに何故ファンタジアの肩を持つのだ?」
「アシュラル帝への思いはともかく,ファンタジアが好きだからですよ。それに,ファンタジアの皇帝として即位した以上,理由がどうであれファンタジアを守らねばなりません。これだけは・・・私も破れぬ厳しい掟です。アシュラル帝の遺言破棄とはわけが違います」
「これだけ頼んでもだめなのか」
「すみません,叔父上」

 カルナール王はがっくりと肩を落として帰国の途についた。
 ラミエルは月の国の王を見送った後,父の没後,初めてアシュラル帝の墓に足を向けた。ルーン家の皇族墓地の一番奥に父の墓はあった。ラミエルはそっと跪くとその豪華な彫刻の施された威厳ある墓に花を供えた。周りは代々の皇族の墓で取り囲まれている。その数は長いルーン皇家の歴史を物語っている。が,この長い歴史を今,自分は断とうとしているのだ。その罪の重さはずしっと重くラミエル帝の肩にのしかかっていた。

「父上」

 誰も居ない所で月の君は初めてアシュラル帝を父と呼んだ。

「もし,あなたが母君を大切にして下さっていたら,こんなことは起こらなかったのに・・・。あなたを憎みます。父上,あなたは母君と私の小さな幸せを・・・人生を滅茶苦茶にしたのですから・・・。ルーン家断絶をお許し下さい。この深い罪はこのラミエルが全て背負います。・・・・・・・父上」

 ラミエルはそっと父の墓に彫り込まれている父の名を細い指でなぞった。辺りをそよ風が吹き,彼の髪を弄んでいく。

 本当に静かな時間が流れていく。
 
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「ある国の物語」 第二章 運命の輪を廻す者

2008-02-19 00:39:40 | 「ある国の物語」 第二章
第9節 月の君と冷氷の君 第8話

「うっ・・・・」
「お気づきになられましたか?」
「ラ・・・ラミエル殿。どうして貴殿が・・・」

 すぐに起き上がろうとする冷氷の君を月の君はとめた。

「動かないで下さい,ナルシス殿。もう大丈夫ですよ。ここはファンタジアのムーンレイク宮殿の中です」
「ファンタジア?ありがとう,ラミエル殿。迷惑を掛けてすまぬ。貴殿は私の命の恩人だ」
「そんなに改まらないで下さい。それより,どこか痛むところはありませんか?」「ああ,何とか大丈夫なようです」
「それは良かった。後で軽い物を持ってこさせましょう。あなたの内蔵も弱っているようですから」

 ラミエル帝はナルシス帝を見るとほっと安心したように優しい表情で語りかける。ナルシス帝は少し目を閉じて何か考えているようだったが,やがてまた目を開けると意を決したように月の君を見た。

「ラミエル殿」
「何か?」
「私は・・・もうユウライアには帰れぬ」
「それは冷氷の君と名高いあなたのお言葉とは思えませんね。暫くここで休養されて,後の対策は回復されてから考えることにしましょう。まずはゆっくり休まれることですよ」

 月の君は優しく言うと,ごゆっくり・・・・と丁寧に礼をして部屋から出て行った。ナルシスは目がかすんで彼の姿がよく見えなかった。涙があふれ出てくる。そんなことは彼が皇帝に即位してから初めての事だった。

(ああ,これが噂の月の君なのだ)

 ナルシス帝は力が抜けて,ふーっとそのまままた眠りに落ちる。
 
 ラミエル帝はあちこち手配して何とかナルシス帝の婚礼を無効にしようと考えた。ユウライア帝国の典範を見て考える。しかし,ファンタジアとは違い,どんな形であれ式が執り行われてしまった以上無効にはできない。離婚も一切認められていないのだ。

(婚姻関係が無効とならないのであれば・・・・ナルシス殿に味方を増やせば良いのだ)

