
ハアハア息を弾ませながらヒナコは神社の石段を登って行きました。
ヒナコは神社の大きな桜の木の下で、本を読んだり歌を歌ったりするのが大好きでした。桜が咲き始めてからは、毎日のように学校帰りに立ち寄ります。
「よかった! きれいに咲いていた!」
ヒナコはホッとしました。昨日の夜、ものすごい風が吹いたので桜が散ってしまったのではないかと心配していたのです。
ヒナコはいつものように、幹によりかかって座ると本を読み始めました。
今日は暖かくて良いお天気です。ヒナコは桜の木の下で本を開いたまま、うとうとと眠ってしまいました。
「ピッピ!ピーヨー!ピーヨー!」
ヒナコはヒヨドリの声で目が覚めました。顔をあげると目の前に、ヒヨドリが桜の花が咲いているつた草をくわえて、ヒナコのことをうかがっていました。
「私にようかしら・・・?」
ヒナコが手を伸ばすと、ヒヨドリは桜のつた草をはなして桜の木の上に飛んでいってしまいました。つた草は満開の桜の木の上から伸びています。
「何だろう・・・?」と、ヒナコはつた草を1回引っ張ってみました。
すると・・・桜の木の中から、するすると桜のつた草で編んだブランコが降りてきました。ブランコの上には手紙が置いてありました。
~ヒナコちゃんにおねがいがあります。ブランコにのってさくらのうえまできてください~
さくら色のきれいな字で書いてありました。ヒナコは「誰かいるの~~」と桜の木の上に呼びかけました。・・・が、返事はありません。ヒナコはどうしよう?と悩んでしまいました。
「でも、桜の木の上・・・すてきだろうな」
そう思うと、行ってみたくなりました。手紙をたたんでポケットにしまうと、ブランコに腰かけました。
ヒナコを乗せた、つた草のブランコがするすると引き上げられていきます。
「すごーい!桜のエレベーターね!!」
ヒナコは落ちないように両脇のつた草を握りしめました。
一番下の大きな枝を通り過ぎると、ヒナコは桜の木の中に入っていきました。不思議なことに、小枝がヒナコにぶつかりそうになるとよけてくれて通り道を作ってくれました。
「桜のトンネルみたい!」
周りは桜の花でいっぱいで、ヒナコは桜の花に優しく包まれていました。風が吹くと、微かな良い香りと桜の花びらがヒラヒラと舞い上がりました。
見上げると、桜の枝のあいだから青い空が見えました。もうすぐてっぺんのようです。
「ピーヨー!!ピーヨー!!」 「ピィ~ピィ・・・・」
近くで2羽のヒヨドリが鳴いていました。
「来てくれると思ったよ。ヒナコちゃん」
ブランコが桜の木の上に出ると、てっぺんの小枝に、お人形のような小さな女の子が腰かけていました。
「私、この桜の木の精霊なの。あなたにお願いがあるの」
「あたしのこと知っているの・・・?」
小さな女の子はニッコリ微笑ました。桜の木の上から、歌ったり 転んで泣きべそをかいていたり、笑ったりしているヒナコをいつも見ていると言いました。
「あなたのポッケットのバンドエイドで治してほしいの。 おいで!」
女の子がそう呼びかけると、2羽のヒヨドリが飛んできてヒナコのひざの上に降りました。しかし、1羽は足に怪我をしていました。片足で立ち、とても辛そうにヨロヨロしています。
「昨日の大風で飛ばされて奥さん怪我しちゃったの・・・。あなたのバンドエイドを巻けば治るわ」
ヒナコは上着のポッケに手を入れてバンドエイドを探しました・・・。ありました、いつもお母さんが入れてくれるのです。ヒナコはバンドエイドの紙を剥がしました。
「ちょっとまって!」女の子がヒナコを止めると。傷口に柔らかい光をあててから「さぁ、巻いて」とヒナコに言いました。
ヒナコがクルッときれいに巻きつけると、怪我をしたヒヨドリは羽ばたいて両方の足で立ち上がりました。
「よかった!仲の良いご夫婦なの」
女の子がうれしそうに言いました。ヒヨドリのだんなさんもうれしそうに「ピーヨー!ピーヨー!」と飛び上がって鳴いていました。そして、2羽のヒヨドリは何度も桜の上を飛び回ると、どこかへ飛んで行きました。
「ありがとう、ヒナコちゃん」
「ううん、呼んでくれてありがとう。すてきなところ・・・」
ヒナコは大きく息を吸って、桜の香りを嗅ぎました。そして、桜の枝の向こうに見える遠くの町や山の景色を眺めました。
