テルサのFantastic Stories

今まで書きためていたとりとめもない物語を少しずつ連載していきます。ファンタジー物が多いです。ぜひ読んでみて下さい。

「虹かかる幻の島」-幻想の風景 Ⅰ-   第9章(最終章) 2

2007-05-26 21:17:40 | 「虹かかる幻の島」-幻想の風景 Ⅰ-
 チリリンと音がして,小さな画廊の扉が開いた。
「こんにちは,お婆さん。絵を見てもいいかしら。」
 老婆がか細い声の主の方を見ると,そこには涙で瞳がうるんだ可愛い少女の姿があった。
「こんにちは,マーシア。ずいぶんと久しぶりだねえ。元気にしていたかい?まあ・・・ゆっくり気の済むまで見てお行き。」
 白髪の店主エミリー婆さんは,特別少女の涙の理由を聞くでもなく,相変わらずの優しい笑顔で声を掛けた。
「ありがとう,お婆さん。そうさせていただくわ。」
 マーシアは小さく言うと,奥へと向かった。久しぶりに絵を見たマーシアは,いつも見ていた不思議な絵が「虹かかる幻の島」アグアルダの風景であることに気づいた。だから,「虹かかる幻の島」に行った時,そこで見た風景が懐かしく感じられたのだ。しかし,その絵は前に見た時と印象が違うように思えた。また,今の絵もアグアルダそのものの風景ではないような気がした。彼女の胸に少年の「絵は見る者によって違う姿を見せる。そこに実在しながら全ては幻なのだ」という言葉を思い出した。確かに今掛かっている絵は「虹かかる幻の島」の風景である。題名を見ても妖精達が話していた場所そのものである。しかしながら,明らかに印象が違うのである。
 マーシアはしばらく見入っていたが,やがてエミリー婆さんにそのことを話し,アグアルダでの不思議な出来事を教えた。その老婦人は彼女の話を深く頷きながら聞いていた。時折「そうかい。」と優しく言いながら目を閉じてずっと彼女の話す信じがたい出来事を聞いていた。マーシアは一通り話すと,
「エミリーお婆さんは信じてる?妖精のこと。」
と尋ねた。老婆はしばらく目を閉じたまま考えている風だったが,やがて口を開いた。
「妖精はいると思えばそこに本当に存在し,いないと思えばそこには存在しないものじゃ。」
「え?それじゃあ,答えにならないわ。」
「ほっほっほっ,そうかい?」
 エミリー婆さんは相変わらずの笑顔である。
「まあ,いいわ。ありがとう。絵を見せてくれて。何だか元気が出てきたわ。」
 マーシアは笑顔を取り戻して,いつものように丁寧に頭を下げると,またチリリンと戸口の鈴を鳴らして出て行った。
 家に帰ったマーシアは,自分がジョアンヌのアクセサリーなど神に誓ってとっていないことをはっきりと伝えた。いつになくきっぱりと言うマーシアに二人は驚いたようだが,彼女に対する冷たい態度は急には変わらなかった。マーシアはそれでも,世話をしてくれる二人のことを悪く言うでもなく,理解し,歩み寄ろうと努力した。しかし,それは容易なことではなかった。「輝く川」で見たやつれたバーバラ夫人の姿は,実はマーシアがいなくなったことで自分が責められはしないかと思い,自分がこんなに世話をしているのに彼女が勝手に出て行ったと悲劇の義母を演じていた姿だということも分かった。それは,近所の人のひそひそ話からおおよその察しがついた。
「お義母さんをあんなに心配させるなんて,なんて悪い子なんだい。」
「バーバラ夫人はあの子のおかげで,心配のあまり5キロも体重が減ったそうじゃないか。」
 マーシアがいない間に,彼女はすっかり一生懸命子どもに尽くしている義母を苦しめる悪い子に仕立て上げられてしまっていた。彼女がどんなに勇気を持って違うと否定しても,いなかったのは事実だし,みんなはバーバラ夫人の味方になってしまっていた。マーシアには妖精だけが味方になって慰めてくれた。
 妖精の話をしても,欲望によって目を濁してしまった人々は信じず,ますますマーシアを気がおかしくなってしまった少女ととらえてしまった。どんなにマーシアが言っても,もはや誰も彼女の話に耳を貸そうとはしなかった。
 ある日,前よりますます自分の思い通りにならなくなり,ひどくなったマーシアを見かねたバーバラ夫人は,町の人がたくさん集まる中,マーシアを眼下に荒波が押し寄せる崖の上に立たせた。その日は本当に抜けるような青い空で,風が強い日だった。
「もし,お前が本当に妖精と友達なら,ここから飛び降りてごらん。もし,それでお前が無事なら信じてやるよ。ま,できないだろうがね。」
 バーバラ夫人は,みんなが見ている前でこれみよがしにマーシアに言った。しかし,マーシアは本当に崖の上に立ち,先端へと足を進めた。下は岩の突き出た青い海が広がっている。少女は,ふと海からの風がとても懐かしく感じられた。海に,風に,雲に・・・全てに妖精達の姿が見える。妖精達はマーシアが危ない崖の上に立っているというのに笑顔で見ている。
「どうせ,できやしないさ。このうそつき娘には・・。」
 人々の中にはそのようなことを言う者もいた。
 マーシアは目を閉じると,静かにふうっと息をし,崖から飛び降りた。見守っていた人々は「あっ」と声を上げ,顔が真っ青になった。
「あなたを見付けたわ。あなたはすべての自然を司る妖精王。幸福と平和をもたらし,運命の輪を廻す者。」
 マーシアがそう叫んだ時,少女の体は空中でフワッと誰かに抱きとめられた。顔を上げると,そこには「虹かかる幻の島」で会った少年がいた。彼こそ,すべての自然を支配する妖精王オヴェロンであった。彼は初めてみんなの前にその姿を現したのである。みんなは驚いて何も言えない。目をぱちくりとさせ,口は開いたままである。
「私を見付けてくれましたね,人の娘よ。もう,あなたはこの世界のしがらみに縛られることはありません。さあ,私と一緒に行きましょう。あの『虹かかる幻の島』の絵はアグアルダ一の画家である小人(ドワーフ)が描いたもの。10枚目の絵は私の宮殿,水晶の城に飾ってあるのですよ。」
 少年はマーシアをしっかり抱きとめたまま,少し町の人々を悲しそうな瞳で見ていたが,フッと消えてしまった。彼らが消えた後には,金粉を振りまいたように明るい輝きがキラキラと残っていたが,やがてその輝きもかき消えてしまった。
「ほ・・・本当にいたんだ。妖精王オヴェロンが・・・・。」
「信じられない。」
「マーシアが消えた。」
 バーバラ夫人はまるで魂を抜かれたように,ただマーシアが少年と消えた方を見ていた。
「そんなバカな・・・・。」
 そして,その時にはもうあのエミリー婆さんも,店もまるで夢か幻のようにフッと消え失せていた。


 ある町に,一人の老婆が小さな店を営んでいた。
「ああ,この9枚の絵かい?これはねえ・・・・・。」

 (完)

 
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「虹かかる幻の島」-幻想の風景 Ⅰ-   第9章(最終章) 1

