童話の星屑たち

みついただしの描く小さなお話たちです。

絵本「ぼくがすて犬になった日」(石風社刊)
全国書店にて好評発売中

フーセンのお雛様

2008-02-29 | ショートストーリー
 「今日は3月3日なのね~」
ケイコは恨めしげにお雛様のPOPを見た。雛祭りの催事は今日が最後で、明日からの入学シーズン春の催事に切り替えの為、残業である。
 ケイコはスーパーでアルバイトをしていて、催事コーナーの担当だった。
「運悪すぎ~」とケイコは心でつぶやきながら、桃の造花やフーセンの雛人形を外して、桜や菜の花に彩られた一年生のPOPに次々と付け替えていった。

 作業が終わり裏のゴミ置き場に使用済みのお雛様や桃の花を捨てながら、ケイコは何だかかわいそうな気持ちが湧いてきた。POPのお雛様でもちょっと不憫で心が痛んだ。
 「お雛様、もらっていってもいいですか?」
「そうか・・・ケイコちゃんも、女の子だもんね~」
催事コーナーの主任はおどけながら、好きなだけ持ってっていいよと言った。ケイコもふざけながら言い返して、フーセンの雛人形一組と桃の一枝を持ち帰った。たしかに主任に言われても仕方がない、ケイコは化粧気もなくいつも男のような服装をしているのだから。

 「汚いとこですが、こちらへドーゾ」
ケイコはアパートに帰ると、タンスの上の小物をどかしてお雛様とお内裏様を置き脇に桃の枝を立てかけた。
「お雛様はすまし顔なのに、あんたたちは笑っているねぇ」
ケイコは語りかけながら、雛あられの代わりにチョコレートを2粒、マンガ顔のお雛様にお供えした。

 「ブ~ブ~ブ~・・・」
携帯が鳴った、話すといつもケンカになってしまうお母さんからだ。
「お雛様を出して待っていたのに、どうして帰ってこないの!」
ケイコはそんなことすっかり忘れていた。いつもならここでケンカになるのだが、何故かお母さんは優しくてケイコも腹が立つことはなかった。ケイコは申し訳ない気持ちになり、携帯を切る間際お母さんに明日にでも帰ると約束をしていた。
「なんか調子が狂うな・・・」と思いながらも温かな気分だった。
そして、ケイコは取っておきのワインとチーズを出してひとりだけのひな祭りをしようとしたとき・・・      
 「トン・トン・トン」
ドアをノックする音がした、ドアを開けるとミカとトモだった。最近ケンカして気まずくなった二人だ。
「・・・なぜかケイコと会いたくなって」
 始めは気まずかったが、すぐに楽しいひな祭りパーティーになった。みんないつものように心置きなく笑っていた。ケイコもこんなに愉快で穏やかな気持ちは久しぶりだった。

 「不思議ね、あなたたちのせいかしら・・・」
ケイコは、タンスの上のフーセンのお雛様をチラッと見て考えたが、すぐに笑い声の絶えない女の子の宴の中に戻っていきました。

  おわり



 小売や物流の仕事をしていたことがあるので、たくさんの販促品を扱いました。本当に捨てるには惜しいな、というPOPも結構ありました・・・。
そんな彼らにも第二の人生?があるといいですよね~。
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つまらない川だけど

2008-02-20 | 空のはなし
君は変な川だと思っているんだろ?
岸はコンクリートで固められ、水も一直線に流れていて
誰かが川の真ん中に自転車を捨てても、気にもされない
つまらない川だと。

でも、周りの風景が色を失くす日没後・・・

こんな川にも、
空がひときわ美しい色を
授けていることを
君は知っているかい?
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湯気の向こうは・・・

2008-02-15 | ショートストーリー
 夕方、お風呂屋さんの高い煙突からモクモクと黒い煙が上っています。ケンタはバタバタと下駄箱に靴を入れると、お風呂屋さんの扉を開けました。
 まだ時間が早いせいか、お風呂屋さんはガラ~ンとしています。
「やった!試運転が出来るぞ」
思わずケンタは口に出してしまいました。番台のおじさんにジロッと見られましたがケンタはパッパッと服を脱いで、プラモデルの潜水艦をおじさんに見られないように隠しながらお風呂場に入りました。

 「すごい湯気!!」
今日は寒かったせいでしょうか。いつもよりも何倍も湯気が出ていて前がよく見えません。ケンタの声がお風呂場の高い天井に響きました。
 お風呂は熱くて入れなかったので、水の蛇口をいっぱいに開けました。ケンタは熱いのをこらえてソ~ッと入ると、手に持った潜水艦のスクリューのゴムを目いっぱい巻いてお風呂の中に放しました。
 潜水艦は最初お風呂の中を勢いよく走っていましたが、お風呂の中に沈んだままどこにいったのかわからなくなってしまいました。
 「湯気がすごくてよく見えないや・・・」
湯気の中を探すと潜水艦は隣の深いお風呂の底に沈んでいました。深いお風呂はもっと熱いのでさらにいっぱい水を入れて、思いきって潜水艦を取りに深いお風呂に潜りました。

 「アレッ・・・?」
ケンタが潜水艦を取ってお風呂から顔を出すと、お風呂屋さんの雰囲気が違います。クリーム色の部屋で、ケンタの入っているお風呂もひとりしか入れないような小さな浴槽です。
「ソウタ、ちゃんと肩までつかるんだぞ」
お父さんの声に似た人が、湯気の向こうで体を洗っています。
「ここはどこ・・・」
ケンタがキョロキョロしていると、誰かがケンタの腕を思いっきり掴み上げました。