女の子はヒナコの肩にそっと触れました。すると、ヒナコはみるみる小さくなって女の子と同じくらいの大きさになりました。
「行こう!」
女の子はヒナコの手をとって、桜の木の中を駆け出しました。ヒナコも精霊になったみたいに、桜の木の中をピョンピョン飛び回りました。
そして、遊び疲れると。ふたりで桜の花にストローを挿して蜜を吸いました。
ヒナコと女の子は楽しくて、時を忘れ遊んでいました。
「ヒナコちゃん、ずっとここにいていいんだよ。私とお友達になってよ!」
夕陽のなかで女の子が微笑んでヒナコに聞きました。
ヒナコはちょっと、考えてから・・・
「ううん。もう、おうちに帰らなきゃ」と、頭を振りました。
女の子は寂しげに頷くと、桜の花びらを一枚ちぎり、風に流しました。
「ピーヨー!ピーヨー!・・・」
さっきのヒヨドリの夫婦がこちらに向かって飛んで来るのが見えました。
ヒナコが憶えているのはそこまででした。
ヒナコは桜の木の下で本を手にぼんやりと座っていました。日も落ちて、空には一番星もでていました。いったいどうしちゃったのでしょうか?今までヒナコは夢でも見ていたのでしょうか?
「・・・そうだ!あの子の手紙があるはず」
ヒナコはポケットにしまった手紙を探しました。しかし、中にあったのは手紙ではなく、たくさんの桜の花びらでした。
「ピーヨー!ピーヨー!・・・・」
2羽のヒヨドリが、スイースイーとヒナコの上を飛んで行きました。1羽のヒヨドリの足にバンドエイドが巻かれていたことに、ヒナコが気づくことはありませんでした。
おしまい
今回は長くなってしまいました。最後まで読んでいただきありがとうございました。
大きな木の中を蔦を使って、エレベーターのように登れたら楽しいだろうな、というところから作ってみました。固まってしまった脳みそを搾り出して、どうにかUPできました。楽しんでいただけたら幸いです。
とりあえず、再スタートしました。気長にお付き合いくださいませ
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ヒナコは神社の大きな桜の木の下で、本を読んだり歌を歌ったりするのが大好きでした。桜が咲き始めてからは、毎日のように学校帰りに立ち寄ります。
「よかった! きれいに咲いていた!」
ヒナコはホッとしました。昨日の夜、ものすごい風が吹いたので桜が散ってしまったのではないかと心配していたのです。
ヒナコはいつものように、幹によりかかって座ると本を読み始めました。
今日は暖かくて良いお天気です。ヒナコは桜の木の下で本を開いたまま、うとうとと眠ってしまいました。
「ピッピ!ピーヨー!ピーヨー!」
ヒナコはヒヨドリの声で目が覚めました。顔をあげると目の前に、ヒヨドリが桜の花が咲いているつた草をくわえて、ヒナコのことをうかがっていました。
「私にようかしら・・・?」
ヒナコが手を伸ばすと、ヒヨドリは桜のつた草をはなして桜の木の上に飛んでいってしまいました。つた草は満開の桜の木の上から伸びています。
「何だろう・・・?」と、ヒナコはつた草を1回引っ張ってみました。
すると・・・桜の木の中から、するすると桜のつた草で編んだブランコが降りてきました。ブランコの上には手紙が置いてありました。
~ヒナコちゃんにおねがいがあります。ブランコにのってさくらのうえまできてください~
さくら色のきれいな字で書いてありました。ヒナコは「誰かいるの~~」と桜の木の上に呼びかけました。・・・が、返事はありません。ヒナコはどうしよう?と悩んでしまいました。
「でも、桜の木の上・・・すてきだろうな」
そう思うと、行ってみたくなりました。手紙をたたんでポケットにしまうと、ブランコに腰かけました。
ヒナコを乗せた、つた草のブランコがするすると引き上げられていきます。
「すごーい!桜のエレベーターね!!」
ヒナコは落ちないように両脇のつた草を握りしめました。
一番下の大きな枝を通り過ぎると、ヒナコは桜の木の中に入っていきました。不思議なことに、小枝がヒナコにぶつかりそうになるとよけてくれて通り道を作ってくれました。
「桜のトンネルみたい!」
