童話の星屑たち

みついただしの描く小さなお話たちです。

絵本「ぼくがすて犬になった日」(石風社刊)
全国書店にて好評発売中

あまだれこたろう

2014-04-17 | 童話
 パチャパチャ トト…トン 
   ザアザア  バチャビチャ バラ‥バラバラバラ・・・・
 トタン屋根の上に落ちる雨音が、お風呂場の中からでもよく聞こえました。ヨシオが天井を見上げると、黒や茶色の模様のようなシミだかカビが、気味悪くまだらに天井にはりついています。
ヨシオはお母さんに連れられて、田舎のおじいさんの家に遊びに来ていました。おじいさんの家は古く、お風呂場もタイルや板で囲まれた給湯もない、昔の古~いお風呂でした。
ヨシオはひとりで入っていると心細くなってきて、おじいさんと入ればよかったと後悔しました。

 天井からポタンとしずくが落ちてヨシオの顔に当たりました。
「ひぇ~気味ワリ~~」
ヨシオは頭からザブンとお湯をかぶり、勢いよく湯船の中に入りました。
 
  ザアザア  バチャビチャ バラ‥バラバラバラ・・・・
        ジョロジョロ ポツポツピタピタ ザアーザアーザアー
 
 それにしてもよく降る雨です。雨音があちらこちらから聞こえてきます。
屋根に当たる音。窓ガラスに当たる音。雨どいに水があふれている音。木々の葉っぱから落ちる音・・・。普段聞くことのないさまざまな雨音が、騒がしくお風呂場の周りを包んでいました。
「うるさい!! うるさい雨だな!うちのマンションだったら台風だって聞こえないぞ!!」
ヨシオは怖くなってきた自分に言い聞かせるように、大きな声で天井に向かって言いました。


  ポチャン・・・
ヨシオの目の前にしずくが落ちて、小さな波紋が広がりました。
そして・・・、次々としずくが落ちてきて、湯船いっぱいに波紋が広がりました。
「エッ?雨漏り!」 
天井を見上げると、湯気がもうもうと厚く立ち込めていて天井が見えません。その湯気の中から雨のようにしずくが降ってくるのです。
「雨漏り?・・・それとも屋根が抜けちゃったの!?」
 
  ゴロゴロゴロ・・・
 天井の湯気の中から雷の音がします。湯気はいくつも重なって、なんだかどんよりと黒くなってきました。そして・・・ピカピカと光ったのです!
   ガラガラ!ドッシャーン!!
 ヨシオは慌てて湯船から飛び出し間一髪間に合いました。そのとき、はっきりと見ました。すごい稲妻が湯気から湯船の中に落ちるのを!!

   ウルサイウルサイ マンションコゾウ
         カミナリクライデ ションベンタラスナ・・・

 天井から・・・雨音から・・・、クスクスと笑うような声がしました。キヨロキョロと声の主を探していると、いつのまにしずくの雨がやんで、お風呂場に虹がかかっていました。      
いったい何がなんだか、・・・さっぱりわかりません。
 ヨシオは怖くてお風呂場の隅で泣きべそをかいて、あの声のとおりオシッコも少し漏らしていました。

 ヨシオはお風呂から出ると、汗も拭かず飛び出し、お母さんとおじいさんに今起こったことを話しました。
 「・・・あまだれこたろう まだいたのね」
お母さんがヨシオをバスタオルでゴシゴシ拭きながら、おじいさんと顔を見合わせて微笑みました。
 「お前、何か生意気なことを言ったのだろう?」
おじいさんがヨシオの頭をポンポンとたたきました。ヨシオは誰も驚かないのでポカンとしてしまいました。

 あまだれこたろう は、おじいさんの家のような長く住んだ古い木造の家のお風呂に、雨足が強すぎもせず弱すぎもせず降るときに現れるそうです。黙って雨だれの音を聞いている分には何もしませんが、あまだれこたろうが気持ちよく雨音をたてているのを邪魔すると、イタズラするそうです。でも、それはずいぶん前の話で、今は現れることはないそうですが・・・。

 「でもね・・・、お母さんは子供の頃よくお風呂で あまだれこたろうと楽しく歌っていたのよ」
お母さんが子供の頃の話を楽しげにヨシオに話しました。
 「・・・怖い思いをしたけど、そうか・・・ヨシオも こたろうに会ったのね・・・」
お母さんが天井を見上げ何だか、うれしそうにつぶやきました。

   ザアザア  バチャビチャ バラ‥バラバラバラ・・・・
        ジョロジョロ ポツポツピタピタ ザアーザアーザアー

 雨はしきりに降り続け、さまざまな雨音がします。
ヨシオは雨音なんて気にしたことはありませんでした。もし、今度 あまだれこたろうと会えることがあったなら・・・。
 お母さんみたく一緒に歌ってくれるかな~と、怖いけど雨音を聞きながら思いました。

  おしまい



 久しぶりに更新できました。このお話は雨の日にお風呂に入っていて、雨音を聞いていたら「あまだれこたろう」と、先にタイトルが浮かび、そこから作りました。
今回はとにかく、またお話が作れたことが嬉しかったです。
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星どろぼう

2014-01-03 | 童話
 帰り道をいそぐ、熊の親子がいました。秋の夕ぐれは、すぐお日さまがしずんでしまいます。お空にはお星さまがポツリポツリとまたたきはじめていました。

 「あっ!おかあさん。お星さまがあとからついてくるよ!」
小熊のココがふりかえると空をゆびさしていいました。ゴーゴーと音をたててお星さまがチカチカ光りながらココたちの上を飛んでいきました。
ココはふしぎそうな顔をして、飛んでいくお星さまを見つめていました。
おかあさんはココの見つめているお星さまを見て、ほほえんでいいました。
「あれは飛行機ですよ。光っているのは星ではなくて、飛行機のランプなの。飛行機がここにいますよと光っているの」
「お星さまじゃないの?」
「そうよ。人間の乗り物なの。さぁ、寒くなってきたからはやくお家に帰りましょう」

 その夜、物知りのおじいさんがココのお家にやってきました。ココはさっきの飛んでいくお星さまのことをおじいさんにはなしました。
「そうかそうか。でも・・・飛行機だとはかぎらないぞ」
「ほんと!ぼくもふしぎだな~とおもったんだ!」
「飛行機にみせかけて、星どろぼうもまじっているからの・・・」
おじいさんはココに星どろぼうのはなしをしました。

 星どろぼうは、気に入った星を空から盗みとると体中にはりつけ、それはそれは美しいそうです。鳥のようなすがたで音もなく夜空を飛び、盗んだ星にあきると人間に化けて人間たちに星を売りつけているそうです。

 「ココが見たのはゴーと音がしたのだから、まちがえなく飛行機じゃよ」
おじいさんが笑っていうと、おかあさんがおじいさんのお話は作り話が多いから信じちゃだめよと、ココの頭をなでました。
 
 ベッドに入ってもココは星どろぼうのことが気になって、なかなか眠ることができませんでした。耳をすましていると、遠いところから小さくゴーという音が聞こえました。ココはベッドから出るとお家の外に出ました。
ゴーゴーとふたつの飛行機がたくさんのランプをつけて、高いお空の上を飛んでいました。

 「・・・星どろぼうって、ほんとうにいるのかな・・・?」
ココは飛行機を見つめながらつぶやきました。すると、片方の飛行機がクルッと向きを変えココの方へ音もなく鳥のように羽ばたきやってきました。

 星どろぼうです!体中の星が美しく光りかがやいていました。
「なんだ、熊の子供か。星どろぼうはほんとうにいるさ・・・」
星どろぼうは体の星をひとつつまむと、ココの前に落としました。
「この星はもうあきた、おまえにくれてやる」
そういうと、星どろぼうは羽ばたき、夜空へ消えていきました。ココはおどろいてひと言もあげることができませんでした。

 次の日、おかあさんやおじいさんに星を見せると、ただのガラス玉だと笑われました。
でも、大人になった今でもココはだいじに星どろぼうの星を持っているそうです。

  おしまい


 久しぶりに更新しました
昨年はいろいろとあって、ブログもすっかり夏以降はお留守にしてしまいましたやっと落ち着いてきたのでボチボチと再開してみました。
このお話は何年か前に書いたものです。今すぐに新作は書けないし、気に入っていたお話なので蔵出してみました。
今年も気長によろしくお願いします