 「コラッ!!こんなに水で埋めやがって!」
刺青をしたおじさんがケンタを叱り飛ばしました。いつのまにか、お風呂屋さんに戻っていました。
おじさんはブツブツ小言を言いながらも、アッ~とか、ウ~とか言いながら気持ち良さそうにケンタと並んでお風呂に入りました。
ケンタは怒られてさっきのことなど吹き飛んでしまいましたが、手に持っていたはずの潜水艦が無くなっているのにふと気がつきました。
「スティングレイ、どこいっちゃったのかな・・・?」


 「お父さん、ぼくこんなオモチャしらないよー」
息子のソウタが浴槽の中で潜水艦のオモチャと遊んでいます。ケンタが体を流して息子と浴槽につかると、そのオモチャを手にして言いました。
「スティングレイじゃないか・・・・懐かしいな」
ケンタは不思議そうに眺めていましたが、子供の頃お風呂屋で無くした自分のものだと気づくことはありませんでした。

  おわり



 毎日寒い日が続きますが、今回はお風呂屋さんのお話です。少しは温まってくれたでしょうかお風呂屋さんは、子供の頃毎日のように通いましたので楽しい思い出がたくさんあります。また、題材にしようかな・・・。

 スティングレイ(番組名、海底大戦争スティングレイ)を知らない方に説明・・・
1962年にイギリスのジェリー・アンダーソン制作(サンダーバードを作った会社)の特撮人形劇です。日本でも放映されて人気になりました。主役メカの潜水艦スティングレイと基地がカッコよくて好きでしたね
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森のオペラ歌手

2008-02-09 | 空のはなし
厚く空を覆っていた雲が飛び去りました。
開演をつげる鳥達の
さえずる声が森にこだまします。

森のオペラハウスの
今日の歌劇は、
夕陽のスポットライトに立つ
彼女のアリアから始まります。
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ひかりの季節

2008-02-06 | 童話
 今日はピカピカとおひさまも出ていいお天気ですが、まだまだ寒い2月です。
お庭の自動車の上に、またあのネコが来ています。ちーちゃんはお父さんのまねをして言いました。
「こらネコ!これはお前のベッドじゃないんだぞ!!」
ネコはちーちゃんの言うことなど聞かず、ジッと丸くなって気持ち良さそうに眠っています。

 「今日はお父さんもいないんだ、お昼寝の邪魔をしないでくれよ」
ちーちゃんは周りをキョロキョロと探したのですが、ちーちゃんとネコしかいません。
「今しゃべったの、ネコ・・・」
 ネコはちーちゃんをチラッと見ると、大きくあくびをして言いました。
「自動車の上はポカポカして気持ちいいんだ。ちーちゃんもおいでよ」
ちーちゃんはちっちゃい子供なので自動車に登ることなんかできません。それにお父さんに怒られます。
「残念だな~。今はひかりの季節でね、おひさまを浴びてお昼寝するには最高の季節なんだ」
「ひかりの季節?」
「そう!冬と春の真ん中のひかりの季節」
そんなふうに言われると、何だかネコがうらやましくなりました。ちーちゃんは代わりになるものがないかな~とあたりを探しました。
 ありました!
ベンチにお布団が干してあります。ちーちゃんはベンチのお布団に登りました。
「あったか~い!」
お布団はふわふわで草のいい匂いがします。
「アッ、いいな~。さすがにそこは遠慮していたんだぜ~」
ネコが口惜しそうに「ニャ~」と鳴きました。

 ちーちゃんは空を見上げるとあたたかいおひさまのほうへ顔を向けました。おひさまはまぶしくてちーちゃんは目をつぶりました。
「うわ~っ、みんな真っ赤だ~」
目をつぶっているのに明るくて、顔がポッポッとしてきます。まぶたのすぐ向こうにまるで、おひさまがいるみたいです。
「すご~い、ひかりがいっぱい!」
ちーちゃんはお布団の上でネコのように丸くなるとウトウトしてきました。

 「ちーちゃん!こんなところで寝て・・・カゼひくじゃない!」
お母さんがちーちゃんを起こしました。ちーちゃんはいつのまにか眠ってしまったようです。ネコも自動車の上にはもういませんでした。
 「お母さん大丈夫だよ!今、ひかりの季節なんだから!」
ちーちゃんはそう言うと、またお布団の上で丸くなりました。

  おわり



 2月は光の二月などといいますよね。たしかに先月までとは違い陽射しがまぶしく感じます。東京はここ最近雪など降ってすごく寒いです。早く暖かくなって布団干しでもしたいですね~
イラストはサクッと鉛筆スケッチ風にしてみました。
 
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雪空

2008-02-03 | 空のはなし
ひとりぼっちの男が、
東京の雪なんて迷惑なだけだ
と、苦々しく空を見上げました。

紙くずのような雪が、
ひとつふたつと顔に落ちて
溶けて流れ落ちました。

それだけのことだけど・・・

男は涙じゃないよな
と、頬を拭ってみました。
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早くも2月・・・

2008-02-01 | つれづれ
 イラストは構想中の絵本のイメージ画です。今度は前作よりも文章を減らして、もっと絵で想像を膨らませられればいいな~と漠然とですが考えています。
 ところで、新風舎のことでは友人知人、家族や絵本を購入された方に心配かけて申し訳なく思っています。懸念していたことが早くも現実になってしまいましたが、いろいろ疑念があったのでかえってスッキリしたような気分です。在庫も全て買う手配をしているので、早く手元に帰って来るのを願うばかりです。

 ブログのお話は、もうちょっとお待ちください
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