2007-05-26 17:44:48 | 「虹かかる幻の島」-幻想の風景 Ⅰ-
第9章(最終章) 虹かかる幻の島

 海鳥たちの鳴き声でマーシアは目を覚ました。ザザーッと波をかき分ける音も聞こえる。少し伸びをしてから外に出ると,夜明け前で東の空がうっすらと明るくなってきていた。夜明け前ということもあるのかもしれないが,彼女には頬に当たる風がどことなくひんやりと冷たく感じられた。周りの様子も見慣れた場所なのにどこか雰囲気が違う感じがする。
 時間が経つにつれて東の空がさらに白みはじめる。夜の女神が帳をはずし,太陽が顔を出す準備をしている。マーシアは一つ深い深呼吸をするともう一度辺りを見回した。もうそこはマーシアが見慣れた海だった。東の前方には自分の故郷の建物の集まりが小さく見える。

『帰ってきたのだ。元の場所に。』

 マーシアはほっとしたような,それでいて怖く悲しいような,複雑な気持ちをその胸に抱えていた。帰ったらまたあの家に帰らなければならない。勝手に家を飛び出してしまって義母や義姉はどう思っているだろう。きっと怒られるに違いない。だんだんと胸の鼓動がとくんとくんと強く速くなる。決心して「虹かかる幻の島」を出発したはずなのに,町が近づいてくると不安が大きくなる。マーシアは船縁をつかんだ手にさらに力を入れ,その不安を払いのけようとする。
 その時だった。東の空からパアッと光の筋が差し込み,海を渡ってマーシアが乗っている小さな帆船まで白銀の道ができた。波に揺られてその白銀の道はキラキラと輝いている。船はその道をしっかりととらえると,さらに潮風を受けて速度を速めた。だんだんと町の姿が大きくなり,やがて船は音もなくスーッと町の船着き場に到着した。
 良く晴れたさわやかな早朝に,彼女は懐かしい自分の住む町に帰ってきたのである。白い小さな帆船は彼女を降ろすと,そのまま太陽が昇り始めた東の方向に向かい,白銀の航路を辿って水平線の彼方に消えていった。

 一週間ぶりに帰ってきたマーシアは,大地に足をつけると町を見渡した。するとどうだろう,よく目を凝らしてみると,そよぐ風や葉を揺らす木々の中に可愛い妖精達の姿が見えるではないか。妖精達のマーシアを見ながら「ふふふ。」と小さな小さな笑い声を立てているのも聞こえる。
 「おはよう,妖精さん達。今の私にはあなた達の姿が見えるわ。きっと,今までもあなた達はそこにいたのね。でも,見ようとしなかったためにあなた達を見付けることが出来なかったのね。」
 マーシアはそっと妖精に話し掛ける。妖精達はキャッキャッと光のかけらのように笑う。風の精達が彼女のさらさらとした髪を撫でながら吹き渡っていく。
「よし。私には妖精さん達がいる。元気を出すのよ,マーシア。」
 自分に言い聞かせ,彼女は家に向かって歩きだした。
 
 家に帰ると,バーバラ夫人とジョアンナはまだ眠っているようだった。マーシアは「おかしいわ。何かちょっと肌寒いわ。いくら朝少し早いからってこんなに涼しく感じるものかしら。」とつぶやきながら,それでも自分の部屋に戻って着替えると,朝食の準備を始めた。
 しばらくして,バーバラ夫人が起きてきた。マーシアの姿を見ると目を丸くしてびっくりしたようだったが,すぐに気を取り直すと口を開いた。
「マーシア,あんたって子は家出までするんだねえ。一体半年もどこに行っていたんだい。どうせなら,もうずっと帰ってこなくても良かったんだよ。無理にいてもらおうとは思わないからね。一体どの面下げて戻ってきたんだい。」
 バーバラ夫人の言葉を聞いてマーシアも目を丸くした。
「半年?私,七日間しか家をあけなかったわ。半年なんて。」
「はん,笑わせるんじゃあないよ。一体ここのどこが春だっていうんだい。今はあ・き・・・秋なんだよ。今日は秋分の日なんだから。全くおかしなことを言う子だね。あんた,本当に気がおかしくなってるんじゃないのかい。」
 バーバラ夫人は溜息をつくと,朝の支度を始めた。
「おやっ,朝食は作ってくれたんだね。でも,あんたの作った朝食なんか食べる気もしないよ。悪いけどあんたの作った物はあんたが食べな。」
 夫人の言葉にマーシアは黙って食卓の自分の所に作った野菜スープとパンとサラダをのせ,椅子に座った。
『秋・・・今は秋・・・・だから肌寒く感じたんだわ。でも,なぜ,私確かに七日間しかあの島にいなかったわ。半年もいなかったわ。』
 彼女は夫人が朝食の準備をすませ,義姉のジョアンナを呼ぶまで混乱した心のまま,ずっと考えていた。
『そんなことってある?』
 それからというもの,やはりマーシアの言うことは誰も信じてくれなかった。また,辛い生活が始まった。でも,マーシアが泣きたくなった時は妖精達が慰めてくれ,前よりは幸せだと彼女は思った。結局ジョアンナのアクセサリーは出てこないままだった。ジョアンナはあくまでもマーシアがなくしたと思っているようで,態度もよそよそしかった。
 マーシアは,ジョアンナに身に覚えのないことで責められ,涙を瞳にためたまま家を飛び出した。気が付くと,彼女の足はいつの間にかあの老婆が営む絵画店に向いていた。
(続く)

 
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「虹かかる幻の島」-幻想の風景 Ⅰ-     第8章 

2007-05-20 21:25:41 | 「虹かかる幻の島」-幻想の風景 Ⅰ-
第8章 幻の島からの帰還

『私は負けないわ。誰も信じてくれなくても,妖精はこうやって本当にいるもの。みんなは,妖精を昔話の中の者と思い,信じなくなって,その瞳を曇らせてしまっただけなのだわ。私は間違ってない。義姉さんのアクセサリーも盗ってないし,心の病にかかっているわけでもないわ。』
 マーシアは,そう心の中でつぶやくとまっすぐに悲しみの島を見つめた。雲はそのまま悲しみの島の上空に来ると高度を下げ,高い木々の合間に見えた小さな緑の草原に着地した。彼女は意を決すると,静かに雲から降り立った。僅かに遅れて少年もふわっと雲の近くに舞い降りた。その時の彼の表情は,あいかわらず優しそうな,それでいて悲しそうな感じだった。
「太陽が西に傾いてきました。七色祭がもう少しで終わりを告げます。マーシア,人間界に戻るなら七色祭が終わるまでに,船が着く桟橋に行かなければいけません。その船に乗り遅れたら,あなたはこの幻想の世界から抜け出せなくなってしまいます。行きましょう。」
 少年に促され,少女は一歩を踏み出した。ふと思い出したように振り返ると,今まで自分を運んでくれた天翔ける雲に笑顔を送った。
「ありがとう。私を運んでくれて。気を付けて帰ってね。」
 するとどうだろう,その雲はふわっとちぎれて数個のかたまりになると,それぞれが可愛らしい少女の姿を形作り,マーシアの前に姿を現した。
「さよなら。」「さよなら。人の娘よ。」「またね。」
 雲の精達は,ふわあっと舞い上がると微かにうふふっと笑いながら空高く消えていった。
「さよなら。本当にありがとう。」
 空を見上げてマーシアがつぶやく。少年もその方を見ていたが,気を取り直したように少女に声を掛けた。
「では,行きましょうか。」
「ええ。」
 二人はつかず離れずの距離を保ちながら,木々の中の小道へと入っていった。
 