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猫の電車~後編~

2013-05-19 | 童話
 明かりのついたリビングルームには、すでにたくさんの猫たちが来ていました。電車が入って来ると、線路の上でたむろしていた猫たちはあわてて立ち退きました。
 「~猫のひろば~猫のひろば~~」
ドアが開くと猫たちは次々と下車していきました。トモもポニーの後に続いて降りました。

 「いっぱい来ているのね~」
トモがリビングを眺めて言うと、「町中の家猫が来ていると思うわ」リリが誰かに手を振りながら言いました。
「家が居心地よければ、家猫は外に出ないものだけど・・・電車が出来て変わったようね」
「ポニーも変わったの?」
「どうかしら?今は物珍しいから来ているけど、毎回こんなお祭り騒ぎだったら家に居たほうがいいわね」
 そう言うとポニーは、ポンとソファに飛び乗りました。トモは自分の背丈よりも大きなソファを見上げました。
「モデルルームは人間も住んでいないし、居心地のいい家具も揃っているし、家猫の集会にはもってこいね」
ポニーはお尻を高く上げて大きく伸びをしました。トモは「ヨイショヨイショ」とソファによじ登るとポニーの隣に座りました。

 「プァン~」と汽笛とともに、猫の電車は開いている窓から外に走り去って行きました。トモは心配そうな顔をして見つめていました。
「大丈夫さ。電車は時間になれば、またやってくるさ」
トロが隣に座るとポンと肩を叩きました。
「おひとついかが?」
 リリが持ってきたチョコをトモに渡しました。
ポニーも魚肉ソーセージのビニールをピリピリ破り、トロやリリに勧めています。
「さぁ、私たちも楽しみましょう」
そう言うと、ポニーはトロの持ってきたお魚にかぶりつきました。
 ひとしきり食事が終わると、猫たちはそれぞれ居心地のいい場所を探して眠ったり、毛繕いをしたりしておのおのの時間を楽しんでいました。なかには好奇心旺盛な猫もいて、トモのところにやってきては挨拶をし、匂いを嗅いでいきました。
 
 「・・・お楽しみのところ失礼いたします。ここで家猫評議会・議長のご挨拶がございます」
一匹のシャム猫が大きな声で言うと、太ったヒマヤランが身軽にテーブルに飛び乗り、猫たちに向かって挨拶を始めました。
 「一週間前の家猫電鉄の開業以来、本日で6回目の家猫集会になりました。昨夜はキッチンペーパー巻き取り大会で大いに盛り上がりましたが、本日はスペシャルゲストをお呼びしております・・・」
「昨日は私が優勝したのよ!練習の成果ね・・・」と、ポニーが微笑んでトモに耳打ちしました。
「トモさん、ピアノの前にお出でください!」
議長が言うと、拍手と歓声が沸き起こりました。
 ポニーがトモの手を引いてピアノ前へ歩き出しました。
「今日はピアノに合わせて、歌って踊りましよう!!」
議長の言葉に猫たちは大喜びです。
 
 トモがピアノの前まで来ると、ポニーはトモの首輪を外しました。
「・・・オオオッ!」猫たちが後退りしました。トモが人間の大きさに戻ったのです。
「トモさん・・・お願いいたします」議長がおびえた声で言いました。トモはピアノの椅子に座りました。
「何を弾けばいいのかしら・・・?」
トモは、考えましたが、今習っている曲でも弾いてみようと弾き始めました。しばらく猫たちは黙って聴いていましたが、・・・、飽きてしまい居眠りしていました。
 「トモさん・・・もう少し乗りのいい曲ありませんか?」
議長がトモを止めました。トモは憶えている曲を何曲も続けて弾くのですが、猫たちはなかなか乗ってくれません。そのうち・・・、ニャ~ニャ~と、次々野次を飛ばし始めました。
トモには猫の好みなんてわかりません!だんだんイライラしてきました。
 「・・・・もう知らない!!」
トモは頭にきて、思いっきり「ねこふんじゃった」を弾き始めました。

      ~♪ねこふんじゃった! ねこふんじゃった! 
        ♪~ねこふんづけちゃったら ひっかいた~・・・♪~
  
 トモは弾きながら、大きな声で歌いました。・・・すると猫たちは急に聞き耳を立て、トモの歌に続けて歌い始めました。猫たちは歌い踊りもう大騒ぎです。
驚いてトモが手を止めると、猫たちは「もっと!もっと!」とねだりました。
トモは繰り返し何度も「ねこふんじゃった」を弾き続けました。猫たちのテンションはドンドン上がり、床を跳ね回り、壁を走り回りました。
 ・・・・興奮した猫たちは、窓からの侵入者たちに気づくことはありませんでした。

 「コラ!!家猫ども! 集会は静かにやらんか! だいたい家猫が集会なんて、生意気だ!!」
トモが振り返ると、白と黒の大きなブチ猫がテーブルの上で仁王立ちして叫んでいました。
「ノラ猫だ~!!」と、家猫たちは右往左往して逃げ回りました。しかし、逃げる先々にノラ猫がいて次第に部屋の隅に追いやられてしまいました。
 きっと、駐車場で集会していたノラ猫たちでしょう。トモたちの電車の後をつけて来たのです。
ノラ猫たちは、家猫たちの持ち寄った食べ物をガツガツと食べ、リビングのあちらこちらにマーキングをして歩きました。
 「もう、ここでの集会はできない・・・」
議長がブルブルと震えながらつぶやきました。

 トモは、「バーン!!バーン!!」とピアノを鳴らしてノラ猫たちを脅かしました。しかし、ノラ猫たちはそんな音にはひるみませんでした。逆に「フッ~!!フッ~!!」と爪を出し、毛を逆立たせ、トモを威嚇し迫ってきました。
トモは恐ろしくなって後退りました。
 「やめなさい!あなたたち!!」
ポニーがトモの腕に飛び込んで、ノラ猫たちを睨み付けました。そして、チラッと窓の月を見てトモにささやきました。
「・・・大丈夫、もうすぐ電車がくるわ」
 何処からか「カンカンカンカン」と踏み切りの音が聞こえてきました。
 
 「ブア~~~~!!!ブア~~~~!!!ブア~~~~!!!ブア~~~~~~」
けたたましい警笛を鳴らして、窓から何台も次々猫の電車が飛び込んできました。線路の上にいたノラ猫たちはボンボンと電車に突き飛ばされて、リビングの外に飛んでいってしまいました。
「さぁ早く!!」
車掌がドアを開けると、家猫たちは電車に飛び乗りました。
 トモはポニーから首輪を受け取ると頭に載せ、再び小さくなってポニーと一緒に電車に飛び乗りました。
猫の電車はものすごいスピードで発車すると、玄関からそれぞれの路線に向けて散り散りに走り去っていきました。
 ノラ猫たちは驚いて追いかけることもできず、呆然と猫の電車を見送ることしかできませんでした。
    
 あれから何日も過ぎました。
トモにはもう猫たちの言葉はわかりません。ポニーに「猫の電車はどうなったの?」と聞いてみても、「にゃ~」と鳴いておしまいです。
 ただ、あれからトモは他の猫たちとは仲良しになりました。リリは手を振ると、いつにもまして愛想がいいし、昨日もお寿司屋さんの前を通りかかると、店先にいたトロに「ニャ~」と呼び止められました。きっと、隣にいたグレーのトラ猫が相棒の「ハマチ」でしょう。

 でも、また近いうちに猫の電車に乗ることができるかもしれません。
だって、あの特別乗車券の首輪の鈴を鳴らすと、ポニーが来てしきりに「にゃ~にゃ~」と何か言いたげに話しかけてくるのですもの・・・。

  おしまい 


最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
子供の頃、線路の側で育ったせいか鉄道には身近な乗り物として人一倍愛着があります。いつの日か、こんな珍妙な電車を題材にした絵本を作ってみたいですね~