周りは桜の花でいっぱいで、ヒナコは桜の花に優しく包まれていました。風が吹くと、微かな良い香りと桜の花びらがヒラヒラと舞い上がりました。
見上げると、桜の枝のあいだから青い空が見えました。もうすぐてっぺんのようです。
「ピーヨー!!ピーヨー!!」 「ピィ~ピィ・・・・」
近くで2羽のヒヨドリが鳴いていました。
「来てくれると思ったよ。ヒナコちゃん」
ブランコが桜の木の上に出ると、てっぺんの小枝に、お人形のような小さな女の子が腰かけていました。
「私、この桜の木の精霊なの。あなたにお願いがあるの」
「あたしのこと知っているの・・・?」
小さな女の子はニッコリ微笑ました。桜の木の上から、歌ったり 転んで泣きべそをかいていたり、笑ったりしているヒナコをいつも見ていると言いました。
「あなたのポッケットのバンドエイドで治してほしいの。 おいで!」
女の子がそう呼びかけると、2羽のヒヨドリが飛んできてヒナコのひざの上に降りました。しかし、1羽は足に怪我をしていました。片足で立ち、とても辛そうにヨロヨロしています。
「昨日の大風で飛ばされて奥さん怪我しちゃったの・・・。あなたのバンドエイドを巻けば治るわ」
ヒナコは上着のポッケに手を入れてバンドエイドを探しました・・・。ありました、いつもお母さんが入れてくれるのです。ヒナコはバンドエイドの紙を剥がしました。
「ちょっとまって!」女の子がヒナコを止めると。傷口に柔らかい光をあててから「さぁ、巻いて」とヒナコに言いました。
ヒナコがクルッときれいに巻きつけると、怪我をしたヒヨドリは羽ばたいて両方の足で立ち上がりました。
「よかった!仲の良いご夫婦なの」
女の子がうれしそうに言いました。ヒヨドリのだんなさんもうれしそうに「ピーヨー!ピーヨー!」と飛び上がって鳴いていました。そして、2羽のヒヨドリは何度も桜の上を飛び回ると、どこかへ飛んで行きました。
「ありがとう、ヒナコちゃん」
「ううん、呼んでくれてありがとう。すてきなところ・・・」
ヒナコは大きく息を吸って、桜の香りを嗅ぎました。そして、桜の枝の向こうに見える遠くの町や山の景色を眺めました。
女の子はヒナコの肩にそっと触れました。すると、ヒナコはみるみる小さくなって女の子と同じくらいの大きさになりました。
「行こう!」
女の子はヒナコの手をとって、桜の木の中を駆け出しました。ヒナコも精霊になったみたいに、桜の木の中をピョンピョン飛び回りました。
そして、遊び疲れると。ふたりで桜の花にストローを挿して蜜を吸いました。
ヒナコと女の子は楽しくて、時を忘れ遊んでいました。
「ヒナコちゃん、ずっとここにいていいんだよ。私とお友達になってよ!」
夕陽のなかで女の子が微笑んでヒナコに聞きました。
ヒナコはちょっと、考えてから・・・
「ううん。もう、おうちに帰らなきゃ」と、頭を振りました。
女の子は寂しげに頷くと、桜の花びらを一枚ちぎり、風に流しました。
「ピーヨー!ピーヨー!・・・」
さっきのヒヨドリの夫婦がこちらに向かって飛んで来るのが見えました。
ヒナコが憶えているのはそこまででした。
ヒナコは桜の木の下で本を手にぼんやりと座っていました。日も落ちて、空には一番星もでていました。いったいどうしちゃったのでしょうか?今までヒナコは夢でも見ていたのでしょうか?
「・・・そうだ!あの子の手紙があるはず」
ヒナコはポケットにしまった手紙を探しました。しかし、中にあったのは手紙ではなく、たくさんの桜の花びらでした。
「ピーヨー!ピーヨー!・・・・」
2羽のヒヨドリが、スイースイーとヒナコの上を飛んで行きました。1羽のヒヨドリの足にバンドエイドが巻かれていたことに、ヒナコが気づくことはありませんでした。
おしまい
今回は長くなってしまいました。最後まで読んでいただきありがとうございました。
大きな木の中を蔦を使って、エレベーターのように登れたら楽しいだろうな、というところから作ってみました。固まってしまった脳みそを搾り出して、どうにかUPできました。楽しんでいただけたら幸いです。
とりあえず、再スタートしました。気長にお付き合いくださいませ


桜の下で酒宴なら、年相応のキレイな精霊?に来ていただきたいですね~