 ラミエルは皇妃の協力を得ようと考えた。人柄の良さで知られるアルビレオ王国のアバス王の姫である。姫君もきっとアバス王のようにおおらかで優しい方かもしれない。
 月の君は探って皇妃の性格を知る。もちろん,これには皇妃と仲が良かったフレイア姫に手伝ってもらった。皇妃が思った通り優しい性格であると分かったラミエルはフレイアに呼び出してもらい,ナルシス帝とグレーテ皇妃を会わせた。
 グレーテ皇妃はナルシス帝が宮殿を出て行ってから彼を心配して心配してかなりやつれていた。美しさも輝いていなかったがナルシス帝を見ると,思わず泣き伏していた。

「ナルシス陛下,よくぞご無事で・・・。申し訳ありません。私は陛下の事情も知らず,大臣達の言われるままにしてしまいました。そのことがこれほど陛下を苦しめていたとは・・・・」
「グレーテ姫」
「私は・・・今までお国のためということばかり考えておりました。でも・・・でも今度からは私は陛下の味方でございます。何があっても私は陛下を信じて陛下についていきます」

 月の君は冷氷の君を見た。

「ナルシス殿。皇妃に協力していただければこれほど強い味方はいないでしょう。大臣達なんて気にもとめなくなりますよ」
「そうだぜ,ナルシス。頑張りなよ。弱気のお前なんかどう見ても似合わないよ」
 
 一緒に来ていたフレイアもエールを送る。

「ありがとう。すまぬな,ラミエル殿,フレイア姫」

 ナルシス帝は暫くファンタジアで養生をしたあと,ユウライアへ帰っていった。グレーテ皇妃は言葉通りナルシス帝をいろいろとかばい,助け合って二人は固い絆で結ばれていった。

 ラミエルはナルシス帝に本当に強力な味方ができたことを嬉しく思っていた。
 
 それから数日後,ラミエル帝は叔父のルナ王国国王カルナールの訪問を受けた。 
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「ある国の物語」 第二章 運命の輪を廻す者

2008-02-18 01:01:59 | 「ある国の物語」 第二章
第9節 月の君と冷氷の君 第7話

 ナルシス帝が目を覚ました時,ちょうど日の出前で外はうっすらと明るくなっていた。少し頭が重いが何とか上半身を起こす。昨日のことはよく覚えていないが自分が婚礼を挙げさされた事は自覚している。隣を見ると顔もよく知らない皇妃が眠っていた。グレーテ姫・・・流星の国アルビレオ王国のアバス国王の第一王女である。アバス国王は人の良さで知られており,ナルシス帝も何度かお目に掛かって話をしたことがある。グレーテ姫もそのアバス国王の娘なので大体人柄も分かる。だから特別相手がどうのという思いは彼にはなかった。ただ,大臣達の思いのままに自分が動かされているのがどうにも耐えられなかった。人一倍プライドの高いナルシス帝である。このような屈辱的な結婚をさせられて黙っているはずはなかった。

 それに,次に大臣達が何を言い出すかも彼には分かっていた。

「そこまで思い通りにさせてたまるか」

 ナルシス帝は静かにベッドから降りると着替え,窓の外を見た。そして改めて静かに眠っているグレーテ姫を見る。年は自分より4つ下だと聞いている。それなら今は17歳だろうか。

「すまぬな,グレーテ姫。そなたに罪はないが私はそなたの夫となるわけにはいかないのだ。ユウライアのごたごたに巻き込んでしまって本当に申し訳ない。許してくれ」

 ナルシスは独り言のようにグレーテ皇妃に言うと剣を持ち,窓から脱出した。そしてそのまま宮殿から外に出て行方不明となってしまった。
 部屋を訪れてナルシス帝の脱走を知った大臣達は大慌てで追っ手の兵を出した。

「こんなことはあってはならぬのだ」
「何としても陛下を捜し出せ。手段は問わぬ」

 凄い数の兵士が宮殿内,そして宮殿外へと皇帝を捜しに出て行った。
 ナルシス帝はつないであった小舟に乗ってアフタル川をひたすら下っていった。まだ国の最盛期を迎えていないユウライア帝国を滅ぼすわけにはいかない。しかし,そのままユウライア帝国にいることもできない。ナルシス帝はござに身を隠し川の流れに任せて南へ南へと下っていった。