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猫の電車~中編~

2013-05-14 | 童話
 猫の電車はジェットコースターのように急カーブの下り坂を降りて行きました。
トモは席から転げ落ちてしまい、向かいの席に座っていた白いペルシャ猫にぶつかってしまいました。
「大丈夫?この電車は急発進、急加速、急停車は当たり前だから気をつけてね」
「ありがとう」トモはお礼を言うと、ふと・・・ペルシャを見つめてしまいました。
このペルシャはどこかで見覚えのある猫です。
「私はリリ。窓から外を眺めていると、あなたいつも私に手を振ってくれたわよね」
思い出しました。学校に行く途中にある洋館の猫です。いつも出窓に座っていて、登下校の私たちを眺めているのです。
 「あら、リリさんトモとお知り合いだったの?私たちはこないだ初めましてだったのに」
ポニーが言うと、網棚から「しかたないさ」と声がしました。見上げると茶トラの猫が伸びをして言いました。
「俺たち家猫は、家の中しか知らないんだ。この電車ができてようやくお互い知り合いになったんだからな~」
茶トラは網棚から飛び降りると、「俺はトロ」とトモに名乗りました。
「トロ・・・・、変な名前ね」トモは思わず吹き出してしまいました。
「仕方ないじゃないか。家が寿司屋なもんだからよ。今日は来てないが、相棒はハマチだぜ・・・、まだいいだろ?」
トロが真顔で言うものだから、みんな大笑いしてしまいました。

 さまざまな窓の下や軒下に電車が停車するたびに、猫が乗車してきました。アメリカンショートヘアやマンクス、ロシアンブルーなど血統の良い家猫ばかりです。ポニーは雑種猫ですが、気後れすることなく、目が合うと軽く会釈をしました。
「みんな、家の中からポニーと同じように失敬してきているのね」
猫たちは、手にチーズやらクッキーなど持っています。そういえば、リリは小袋に入ったチョコレートを、トロは大きなお魚を手に抱えていました。
「そうよ。私たち家猫はキャットフードしか食べていないでしょ。集会のときは、飼い主が食べさせてくれないおいしそうなものを持ち寄るの」
ポニーはよいしょと、魚肉ソーセージを持ち直して言いました。
 
 「揺れますのでご注意ください」車内放送の後、電車は跳ね上がって向きを変えました。そして、電車はブロック塀の上から立てかけられた廃材を伝って地面に降り、家と家の間の隙間を走って行きました。
「本当に猫の通り道ね・・・」
トモは窓を開けて身体を乗り出して進行方向を見つめました。線路は家の排水のパイプやLPガスのボンベの間を縫うように伸びてました。
 「トモ、危ないわよ!」
ポニーがトモの身体を引っぱりました。そのとき、突然熱い風がゴーと窓から吹き込んできました。
「ほら!今エアコンの室外機の前を通ったのよ。もう少しで火傷するところだった」
 臭くて熱い空気を入れ替えようと、乗客の猫たちはバタバタと窓を開けました。ポニーは他の猫たちにぺこりと頭を下げると、トモにも頭を下げるように促しました。
「狭い所を走っているんだから身体を出したら危ないの、人間の電車と同じよ」
「ごめんなさい・・・。いつもこんなところを通っているの?」
「どうかしら?この隙間の線路は初めてだけど、いつもは塀の上だったり屋根伝いだったり・・・猫の電車だから、気まぐれなのよ」

 キキッーーー!!
電車が突然、急停車しました。猫たちもトモも、もんどりうって床に転んでしまいました。
「進行方向に赤信号が点りました!確認が取れるまでお待ちください!」
スピーカーから車掌の慌てふためいた声が流れました。トモは窓を開けて、前を見てみると線路脇の信号が赤く点っていました。車内の猫たちは、不安げに「どうしたんだ?なにがあったんだ?」と言い合っています。
 「・・・お待たせしました。この先の空き駐車場で、ノラ猫どもが集会している模様です」
車掌の放送を聞くと家猫たちは悲鳴をあげました。
「落ち着いてください。お静かに、連中に気づかれます。電車は後退し、路線変更いたします」

 電車はゆっくりバックしていきました。そして、また赤信号のあるポイントを越えると停車しました。
「あっ!信号の先、線路が枝分かれしている」トロが窓から身を乗り出して言いました。
「青信号に変わりましたら発車します。窓から顔を出しているお客様。危ないですからお止めださい」
 バツが悪そうな顔をしてトロが身体を戻すと電車は動きだしました。電車はポイントを過ぎると大きく左に曲がって上昇していきました。線路は電柱を支えるケーブルの上に架かっています。
電車はそのまま電柱の上まで登ると、パチパチと火花を上げて電線の上を走りだしました。
 バリバリバリ!! パチパチパチ!!
猫たちの毛は電気で逆立ち、トモの髪の毛もピリピリパチパチと逆立っています。
下を見ると、集会しているノラ猫たちがこちらを指差して何やら言っています。しかし、電車の猫たちはもうバチバチとそれどころではありませんでした。

 電車はピョンと跳ねると電線の上から、屋根伝いの線路に乗り移りました。
トモは「ふ~~」と息をついて、胸をなでおろしました。まだ心臓がバクバクしています。ポニーもリリもトロも目をまん丸にしています。そして、3匹ともヒゲから青い火花がチロチロと散っていました。
 「・・・ふっふっふっ・・ハッハッハッハ~~~~~!」
猫たちは顔を向き合わせると、「楽しかった!」「ドキドキしたわね!」「みんなの顔といったら!」と肩を叩きあい笑っていました。
トモも何だか可笑しくなってきて、猫たちと一緒に笑ってしまいました。

 猫の電車は、次々と屋根を走り路地の暗がりを走って行きました。トモには、もうどこをどう走っているのかわかりませんでした。
「~~お待たせしました。次は、猫のひろば。ご参加のお客様はお忘れ物の無いようお気をつけ下さい」
車掌のアナウンスを聞くと、猫たちは持ってきたお菓子やら肉やらを大事そうに抱えました。
 猫の電車は走ったり止まったりしながら用心深く、真新しい家々の建つ敷地の中に走って行きました。

 「住宅展示場・・・近日OPEN!」 「只今、休工中・・・」
トモは敷地にある立て看板を読みました。電車は展示場の一軒の住宅に走って行きます。その家の玄関の前にはいくつもの線路が集まっていました。まるでターミナルステーションのようです。
 猫の電車は、ガタゴトと家の中に走って行きました。

  後編へ~つづく   

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猫の電車~前編~

2013-05-08 | 童話
 トン・・・・バタン・・・。物音で、トモは目が覚めてしまいました。
「・・・またポニーね。いったい何をしているのかしら?」
時計を見ると午前1時を少し回ったところでした。トモはもう一度、眠ろうとしましたが1階の物音が気になって、なかなか寝付けませんでした。猫は夜行性の動物なのはわかっていますが、この頃少し元気良過ぎです。
「しょうがない子!」
ポニーの様子を見ようと、トモはベッドを出て1階に降りました。
 台所から小さな音がします・・・。きっと、ポニーがいたずらをしているに違いありません。
昨日もお母さんが、ポニーが夜中にキッチンペーパーを全部巻き解いちゃったと、怒りながら後片付けをしていました。そのときの、ポニーのそしらぬ顔ときたら・・・。思い出すと、頬がゆるみました。
 トモは開いたドアの隙間から、そっと台所をのぞきこみました。

 ポニーは、器用に後ろ足で立ち上がり、冷蔵庫を開けると中を物色していました。ポニーの白い毛並みがボンヤリと冷蔵庫の灯りの中で浮かび上がっています。ポニーは魚肉ソーセージを1本くわえるとドアを閉めました。
 ポニーは振り返ると、トモのことなど気にもせずドアをすり抜け2階にトントンと階段を上がっていきました。そして振り向き、トモに「にゃ~」と鳴きました。
「失礼しちゃうわねぇ・・・。ついてこいと言うのね」
 トモはポニーの後について階段を上っていきました。

