童話の星屑たち

みついただしの描く小さなお話たちです。

絵本「ぼくがすて犬になった日」(石風社刊)
全国書店にて好評発売中

スニーカー(Dear川崎 ’91、4)

2009-02-18 | ショートストーリー
「痛ッー、もう最低!」
 スミコさんは人目を気にしながら起き上がるとパタパタとコートのホコリを落としました。街は春一色なのにオーバーコートを寒そうに着て、うつむいて歩いていたせいでしょうか。
子供のようにつまずいて転んでしまったのです。
「君のドジ加減にもあきれるよ」
先ほどケンカ別れした恋人のすてぜりふが、耳の底でくり返されます。
「本当にドジなんだから・・・・」
スミコさんの脱げ落ちたハイヒールは踵がパックリと割れて修理するしかありません。靴修理屋は見当たらないし、困っているとー。
「お姉ちゃん、ボクが修理しようか」
まだ小学生くらいの男の子が呼びかけました。
「いらっしゃいませ!
 お姉ちゃんがお客さん第一号だよ!」
男の子の脇には“本日開店!靴修理いたします”と手書きの看板がかかってました。
「腕はたしかだよ、おじいちゃん直伝なんだ!」
そういうと男の子は修理に取りかかったのですが、
“アレ!アレ!”といってなかなか終わりません。
男の子はスミコさんを“キッ”と見上げると、
「お姉ちゃんが見てるからダメなんだ!
 この靴貸すからブラブラしてきてよ」
男の子は紙袋から真白なスニーカーを取り出すと、
「まだ新品だよ!あんまり汚さないでね」
スミコさんはスニーカーを受け取りしぶしぶ履いてみるとー、以外にも足にピッタリでした。
そして足は、自然と街へ歩みだして行くのでした。

 百メートルも歩いた所でしょうか、いやに足が軽いのに気がつきました。
スニーカーを履いたのはひさしぶりです。
いくぶん低くなった風景はいやに身近に感じ、地面の感触はひどく優しく思いました。
「ふあ~っ」
おもいっきり背伸びをして深呼吸すると、じんちょうげの香りが胸いっぱいに広がりました。
「ああ、春なのねー」
コートを脱ぎ、目の前の水溜りを思いきってジャンプすると、軽やかに飛び越えました。さっきまでのスミコさんとはちがいます。
スニーカーの足取りは軽く、スミコさんはこのまま空まで登って行けそうな気がしました。

 あっちこっち歩き廻って、帰ってくると男の子の姿はなくて、壊れたハイヒールと、
  
   「おねえちゃんごめんなさい。くつこわしちゃった。
    かわりにぼくのくつをあげます。
          おかねはいりません。」

~と、書かれた置手紙がありました。
スミコさんは“ハハッ”と笑うと、小躍りして春の陽射しの中へ戻って行きました。

  おわり (Dear川崎 ’91、4、15発行号より)



(当時の掲載ページ)

 今回は蔵出しになりましたこれは初めて印刷物になったお話です。それにしても18年も経っているのですね~
改行や句読点など修正してますがほぼ原文です。
本当に未熟でしたので編集さんに何度も修正をもらいゼイゼイ言いながら書いていました。故に喜びも大きいし愛着もあります。今でもこのお話は大好きです。いまブログで発表しているお話たちもこのお話があればこそ書けていると思います。
ずいぶん前の作品で恥ずかしく躊躇しましたが、ネタもないし・・・イラストは当時を思い出してチャチャと描いてみました(今回は就活中の女の子としました)。

 残念ながら、タウン誌Dear川崎は今号の後2冊発行して廃刊になってしまいました(計3冊の幻のタウン誌です)。折を見て後の号に書いたお話も紹介しようかな~と考えています。

コメント (2)
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イメージの切れ端

2009-02-02 | つれづれ
 今回は場つなぎということで・・・
構想(絵本)しているお話のスケッチよりUPしました。
去年より格闘してきましたが、やっと自分が思うような形になりつつあります。

ブログのお話は、しばしお待ちを
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