炭素の科学

宇宙で水素、ヘリウムに次いで3番目に出来た安定な元素で、生命体に必須の有機化合物の基本の元素である炭素について知ろう

13.星(恒星)と炭素

2016年08月26日 | 科学

 

既述のページへのリンク: ①炭素という名称の起源   ②炭素の認識:木炭は何故炭素なのか   ③元素としての炭素の性質   ④炭素の誕生   ⑤宇宙の炭素   ⑥原始太陽系の炭素   ⑦炭素と有機物   ⑧炭素原子とメタン分子   ⑨炭化水素分子内での炭素の結合   ➉分子内での炭素と酸素の共有結合   ⑪窒素の形成と水素と炭素と酸素   ⑫窒素を含んだ有機化合物と無機化合物   ⑬星(恒星)と炭素   ⑭炭化水素分子内での炭素―炭素結合と電子   ⑮複雑な構造の炭化水素、⑯複素環式化合物、⑰炭素化合物の多様性⑱炭素原子と星間分子

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ビッグバンの後、最初に生じた原子は水素(1H)だが、その時点では非常に高温のため水素は単体の陽子として存在する。2個の単体の陽子の合体と陽電子の放出による重水素(2H)の合成に始まる一連の反応は、その後のある程度冷却された時点で起こる。重水素はさらに陽子を捕獲するとともにエネルギーを放出してヘリウム3(3He)となり、ヘリウム3(3He)は複数のルートでヘリウム4(4He)となる。これらの反応は陽子-陽子連鎖反応と呼ばれ、これらの原子は第一世代の星を形成する材料となる。ビッグバン後の膨張によって急速に冷えてゆく宇宙が、これらの原子核合成に適した温度にあるのはごく短時間なので、ほとんどの陽子は未反応のまま存在する。

宇宙の温度が膨張に従って3,000度以下にまで下がると、電子と原子核が結合して通常の原子の状態となり、原子プラズマは中性ガスとなる。中性ガスの温度がさらに下がると、単体分子のヘリウム以外の原子は、衝突するとお互いが結合して、より安定な多原子分子を形成する。地球環境で新しい分子を形成するには、既存の安定化された分子にエネルギー(活性化エネルギー)を与えて不安定な状態にして結合の組み換えをする必要がある。しかし、ビッグバン後の最初に形成された水素原子の場合、もともと活性化された状態にあるので、お互いが衝突すれば直ちにより安定な水素分子となる。従って、第一世代の星形成の前で、ある程度冷却された宇宙空間においては、ほとんどの原子が水素分子の状態で存在することになる。

ビッグバン後に形成された水素分子は宇宙の膨張に従ってばら撒かれるが、分布に濃淡があり、高濃度のところに重力によって周囲の分子がひきつけられ、第一世代の星の形成が開始される。この第一世代の星の内部で、原子核融合によって新しい元素が合成されることになる。現在の地球から見た宇宙で分子が農集している部分を分子雲と呼ぶが、その大部分は水素分子である。

第一世代の星形成に際して、水素分子の集合に伴って解放される重力ポテンシャルのエネルギーは、半分が赤外線で放射され、残りは星の内部の温度上昇に使われる。従って星が収縮すると内部温度が上昇し、水素分子は分解して水素原子となり、さらに水素の原子核である陽子となる。内部温度が数百万度から1000万度に達すると水素原子(陽子)の核融合が始まる。