 ユウライア帝国の様子を見張っていた特使から「ナルシス帝宮殿脱走,行方不明」との連絡を受けたファンタジア帝国のラミエル帝は心配してすぐに騎士達を密かに送り込んで捜させた。
 やがて騎士がルナ国境付近の川沿いの森で倒れているナルシス帝を見付け,すぐさまファンタジア帝国へ連れ帰った。
 典医のアロウがナルシス帝の様子を見る。

「どうなのですか?」
「大変なお疲れようですな。今まで相当無理して来られたのでしょう」
「ユウライアもひどいことをする。それで・・・ナルシス帝はどのくらいで回復できますか?」
「まあ,4,5日の休養は最低必要かと。絶食状態ですので急に食べ物を召し上がる事はできませんし,体もかなり衰弱しておられる。陛下・・・もし,発見が一日遅れていればナルシス帝のお命は危ぶまれるところでございました」
「そうですか。でも・・・良かった。助かって」

 ラミエル帝はナルシス帝が心配でずっと彼につきっきりだった。
 やがて,ナルシス帝が気がついた。
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「ある国の物語」 第二章 運命の輪を廻す者

2008-02-17 23:17:39 | 「ある国の物語」 第二章
第9節 月の君と冷氷の君 第6話

 やがてユウライアの大臣達がナルシス帝に婚礼のことを告知してから5日が過ぎ,ナルシス帝と流星の国アルビレオ王国の第一王女グレーテ姫との盛大な婚礼が執り行われた。ナルシス帝はあくまでも拒否し続けていたが味方が一人もいないためどうにもできなかった。
 大臣達もしたたかで国の再建のために東奔西走し疲れているナルシス帝の飲み物に薬を混ぜ,意識朦朧となっているところを連れ出した。立っているのがやっとの皇帝を大臣達がいかにも介助しているようにして支え,更に動きを束縛していた。

 神殿内の厳かな雰囲気の中でユウライア帝国皇帝の婚儀が始まった。
 司祭の祈りの声がまるで別世界にいるように遠くに聞こえる。ナルシス帝は今,自分がどこにいて何をしているのかさえはっきりと分からない状態だった。皇妃となるグレーテ姫がどのような姫なのかも全く知らない。彼はまるで人形のようにそこに突っ立っていた。

「それでは,ナルシス・イオ・エルカイン皇帝陛下。グレーテ・ケーリ・アルビレオ姫と健やかなる時も病める時も順境の時も逆境の時も変わらぬ愛を天帝ノブレス・ラ・コスモ大神に誓われますか?」

 司祭が問う。皇帝を両脇から支えている大臣達が小声で「陛下,YESと答えるのです」と繰り返し繰り返し囁く。それはまるで催眠術のように意識朦朧状態の皇帝に絡みつく。ナルシス帝は暫く黙っていたがあまりに繰り返される言葉にいつの間にかそれを復唱するかのように小さく「YES?」と答えていた。彼にとっては疑問符のついた「YES?」だったが司祭はすかさず「分かりました」と言うとグレーテ姫の方に顔を向けた。

「それでは,グレーテ・ケーリ・アルビレオ姫。ナルシス・イオ・エルカイン皇帝と健やかなる時も病める時も順境の時も逆境の時も変わらぬ愛を天帝ノブレス・ラ・コスモ大神に誓われますか?」

 司祭の言葉にその姫君は小さく「YES」と答えた。

「分かりました。今ここにお二人は永遠の愛を天帝に誓われました。よってお二人を夫婦として認めます」

 神殿内から拍手と歓声が沸き起こった。

「ユウライア帝国に皇妃様が誕生されたぞ」
「これでお世継ぎができれば我が国は安泰」
「めでたい限りじゃ」

 国民達は大喜びである。しかし,それはナルシス帝の幸せを祝ったものではなく,ユウライア帝国の安泰を喜んだものだった。

 ナルシス帝はそのまま大臣達に捕まれて宮殿に戻り,着替えさせられた。

「陛下。本日はまことにおめでとうございます。つきましては一日も早くお世継ぎを・・・・」
「陛下にはお世継ぎを誕生させる責任がおありです。なに,皇妃様がご懐妊あそばしたら陛下のお好きなようにされたらよろしいのです」