 ポニーは物干しのベランダのドアに来ると、ソーセージを置いて「にゃ~」と鳴きました。
「ここから出たいのかしら?外なんて出たがらないのに?」
ポニーはジーッとドアのガラス窓を見上げていました。ガラス越しに、まん丸のお月さまが青白く浮かんでいました。
 「プァ~ン・・・」
何処からか、汽笛のような音がしました。すると・・・、鍵がカタリと解けドアが開きました。
ポニーは何事もないように2本の足で立ち上がると、片腕にソーセージを抱え、外に歩いていきました。トモはビックリしながらも、ポニーに続いてベランダに出ました。
 「・・・ファン」
また、汽笛がしたので音のする方を見ると、お隣の屋根のむこうから小さな線路が延びているのが見えました。
 線路は植え込みやトモのお庭の桜の木の枝の中をくねくねと登ってベランダの中まで来ていました。そして、ベランダを乗り越えると急に下って、路地沿いのブロック塀の上に急カーブを描いて降りていました。
 トモは夢でも見ているのではないかとも思いました。
「・・・いつのまに・・・?ポニーどういうことなの、何か知っているの?」
ポニーはジッと月を見上げて、振り向きもしません。

 ポニーは月を見て頷くと、お隣の屋根に向かって手を振りました。
屋根の上に、2両編成の小さな電車があらわれました。電車はヘッドライトをユラユラ揺らし急カーブ急勾配をものともせず、こちらに向かって走ってきます。まるで猫のように飛び跳ねながら。

 電車はベランダの中で「キキーッ!」とレールを軋ませ止まりました。電車は小さいときに乗った遊園地の汽車より小さく、古い昔の電車のような型です。ライトが猫の目のようだったり髭のようなアンテナがあったりして、どことなく猫っぽい姿をしていました。
後ろのドアが開くと制帽を被った車掌らしき猫が出てきて、「ポニーさんの家~」と言いました。

 「困りますな、ポニーさん。人間は乗せませんよ」
車掌の猫はポニーとトモを交互にみて、腕を組んで言いました。
「仕方ないじゃないの、ついてきちゃったんだから」ポニーはトモを見上げて言いました。
「・・・あなたたち、しゃべれるの!?」
トモは2匹のやり取りに驚いて、しゃがみ込んで2匹の猫を見つめました。
「あら、私はいつも話していたけど?トモがわかるようになったんじゃない?」
ポニーが当たり前のことのように言うと、車掌がコホンと息をついてから言いました。
「あなたは電車の汽笛を聴いて、猫族の結界に入ったのでしょうな・・・」
 車掌が腕時計を見て「そろそろ発車の時刻です」と言って電車に戻って行きました。

 「じゃあトモ、行ってくるわね。朝ご飯までには帰るわ」
ポニーが電車に乗り込もうとしたとき、トモがソーセージの端を掴みました。
「私も連れて行って!」
「無理よ。猫の電車はあなたみたいな大きな人間は乗れませんよ」
「じゃあ、このソーセージは没収!」
そう言うと、トモはソーセージをポニーから取り上げました。
騒ぎを見て、車掌が飛んできました。ポニーは車掌にトモを乗せることが出来る方法は無いのかと訊ねました。車掌は困ったものですな~と、考え込んでしまいました。

 「あなたは、何か私らを楽しませるようなことが出来ますかね?」
車掌がトモに訊ねると、横からポニーが「あった!あった!」と割り込みました。
「トモはピアノが上手なのよ。いつも私いっしょに歌っているの」
「ピアノですか・・・。そういえば集会場にピアノがありましたな!」
うれしそうに車掌は走って電車に戻ると、鈴のついた赤い首輪を持ってきました。
「はい、これは特別乗車証。頭の上に乗せてください」
車掌はトモに手渡しました。トモがそれを頭に乗せると、体がみるみる小さくなって、猫と同じくらいの大きさになりました。首輪の乗車証も首にスッポリと収まっています。
 「さぁ、急いで!まったくトモがこんなに強引だとは知らなかったわ」
ポニーがトモの手を取って、電車の中に引っ張りました。

 「お待たせしました。猫の電車、5分遅れで発車しま~す」
車掌が笛を吹くと、ドアが閉まりました。
猫の電車はパンタグラフからパチパチと火花を放ち、車輪をキリキリ空回しさせてから走り出しました。

  中編へ~つづく


今回のお話は、長くなっちゃったので前・中・後編と三回に分けて更新します。出発進行~よろしくです

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桜の木の上であったこと

2013-04-04 | 童話
 ハアハア息を弾ませながらヒナコは神社の石段を登って行きました。
ヒナコは神社の大きな桜の木の下で、本を読んだり歌を歌ったりするのが大好きでした。桜が咲き始めてからは、毎日のように学校帰りに立ち寄ります。
 「よかった! きれいに咲いていた!」
ヒナコはホッとしました。昨日の夜、ものすごい風が吹いたので桜が散ってしまったのではないかと心配していたのです。
ヒナコはいつものように、幹によりかかって座ると本を読み始めました。

 今日は暖かくて良いお天気です。ヒナコは桜の木の下で本を開いたまま、うとうとと眠ってしまいました。
「ピッピ!ピーヨー!ピーヨー!」
ヒナコはヒヨドリの声で目が覚めました。顔をあげると目の前に、ヒヨドリが桜の花が咲いているつた草をくわえて、ヒナコのことをうかがっていました。
「私にようかしら・・・?」
ヒナコが手を伸ばすと、ヒヨドリは桜のつた草をはなして桜の木の上に飛んでいってしまいました。つた草は満開の桜の木の上から伸びています。
「何だろう・・・?」と、ヒナコはつた草を1回引っ張ってみました。
すると・・・桜の木の中から、するすると桜のつた草で編んだブランコが降りてきました。ブランコの上には手紙が置いてありました。

   ~ヒナコちゃんにおねがいがあります。ブランコにのってさくらのうえまできてください~

 さくら色のきれいな字で書いてありました。ヒナコは「誰かいるの~~」と桜の木の上に呼びかけました。・・・が、返事はありません。ヒナコはどうしよう?と悩んでしまいました。
「でも、桜の木の上・・・すてきだろうな」
そう思うと、行ってみたくなりました。手紙をたたんでポケットにしまうと、ブランコに腰かけました。

 ヒナコを乗せた、つた草のブランコがするすると引き上げられていきます。
「すごーい!桜のエレベーターね!!」
ヒナコは落ちないように両脇のつた草を握りしめました。
一番下の大きな枝を通り過ぎると、ヒナコは桜の木の中に入っていきました。不思議なことに、小枝がヒナコにぶつかりそうになるとよけてくれて通り道を作ってくれました。
「桜のトンネルみたい!」
周りは桜の花でいっぱいで、ヒナコは桜の花に優しく包まれていました。風が吹くと、微かな良い香りと桜の花びらがヒラヒラと舞い上がりました。

 見上げると、桜の枝のあいだから青い空が見えました。もうすぐてっぺんのようです。
「ピーヨー!!ピーヨー!!」  「ピィ~ピィ・・・・」
近くで2羽のヒヨドリが鳴いていました。

 「来てくれると思ったよ。ヒナコちゃん」
ブランコが桜の木の上に出ると、てっぺんの小枝に、お人形のような小さな女の子が腰かけていました。
「私、この桜の木の精霊なの。あなたにお願いがあるの」
「あたしのこと知っているの・・・?」
小さな女の子はニッコリ微笑ました。桜の木の上から、歌ったり 転んで泣きべそをかいていたり、笑ったりしているヒナコをいつも見ていると言いました。

 「あなたのポッケットのバンドエイドで治してほしいの。 おいで!」
女の子がそう呼びかけると、2羽のヒヨドリが飛んできてヒナコのひざの上に降りました。しかし、1羽は足に怪我をしていました。片足で立ち、とても辛そうにヨロヨロしています。
「昨日の大風で飛ばされて奥さん怪我しちゃったの・・・。あなたのバンドエイドを巻けば治るわ」
ヒナコは上着のポッケに手を入れてバンドエイドを探しました・・・。ありました、いつもお母さんが入れてくれるのです。ヒナコはバンドエイドの紙を剥がしました。
「ちょっとまって!」女の子がヒナコを止めると。傷口に柔らかい光をあててから「さぁ、巻いて」とヒナコに言いました。
 ヒナコがクルッときれいに巻きつけると、怪我をしたヒヨドリは羽ばたいて両方の足で立ち上がりました。
「よかった!仲の良いご夫婦なの」
女の子がうれしそうに言いました。ヒヨドリのだんなさんもうれしそうに「ピーヨー!ピーヨー!」と飛び上がって鳴いていました。そして、2羽のヒヨドリは何度も桜の上を飛び回ると、どこかへ飛んで行きました。

