ふりむかないで

多摩爺の「時のつれづれ（卯月の７）」
ふりむかないで

緊急事態宣言が出されて・・・　一週間が経った。
いくら巣籠生活とはいえ、１日に数回はテラスに出て陽射しを浴びるようにしないと体に悪いし、
気分も晴れない。

戸建てじゃないので庭ではないが、北多摩の古びたマンションから眺める景色は、
多摩丘陵、奥多摩や秩父の山々、玉川上水緑道など、
高層マンションもけっこうあるが、距離があって圧迫感はない。
都心と比べる必要もないが・・・　北多摩は、まだまだ緑が豊かで落ち着くし安らぐ。

思いっきり背伸びをした後、何気に階下を眺めていたら、
今どき珍しい、イガグリ頭の高校生とおぼしき男の子が、
すっかり人通りが少なくなった商店街を・・・　走って行った。

学校が休校だから、当然の如く部活もお休み、練習不足もあるんだろうが、
若者は年寄りと違って、有り余るエネルギーを、
どこかで発散しなきゃ心のバランスが保てないんだと思う。

緊急事態宣言が発出されてるとはいえ、２メートル以上の間隔を保ち、
散歩することや、ジョギングすることまで自粛を要請されてるわけではないので、
「ガンバレ！　若者」とエールを送りたい。

閑話休題
頭つながりで恐縮だが、爽やかな風に吹かれ、そっと髪に手を添える女性の仕草は美しい。
何の前置きもなく、いきなりそんなこと言ったら、
頭がおかしくなったんじゃないかと、疑われてしまいそうだが、いかがわしい思惑がある訳ではない。
　
記憶が確かなら、あれは確か昭和４０年代の半ばだった。
高校生になったばかりで、なんとなく・・・　異性が気になりだしたころ、
女の子にもてなかった高校生が、一つのＣＭにワクワクしていた。
　
それは、前を歩く若い女性を、後ろから執拗に追いかけながらテレビカメラを回し、
突然声をかけて振り向かせるという、乱暴極まるシチュエーションだが、
それがまた・・・　実に爽やかなのだ。
　
しかも、そのＣＭのターゲットになった女性は驚くほどの美人ぞろい、
東京から始まり・・・　札幌、仙台、名古屋、大阪、福岡などで、
美しい女性ばかりが追いかけ回されていた。
日本の各地で被害者が出ていたはずだが、
警察沙汰になったという話は、不思議なことに聞いたことがない。
　
このＣＭが、テレビで流れ始めて間もなく、私は一つの大きな決断をしている。
それは、頭を使わねばにらないぐらい、なんとも難儀な決断だったが、勉強とは無縁のものだった。
　
告白しよう・・・　シャンプーを使い始めたのだ。
当時の我が家では、私と父は石鹸を使って体と頭を洗っていた。
母と妹はシャンプーを使ってたが、私は何の疑問もなく石鹸を使っていた。
　
私は母に思い切って、こう言ったことを覚えている。
「シャンプーを買ってくれ。」
「エメロンを買ってくれ。」
母は一瞬驚いたように、目をパチクリさせたが・・・　「わかった。」と一言
　
そして母が買ってきたのは、エメロンではなくトニックシャンプー
これがまた、頭につけると何とも言えない爽快感で、汗を掻いた頭が妙にスッキリする。
　
母はきっと「色気づく前に頭をスッキリさせて勉強しろ！」と言いたかったのだろう。
さすがである。
人生の先輩は、そこら辺りの高校生より・・・　一枚も二枚も上手だった。
　
さて、私を大人の男にするため、その切っ掛けを作り、背中を押してくれたＣＭとは・・・　？
同じ時代を過ごした人なら、既に分かってるだろうが、
ハニー・ナイツが歌った、エメロンシャンプーのＣＭ「ふりむかないで」である。
　
歌詞を見なくても、メロディが流れれば、だれでも直ぐに口ずさめる。
何年経とうが、何十年経とうが・・・　頭の片隅にこびり付いてるアップテンポなメロディ
　
　♪　泣いているのか　笑っているのか　うしろ姿の　すてきなあなた
　　　ついてゆきたい　あなたのあとを　ふりむかないで　東京の人
　
時は過ぎて令和２年、今もし、この歌詞をそのまま歌っていたら、
それこそ、ストーカーを容認する歌だとの指摘を受け、大顰蹙だったかもしれないし、
ＳＮＳやマスコミ、さらには女性の議員さんたちから袋叩きにあっていただろう。
　
今思えば、大胆にも程があった歌詞にも拘わらず、
何事においても、おおらかだった昭和という時代が・・・　懐かしい。

新型コロナウイルスの感染拡大で、緊急事態宣言（外出自粛要請）が出されている東京都
ストレスが溜まりっ放しの日が続くが、なにか面白いことがないか、
気分転換ができることがないかと探す日々、
ＳＮＳやワイドショーに頼りっ放しの生活から、ちょっとだけ目先を変えてみると、
ホッとすること、思わず笑みを浮かべることが・・・　あるかもしれない。