 しばらく歩いていて,マーシアは思わず周りを見回した。
「ここは・・・・。」
 見覚えのある場所だった。この木の形・・・これは・・。
「そうです。ここはから松の林。あなたが最初,心が押しつぶされそうになってうずくまっていた所ですよ。」
 少年は,マーシアを見ながらその場所を告げた。
「えっ,だってあそこは海から来て・・・・。ここは湖の真ん中の島でしょう?」
 マーシアは目をぱちくりさせて理解できないまま少年に問いかけた。少年は側の大きなから松を見上げる。
「だから,ここは実在しながら全ては幻の風景なのです。この悲しみの島はあなたがここに来て最初に足を踏み入れた所。あなたの,今胸に秘めている強い意志がこの場所をそうさせているのです。その意志がなければ,ここは別の姿を見せているでしょう。それでは,ここを抜けることが出来ません。永遠にここを彷徨うことになるのです。さあ,もう少しですよ。」
「えっ,分からない。どういうこと?」
 先に足を進める少年に,マーシアは追いつこうと小走りになりながら問いかけたが,少年は少し微笑んだだけで足を止める気配はない。
「待って・・・・。」
 マーシアは少年について行くのが精一杯だった。

 そこからさらにしばらく歩くと,視界がぱっと開け,湖が現れた。いや・・・そこは,潮風が香る海だった。目の前に小さな桟橋があり,来たときと同じ白い小さな帆船が泊まっていた。少年は船の近くまで来ると,マーシアを見つめた。
「太陽がもう少しで西に沈みます。太陽が西の水平線についた瞬間,ここには黄金の道が現れます。船はその海の道を辿り,あなたをあなたの帰るべき所へ送るでしょう。お別れです,人の娘よ。あなたは,あなたの信じる方法でやっていけばいいのです。」
 少年は静かに,そしてゆっくりとマーシアに別れを告げた。
「待って。あなたにまた会えるかしら。だって,この島を・・霧の谷や水晶の城を案内してくれるって言ってくれたでしょう?」
 マーシアは,ふわっと舞い上がった少年に尋ねた。
「あなたが,私を見つけて下されば・・・。私はいつもあなたのことを見守ってきたのですよ。そして,これからも,私はいつもあなたの側にいます。」
 少年はそう言い残すとさよならも告げず,そのままふっと消えてしまった。
 マーシアは仕方なく,その小さな帆船に乗り込んだ。船はそれを待ちかねていたように,マーシアが乗るとすぐに桟橋を離れ,ボーっと汽笛を鳴らし,黄金の道の上を進んでいった。

 しばらく進んだ時,マーシアが後ろを振り返るとその虹かかる幻の島はもう霧に包まれ,やがてぼうっとかすんでとうとう見えなくなってしまった。少女は今までのことがすべて夢の中の出来事のように感じられ,少年や様々な妖精達の出会いを思うと,少し切なくなるのだった。
 船はそんなマーシアの思いを乗せ,夕闇迫る七色の海をすべるように進んでいった。
(次回 最終章 第9章 虹かかる幻の島 )
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「虹かかる幻の島」-幻想の風景 Ⅰ-    第7章 6

2007-05-19 22:45:44 | 「虹かかる幻の島」-幻想の風景 Ⅰ-
「あと,もうしばらく行けば私達は月の湖に着きます。マーシア,あなたはそれまでに,悲しみの島に渡るか,渡らないかを決断しなければいけません。悲しみの島に渡ることは,つまり人間界に帰ることを意味します。そして,渡らないことは永遠にこの幻想の世界を彷徨うことを意味するのです。」
 少年は出会ったときのように凛とした声で少女に告げた。マーシアは動揺して心拍数が急に跳ね上がったような気がした。体全体がどくんどくんと脈打っているように感じられる。
「あ・・の・・・私は・・。」
マーシアは,天翔ける雲の縁にかけた手に力を入れ,意識的に輝く川に目を落とした。それは川面を見るためではなく,彼の心を見透かすような澄んだ,それでいて少しきつい瞳を見返すことができなかったのである。

川面にはマーシアの故郷の様子が,ゆらゆらとゆらめきながら映し出されている。少年はふと表情を緩めてマーシアを見る。
「今,そこに映っているのは,今現在のあなたの故郷ですよ。」
「今現在の私の故郷。つまり人間界の様子なのね。」
「そうです。」
 マーシアは今度は意識して川面を見た。マーシアの家の周りでは近所のおじさんやおばさん達が集まって何やら話をしている。バーバラ夫人も見えたが,夫人はどことなくやつれているように見えた。表情も硬く,生気が感じられなかった。その姿がぼんやりと,しかも水面でゆらゆらとゆらめいているので,義母の姿はとてもはかなげに見えた。
「お義母さん。」
 少女はそっときらきらと輝く水面に呼びかけた。

 しばらく沈黙の時が流れる。少年もマーシアも何を言うでもなく,川を見つめる。月の湖は遠く微かに見えるが,なかなか近づけない。下流を見れば,それでも遠くに色鮮やかに虹がかかっているのが見える。
「私,決めたわ。」
 突然マーシアが声をあげた。少年は静かに少女を見る。
「私ね,人間界に帰ります。どんなに辛くても,私には妖精さん達がいる。それに,疑われたままなんてやっぱりいやだわ。」
「分かりました。よく決断しましたね。」
 少年は静かに言うとふと上流を見た。マーシアも彼と同じように顔を上げ,上流に目を移した。するとどうだろう・・・。
「わあ。」
 マーシアは思わず声をあげた。あんなに遙か遠くに見えていたはずの月の湖がすぐ目の前に迫っていたからである。
『いつのまに・・・・。さっきまで小さくかすかに見えるだけだったのに』
 マーシアは不思議に思って少年を見た。少年はどことなく悲しそうな表情でまっすぐ月の湖を見ている。

 やがて天翔ける雲は月の湖の上空に入った。月の湖は,これもまたとてつもなく大きな湖だった。まるで海のようである。向こう岸が見えない。少ししか時間が経っていないはずなのに,もう周りに陸地は見えない。少年はすっと雲の上に立つととんと軽く雲をけった。すると,彼の体は再び空中に浮き,風と一体になる。
「マーシア・・・見えますか?あそこに悲しみの島が浮かんでいます。あなたの決意がかたくなければ,雲はあそこに渡ることができません。なぜなら,迷いがあれば悲しみの島の嘆きに心が押しつぶされてしまうからです。今,それが試されるのですよ。」
 少年は静かにこれからのことを少女に告げた。マーシアはきゅっと唇をかみしめると,湖の向こうに見えてきたこんもりとした木に覆われた悲しみの島を見つめた。雲はすべるようにその島に向かって進んだ。

(続く 次回第8章 幻の島からの帰還)
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「虹かかる幻の島」-幻想の風景Ⅰ-    第7章 5