 「ありがとう、ヒナコちゃん」
 「ううん、呼んでくれてありがとう。すてきなところ・・・」
ヒナコは大きく息を吸って、桜の香りを嗅ぎました。そして、桜の枝の向こうに見える遠くの町や山の景色を眺めました。
 女の子はヒナコの肩にそっと触れました。すると、ヒナコはみるみる小さくなって女の子と同じくらいの大きさになりました。
 「行こう!」
女の子はヒナコの手をとって、桜の木の中を駆け出しました。ヒナコも精霊になったみたいに、桜の木の中をピョンピョン飛び回りました。
そして、遊び疲れると。ふたりで桜の花にストローを挿して蜜を吸いました。
 ヒナコと女の子は楽しくて、時を忘れ遊んでいました。

 「ヒナコちゃん、ずっとここにいていいんだよ。私とお友達になってよ!」
夕陽のなかで女の子が微笑んでヒナコに聞きました。
ヒナコはちょっと、考えてから・・・
「ううん。もう、おうちに帰らなきゃ」と、頭を振りました。
女の子は寂しげに頷くと、桜の花びらを一枚ちぎり、風に流しました。
「ピーヨー!ピーヨー!・・・」
さっきのヒヨドリの夫婦がこちらに向かって飛んで来るのが見えました。
 ヒナコが憶えているのはそこまででした。

 ヒナコは桜の木の下で本を手にぼんやりと座っていました。日も落ちて、空には一番星もでていました。いったいどうしちゃったのでしょうか?今までヒナコは夢でも見ていたのでしょうか?
 「・・・そうだ!あの子の手紙があるはず」
ヒナコはポケットにしまった手紙を探しました。しかし、中にあったのは手紙ではなく、たくさんの桜の花びらでした。

「ピーヨー!ピーヨー!・・・・」
 2羽のヒヨドリが、スイースイーとヒナコの上を飛んで行きました。1羽のヒヨドリの足にバンドエイドが巻かれていたことに、ヒナコが気づくことはありませんでした。

  おしまい


 今回は長くなってしまいました。最後まで読んでいただきありがとうございました。
大きな木の中を蔦を使って、エレベーターのように登れたら楽しいだろうな、というところから作ってみました。固まってしまった脳みそを搾り出して、どうにかUPできました。楽しんでいただけたら幸いです。
とりあえず、再スタートしました。気長にお付き合いくださいませ

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吹雪の森で・・・

2012-01-27 | 童話

 リスのトトは枝から枝へ跳んで、森のはずれまで来ると雪の降り積もった雪原に下りました。
「このあたりにも隠したはずだけどな~」
トトは秋に隠したドングリを探しに来ていたのです。雪原をチョコチョコと駆け回っていると、鷹に見つかって危ないのですが、どうにもお腹がすいてしかたなかったのです。
 「お前さんの探し物なら、わしの幹の洞にあるぞ」
トトが声のする方へ振り向くと、今にも倒れてしまいそうな樫の木がありました。
思い出しました!そうだ、あの木にドングリをたくさん隠しました。トトは樫の木に飛びつくと洞の中に入りました。
ドングリは四つありました。もっとたくさんあるはずですが、誰かが食べたのでしょう。トトは二つをその場で食べて、残りの二つは頬袋にしまいました。

 「樫の木さんありがとう!」
トトは洞から顔を出して言いました。
「お前さんのことは、よく憶えているよ。なかなか巣離れできず、そうやって洞から外を眺めていたよな」
 トトは鼻をヒクヒクさせて匂いを嗅ぎました。夏に巣立ったときの巣穴の匂いです。トトは巣立ってからも何度も来ていますが、ここが子供の頃の巣であったことなど考えもしませんでした。
日々を生きていくことが精一杯で、子供の頃を振り返ったりするゆとりなんてなかったのです。

 「また、ここで暮らしてもいいかな?」
トトは懐かしくなって樫の木に聞くと、樫の木はやめたほうがいいと言いました。
「わしはもうじき雪につぶされる・・・。それに、春になればお前さんは旅立って、お前さんの家族を作るさ」
トトは洞を出て下に降りると、樫の木を見上げました。
樫の木の枝や幹には、凍った雪がおもりのように張り付いていました。
 トトはまた来るよと、樫の木に手を振ると頬袋のドングリを落とさないように気をつけながら、自分の巣に帰りました。

 その夜遅く、トトは風の音で目が覚めました。外を見ると吹雪でした。それも、水をたっぷり吸った重たい雪です。

        ~ ふふふ・・・つめたくおもたい春の雪、老いた樫の木つぶしてしまえ・・・ ~~

 風の中に、笑い声と歌がこだましていました。トトは樫の木が心配になって外に駆け出しました。

 バキ!バキ!バキ!
トトの目の前で、樫の木は巣穴だった洞のあたりから裂けて倒れました。まるで勝ち誇るように、冷たい雪風が倒れた樫の木の上で吹き荒れています。
 樫の木の枝に、落ちずに残っていた小さなドングリがふたつありました。
かじり取ると、ひとつは樫の木のそばの土に埋めました。もうひとつはトトがコリコリとゆっくり食べました。

 大きな綿のような雪がトトの顔に落ちて溶けました・・・。トトは旅立ちのときが近いことを感じていました。

  おしまい


 リスには貯蔵の習性があって、ドングリや木の実などの食べ物をせっせと落ち葉や土の中に埋めたり、木の洞に隠したりします。それを食べ物のない冬や早春に掘り出して食べます。結構アバウトなので、別の誰かのを食べたり、埋めたのを忘れてしまったりします。忘れられたドングリは春には芽生えます。
 リスは知ってか知らずか、お互いの食べ物を分かち合ったり、植林もしていることになるのですね~。また、木の方もそう仕向けるために、ドングリを一度にたくさんバラ撒いて、慌てさせるそうです。
すごいシステムですね~、感心します。

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雲のネコ

2011-09-08 | 童話
 「ご飯をさがしてくるから、おとなしく待っているのですよ」
お母さん猫は子猫をダンボールの空き箱の中に入れると、何処かへ駆け出して行きました。
子猫は退屈で箱の中をあっちにいったり、こっちにいったりとしていました。そして、コロンと寝転がると空を見上げました。青い空に白い雲がポコポコと浮かんでいます。
「あっ! おさかな!」
子猫は空にお魚のような雲を見つけました。
「お~い!まってよ~」
ダンボールから飛び出すと、子猫はお魚の雲を追いかけました。

 お魚の雲はあっちにポン、こっちにポンと空で飛び跳ねているように見えます。まるで生きているようです。子猫はジャンプしながらお魚の雲の後を追いました。
「ハハハ!あれはオレの獲物だぜ!」
何処からは笑い声がしました。子猫はあたりをキョロキョロしてみましたが、誰もいません。

                  「ニャ~ゴ!」
 空から猫の鳴き声がします。見上げると、駆けている猫のような形をした雲が、お魚の雲を追いかけていました。
「ちがうやい!ボクがさきにみつけたんだい!」
と子猫が空に向かって言うと、「じゃあ、どっちが先に捕まえるか競争だ」と雲のネコは笑いながらお魚の雲を追いかけました。
 競争するにしても・・・子猫がいくらジャンプをしても高い木に登ってみても、お魚の雲に届くはずがありません。
そんな子猫を笑いながら見ている雲のネコも、お魚の雲を追い詰めるのですが・・・飛びかかるとピョンと逃げてしまい、なかなか捕まえることができませんでした。

 もうずいぶん駆け回りました。子猫は疲れてペタンと道の真ん中にしゃがみこみました。雲のネコも疲れているようでときどき立ち止まりながら、お魚の雲の様子を伺っています。
「アッ!あんなところに!」
お魚屋さんの店先に大きな水溜りがありました。水溜りの中でお魚の雲がゆっくりと泳いでいます。子猫は、そぉ~っと近づいてジッと水に映るお魚の雲を見つめると、すばやく飛びつきました。
「おさかなのくも つかまえた!!」
子猫の大きな声を聞いて、お魚の雲は驚くと泳ぐのを止め地表の子猫を見つめました。
 そのとき! ガブッと雲のネコがお魚の雲をくわえて捕まえました。

