テルサのFantastic Stories

今まで書きためていたとりとめもない物語を少しずつ連載していきます。ファンタジー物が多いです。ぜひ読んでみて下さい。

1-18 「ある国の物語」 第四章 月の神を封ずる者

2009-02-20 23:04:51 | 「ある国の物語」 第四章
第1節 月の国を継ぐ者 第18話

 大嵐のおさまったゴートン王国は,ようやく町の復旧に取り掛かった。もちろん,国民達の間で噂されているのは命をかけて『月の雫』を持ち出した一人の騎士の武勇伝である。しかし,それと同時にその至宝の真の持ち主とされるファンタジア皇帝ラミエル・デ・ルーン帝へのあらぬ脅威も噂されることとなってしまった。

「恐ろしや。あんなに恐ろしげな物を持たれて平気とは,ファンタジアのラミエル様もさぞかし恐ろしい方なのであろう」
「月の聖帝様という噂じゃ」
「何と・・・・」
「怒りに触れるとこの世もあっという間に滅ぼされるぞ」
「恐ろしや,恐ろしや」

 ゴートン王国の者達はネリオーカル王がこれ以上ラミエル帝を刺激しないことを祈るばかりだった。


 一方,当のラミエル帝はムーンレイク宮殿の執務室に置かれている自分の机の上にそれを置いていた。月の名を冠するその至宝は,月の聖帝のところに戻り,美しく光り輝いている。
 今は12月の暮れ。世界中で新年を迎える準備が行われ,ゴートン王国以外の国々は活気にあふれていた。もちろんファンタジア帝国も例外ではなく,新年の飾り付けをしながら国民は新たに迎える年を楽しみにしていた。
 しかし,王宮内は相変わらず静かだった。

「いよいよあと一週間で新年でございますね」

 マリオ最上大臣が,仕事の手を休ませている少年帝に言った。

「そうですね。この一年,いろいろなことがありました。年が明け,春が訪れたらこの『月の雫』をクリスタリアへ返しに行きます。この宝石は俗世にあってはならぬものですからね」
「しかし・・・・実に見事な黄水晶ですね。黄水晶自体珍しく,滅多にお目にかかれぬ幻の宝石だというのに,これほど大きい物があるとは・・・。周りに散りばめられているダイヤモンドもルビーもサファイヤも色褪せて見えます。この何とも言えない不思議な・・・輝きに・・・」
「マリオ」
「はい,陛下」
「実は・・・これは本物の『月の雫』ではないのです」
「ええ?」
「本物はこれよりさらに二回りほど大きいのです」
「な・・・なんと,これよりまだ大きいとおっしゃるのでございますか」
「はい。でも,本物を渡したら猛吹雪ではおさまらなかったでしょう」

 マリオ最上大臣を始め,大臣達はまじまじとその宝石を見つめた。

 月の聖帝は静かに窓の外に視線を向けた。

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1-17 「ある国の物語」 第四章 月の神を封ずる者

2009-02-03 23:54:43 | 「ある国の物語」 第四章
第1節 月の国を継ぐ者 第17話

「そなたの傷は致命傷ではないが,かといって軽傷というわけではない。ゆっくり養生されるがよい。これは我が陛下のご命令でもある」
「陛下・・・ラミエル皇帝陛下・・・」
「そうじゃ。我がファンタジア帝国の皇帝はラミエル・デ・ルーン陛下をおいて他にはおられぬ」
「こうしてはおられぬ。アロウ殿,どうかラミエル様にお目通りかなうよう取りはからって下さいませぬか。こうしている間にも我が国は・・・・うっ」

 背中に激痛が走る。よりによって自分の国であるゴートン王国の兵から受けた矢傷である。体中も傷だらけであちこち痛む。

「大丈夫じゃ。恐らくそなたはゴートン王国に渡ったと言われる『月の雫』を必死の覚悟で持って来られたのであろう。今,こうして月の聖帝の秘宝はそなたとともにこの月の聖帝様がおわすファンタジアにある。『月の雫』の怒りはおさまろう」
「そうでございましたか・・・。良かっ・・・・・」

 再び騎士の目が閉じられる。大丈夫・・・と言う言葉に安堵し,アロウが処方した眠り薬の糸に絡め取られてしまったのである。
 しばらくしてガチャッと重い音がしてドアが開き,一人の少年が入ってきた。

「これは陛下」
「アロウ,どうですか?ゴートンの騎士の容態は」
「先ほどお気づきになりましたよ。自国の事をかなり心配しておりました。ゴートン国にもこのような者がいるのですね」
「アロウ,おそらくこの者のような国民がほとんどのはずだ。あのネリオーカル王の悪政が終わればあの国も平和になるだろう」
「それが一番の問題ですね」
「そうだな・・・。己の欲望のために忠臣をこうやって平気で射ることができるのだからな」

 ラミエル帝はその女神とも見まごう美しい顔を静かに眠っている若い騎士に向けた。

「聖帝の秘宝はどんなにその場を離れても必ず持ち主の所に戻ってくると聞いたが・・・」
「戻って来ましたね,陛下」
「うん。本当の『月の雫』ではないけどね」
「そうなんですか?」
「うん。本物はこれよりさらに二回りほど大きいんだよ」
「なんと・・・そうでございましたか」
「今の状態を見ると,カルタニア大司教の忠告を聞いていて良かったな。本物を持ち出していたら大嵐ではすんでいなかったはずだ」
「そうでございますね」

 ラミエル帝は静かにベッドの側を離れた。

「騎士達の報告によると,ゴートン王国の大嵐はおさまっているそうだ」
「そうでございましたか。良かったですね」
「この者の勇気に感謝する。手厚く介護するように」
「はは,仰せの通りに」