2007-05-13 22:05:04 | 「虹かかる幻の島」-幻想の風景 Ⅰ-
「はるか遠い昔・・・・そう,神がこの世界を創造された時,私達はまだ存在していませんでした。もちろん人類もです。この世界が落ち着き,形を成した時,創造の神はそれぞれに名前を付け呼びかけました。風に,森に,雲に,花に,水に,火に・・・・。彼らが彼の神の呼びかけに応えた時,彼らは姿を持ち,名前を持った妖精の王になりました。ただ,一人だけどうしても呼びかけに応えなかった者がいました。」
 少年は少しずつ思い出すようにゆっくりと語り始めた。
「一人だけ?誰なの?その頑固な妖精さんは・・・・。」
「誰だと思いますか?」
「誰って・・・・・ええっと・・・・頑固だから岩の精さんとか。」
 マーシアの答えに少年は可愛い笑顔で首を横に振った。
「残念でした。その頑固な妖精は・・・・この世界そのもの。神が一番名付け,支配したがった者です。」
「この世界そのものって・・・全てを司る妖精王。」
「彼はどんなに神が呼びかけても応えませんでした。いくら神の創造物であっても,神に名と器を与えられ,支配されるのを拒んだのです。」
「それで・・・・どうなったの?」
 マーシアは,今語られる妖精国の歴史に興味を示した。
「神は何万年・・・何億年かけてこの世界そのものに呼びかけ続けました。それでも,その頑固者は応えませんでした。その者はどんなことをしても誰からも支配されたくなかったのです。形を成すことも望んではいませんでした。それでも,神は本当にしつこいほどいつもいつも呼びかけ続けました。頑固者はそのしつこさに根負けしてついつい応えてしまったのです。その時,彼の者は神から名と姿を与えられ,支配されてしまいました。それが妖精王の誕生です。」
「じゃあ,妖精の中で一番えらい王様が一番頑固者だったの?」
 マーシアの言葉に少年は少し悲しそうに微笑んで頷いた。
「そうなりますね。その頃この世界には同じく神によって人類が誕生しました。しばらくは妖精達と人間は仲良く共存していたのです。ところが,やがて人類は自然を友達ではなく,支配すべきものととらえ,妖精達を見ることができなくなってしまったのです。妖精王は嘆き悲しむ妖精達を見ていましたが,やがて妖精達の集う虹かかる幻の島アグアルダを作り,妖精達を連れて人間界から消えてしまったのです。」
「なんてひどいこと・・・人間は自然なしでは生きていけないのに・・・。」
 マーシアは怒り,少年はまあまあとなだめる。
「それでも,私達は人間界が気になっていましたから,人間界へはよく行っていました。中には人間に姿を変えた妖精もいて,彼らは細々と私達のことを語り部として伝えているのです。」
「じゃあ,私が前会った白髭のおじいさんは・・・。」
 少年ははっきりと答えなかったがかすかに頷くとまた遙か彼方を見つめる。
「同じ風景を見てもそれぞれの者の見方や感じ方は違います。このアグアルダも確かにここに存在していながら真の姿は一人一人違って見えていることでしょう。ここから見えている風景は全てが幻・・・。実際に存在していながら幻想の風景なのです。」
「幻想の風景・・・・。今,こうして見えているのに,これが幻・・・。」
 マーシアはもう一度改めて周りを見渡した。どこまでも広がる大地,どこまでもつながり,流れていく輝く川・・・。これが幻だというのだろうか。

 太陽は天中にかかり,島を優しく照らしている。二人はしばらく黙っていた。やがて向こうにかすかではあるが,川よりも遙かに広く水をたたえ輝いている所が見えた。
「月の湖が見えてきました。マーシア,あなたは決断をしなければなりません。悲しみの島に渡る前に・・・。」
「決断?」
「そうです。」
 少年は少し厳しい表情で告げた。
(続く)
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「虹かかる幻の島」-幻想の風景 Ⅰ-     第7章4

2007-05-13 12:17:02 | 「虹かかる幻の島」-幻想の風景 Ⅰ-
 マーシアの心の中に様々な思い出がよみがえる。とても優しく笑顔の素敵だった母の死,父と二人の寂しくとも幸せだった生活,義母と義姉の登場,厳しくも温かかった父の死,義母達とのぎくしゃくした関係・・・・。
 彼女は時にはそっと涙を流し,時には「お母さん,お父さん」とつぶやきながら天翔ける雲の縁に手をかけ,川をのぞき込んでいた。彼女の流した涙は何の穢れも知らない花の上の朝露のように輝き,ぽとっぽとっと落ち,風に流されてすぐに見えなくなってしまった。
「私ね,お母さんが大好きだったの。優しくていつも笑顔で私を迎えてくれた。私のためにおいしいお菓子を作ってくれた。私のためにかわいい服も作ってくれたの・・。お父さんもね,大好きだったの。怒ったらすっごく怖いんだけど,私が泣いていたらぎゅっと抱きしめてくれたの。でも・・・・もうお父さんもお母さんもいない。」
 自然に流れる涙を白く細い指で拭いながらマーシアは少年に言った。
 少年は「そう。」とだけ応えて優しく少し悲しい眼差しで少女を見た。川は下手を見ても上手をみてもずっと続いていて島を二つに分けているように見える。太陽がだんだんと天空に高くかかり,遠くに鮮やかな虹立つ丘の虹が姿を見せている。
「マーシア,あなたは今の自分がとても不幸だと思っていますか?母を失い父を失い独りぼっちだと思っていますか?」
 少年はふと優しく問いかけた。マーシアはしばらく考えていたが,首をふった。
「最初はそう思っていたわ。でも・・・でもね,今は・・・。」
「今は?」
「それでも一人じゃないって思うの。私には血はつながっていなくても家族がいる。意地悪で私のこと全然信じてくれないけど,それでもお義母さんとお義姉さんがいる。それに・・・。」
「それに?」
「それにね,私には妖精さん達がいる。いつも自然は厳しく優しく私を包んでくれる。だから私は今までがんばってこれたのよ。」
 マーシアは少年をまっすぐ見つめてそう言った。少年は少し威厳を持った目で彼女を見る。
「マーシア・・・あなたにとって義母や義姉はどういう存在?」
 少年に尋ねられ,マーシアは考え込む。
「どうって・・・・。いつも怒ってばかり。何を言っても何をしてもほめられたことがないの。でも,それでも食事を作ってくれるわ。破れた服も直してくれる。愛情は感じられないけど,家族としてがんばろうとしていることは私にも分かるわ。ただ,信じてくれないの。物がなくなったり,壊れたりすると決まって私を疑うわ。今回だってそうよ。私が盗ったって。違うって言っても信じてくれない。早く返してよって言われたわ。私盗ってないのに。だから悲しくてこのまま遠くへ行きたいと思ったの。」
「そこで,あなたは老人に会い,ここへやって来た。」
「あの老人はあなたのお知り合いなの?何でこの島のことを知っているの?」
 少年はふと目をはるか川の上流に向けた。
「そうですね。今度は少し私がお話をする番でしょうか。」
 落ち着いた声で彼はそう言った。月の湖はまだまだ見えない。一体この島がどのくらいの広さなのか,想像もつかない。

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「虹かかる幻の島」-幻想の風景 Ⅰ-     第7章3

2007-05-12 23:04:43 | 「虹かかる幻の島」-幻想の風景 Ⅰ-
 翌朝,少年はマーシアとともに雲の宮殿を離れた。天翔ける雲に乗って島の上を駆け抜ける。少年はまるで風そのもののように雲に乗ったマーシアにつかず離れずの距離で,飛んでいる。時々雲の端にそっと腰掛け,遠い彼方に目を向ける。
 