 「あれ・・・?ボクのほうがさきにつかまえたんだけどな?」
子猫の足元には、お魚の雲はいなくて青い空しかありませんでした。子猫はお魚の雲をくわえている雲のネコを見上げて不思議そうです。
「ハハハ、たしかに先だったな 助かったよ!代わりにこれでカンベンしてくれ」
雲のネコが前足でヒュッと引っかく仕草をすると、お魚屋の店先から大きなサンマが一匹、子猫の前に飛んできました。
「じゃあ、またな!」
雲のネコはポンポンとうれしそうに大きな雲の向こうに駆けて行ってしまいました。


 子猫はサンマをくわえて帰ると、お母さんに今までのことを話しました。
「そう、雲ネコに会ったのね」
お母さんは子猫の顔をペロッと舐めて、微笑みました。
「雲ネコはね・・・、狩がとてもへたなのよ。よっぽどうれしかったのね、お前にこんな立派なサンマをくれるなんて」

                  「ニャ~ゴ!!」
 見上げると、夕暮れ空に浮かぶ金魚の雲たちを追いかける、雲ネコがいました。
お母さんの言うとおり、逃げられてばかりで・・・雲ネコは夕空の中でクルクルと駆け回っていました。

  おしまい


 私のお話は雲をモチーフにするのが多いですね~。雲のお菓子に雲の列車にコンサートホールなどなど・・・。ということで、今回は雲のネコのお話でした。雲は千両役者ですからまだまだ活躍してもらいますよ。
お話を書いていたらサンマが食べたくなりました。もう、秋なんですね~。
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サンタクロースの助手

2010-12-23 | 童話
 この地方のサンタクロースには野うさぎの助手がいました。クリスマスの夜には、サンタさんと一緒にプレゼントを配るお手伝いをします。

 「サンタさん大丈夫ですよ」
野うさぎのティムは子供が寝ているのを確認して、慣れた手つきで周りをかたづけるとサンタさんを呼びました。サンタさんはヒョイと暖炉から現れると「メリークリスマス」と言って子供の枕元にプレゼントを置きました。
「ティム君急ぎましょう!あと396軒まわるのですから」
サンタさんは大急ぎで暖炉に飛び込んで行きました。

 ティムがサンタさんに続いて暖炉に入ろうとしたとき、窓辺の棚から一羽のうさぎがティムを見つめているのに気がつきました。
跳び上がってそばに行くと・・・、そのうさぎは陶器で作られたお人形でした。
「なんてきれいなんだろう・・・」
ティムは息を飲みました。白い毛並みは一本一本艶やかで、触れるとひんやりとしていました。こんな美しいうさぎは初めてでじっと見つめてしまいました。
窓の向こうでサンタさんが「はやくはやく」と橇の上で手招きしていました。ティムは名残り惜しそうに窓を開けると橇に飛び乗りました。


 東の空が白々とした頃、サンタさんとティムはどうにかプレゼントを配り終わりました。帰り道の間、ティムはあの陶器のうさぎのことを想い出して何度もため息をつきました。
「・・・動かないうさぎ、死んでいるうさぎ・・・冷たい陶器・・・」
そんなティムを見てサンタさんはいいことを思いつきました。
「おお・・・そうじゃそうじゃ、ティムにもプレゼントをあげないとな~」
サンタさんはそう言うとウィンクして、町に引き返し橇を陶器のうさぎのいる窓辺に止めました。窓を開けると、ティムを陶器のうさぎのとなりに降ろしました。

 サンタさんは陶器のうさぎに知らない言葉で話しかけてから、ティムに「さぁ・・・君からも話しかけてやりなさい」と優しい声でティムに言いました。
ティムはドキドキしながら「やぁ・・・」と陶器のうさぎに声をかけました。
「ティム君、メリークリスマス・・・その娘と仲良くな」
サンタさんは橇のヒモを引くと、ティムを残して飛んで行ってしまいました。

 朝陽が射し込んできました。陽を浴びてますます陶器のうさぎはキラキラと輝きました。
陶器のうさぎの背中に一筋の裂け目ができると、繭から出るように半透明のうさぎが現れました。
身体がぜんぶ抜け出すと、抜け殻になった陶器の下で丸くうずくまってブルブルと震えていました。
毛はしっとりと濡れていて艶やかでした。しばらくすると半透明でなくなり、足元にきれいな影ができました。

 突然のことでティムは驚きましたが、気を取り直してもう一度震えているうさぎに「やぁ・・・」と話しかけました。
うさぎは朝陽の中にすっくと立ち上がりました。そして、ティムの顔を驚きと喜びにあふれた瞳で見つめました。

 「呼んだのはあなた・・・?」
 「ボクだよ・・・君もボクのこと見つめていたよね・・・?」
ふたりは顔を見合わせて微笑みました。

 ・・・そしてふたりは朝陽の中に飛び出すと、元気よく森に駆け出しました。

  おわり



 ご無沙汰しております。毎年クリスマスのお話を書いていたので今年もと思い、焦りながらも書いてみました。どうにか間に合いました。
幻想的なのを書いてみたかったのですが・・・無理しちゃったかな
みなさまにも奇跡が訪れますように


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ボタンのお姫様

2010-05-30 | 童話
 ある町の洋装店のボタンの棚に、宝石のようなボタンがひとつだけ売れ残っていました。値段も高かったのでなかなか買う人も現れませんでした。
いつのまにかその姿からか、他の棚のボタン達から「お姫様」と呼ばれるようになりました。
 服に付いてこそボタンです。いくら美しくてもしかたありません。他のボタン達が買われていくのを見送るたびに、ボタンのお姫様は羨ましくてしかたありませんでした。

 「このボタンは、もう売れないね~」
店の主人が棚卸の日に、ボタンのお姫様を処分品と書かれた箱の中に放り投げました。
「お姫様がとうとう・・・」棚のボタン達が哀れむように冷ややかに言いました。
ボタンのお姫様は嘆き悲しみましたがしかたありません。ひとつだけではもう売れませんから・・・。

 ある日、小さな女の子とお母さんがお店にやって来ました。女の子に作るジャンパースカートの布地をふたりで買いに来たのです。
女の子はおつとめコーナーに置いてあるボタンのお姫様を見つけました。
「うわ~、キレイ!おかあさんかって!」
「ちょっと~、ボタンはいっぱい持っているでしょう?」
と、言っても女の子がどうしてもと聞かないので、お母さんは布地とついでにボタンのお姫様も買ってあげました。
 「とうとう子供のおもちゃになるのね・・・」
ボタンのお姫様は女の子のポケットの中でため息をつきました。女の子は家に帰ると、お気に入りのボタンを集めた缶の中にボタンのお姫様を入れました。
 その日から、ボタンのお姫様は女の子の指輪になったり、ネックレスにされたりと大忙しでした。

 それから何日も過ぎました。
お母さんはジャンパースカートが縫いあがったので、女の子を呼びました。
「う~ん・・・、何かアクセントがほしいわね~」
お母さんは試着した女の子を眺めて、困ったように言いました。
 女の子はいいこと思いついたと、ボタンの入った缶を持ってきてお母さんに自慢のコレクションを見せました。
「あら・・・、これいいわね!」
お母さんは缶の中のひとつのボタンを手に取り、また縫い直しました。

 スカートが出来上がると、女の子は鏡の前でポーズをとって喜びました。
「すご~い、わたしおひめさまみたい!!」
ジャンパースカートの胸ポケットには、キラキラとボタンのお姫様が光っていました。

 ・・・・ボタンのお姫様は、ちょっと得意げに「エヘン・・・」とうれしそうにつぶやきました。

  おわり


 私の母親も洋裁をやっておりまして、子供の頃は近所の洋装店にボタンやらジッパーなどよくお使いを頼まれて買いに行ったものです。ボタンで遊んだ記憶はありませんが、家にも半端なボタンを集めた缶がありました。懐かしいですね~。