第一世代の星の中の核融合で、どのような元素が合成されるかは、星の大きさ(集まった水素の量)に依存し、一般的な説の概略を示すと以下のようになる。

  1. 質量が太陽の8%程度より小さい場合は、中心部の温度は水素の核融合反応が起きるほど高温にならなくて、そのまま収縮して褐色矮星となる。
  2. 質量が太陽の50%以下の場合、中心核の温度がヘリウムの核融合が起きるほどには上昇せず、水素を使い切って核融合反応が止まり白色矮星となる。
  3. 質量が太陽の50%~4倍の星では、ヘリウムの核の収縮が進行し、温度が1億度を超えると、中心でヘリウムから炭素および酸素への核融合反応がはじまる。中心のヘリウムが枯渇すると、中心にある炭素および酸素の核が収縮しはじめ温度が上がる。そのため核の周囲でヘリウムの原子核融合反応が再開される。そして再び星の膨張が始まる。星の膨張がある程度よりも進むと、赤色巨星呼ばれる状態になり、その表面においては重力が弱くなり、さらに星の表面ではガスの圧力や輻射圧(光圧)、磁気的な圧力などが高くなる。そのために容易にガスが放出される。
  4. 太陽質量の4~8倍の重さの星では、炭素どうしの核融合(炭素燃焼過程)が起こり、ネオンやマグネシウムが形成されて核に集積する。最初から炭素と共に存在している酸素や、新たに形成されたネオンとマグネシウムは、炭素燃焼過程の温度と密度では安定に存在する。そのため、それらの元素からなる不活性な核が形成される。炭素燃焼の最終期には、大規模な恒星風を発生させ、酸素-ネオン-マグネシウムでできた白色矮星の核を残して外殻を吹き飛ばす。残された核は炭素より重い元素の核融合燃焼に十分な温度にはたどり着かない。
  5. 太陽の8倍よりも質量が大きい星では、密度が比較的小さいために中心核が縮退することなく温度が上昇し続け、核融合反応が進んで次々と重い元素が作られて行く。どこまで核融合が進行するかは星の質量によって以下のようになる。
  • 質量が太陽の8 ~ 20倍の星では、炭素燃焼過程が終了すると、さらに温度が上昇しネオンやマグネシウムが電子捕獲反応電子軌道電子原子核に取り込まれ、捕獲された電子は原子核内の陽子と反応し中性子となる)を起こし、中心核での圧力が一気に下がって、重力を支えられなくなり、星は重力崩壊する。重力崩壊で押しつぶされた星は、直径10km程度の中心核が残る。これは非常に強い重力のために原子核に電子が吸収されて星の原子のほとんどが中性子になる。この星を中性子星と呼ぶ。直径は10km程度でも、質量は太陽と同じ程度の非常に高密度の星である。
  •  質量が太陽の20倍以上の星では、核融合反応がさらに進行する。核融合で新たに合成された元素の原子は中心核に集積し、その集積した原子がさらに新たな元素を形成し、その原子が中心に集積する。従って、星の構造は最外殻に水素持ち、合成された順に内核に向かって安定元素の殻を球殻状に蓄積する。
  • 中心核の温度が12億度を超えるとネオンの核反応(ネオン燃焼過程)が起こりネオンは酸素とマグネシウムに変換される。続いて中心核の温度が15億度を超えると酸素の核融合によりケイ素などが、さらに25億度を超えるとケイ素などの核融合によりなどが生成される。鉄などの原子核は最も安定な原子核であるので核融合は停止する。核融合が停止した後も星の内部では重力収縮しながら温度が上がり、100億度を超えると黒体輻射による光により鉄の原子核がヘリウムと中性子に分解される以下に示す反応(鉄の光分解)が始まり、鉄原子の光崩壊が起こる。この分解は吸熱反応であるので、中心核での圧力が一気に下がって重力崩壊が起こる。重力崩壊の際には莫大な量の重力によるポテンシャルエネルギーが解放されて、星全体が吹き飛ぶ超新星爆発が起こる。

  •  質量が太陽の30倍よりも大きい星の場合には、中性子星になってもその重力を支えることができずに、重力崩壊が進行して、極限まで収縮したブラックホールとなる。

 

太陽の質量の50%以上の第一世代の星ではトリプルアルファ反応と呼ばれるプロセスでヘリウム4(4He)から、炭素12(12C)が作られる。さらに、その炭素の一部は、同じような温度と圧力の条件で、1個のヘリウム4(4He)と融合して(アルファ反応)酸素16(16O)を形成する。質量が太陽の4倍以下の星では炭素も酸素も核融合を起こさないので星の内核には炭素と酸素が蓄積され、外層を構成する気体は膨張し冷却される。核で合成された炭素と酸素は、上層に移動することで、星表面の組成を劇的に変える。

核にあるヘリウムが使いつくされると、星の収縮によって星の核の温度と密度が上昇し、太陽の質量の4倍~8倍の星では、炭素どうしの核融合(炭素燃焼過程)が起こる。主な反応を以下に示す。二つの相互作用する炭素核が一体化し、中間体として励起状態のマグネシウム24を構成し、その崩壊の結果として、以下の反応のうち一つが起こると考えられている。
 

 但し、2番目の反応で形成されたナトリウム23は陽子を吸収してネオン20とヘリウム4になるため、結果として、星の核には酸素の他にネオン20(20Ne)とマグネシウム24(24Mg)が蓄積されることになる。

質量が太陽の8倍以上の星では、炭素燃焼で星の中心核にある炭素が使いつくされると星の収縮が起こることによって温度と密度が上がり、中心核に集積されたネオンの核反応(ネオン燃焼過程)が始まる。主な反応は以下の通りである。
 