 気が付くと,いつの間にか二人は川の上を渡っていた。あの,夜に見た輝く川である。まだ太陽も昇っていないのに,やはりキラキラとその川は光り輝き,ずっとはるか向こうに続いていた。話の通りだとすれば,その彼方には月の湖があり,そして,まだそのはるか遠くに霧に包まれて,水晶の城が建っていると言うのである。
 マーシアはふと遠くを眺めやっている少年を見ると口を開いた。
「この川の向こうには月の湖があって,さらにそのはるか彼方に水晶の城があるって聞いたわ。水晶の城ってすべての妖精の上に立つ妖精王が住んでいるって聞いたことがあるけど,それは本当なの?」
 少女の質問に少年はきれいな瞳を彼女に向ける。
「あなたの言う通りですよ。水晶の城には水晶の精の王に守られて,全ての妖精を司る妖精王が住んでいます。あなたも,いずれ妖精王に会えるでしょう。機会があれば,ゆっくり行けなかった霧の谷にも,そして水晶の城にも連れて行ってあげますよ。」
「本当?」
「はい。」
 マーシアはふと風の精の王の言葉を思い出した。
「風の精の王エリオンさんが言ったわ。この川は私の心の軌跡だって。自分と向き合いなさいって。私は,今自分の心の軌跡を辿っているの?」
 少年は優しく微笑むと少し下をのぞき,光り輝く大きな川を見る。
「そうですよ。マーシア。この川はあなたの心の軌跡。あなただけの川なのです。人によってこの川は色も輝き方も形もみな違ってきます。ここに見えているのはあなただけの川。あなたと妖精達だけが見える幻想の川です。」
 マーシアは同じようにして雲の縁にそっと手をかけ,下をのぞき込んだ。すると不思議なことにその川の表面が輝きながら,今までのマーシアの思い出を次々と回想シーンのように映し出した。正確に言えば,そう映し出されているように見えたのである。
(続く)
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「虹かかる幻の島」-幻想の風景 Ⅰ-    第7章 2

2007-05-03 02:18:36 | 「虹かかる幻の島」-幻想の風景 Ⅰ-
 マーシアはどうしても眠れず,窓を開けるとそっとベランダに出た。空には天の川が,そして大地にはそれを写したように銀色の輝く川がすうっと筋になって光り輝いている。とても幻想的で美しい風景だ。
 しばらく見入っていると
「眠れないようですね。マーシア。あの方から言われたことが気になっているのでしょう。」
とふと声がした。彼女がはっと横を見るといつの間にかベランダの手すりのところに風の精の王エリオンが腰掛けていた。
「どうしてそのことを・・・。」
 マーシアは二人の間で交わされた事をなぜ,エリオンが知っているのか不思議に思った。エリオンは優しく微笑むと輝く川の方に目を向けた。夜風が葉末を渡っていく。
「もうすぐ,七色祭が終わりますから大体の察しはつきます。おそらくあの方から人間界に帰るようにと言われたのでしょう。」
「ええ。でも,人間界には帰りたくないの。だってまたあの生活が待っているのかと思うと・・・。風の精の王,あの人は誰なの?何の精の王なの?どうして私に人間界に帰れって言うの?」
 マーシアは矢継ぎ早にエリオンに尋ねた。彼は輝くきれいな衣を風に遊ばせながらマーシアを見る。
「私の古き良き友達は時の流れの中にたたずみ,遠い彼方からの風を感じて旅をする者。私達はあの方がご自分から名乗らない限りは何も言うことができないのです。でも,私たちはみなあの方が好きです。彼にできないことは何もないのですよ。」
「そう,虹立つ丘で会った妖精さんも同じ事を言っていたわ。」
「マーシア,輝く川はあなたの心の軌跡。やがて辿り着くであろうはるか彼方の月の湖に行って,あなたは自分を見つけなければ・・・。あの方はきっとその手助けをしてくれるでしょう。いつまでも,このままではいられないのですよ。でないと永遠にここをさまようことになります。あの方はそれを望んではいません。」
 エリオンは少し毅然とした声で彼女に言った。
「このままではいけないって分かっているわ。でも,まだ・・・まだ決心がつかないの。帰ったらきっとまたいじめられる。誰も私の言うことを信じてくれないの。」
「それで・・そのままあきらめてしまうのですか?」
 彼はまっすぐにマーシアを見て問いかけた。彼女はしばらく顔を伏せ考えていたが,顔もあげずに首をかすかに横に振った。
「いいえ・・・・。」
 エリオンは表情を和らげ,また輝く川に優しい眼差しを送る。
「自分に向き合いなさい,マーシア。あなたは,今までのあの方との旅の中でその準備が少しずつできているはずです。自分を信じるのですよ。あの銀の川をたどりながら今自分が本当に何を望んでいるのかを見つけて下さい。」
「え?ええ・・・。」
「さあ,明日は早いですよ。中に入ってお休みなさい。眠れなくても体だけでも休めておかなければ・・。」
 エリオンはマーシアを部屋の中へと誘うとふっと消えてしまった。少女は言われるままに不安を抱えたまま,身を横たえた。外では相変わらず天の川と輝く川が対となって煌めいていた。
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「虹かかる幻の島」-幻想の風景 Ⅰ-   第7章 1

2007-04-30 20:03:00 | 「虹かかる幻の島」-幻想の風景 Ⅰ-
 第7章 輝く川と月の湖
 マーシアは雲の宮殿に3日間滞在した。少年はその間にこの島アグアルダにまつわる面白い話や不思議な話をいろいろと教えてくれた。そして,その話から彼女は自分がまだこの島に少ししか足を踏み入れていないことが分かった。見た目と違い,この虹かかる幻の島は遙かに大きい島だったのである。
「明日の早朝,ここを出発します。もう少しで七色祭も終わりますし,あなたは人間界へ帰らなければ・・・。」
 3日後の夜,少年はマーシアにそう告げた。
「人間界って・・・元いたあそこへ帰るの?でも,私は帰りたくないわ。だって,だってその覚悟で出てきたんだもの。」
 マーシアはバーバラ夫人達のことを思い出すと不安になって言った。少年は少女の前にまっすぐ立ち,目をそらさずに静かに語りかけた。
「大丈夫。人間界に帰っても,私達がいつも側にいますから。もう一度あなたはあの家に帰るべきですよ。自分を確かめるために・・。ただ,七色祭が終わりを告げるまでに悲しみの島に渡れたらの話ですが。もし,渡れなかったらあなたはこのままずっとこの島を旅することになるでしょう。」
「自分を確かめる?悲しみの島?」
「そうです。あなたはここに来る前に一人の老人に会ったでしょう。その時,老人に何か言われませんでしたか?」
 少年に言われ,マーシアは一生懸命思い出そうとした。
「ええっと・・・。そうそう,船が来るって・・・それでその船は私の心の中を航海するだろうって・・・。」
「そう・・。ここは虹かかる幻の島アグアルダ。妖精達の集う所。それと同時に人間の心の中にあり,その心を映す所でもあるのです。あなたが見ている全てが幻想の風景。あなたの心の中にあるものです。」
 少年はあいかわらず凛とした声で静かに語りかける。マーシアは少年を少し見上げただけで俯いてしまった。
「ごめんなさい。あなたが何を言っているのかよく分からないわ。」
 少年は優しくマーシアの頭をそっと撫でた。
「ごめんなさい。動揺させてしまいましたね。また,明日お話しすることにしましょう。今夜はゆっくりお休みなさい。明日は輝く川を越え,月の湖まで行かなければなりません。七色祭が終わるまでに月の湖にある悲しみの島に行くのです。マーシア・・輝く川の銀の光はきっとあなたの悲しい心を照らし,優しい月の光を映した湖はあなたのその心を癒してくれることでしょう。どうか,不安にならず,この私を信じて下さい。私はいつでもどこでもあなたの味方ですよ。」
 少年はそう言うと改めてお休みなさいを言い,部屋から出て行った。マーシアは少年が最初に言った「人間界に帰らなければ」,という言葉が耳に残り,眠れないで銀色に輝く一筋の光の川を窓からずっと見つめていた。
(続く)
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「虹かかる幻の島」-幻想の風景 Ⅰ-   第6章 2