やっぱり・・・ハッピーエンドのお話の方が精神衛生上もいいですね
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子うさぎと黄色い風船

2010-03-20 | 童話
 早春のまだ雪の残る山でのおはなしです。
朝、お日様の光の射す野原で、うさぎの親子が芽吹いた草をおいしそうに食べていました。
「お母さん、あんなところにこどものお月さまがいるよ」
子うさぎが鼻をひくひくさせて見上げると、お母さんも並んで耳をピンと立て目を凝らし、その丸くて黄色い物を見つめました。
「あれは、風船ですよ。きっと、町の人間が膨らましたものがここまで飛んできたのでしょう」
風船の糸が木の枝に引っかかって、風に揺れていました。子うさぎは、ふぅ~んと見上げていましたが、朝もやの中に消えたり出たりする黄色い風船は、こどものお月さまが遊んでいるみたいでしかたありません。

 その夜、子うさぎはあの風船が気になってなかなか寝付けませんでした。夜、外に出るのは大変危ないのですが、子うさぎは巣穴を抜け出して風船のところへ駆け出しました。
夜の森は音もなく、遠くからフクロウの声がかすかに聞こえます。子うさぎは見つからないように影を見つけては走り、すばやく森の中を走りました。

 子うさぎは野原に着くと草むらの中から風船を見上げました。大きな満月のとなりに黄色い風船がゆらゆらと揺れています。子うさぎにはまるで親子のように見えました。
 「きみはお月さまのこどもなの?」
子うさぎが話しかけると、風が吹いて木の枝から風船が子うさぎの前に降りてきました。
黄色い風船はなにも話しませんでしたが、お月さまの光を浴びて笑っているように見えました。
 「あそぼう!」
子うさぎはうれしくなって草むらの中から飛び出すと、風船の周りをピョンピョン跳ねました。風船も子うさぎのあとをフワフワと追いかけました。
子うさぎと風船は、追いかけっこをしたり草むらでかくれんぼをしたりして遊びました。
 お月さまの光がやさしく野原を照らしました。
遊びつかれてふたりで寝転んでいると、・・・・子うさぎの上にサッと黒い影が射しました。

               バン!!

 大きな音とともにフクロウの羽が子うさぎの前に落ちました。子うさぎを守ろうと、風船がフクロウの爪にかかってしまったのです。 

 「ごめんよ、せっかくともだちになれたのに・・・・」
子うさぎは、割れて小さく切れ切れになった黄色い風船を見つめると涙がこぼれました。
空を見上げるとお月さまも雲に隠れていて、もう姿をみせることはありませんでした。

 もう春なのに、冷たい風が山の上から吹いてきました。 
「・・・お母さん、心配しているだろうな・・・」
子うさぎは、黄色い風船を何度も振り返りました・・・そして、お母さんの待つ巣穴へ駆け出して行きました。

  おわり



 久しぶりにお話を書きました。今回はちょっと物悲しい出会いと別れです。
風船には癒しを感じたり、孤独を感じたりとさまざまな表情がありますね~。風船には他にも描きだせない物語がいくつかあります。いつの日かまた登場するかも・・・

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すてられたピアノ

2009-05-27 | 童話
 ミ♪・・シ♪・ファ♪・・・
誰かが鍵盤を叩いています。朝もやの中でピアノが目を覚ますと一羽のヒヨドリが鍵盤の上で飛び跳ねていました。
「君はおもしろい声で鳴くね!」
珍しいものが大好きなヒヨドリは、おもしろがってポンポン跳ねています。
「これはピアノという人間の楽器だよ!」
カラスの夫婦がやってきて、バンバンと鍵盤をつつきました。昨日の夜中、土手の上から落とされるのを見たと、カアカア言い合っています。
そうです・・・、処分するのに困った廃品業者がピアノをこの河原に捨てたのです。

 ピアノは音を出すのは久しぶりでした。調律などぜんぜんしていないので、ヒヨドリが跳ねるたび間の伸びた音がしました。でも、ピアノはとてもすがすがしい気持ちでした。
壊れた冷蔵庫や埃っぽいソファーの積みあがった暗い倉庫にくらべれば、ここはなんて明るく気持ちのいいところでしょう。
 ピアノの音を聞いて、河原に住む生き物たちが集まってきました。ムクドリが群れでやってきていっせいに鍵盤の上で跳ね回るものですから、すごい音が出たりします。
そのたびにみんな驚いて逃げるのですが、またピアノの前に集まってきます。

 「なんだ、なんだ~朝からうるさいな~」
河原に住みついたひとりの男がテントから出てきました。男は薄汚れていて、頭をポリポリ掻いてピアノの前に立ちました。
「こりゃ驚いた・・・、いいピアノだな~」
男はピアノに付いた土汚れを落としました。そして、蓋を開けると中に張られた弦を指で弾きました。
ヒヨドリなど鳥たちは木の枝から、ネズミやタヌキは草の陰から見ています。男は弦のピンを絞ったりハンマーの具合をみたりゴソゴソとピアノの中をいじっていました。

 「さぁ、チョッとはいい音がでるかな~」と、男は鍵盤に指を置きました。

            ♪ポロロロロ~~♪♪~

すばらしい音色です。さっきまで鳥たちがガチャガチャ弾いていたのとは違います。みんな自然とピアノと男の周りに集まりました。
 男はピアノ・ソナタを弾き始めました。ピアノは久しく歌っていなかったので戸惑いながらも一生懸命歌いました。

 ピアノの音はやはり少しずれてはいましたが・・・、それはピアノが感激して泣いてしまったせいなのです。

  おわり



 お話を更新するのは何ヶ月ぶりでしょうか・・・、いざ書こうとしても書けないものですね~もう書けないかと思いました
以前から、捨てられた機械(ここではピアノ)のイメージは持ってまして、うまく書けなかったのですが何故か今回仕上がりました。不思議なものです・・・。
 何はともあれ、お話が書けてホッとしました
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子猫と手袋

2008-12-12 | 童話
 クリスマスの寒い夜のことです。
「ミィーミィー」と何度も何度も子猫は鳴きました。それでもお母さんは来てくれません。
 子猫はなぜ、自分だけが公園に連れてこられたのだろう?と考えました。
まだ、生まれてまもないちいさな子猫には、捨てられたのだということがわかりません。
 鳴けばお母さんが来てくれることを知っている子猫は、ずっと声が続くまで、
「ミィーミィー・・・」鳴きました。

 モモちゃんはお布団の中で、なくした片方の手袋のことを考えていました。お母さんが編んでくれた、猫のアップリケのついた大好きな手袋です。
どこで落としたのかわかりません。学校でしょうか?帰り道でしょうか?みんなで遊んだ公園でしょうか?頭の中でぐるぐる考えるのですがわかりません。
 モモちゃんは残った片方の手袋を見つめて、心の中で「ごめんね」とつぶやきました。
今日はクリスマスです。モモちゃんはサンタさんにお願いしました。
「おねがいします、おとしたてぶくろをみつけてください・・・」

 いくら鳴いてもお母さんが来てくれないので、子猫は歩きだしました。
「ピュー」と冷たい風が子猫を取り巻くように吹いてうまく前に歩けません。温かいお母さんが恋しくて、また子猫は「ミィー」と鳴きました。
 子猫の前にピンク色の手袋がありました。手袋は毛糸でできているのでコンクリートの上よりも温かく、子猫は手袋にしがみつくようにうずくまりました。
手袋に猫の絵がありました。絵がお母さんみたいでアグアグとオッパイを飲むように吸いました。でも、いくら吸ってもお乳はでません。そのうち、お腹が空いたのと、寒さで子猫は手袋の上で眠ってしまいました。
 どこからか「シャンシャンシャン」と鈴の音がするのですが、子猫にはもう聞こえませんでした。

 モモちゃんが目をさまして枕元を見ると、落とした手袋と・・・・
「ミィーミィーミィー・・・・」
と鳴く、ちいさな子猫が手袋から顔を出していました。
「おかあさん!サンタさんがあたしのおねがいをきいてくれたよ!!」
モモちゃんは手袋と子猫を持ってお母さんのところへ走りました。
「ふしぎなの!!てぶくろのなかにこのこもはいっていたの・・・」
 サンタさんのプレゼントだから、子猫を飼ってもいい?とお母さんに聞きました。ビックリしたお母さんは子猫とモモちゃん見て、しばらく考えてから言いました。
「モモちゃんがこの子の本当のお母さんになれるのならいいですよ」
 モモちゃんは大きく「ウン!」と言いました。

