第1節 月の国を継ぐ者 第18話
大嵐のおさまったゴートン王国は,ようやく町の復旧に取り掛かった。もちろん,国民達の間で噂されているのは命をかけて『月の雫』を持ち出した一人の騎士の武勇伝である。しかし,それと同時にその至宝の真の持ち主とされるファンタジア皇帝ラミエル・デ・ルーン帝へのあらぬ脅威も噂されることとなってしまった。
「恐ろしや。あんなに恐ろしげな物を持たれて平気とは,ファンタジアのラミエル様もさぞかし恐ろしい方なのであろう」
「月の聖帝様という噂じゃ」
「何と・・・・」
「怒りに触れるとこの世もあっという間に滅ぼされるぞ」
「恐ろしや,恐ろしや」
ゴートン王国の者達はネリオーカル王がこれ以上ラミエル帝を刺激しないことを祈るばかりだった。
一方,当のラミエル帝はムーンレイク宮殿の執務室に置かれている自分の机の上にそれを置いていた。月の名を冠するその至宝は,月の聖帝のところに戻り,美しく光り輝いている。
今は12月の暮れ。世界中で新年を迎える準備が行われ,ゴートン王国以外の国々は活気にあふれていた。もちろんファンタジア帝国も例外ではなく,新年の飾り付けをしながら国民は新たに迎える年を楽しみにしていた。
しかし,王宮内は相変わらず静かだった。
「いよいよあと一週間で新年でございますね」
マリオ最上大臣が,仕事の手を休ませている少年帝に言った。
「そうですね。この一年,いろいろなことがありました。年が明け,春が訪れたらこの『月の雫』をクリスタリアへ返しに行きます。この宝石は俗世にあってはならぬものですからね」
「しかし・・・・実に見事な黄水晶ですね。黄水晶自体珍しく,滅多にお目にかかれぬ幻の宝石だというのに,これほど大きい物があるとは・・・。周りに散りばめられているダイヤモンドもルビーもサファイヤも色褪せて見えます。この何とも言えない不思議な・・・輝きに・・・」
「マリオ」
「はい,陛下」
「実は・・・これは本物の『月の雫』ではないのです」
「ええ?」
「本物はこれよりさらに二回りほど大きいのです」
「な・・・なんと,これよりまだ大きいとおっしゃるのでございますか」
「はい。でも,本物を渡したら猛吹雪ではおさまらなかったでしょう」
マリオ最上大臣を始め,大臣達はまじまじとその宝石を見つめた。
月の聖帝は静かに窓の外に視線を向けた。
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「恐ろしや。あんなに恐ろしげな物を持たれて平気とは,ファンタジアのラミエル様もさぞかし恐ろしい方なのであろう」
「月の聖帝様という噂じゃ」
「何と・・・・」
「怒りに触れるとこの世もあっという間に滅ぼされるぞ」
「恐ろしや,恐ろしや」
ゴートン王国の者達はネリオーカル王がこれ以上ラミエル帝を刺激しないことを祈るばかりだった。
一方,当のラミエル帝はムーンレイク宮殿の執務室に置かれている自分の机の上にそれを置いていた。月の名を冠するその至宝は,月の聖帝のところに戻り,美しく光り輝いている。
今は12月の暮れ。世界中で新年を迎える準備が行われ,ゴートン王国以外の国々は活気にあふれていた。もちろんファンタジア帝国も例外ではなく,新年の飾り付けをしながら国民は新たに迎える年を楽しみにしていた。
しかし,王宮内は相変わらず静かだった。
「いよいよあと一週間で新年でございますね」
マリオ最上大臣が,仕事の手を休ませている少年帝に言った。
「そうですね。この一年,いろいろなことがありました。年が明け,春が訪れたらこの『月の雫』をクリスタリアへ返しに行きます。この宝石は俗世にあってはならぬものですからね」
「しかし・・・・実に見事な黄水晶ですね。黄水晶自体珍しく,滅多にお目にかかれぬ幻の宝石だというのに,これほど大きい物があるとは・・・。周りに散りばめられているダイヤモンドもルビーもサファイヤも色褪せて見えます。この何とも言えない不思議な・・・輝きに・・・」
「マリオ」
「はい,陛下」
「実は・・・これは本物の『月の雫』ではないのです」
「ええ?」
「本物はこれよりさらに二回りほど大きいのです」
「な・・・なんと,これよりまだ大きいとおっしゃるのでございますか」
「はい。でも,本物を渡したら猛吹雪ではおさまらなかったでしょう」
マリオ最上大臣を始め,大臣達はまじまじとその宝石を見つめた。
月の聖帝は静かに窓の外に視線を向けた。
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