2007-04-29 12:33:46 | 「虹かかる幻の島」-幻想の風景 Ⅰ-
 しばらくふわふわした雲に乗っていると,だんだん小さく見えていた雲の宮殿が大きくなり,やがて目の前に真っ白に輝く荘厳な姿を見せた。少年はフワッと舞い降りるとマーシアを天かける雲からそっと降ろし,壮大な門の前に立った。その姿を見るなり門の見張りをしていた衛兵らしき妖精がかしこまって深々とおじぎをし,すぐにすーっと雲の門が開いて二人を通した。
 すべてがふわふわとわたがしでできたような宮殿である。しかし足元はしっかりしているし噴水や花や緑もあって普通の宮殿とそう違いはなかった。少年は妖精に案内されるままマーシアを連れて歩いた。
 宮殿内をしばらく歩いていると,二人は奥の一室に通された。そこには二人の青年がいて,少年はその青年達と少し言葉を交わし,マーシアに紹介した。
「ウィリー,エリオン,こちらは人間界から来られたマーシア。マーシア,こちらは雲の精の王ウィリーと風の精の王エリオンです。」
 紹介された二人はマーシアを見てにっこり笑った。
「あなたのことはよく知っていますよ,マーシア。私たちが旅をしている時,あなたはいつも優しく話し掛けて下さる。」
 二人の王はマーシアを心から歓迎した。そして,少年を見ると,
「あなたには七色祭が終わったらまたいつお会いできるか分からないから,今夜はどうかゆっくりとお過ごし下さい。あなたにはつもる話もあるのですよ。」
と溜息混じりに言った。
「ごめんなさい。同じ所にじっといるのは苦手で・・・。」
少年はばつが悪そうに答える。ここでも少年はやはり自分の名を名乗ることはなかった。マーシアはなぜ少年が自分の名前を知っているのか不思議に思った。少年はやはり優しく少し悲しそうにそんな彼女を見た。
「私がなぜあなたの名前を知っていたのか不思議に思っていらっしゃるようですね。でも,その答えはいずれ分かるでしょう。さあ,しばらくここで休まれるといいですよ。七色祭はあと4日間行われますから少しゆっくりできそうですね。では,私はこれで・・・部屋には雲の精達が案内してくれますから。」
 少年はそう言うと,二人の王達とともに歩いて行ってしまった。マーシアは雲の精に案内されて宮殿内のある部屋に通された。その部屋の窓からの景色は実に素晴らしかった。夕闇迫る中,空では星達が輝き始め,草木達は静かに眠りにつく。遙か向こうにはまるで銀河のように輝く物が見え,少女は気になって思わず「あれは何?」と妖精に尋ねた。妖精は少女の指さす方に目をやると,優しく笑って答えてくれた。
「あそこは川なんですよ。いつもあのように銀色に光り輝いているので私達はあの川を『輝く川』と呼んでいます。あの川はずっと遙か彼方まで続いていてやがて『月の湖』にたどり着きます。」
「月の湖?」
「そうです。月の湖のそのまた遙か彼方には霧に包まれた水晶の城が建っているのですよ。」
「水晶の城ってどこかで聞いたことがあるわ。それに,今までの風景も何か懐かしくて,初めてじゃないような気がするの。」
 少女の言葉に妖精達は本当に優しい眼差しで答える。
「そうでしょう。あなたは本当に心からこの島を愛してくださっていますもの。さあ,今日はもうお休みになってはどうですか?我が王の古き良き友達は2,3日滞在されるそうですから,あなたもゆっくりなさってね。あっ,そうそうお食事をお持ちしましょうね。お腹がすいたでしょう。」
 部屋を出て行こうとする妖精にマーシアは思わず声を掛けた。
「雲の精さん,教えて!あの方は一体誰なの?あの方も何かの精の王なんでしょう?」
 雲の精は相変わらずの微笑を浮かべる。
「さあ,あなたにどう言ったらいいのかしら。私達はあの王がご自分から名乗らない限りはお教えすることができないのです。でも,我々妖精はみな王が大好きです。王はとても慈悲深く,出来ないことは何もないのですよ。さあ,ゆっくりここでおくつろぎ下さい。」
 雲の精のいなくなった後,遙か向こうに光の筋のように輝く川を見ながら少女は考えた。彼が一体誰なのか,なぜ自分の名前を知っているのか・・・・いろいろな疑問が少女の心に湧き起こった。
(続く 次回第7章 輝く川と月の湖)
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「虹かかる幻の島」-幻想の風景 Ⅰ-   第6章 1 

