「大きな声を出すな」
氷河はバカ猫の全身をローブで包み込み、大切そうに撫でた。
「キサマ、よくも――」
あの、滑らかで、触ると吸い寄せられるような肌に、あの小汚い猫が全身を密着させているのだと思うと、小汚いを通り越して、憎悪さえも沸いた。
「何をそう、ムキになる、大体お前が猫にビールを――あッ」
言葉を切り、頬を染め、全身を痙攣させた氷河に、一輝は険悪な表情を向けた。
「ダメじゃあないか、お前――そんなところを舐めて…」
氷河がバカ猫をローブから出し、両脇に手を入れ、目の前に翳したのと、一輝が腰を上げたのが同時であった。
――殺れる。
バカ猫は、両前脚を氷河に扼(やく)され、しかも一輝に背を向けている。
ここでく拳を叩きこめば、間違いなく殺れる。
だが、そんなことをすれば、間違いなく氷河の逆鱗に触れる。
当初は薬湯で、恐怖のどん底に追いやられた氷河も、今は猫を、自分でシャワーを浴びさせるほど可愛がっている。
その猫に、聖闘士である自分が拳を叩きこめば、どのようなことになるか――。
暫く目にしていない、見る者を凍てつかせ、周囲の温度を低下させるような眸を想い描き、一輝は躊躇した。
その間に、氷河が猫を抱き取った。
「――本当に、お前は人懐こいなぁ」
氷河が、阿呆猫に頬をつけた。
「やめんか、キサマ、そんな猫などにッ」
何が人懐こいものかと、自分の手の届く場所には、決して近寄ろうとしない猫を一輝は指さした。
猫にしてやれることが、なぜ自分には出来ないのかと、一輝は氷河に肚を立てた。
「煩い男でチュねー、落ち着かないから向こうに行きましょうか?」
また猫の頬に唇をつけながら、氷河が立ち上がる気配を見せた。
「いいのか氷河、そんな濡れネズミの猫を部屋に連れて行って? お前の大切なパソコンの間近で水切りでもされたらどうする?」
水を嫌う動物は、全身が濡れた場合はその身を震わせ、水分を飛ばそうとする。
そして水分は、電子機器に思わぬ悲劇をもたらす。
一輝の言葉に、氷河はソファに座り直した。
「だったら、早く乾かしましょうねー」
氷河が膝の上に乗せた猫に声を掛け、全身を拭き始めた。
――オレの膝が…。
暖かな陽の光の指すリビングで、ソファに座った氷河の膝枕で転た寝をする。いや、したい。してみたい――。
押さえつけてでもしてみたいことを、ただ猫というだけで、されてみせる猫に、一輝は憎悪の視線を向けていた。
「続く」
氷河はバカ猫の全身をローブで包み込み、大切そうに撫でた。
「キサマ、よくも――」
あの、滑らかで、触ると吸い寄せられるような肌に、あの小汚い猫が全身を密着させているのだと思うと、小汚いを通り越して、憎悪さえも沸いた。
「何をそう、ムキになる、大体お前が猫にビールを――あッ」
言葉を切り、頬を染め、全身を痙攣させた氷河に、一輝は険悪な表情を向けた。
「ダメじゃあないか、お前――そんなところを舐めて…」
氷河がバカ猫をローブから出し、両脇に手を入れ、目の前に翳したのと、一輝が腰を上げたのが同時であった。
――殺れる。
バカ猫は、両前脚を氷河に扼(やく)され、しかも一輝に背を向けている。
ここでく拳を叩きこめば、間違いなく殺れる。
だが、そんなことをすれば、間違いなく氷河の逆鱗に触れる。
当初は薬湯で、恐怖のどん底に追いやられた氷河も、今は猫を、自分でシャワーを浴びさせるほど可愛がっている。
その猫に、聖闘士である自分が拳を叩きこめば、どのようなことになるか――。
暫く目にしていない、見る者を凍てつかせ、周囲の温度を低下させるような眸を想い描き、一輝は躊躇した。
その間に、氷河が猫を抱き取った。
「――本当に、お前は人懐こいなぁ」
氷河が、阿呆猫に頬をつけた。
「やめんか、キサマ、そんな猫などにッ」
何が人懐こいものかと、自分の手の届く場所には、決して近寄ろうとしない猫を一輝は指さした。
猫にしてやれることが、なぜ自分には出来ないのかと、一輝は氷河に肚を立てた。
「煩い男でチュねー、落ち着かないから向こうに行きましょうか?」
また猫の頬に唇をつけながら、氷河が立ち上がる気配を見せた。
「いいのか氷河、そんな濡れネズミの猫を部屋に連れて行って? お前の大切なパソコンの間近で水切りでもされたらどうする?」
水を嫌う動物は、全身が濡れた場合はその身を震わせ、水分を飛ばそうとする。
そして水分は、電子機器に思わぬ悲劇をもたらす。
一輝の言葉に、氷河はソファに座り直した。
「だったら、早く乾かしましょうねー」
氷河が膝の上に乗せた猫に声を掛け、全身を拭き始めた。
――オレの膝が…。
暖かな陽の光の指すリビングで、ソファに座った氷河の膝枕で転た寝をする。いや、したい。してみたい――。
押さえつけてでもしてみたいことを、ただ猫というだけで、されてみせる猫に、一輝は憎悪の視線を向けていた。
「続く」