 大臣達は早速そのような事を言っている。ナルシス帝は抵抗する気力も力もなくそのまま倒れてしまった。そのまま寝室のベッドに運ばれ,そっと寝かされる。

「まずは滞りなく婚礼の儀が終わり,良かったですな」
「陛下は大丈夫でしょうか。薬が少し効きすぎたのでは?」
「ここの所お疲れだったからちょうどよろしいのではないですか?これから陛下をあまり疲れさせてはいけませぬぞ。世継ぎ誕生に差し障りがあっては大変です」
「そうですな。ちょっと調整をしなければなりません」

 大臣達は早速次の計画の話をしていた。

 一方ファンタジアのラミエル帝はユウライア帝国の婚礼の話を聞いて胸を痛めていた。もし,本当に彼が月の聖帝ならこれから運命の輪が大きく回りそうな気がしたのだ。
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「ある国の物語」 第二章 運命の輪を廻す者

2008-02-16 22:59:28 | 「ある国の物語」 第二章
第9節 月の君と冷氷の君 第5話

「ユウライア帝国はちょっと考え方が他国とは違うことで有名ですからね。私の認識が正しければ,あの国は皇帝こそ,その国の生け贄同然だと・・・。国に何かあった時は皇帝または皇家がまず犠牲を払って守らなければならないはず。そのために地位と名誉と権力と高貴で贅沢な暮らしを皇家に与えているのだということです。ですから,考えてみれば国民にとって皇帝は自分たちを守ってくれて当然の存在。先帝と皇妃は守るどころか国民から与えられた贅沢な暮らしにのめり込み,国を傾けてしまったので容赦なく追放されたのでしょう。でも,皇家の血は一応他国への体面を保つために必要だから当時のナルシス皇子だけは残して皇帝にしたのでしょう。先帝がナルシス帝を手にかけようとしたことは有名です。大臣が発見して一命を取り留めましたが,それは大臣達にとってエルカイン家の世継ぎがいなくなれば先帝を追放できなくなるからだったのでしょう。思えば,ナルシス帝は本当に悲劇の皇帝ですね。両親のツケを払わされ,御自分もその立場におかれるとは・・・・」

 マリオ最上大臣は紅茶を飲んでいる美しい少年帝の脇でゆっくりと話した。
 ラミエル帝はその話をずっと聞いていた。

「ナルシス帝は,大臣達が思い通りにしようと強行手段に出るかもしれないと言っていました。その強行手段とは恐らくナルシス帝が最も自分の意志を貫くために守らなければいけないものを壊してしまうもの」
「御結婚とお世継ぎですね」
「ユウライアの国民にとって皇帝は次の世継ぎを作るための道具でもあるのでしょう。たまらないな・・・」

 ラミエル帝は珍しく大きく溜息をついた。

「陛下と境遇がよく似ていらっしゃいますね。でも,我々も国民も陛下をそのようには全然思っていませんよ。そこがファンタジアとユウライアの大きな違いですね」
「そうでしょうか」
「またそのようなことを・・・。ところで陛下はもしやユウライアに何か仕掛けるつもりではないでしょうね」
「できませんよ,そんなこと。国際法で他国への干渉は厳しく禁じられています。ナルシス帝自らが要請してこない限り私は何もできません」
「そうですね。で,ナルシス帝の苦しい立場を把握しながら何もできない自分に苛立ちを覚えていると?」
「苛立ち・・・・と言うよりも何もできない自分が情けないのです。言っておきますが,もし,お前達がユウライアと同じようなことを企むなら私は自らを追放してルナに帰りますから・・」
「企むだなんて滅相も御座いません。この前ので十分懲りました。もうその事はご容赦下さい」
「冗談抜きでユウライアの様子を見張っていて欲しいのです。恐らく,ナルシス帝の婚礼は近々執り行われるでしょう。彼は世継ぎが出来るまで自分は生かされているのだと言っていました。ちょっと油断できない状況です」
「分かりました。陛下の仰せのままに・・・」
「すまないな。ナルシス帝も素直にSOSを出してくれればいいのですが,彼のプライドがそれを許さないのでしょう。あの皇帝は人に頼ると言うことを極端に嫌いますから」
「私はあの皇帝もただ者ではないとふんでいるのですけどね」
「ただ者ではない?」
「はい。陛下もそうですが,前に占い師がユウライアの国情を憂慮して水晶で占った時,水晶には未来が映らず,一面の氷原が映っていたと言っていたことを思い出しました」
「水晶に映らないのは運命を占えない者か幼い者・・・・」
「はい。ちょっと気になってはいるのですが・・」