2007-04-28 16:35:11 | 「虹かかる幻の島」-幻想の風景 Ⅰ-
第6章 天かける雲

 霧の谷を離れてしばらく行くと,あたり一面緑の美しい草原に変わった。その上を吹き渡る風は心地よく,のどかな風景が広がっている。
 時々いたずらな風が彼の髪をサラッとかき上げていく。マーシアはその時,彼の額に水晶でできたサークレットがはめられているのに気がついた。
「水晶のサークレット・・・そう言えば腕にも・・。とても不思議な色。光の当たり具合でいろいろな色に見えるわ。」
 少女は隣でまっすぐ前を見て歩いている彼を見つめた。少年の光に透けるような栗色の髪にそのサークレットはよく似合った。
 太陽が天に高く昇った時,緑の原のあちらこちらに花が見られるようになり,やがては花の咲き乱れる所に出た。中でも紫陽花がとても可愛らしく色鮮やかに小さな花を咲かせていた。少年はふと立ち止まって紫陽花を見た。マーシアも立ち止まってその毬のようなかわいい紫陽花を見る。少年の優しい眼差しは,全ての自然を慈しんでいるように見える。
「ここの島では,いつも紫陽花が咲いていて時を告げてくれるのです。紫陽花は時が流れていくについれて七色に色を変えていくのです。今は黄の時。あまり時間がありません。青の時になるまでに向こうに着かないと,野宿することになってしまいます。」
 少年はまた足を進めた。少女も後をついて行く。二人は急いだ。あたり一面に咲き乱れる花達。その中で紫陽花は何か不思議な魅力を感じさせた。そこの所あたりから紫陽花はさらにあちらこちらで見られるようになり,時が経つにつれてだんだんとガクの色が緑に変わってきた。少しずつ少しずつガクの中央部から先端にかけて色が変化していく。
「紫陽花ってとても不思議な花ね。まるで七色に輝く宝石みたいよ。」
 マーシアは感動していた。普段はあまり気にとめない紫陽花だが,ここに来てから紫陽花の織りなす七色の神秘さに気が付いた。少年は花の咲き乱れる中を足早で歩いていく。
「紫陽花はね・・。」
ふと少年が口を開く。
「最初は白かったんですよ。でも,初めてこの島に虹がかかった時,その色にとても感動してね。その色を自分に映そうと思って精一杯花びらを広げようとしました。でも,紫陽花の花はとても小さくて丸まったまま。それでも紫陽花たちはあきらめず一生懸命伸ばそうとした結果,花びらの替わりにガクが広がったのです。だから,時を告げる紫陽花達は早朝は白色をしているのです。そして,ガクが四角いのは虹を自分に映そうと精一杯ガクを広げた時にそうなってしまったからなのですよ。私は虹を映したこの紫陽花の花が大好きなのです。」
 少年は優しい声でそう言うと,さらにマーシアを連れて歩き続けた。どの位歩いただろうか。しばらくして少年は立ち止まった。彼女もそれにつられて立ち止まる。彼は空の彼方の遠くを指さす。遙か向こうの空に小さく宮殿の形をした白い雲が見える。
「ほら,向こうに雲の宮殿が見えるでしょう?あそこで私の知り合いが待っているんですよ。さあ,行きましょう。何とか間に合ったようですよ。」
 少年の言葉にマーシアは思わず首を振った。
「どうやって行くの?あんな雲の上なんかに行けないわ。だって私空なんか飛べないもの。」
 少年はあいかわらず優しい笑顔でマーシアを見る。
「大丈夫ですよ。ほらっ,あの天をかける雲に乗って行くんです。風の精と雲の精があなたを運んでくれるでしょう。・・・・・・・さあ,雲が降りてきましたよ。これにお乗りなさい。」
 少年はすうっと降りてきた雲にマーシアを乗せようとした。しかし,雲は一人乗るのには十分だが二人は乗れそうになかった。
「あなたはどうするの?」
 マーシアの心配顔を見て,少年は少し笑う。
「私は雲は必要ないんですよ。だって私は空を自由に飛べるので・・・。」
 彼女は意味がよく分からないまま少年の勧めに従って雲に乗った。ふわふわして安定は悪いが柔らかくて気持ちいい。
 雲は少女を乗せるとふわっと浮かび上がり,少年はその後を追うようにして地面を足で軽く蹴った。すると,少年の体はまるで空気で出来ているみたいに軽く空中に浮かんだ。彼は透き通るような光り輝く衣装を風になびかせながらマーシアの乗った雲の後についていった。マーシアにとってこの少年の存在は本当に不思議なもので,どんなに側にいても話をしても,まるで違和感と言うものがなく,むしろ心がなごむのだった。今までの辛かったり悲しかったりした出来事も今はそれをそれとして受け止められるような気がしてくるように思えた。
(続く)
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「虹かかる幻の島」-幻想の風景 Ⅰ-   第5章 2

2007-04-26 23:33:27 | 「虹かかる幻の島」-幻想の風景 Ⅰ-
 しばらく行くと,向こうの方に谷らしきものが見えてきた。濃い霧がかかってよく見えないが,霧の薄い所の合間合間に見える様子から相当大きな谷であることが分かった。
 さらに妖精の後をついて歩いていくと,霧もだんだんと晴れてきて,目の前に荘厳な谷の姿が見えてきた。はるか下の方に谷川が流れ,近くに滝があるのかゴオーッという轟音が聞こえてくる。それは「虹かかる幻の島」のイメージとは違う荒々しい姿だった。
 マーシアは,この風景もどこかで見たことがあるように思えた。とてもなつかしく感じられるのである。あまりの迫力に圧倒されていると,不意に側で彼の声がした。いつの間にそこにいたのか,気配は全く感じられなかったので,少女はびっくりした。
「ようこそ。ここまでよく来てくれましたね。先に出かけてしまってごめんなさい。霧の精の王に急用があったから仕方がなかったんです。本当はゆっくり霧の谷も案内してあげたいのですが,残念ながら時間がないので先に進みます。」
 少年はそう言うと,小さな蝶の妖精に声を掛けた。
「エリア,道案内ありがとう。丘の精の王によろしく伝えておいてください。七色祭はまだ5日間行われるから,祭典が終わるまでにはいつもの場所に来て下さるようにと。」
 妖精はきらきらと光の粉をまきながらおじぎした。
「分かりました。そうお伝えしておきます。ではこれで・・・。人の娘よ,さようなら。また,お会いしましょう。」
 エリアと呼ばれたその小さな妖精がにこっと笑うととても可愛らしかった。彼女は光り輝く美しい蝶の羽根をさらに大きくはばたかせて飛んで行った。彼女を見送っていたマーシアは,その方を見て「うわあっ」と思わず声をあげ,溜息をついて空を見上げた。霧が晴れた中,エリアの帰っていく丘の精の王の住む緑の丘の上にパアッと七色の虹がかかり,光り輝いていたのだ。
「きれい・・・こんなに大きくて色鮮やかな虹を見たのは初めてだわ。」
「あの丘は虹立つ丘と呼ばれています。この虹は太陽が色を変える時までずっとかかっているのです。この島の中なら遠くからでもよく見えますので,私たちの島アグアルダは『虹かかる幻の島』と呼ばれているのですよ。さあ,行きましょう。私の古い知り合いが待っているのです。きっとあなたも歓迎されるでしょう。」
 少年の言葉にマーシアは少し悲しそうに首を振った。
「私・・これ以上迷惑はかけられないわ。だって私は丘の精の王にも何もしてあげられなかったし・・・。」
 彼女の言葉に少年は優しい笑顔で応えた。
「ここではそんなことは気にしなくていいのですよ。さあ,行きましょう。」
 少年はマーシアを連れてさらに奥へと歩いた。滝の音がだんだんと小さくなってやがて聞こえなくなった。
(続く 次回第6章 天かける雲)
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「虹かかる幻の島」-幻想の風景Ⅰ-   第5章 1

2007-04-25 21:02:01 | 「虹かかる幻の島」-幻想の風景 Ⅰ-
第5章 霧の谷
 翌日,マーシアは朝早く目を覚ました。あたりは明るく,小鳥の気持ちよさそうなさえずりが聞こえる。窓の外を見ると青空が広がり,どこまでも緑の丘がずっと続いている。とても気持ちが良い朝だ。小鳥のさえずる声以外は聞こえず,昨晩の賑やかさはどこへやら,しんと静まりかえっている。
 少女は顔を洗うと,急いで身支度を整えて外に出た。すると,様々な姿をした妖精達が彼女に話しかけてくれた。どうやら妖精達はマーシアがとても可愛いので気に入ったようだ。マーシアは思い切って話し掛けた。
「ねえ,妖精さん達。あの方を知らないかしら。昨晩私をここへ連れて来て下さった人なんだけど・・・・。」
 みんなは顔を見合わせた。少しして蝶の羽根を持った小さな可愛い妖精が飛んできてマーシアに言った。
「あなたの探している方は少し前に旅立たれましたよ。先に霧の谷に行っているから,もし気が向くようなら来られるようにとのお言付けです。王も何かお急ぎの用がおありなのでしょう。人の娘よ,このままここでゆっくりされるのもいいですよ。もし,霧の谷に行かれるなら,後で私が案内しますから,先にお食事をどうぞ。」
「ありがとう。やはりあの方も王なのでね。彼は一体誰なの?私に教えてくれないかしら。」
 マーシアの言葉に妖精は困ったような顔をした。
「さあ,あなたに何て言ったらいいのかしら。でも,いずれ分かる時が来るでしょう。私たちがとやかく言うことではありませんから・・・。ただ,この島に住むすべての者達はみな王が大好きなんですよ。王はとても優しくて情け深い方なんです。私たちはみな王を心から尊敬しています。王にできないことは何もないんですよ。」
 その小さな蝶の妖精はそれだけしか教えてはくれなかった。彼が一体何者であるのかは未だに謎に包まれていた。
 食事の後,マーシアは小さな蝶の妖精に案内してもらって霧の谷へと向かった。
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「虹かかる幻の島」-幻想の風景 Ⅰ -    第4章 2