 または
 

 結果として星の中心核には酸素とマグネシウムが蓄積されてくる。ネオンが使いつくされると、核の収縮によりさらに温度が上がり、酸素どうしの核融合(酸素燃焼過程)が始まる。酸素燃焼過程の主な反応は以下の通りとされている。

 または
 

 ただし、硫黄31(31S)とリン30(30P)は不安定元素で自然崩壊する。酸素燃焼が継続している時点では、ケイ素の核融合反応(ケイ素燃焼過程)が起こる温度と密度には達していないので、中心核にケイ素とリンが蓄積される。酸素が消費されてしまうと星の中心核の収縮により温度と密度がさらに上昇し、ケイ素とヘリウムの核融合(ケイ素燃焼過程)が起こる。

ケイ素燃焼過程は、ヘリウム4(4He)1個と融合して新しい元素を形成してゆくアルファ反応というプロセスの積み重ねで進行するとされている。アルファ反応の典型的なものに元素合成の初期に起こる炭素から酸素の形成がある。ただし、反応速度が遅いため星の内部での温度上昇への寄与は低く、炭素から酸素の合成を除くと、ケイ素燃焼が始まるまでは、アルファ反応による元素合成は主反応ではないと考えられている。アルファ反応によるケイ素からの元素の形成は下記のように示される。


  ケイ素燃焼過程はニッケル56の形成で終了するが、ニッケル56(陽子28個)は半減期6.02 日でβ+崩壊を起こしてコバルト56(陽子27個)に崩壊し、コバルト56は半減期77.3 日でβ+崩壊を起こして鉄56(陽子26個)に崩壊する。鉄56は、全ての同位体の中で核子当たりの質量が最も小さいため全ての元素の中で最も安定で、結果として鉄56(56Fe)が宇宙に蓄積されることになる。式で示せば以下の通りである。
 

水素とヘリウムを除けばトリプルアルファ反応で形成される炭素は、リチウム、ベリリウム、ホウ素以外の全ての元素の出発点に存在することになる。その後の炭素の運命は、その炭素が所属する星の大きさによって決まることになる。星の大きさが太陽の50%から4倍程度場合、中心核に炭素と酸素が蓄積され、核に存在するヘリウムが消費されると中心核は温度が下がり、炭素と酸素でできた中心核は収縮する。その結果中心核の温度が上昇し、中心核を取り巻くヘリウムが再度核融合を始め、星の外層は大きく膨張して、星は赤色巨星という状態になる。

星の外層の大気は炭素と酸素の相対的な量によって形成される分子が異なる。炭素が多い場合には炭素星と呼ばれる状態になる。炭素星には古典的炭素星と非古典的炭素星の二種類がある。古典的炭素星は上記の赤色巨星と呼ばれる星の中でも漸近巨星分枝星(AGB星)と呼ばれるものに属し、核を取り巻くヘリウムで再度のトリプルアルファ反応が起こって炭素が豊富に生産されたと考えられている。非古典的炭素星は自分で炭素を形成できるほど大きくない白色矮星だが炭素を多く含んでいる星である。この星は巨星と伴星をなしていて、この巨星から炭素を多く含んだ物質を吸収したと考えられている。

古典的炭素星の核で合成され炭素は、上層に移動することで、星表面の組成を劇的に変える。炭素原子と酸素原子は大気上層で結合し、一酸化炭素を形成するため、大気中の酸素が消費され、フリーの炭素原子が残る。そのため大気には多くの炭素どうしが結合した「すす」が生じ、赤く見える。スペクトルとしてはC2分子(二原子炭素)に由来するものが大部分を占めている(C2分子は、地球では高エネルギー状態でのみ存在する)。また、第二世代の星ではCNOサイクルにより形成された窒素や、酸素の核融合により形成されたケイ素も含まれているので、CH、CN、C3、SiC2等の炭素化合物も高濃度で含まれている。

我々の太陽は第二世代以降の星であるが、その元素組成で多い物は、ケイ素の原子数を1とした場合、多い順に水素(2.8×104)、ヘリウム(2.7×103)、酸素(2.4×101)、炭素(1×101)、窒素(3.1×100)、ネオン(3×100)、マグネシウム(1×100)、ケイ素(1×100)、鉄(9×10-1)、硫黄(4×10-1)となり、ほぼ形成された順になる。炭素が酸素より少ないのは、炭素が酸素や窒素の合成原料として消費され、かつ炭素燃焼過程の開始条件(6×108 K温度と2×108 kg/m3圧力)が、酸素燃焼過程開始の条件(1.5×109 K の温度と4×1010 kg/m3 の圧力)よりはるかに低く、炭素燃焼過程で炭素が消費されても、酸素が残るためであると考えられる

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