 ラミエルは前に聖帝の話をラジアル帝がしていたのを思い出した。それでは天帝の十二番目の神皇子月の聖帝はナルシス帝なのかもしれない。運命の輪を廻す者・・それはナルシス・イオ・エルカイン帝のことなのだろうか。そして自分はそのストッパーにと言われたのだろうか・・・。
 月の君はマリオ最上大臣の話にいろいろと思いを巡らせていた。
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「ある国の物語」 第二章 運命の輪を廻す者

2008-02-15 22:20:39 | 「ある国の物語」 第二章
第9節 月の君と冷氷の君 第4話

 ナルシス帝の四面楚歌という状況は氷の顔を持つとまで言われる彼を追いつめていた。いくらラミエル帝と並び軍神と言われる冷氷の君でも,たった一人では限界がある。
 大臣達や国民はナルシス帝のことより何よりこのユウライア帝国という国を大事に思っていた。だから,いくら贅沢三昧の暮らしをして国を傾けたとはいえ,一国の皇帝と皇妃であったナルシスの両親を容赦なく永久追放することができたのである。彼らにとって皇帝であっても・・・いや,皇帝であるからこそ国に役立たない者は不要なのである。
 
 彼らの考えでは一番国のために犠牲を払わなければならないのが皇帝である。だから,ナルシス帝が国を再建し,国の繁栄のために世継ぎをもうけるのは当たり前だと思っていた。それだけに,ナルシス帝の考えが彼らには到底理解できなかったのである。

「なぜ,皇帝陛下は御結婚を拒否されるのか?」
「この国のことをそう思われていないのでは?」
「そのようなこと許されるはずはない。皇帝陛下はこの国のために全てを捧げる方のはず」
「そうなのだ。ナルシス陛下は今ちょっとお疲れ気味なだけなのだ」
「なあに,陛下の御意志など関係ない。陛下は国家のためにグレーテ姫と御結婚あそばされるのだ」

 大臣達はナルシス帝の気持ちなど全く無視してちゃくちゃくと婚礼の準備の最終確認を行っていた。

 
 -その頃,ファンタジア帝国ではラミエル帝が自分の部屋で仕事をしていたが,思うようにはかどらなかった。

「陛下。ここのところ少々お手がとまる時間が多いような気がします。何かお考え事でも?」
「え?」
「少し休憩しましょう。私の言葉にえ?と答えられるようではいつもの陛下ではありませんから」

 守り役のマリオ最上大臣はそう言うとすっと席を立ってラミエル帝のお気に入りの紅茶を入れ,差し出した。

「どうされたのです?皇帝会議から帰国されてからおかしいですよ」
「そんなことはない」
「またそのような強がりを・・・。他の者は気付かなくても私には分かります。何があったのです?」

 マリオ最上大臣は優しく3歳の頃から見守ってきた少年帝に話し掛けた。

「マリオ」
「はい,陛下」
「雪の国ユウライア帝国のことは知っているだろう?」
「はい。数年前,皇帝一家の贅沢三昧で国が傾き,国民達が怒って皇帝と皇妃を着ぐるみはがして国から永久追放し,当時まだ10代だった第一皇子を皇帝に即位させたと・・・。それが何か・・」
「そのナルシス帝に会議でお会いしたのです」
「え?あの冷氷の君と言われるナルシス皇帝にですか?」
「そうです」
「それが何か関係があるのですか?」
「あの冷氷の君と言われ,いつも余裕の態度だったナルシス帝が,先日お会いした時には随分とイメージが変わっていました。国で相当追いつめられているのではと・・・。あのプライドの高い皇帝が私に武術を教えて欲しいなどと言い出すなんて余程のことです」
「確かにそうですね」

 マリオ最上大臣は一緒に紅茶を頂きながらふむ・・・と少し考えた。 

 

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