 月の君は少し表情を優しくしてアロウを見ると,静かに部屋を出て行った。

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1-16 「ある国の物語」 第四章 月の神を封ずる者

2009-02-02 23:18:27 | 「ある国の物語」 第四章
第1節 月の国を継ぐ者 第16話

 追いかけてくる王の集団を振り切り,勇気ある騎士がファンタジア帝国の国境に辿り着いたのはそれから7日後のことだった。本来ならもう少し早く到着できるはずだったが何分自国の大嵐が凄まじく,なかなか前へ進めなかったのだ。

 ところが国境を越えると不思議とその嵐はおさまり,普段と変わらぬ状態となっている。

「間違いない。やはり我が国の大嵐はこの月の聖帝様の秘宝の影響だ。早く・・・早くラミエル様にこれをお返し申しあげないと・・・」

 騎士は必死で怯える馬を走らせ,国境を越えて寝食も惜しんで森と湖の国を目指した。

「お願いします。お願いします」
「何者だ?そなたは。そのような傷を負って」
「私は・・・私はゴートン王国のマリスという者です。このような者がとお思いでしょうがどうか・・・どうかラミエル皇帝陛下にお目通りを・・・どうか・・・お願いいたします」
「おい・・・おい・・しっかりなされ」

 ファンタジアの国境警備兵がその騎士に近付いた時,その騎士はそのまま意識を失って倒れてしまった。

「大変だ。倒れたぞ」
「どうする?」
「この様子はただ事ではない。見ろ,この背中に受けている矢・・・・これはゴートン国の矢ではないか」
「なんと自国の者に追われていたのか」

 一人の兵士が騎士が抱えている袋に気付く。開けてみると中から目も眩むような凄まじく妖しい光を放つ涙型の黄水晶が目に飛び込んできた。

「こ・・・こ・・これは」
「我が陛下の秘宝では・・・」
「それで納得がいく」

 兵士達が話をしていると向こうの方から何やら大勢の人と馬の気配がした。

「この者を追いかけてきたんだ」
「よし。すぐに我が国境へ入れよう。皆の者,国境の門を閉じよ」

 隊長の命によって国境の巨大な門は閉じられ,ゴートン王国のマリス騎士は応急手当を受けてムーンレイク宮に連れて行かれた。

 どのくらいの時間が経っただろう。背中の痛みに気が付いたマリスはうっすらと目を開けた。

「お気付きになられたかのう」

 そこには一人の白衣を着た男が立っていた。

「も・・・申し訳ない。ここは・・・」
「安心なされ。ここはファンタジア帝国本宮ムーンレイク宮の中の休憩室じゃ。申し遅れたが私は皇帝陛下直属の典医アロウという者。以後お見知りおきを」
「アロウ殿・・・かたじけない」

 騎士の言葉にアロウは穏やかな表情で応えた。

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1-15 「ある国の物語」 第四章 月の神を封ずる者

2009-02-01 20:54:47 | 「ある国の物語」 第四章
第1節 月の国を継ぐ者 第15話

「王宮のお方・・・・あの禁断の至宝の怒りを止めるには方法は3つしかございませぬ」
「あるのか・・・・」
「一つ目は真の持ち主である月の聖帝様をこの地にお呼びすること,二つ目は真の持ち主である月の聖帝様にその秘宝をお返しすること,三つ目は本来の安置場所であるクリスタリア神皇国の月の聖神殿にお返しすることじゃ」

 大神官の話を聞いて,大臣達は大きく溜息をついた。

「どれも難しい事じゃ。月の聖帝様をこの地にお呼びする事は到底かなわぬ」
「この3つの中で実行できるものがあるとすれば・・・・やはりあの他の者が触れてはならぬ秘宝を,月の聖帝様にお返しする事じゃのう」
「我が王は決してあの秘宝を手放そうとはなされぬ」
「たとえ主君から奪うことになろうとも,この国を救うにはそれしか方法はありませぬぞ」
「う~む」

 大臣達は暫く考えていたが,意を決したように顔をあげた。

「いたしかたない。このままでは本当にこの国が壊滅してしまう」
「そうだな。この国がなくなってしまっては国王も何もない」
「王宮のお方・・・」
「大神官殿,我々は命にかえましてもファンタジア帝国のラミエル帝に『月の雫』をお返しいたします。もうこれ以上この国を秘宝の怒りに晒すわけにはいかぬ」
「それがよろしかろう。人が持ってはならぬ秘宝じゃ。本来あるべき所にお返しせねばこの怒りはおさまるまい」
「分かりました。大神官殿,どうか・・・どうか我々の成功を祈って下され」
「そうしよう」

 マリネリ大神官は大臣達を見つめ,深く頷いた。

 王宮に帰った大臣達は,王の怒りに触れるのを覚悟で『月の雫』を奪いに行った。国王はもうこの魔性のような妖しさを秘めた『月の雫』の虜になってしまっており,半狂乱になって大臣達を責めた。

「お前達,儂が誰か分かっておるのか,無礼者!!」
「陛下,もうこれ以上我が国の被害を広めるわけにはいかないのです。お許しを」
「何をするのじゃ,ええい,放さぬか」
「陛下,お許し下さい」

 大臣達は国王を押さえつけると,胸にしっかり抱えていた『月の雫』を奪い取った。

「おのれ,お前ら」

 大臣達は怒り狂う王を後にして,とにかく袋に入った月の聖帝の至宝をしっかり抱え,すぐに馬に飛び乗った。
 半狂乱になって追いかけてくる王を振り払い,勇気ある騎士は馬に鞭打ってファンタジア帝国を目指した。

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