 子猫はなぜここにいるのか、よくわかりません。昨日からわからないことだらけです。
昨日と同じように子猫は、震えて「ミィーミィー」とお母さんを呼びました。
すると、子猫を抱いている女の子が、「おなかがすいているのね・・・」
と子猫を毛布に包ませ、温かいミルクを飲ませてくれました。

 お腹がいっぱいになった子猫は、また手袋のお母さんにしがみついて眠りました。

  おわり



 ずいぶん前ですが一人暮らしを始めた頃、お話の子猫のように子猫が一匹アパートの外で鳴いていました。アパートで飼えないので拾うべきかどうか、ずいぶん悩みましたがそのうち声がしなくなり子猫もいなくなっていました。
親猫が連れて行ってくれたのだと良い方に思い込みたいのですが、その子猫が実際どうなったかはわかりません。
あのとき、拾ってやってやればよかったのか、どうなのか・・・このようなお話を書きながら、拾えなかった自分に未だ後悔というか・・・悩むところです。
 殺処分される猫はお話のような子猫が圧倒的に多いそうです。猫を飼っている方は避妊、去勢の処置と、子猫が生まれ飼えないのなら新しい飼い主を探してください。
絶対に捨ててはいけません。

 
 
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コン!コン!コン!

2008-10-29 | 童話
 「コンコン・・・コンコン・・・」
ゆみちゃんはお布団の中でせきをしました。暑かったり涼しかったりする日が続いたので、ゆみちゃんはカゼをひいてしまったのです。
 「ゆみちゃん、お薬をのまないと良くならないよ!」
お母さんが困った顔をしてお布団の中のゆみちゃんを覗き込むのですが、ゆみちゃんはお布団にもぐってお薬をのもうとしません。
「イヤ!あんな苦いののめないもん!」と、駄々をこねました。
「・・・お熱がでても知りませんよ」
お母さんがあきらめて部屋を出て行くと、ゆみちゃんはお布団からチョコンと顔を出しました。
 ゆみちゃんの寝ている部屋は静かで、コチコチと時計の音しか聞こえません。

 しばらく、ゆみちゃんはお布団の中で絵本を読んでいたのですが、あきてきました。
「つまらないな・・・、コン!コン!」
ゆみちゃんのせきに合わせるように、2羽のスズメの影が窓のカーテンに跳ねました。
「あっ!スズメさんだ!」
 ゆみちゃんがまたせきをすると・・・
「チュン、チュン、だいじょうぶ?」と、鳴きながらカーテンに影を落として飛び回っています。
 ゆみちゃんはまた、「コンコン」とせきをしました。すると・・・
ネコの影がカーテンに飛び込んできました。ネコは「にゃ~お、ガラガラ声だな~早く治すにゃ~」と鳴きながら、ネコの影はスズメの影を追いかけました。
「ネコさんも来た~!」
スズメとネコの影はカーテンのなかでクルクルと楽しそうです。

 「今度はだれが来るかしら・・・」
ゆみちゃんはうれしくなってまたせきをしょうとしたのですが、なかなかでません。
そして、のどに力を込めて無理やり大きなせきをしました。
 「ゲッホ!!ゲッホ!!ゲッホホ・・・!!」
ゆみちゃんもビックリするようなひどいせきです。すると・・・
 「ゲコ!ゲコ!ゲコ!」
カーテンいっぱいに大きなカエルの影です。スズメもネコも逃げてしまいました。
「ゲコ・・、可愛い声だな~。ボクのお嫁さんにしょう~ゲコ。どこにいるのかな~」
ゆみちゃんは手で口をふさいで、お布団にもぐり込みました。
「ゲコ・・カゼなんて治さないで、ボクと結婚しょう!ゲコゲコ」
お布団の中でゆみちゃんはどうしょう・・・とドキドキしてきました。

 そのとき、ドアが開いてお母さんがあわてて部屋に入ってきました。
「ゆみちゃん、すごいせきよ!だいじょうぶ?」
ゆみちゃんはお母さんに抱きつきました。お母さんはビックリしましたが、ゆみちゃんに熱がないかと心配しています。
「やっぱり、お薬のまないといけません!」
ゆみちゃんは素直にお母さんの言うことを聞きました。お母さんが「いい子ね」と言うと、ゆみちゃんが頭を振りました。

 「ちがうの!カエルのお嫁さんになりたくないもん・・・」

  おわり



 久しぶりにお話を更新しました。約2ヶ月ぶりですね~どうでしょうか?
ところで、私も数週間前に風邪をひきまして治ったのですが、時折むせるような咳がでます。いい加減しつこいので参っています。
皆様も風邪の季節ですのでご用心を・・・

 


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おもちゃの夏休み

2008-07-21 | 童話
 「ゆうちゃん!おもちゃと遊んでないで早く着替えなさい!」
ゆうちゃんは合体ロボをおもちゃ箱に放り投げると、おかあさんのところへ走って行きました。
 今日からゆうちゃんの家は、夏休みで田舎のおばあちゃんの家に遊びに行くのです。カバンに着替えを入れたりおめかしをして、みんなバタバタと出掛けて行きました。

 誰もいない家の中はシ~ンと、静まり返っています。
「行ったか・・・」「・・・そのようだ」
さっき、ゆうちゃんに放り投げられた合体ロボットのおもちゃが言うと、くるまのおもちゃが応えました。合体ロボはコキコキと放り投げられたときに曲がった首を直して、おもちゃ箱からヨッコラショと飛び降りました。
「やっとぼくらも夏休みだ~!」
合体ロボが背伸びして言うと、みんなおもちゃ箱から降りてきました。

 「やれやれ、あのわんぱく坊主めおれの片足どこへ投げやがったのかな?」
仮面のヒーローのおもちゃがピョンピョン跳ねながら捜しています。
「ここにあるよ!」
汽車のおもちゃが埃だらけのタンスの間からヒーローの片足を乗せて出てきました。
おもちゃたちは可笑しくて笑いました。
 お前は見つかっていいよな~と、ブロックがバラバラと飛び跳ねて言いました。
「おれたちなんか、仲間がずいぶんいたのに今はこれだけだぜ!」
ブロックたちがカチカチと組みあがってみても、数が足りずかっこ悪いロケットにしかなりません。
「ゆうちゃんが後片付けしないから、みんなどっかに行っちゃったよ」
おもちゃたちは可哀想になってちょっと静かになりました。

 「さぁ、ゆうちゃんが帰ってくるまでぼくらもゆっくり楽しくやろうぜ!」
合体ロボは元気に言うと、くるまのおもちゃに乗って家の中をクルクルと走りました。
「そうだそうだ」とみんなせっかくの夏休みだと、遊んだり居眠りしたりしました。
 おもちゃたちは、ゆうちゃんと遊んで溜まったストレスや疲れを取ろうと昼も夜も好き勝手なことをして過ごしました。

「そろそろお前と戦いたくなったな~」
と、仮面のヒーローが合体ロボに言いました。
「望むところだ!どこからでもかかってこい!!」
ふたつのおもちゃはガチンガチンと音をたてて戦ったのですが、何か物足りません。
やっぱり、ゆうちゃんが手に持っていないと気分が乗りません。
「ゆうちゃんどうしているかな・・・」
それを見物していたおもちゃたちの中から、そんなつぶやき声が上がりました・・・そのときです!

 「ただいま!!」
ゆうちゃんの大きな声が聞こえました。
「アッ!帰ってきた!」
おもちゃたちはうれしそうに言うと、おもちゃ箱にバタバタともどりました。

  おわり



 おもちゃは子供と遊ぶのが一番なのでしょうね。私も休み過ぎると普段の仕事やらが恋しくなりますものね(ウソをつけという声が・・・
今作でイラスト付きのお話(童話、ショートストーリー)が50作になりました。
のようで滞りがちですが、気長にお付き合いください。
コメント (2)
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