2007-04-22 16:07:39 | 「虹かかる幻の島」-幻想の風景 Ⅰ-
「え?」
 少女はびっくりして思わず声をあげてしまった。
 城の中で楽しく談笑し,飲み物を酌み交わしているのは人間ではなかった。こびとや巨人達,一部が動物の姿をした者,背中から羽根が生えている者・・・・明らかに人間の姿ではない者達みんな楽しそうに賑わっている。もちろん人間と同じ姿の者もいるが衣服のせいかそれとも体全体から発しているのか白く光り輝いている。
 妖精達・・・。少女は自分の目を疑った。自分はもちろん自然界に妖精達がいるとずっと信じてきた・・・だから風と話をし,海の語りに耳を傾け今までなんとかがんばってこれたのだ。でも,それは目に見えない者と思っていた。まさか,このように目の前に現れようとは・・・。マーシアはただただびっくりしてそこに突っ立っていたが,ふと唯一頼りにしているあの美しい少年を探した。少年はその中にいた一人の老人と話をしていたが,しばらくして彼女の所まで戻ってきた。
 「今夜はここに泊まるといいでしょう。友人も快く承諾してくれました。さて・・どうしますか?休みたいのであれば部屋までご案内しますが・・・。それともしばらくここでみなさんと楽しみますか?食事は今ここでみなさんととってもいいし,後からお持ちすることもできますよ。」
 少年はあいかわらずの透き通るような声でマーシアに優しく声を掛ける。
「そうね・・。私,悪いけど部屋で休ませてもらってもいいかしら。あまりにもいろいろなことがあったので頭の中がワンワンしてしまって・・。あなたには本当に迷惑をかけてしまったわ。ごめんなさいね。」
 マーシアは少し伏し目がちに小さな声で答えた。少年は優しい笑顔で彼女を見た。
「気にしなくていいんですよ。では,こちらへどうぞ。部屋まで私の友人が案内してくださるそうですから。」
 少年は先ほど話をしていた老人に合図すると,老人がやってきて丁寧におじぎした。
「ようこそ,可愛い娘さん。では,ご案内いたしましょう。」
少年はマーシアを連れて老人の後をついていった。老人は一室に案内すると少年を見て言った。
「この部屋でいかがなものじゃな。ここはいつかあなた様がおいでになった時にと思うて用意しておった部屋なのじゃが,あなた様は来られてもすぐに旅立たれてしまわれるのでな。もう何年も使われておらぬ。」
「ありがとう,トロル。ここで十分だよ。私は後で行くからあなたは先に行って下さい。」
 少年が言うと老人は「おおせのままに。」と言い,杖をコツコツ言わせて歩いて行った。少年は少し気に入らないところがあったのか,さらに部屋を適当に整えると,
「用意ができました。さあどうぞ,ここでゆっくりお休みなさい。すぐ食事を持ってきますから。ここにあるものは自由に使って下さっていいそうですよ。」
と言った。
「あの・・。」
マーシアは言おうかどうしようか迷っていたが,思い切って声を掛けた。
「何か?」
「ここはどこなの?さっきの人達,人間じゃなかったわ。だってこびとさんがいたり,背中に羽根が生えていたりしたもの。まるで魔法にでもかけられたみたい。」
 少女の言葉に少年はやはり少し悲しそうな表情で窓の外を見た。手を振るとしゃらしゃらと音がするのではないかと思うくらい星がたくさん輝いている。星降る夜・・・本当にきれいな星空だ。
「あなたの言うとおりです。ここは人間界ではありません。人間からはかつて「虹かかる幻の島」と呼ばれていた所-ここは妖精の集う国。全ての妖精達の故郷。さっきあなたが会った老人は丘の精の王です。」
「丘の精の王?それじゃあ,あなたも妖精なの?だってここは妖精の国なんでしょう?」
「確かに・・私も妖精の一人です。でも,そんなことはどうでもいいことですよ。では,食事を持ってきましょう。」
少年は少しおじぎをすると,そのまま部屋を出て行った。
 マーシアは今でも信じられなかった。ここが妖精の国「虹かかる幻の島」だったなんて・・・。
「でも,あの人は一体誰なのだろう。丘の精の王と古い友達だなんて。あの人も何かの精の王なのかしら。」
マーシアは頭が混乱してしまって何が何やら分からなかった。しかし,なぜか彼が側にいると安心することができた。少しして少年は食事を運んできたが,そのままお休みを言って出て行った。
 あちらこちらから祭のような賑やかな声が聞こえ,それはマーシアが疲れてそのまま眠ってしまうまでずっと続いていた。その様子を星達だけが静かにまたたきながら見守っていた。
(続く 次回霧の谷)
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「虹かかる幻の島」-幻想の風景 Ⅰ-    第4章 1

2007-04-15 23:21:25 | 「虹かかる幻の島」-幻想の風景 Ⅰ-
第4章 星降る夜

 しばらく歩くと,から松の林は切れて,目の中に小高い丘が飛び込んできた。少女は思わず目を見張った。月のない夜。空はまるで銀の砂をまきちらしたように星くずであふれていた。
「星が降ってくるみたいに見えるわ。こんなきれいな天の川を見たのは初めてよ。」
 マーシアは空を見上げ,思わず手を伸ばしながら言った。少年はやはり少し悲しそうな表情で同じように空を見上げた。
「ここから見える星空は最高です。このような星降る夜には銀河の船が天の川からやってくるんだ。」
「銀河の船?何なの,それ・・・空から船が来るの?」
「ああ,星くずを集めてできた船が流星を燈台代わりにしてここへやってくるんだよ。私はいつかはその船に乗って行かなければならないのだけれど,私がいなくなればみんなが悲しむだろうから,まだ行くことはできないんだ。でも,一人として私のことを悲しんでくれる人がいなくなってしまったなら・・・・自然がなくなってしまったなら・・・・私はその船に乗って行かなければならない。まだ,私が見たことがない遠い遠い彼方の星へ・・・・。さあ,私の友人の城はこの丘を越えた所にあるんですよ。行きましょう。あともう少しですよ。」
 少年は優しく言うと,マーシアを連れて歩いた。丘を越えると白い小さなお城が上品に建っていた。そこでは明るい灯がともり,賑やかな雰囲気が感じられた。
「さあ,着きましたよ。」
 少年はそのまま少女を連れて小さな城の中へ入って行った。
(続く)
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