時のつれづれ(北多摩の爺さん)

下り坂を歩き始めたら
上り坂では見えなかったものが見えてきた。
焦らず、慌てず、少し我儘に人生は後半戦が面白い。

気丈な姑を気遣う嫁のお話

2022年01月31日 | 時のつれづれ・睦月 

多摩爺の「時のつれづれ(睦月の27)」
気丈な姑を気遣う嫁のお話

それは土曜の夜、晩メシを食ってるときだった。
ついこないだまで・・・ コロナうつで難儀をしていた女房が、
突然、泣かせるようなことを言うもんだから、
嬉しくて、嬉しくて・・・ 涙が溢れそうになってしまった。

「おかあさん、東京に呼んであげたら・・・ 心配してるんでしょ?」
思わず「えっ、どうしたの?」と聞き返すと、
「一人暮らしは寂しいし・・・ 一軒家は寒いからね。」と続け
「私もだいぶ元気になったから、呼んであげても大丈夫だよ。」と言うではないか。

短いやり取りだったが、私の心の中を完全に読んで、かけてくれた言葉に、
「ありがとう。明日の朝、ご機嫌伺いを兼ねて電話してみるよ。」と返すのが精一杯だった。

今年の3月で92歳になる母は、昨春に父が亡くなったあとも、
北九州に住む妹のところにも行かず・・・ 実家(下関)で、一人暮らしをしている。

足腰は丈夫だし、口も達者で、こういっちゃなんだが・・・ 我が儘というか、
人に頼ることが嫌で、料理から後片付けまで、なにもかも自分の思い通りしたいタイプである。
良く言えば「しっかり者」だが、別の方向からみれば典型的な扱いにくい高齢者であり、
だれがなんと言っても、人に甘えたくない昭和の人だから・・・ 説得には苦労するだろう。

おそらく、素直に東京に来てくれるとの返事がもらえるとは思わないが、
なんとか説得しないと、元気なうちに親孝行できないし、
事件事故に巻き込まれたりするのが、一番怖いなんて言ったら、
「私は大丈夫」のひと言で、説得は前に進まないので・・・ 予め作戦を立てなきゃならなく、
ホントに、ホントに・・・ 難儀な親である。

まずは、女房がそう言ってくれてることを先に言って、母の心をちょっとぐらつかせてから、
「ブースター接種が終わって、コロナがちょっと落ち着いたら、迎えに帰るので、
 暖かくなるまでの2~3ヶ月ほど東京で過ごし、父の1周忌で私たちが帰郷する5月の後半に、
 みんなで一緒に戻ろう。」との作戦を立てて臨むことにした。

そして翌日(日曜日)のお昼前、私が電話をすると・・・ 母の返事は想定どおり、
「気持ちは嬉しいけど、家を2~3ヶ月も空けるわけにはいかないし、
 近所の人たちが良くしてくれるし、コロナが落ち着いたら公民館活動もあるので・・・」と言い、
素直に「ありがとう。」と言ってくれない。

それでも、まだ顔を見たことがない、孫の話題を出したりして説得を重ねるが、
「1週間ぐらいならね。」というところから、全くもって先に進まないんだから、
いささか情けない長男である。

孫の話をしながら、15分ぐらい経ったところで、女房に電話を代わると、風向きが変わり始めた。
「お母さん、私元気になったから、もう心配しなくても良いんだよ。
 長いこと心配かけてゴメンね。」と話した途端に・・・ 急に軟化するから訳が分らない。

「分った。分った。じゃぁ1ヶ月ぐらい、東京でお世話になるので、
 ゴールデンウィークの前に迎えに来てくれる?」と言うと、
 2月の寒い時期に東京に行って、5月の終わりごろこっちに帰るんだったら、
 冬物から春物、夏物の着替えがいるし、いくら私が衣装持ちでも、夜逃げするわけじゃないから、
 それで良いなら、あなたたちの言うとおりにさせてもらいます。」とボケを一発かましてきた。

ホントに・・・ 面倒くさいババアだが、
口が達者だということは「まだまだ元気ですよ。」とのアピールなんだろう。

母は自分が若かった頃に、姑である婆さんからイジメられていたことは私も知っている。
そういうこともあって、女房にはことのほか優しく、
女房が家族になって45年も経つが、二人が揉めたところはみたことがない。

私と妹は、母のことを・・・ 婆さんと呼ぶのに、
女房は、45年間ずっとお母さんと呼んでいて、
母はこれが嬉しいらしく、可愛くて堪らないと近所の人にもらしていたことを聞いたことがある。
それはそれでありがたいことだが・・・ 私のプライドはズタズタである。

ところが電話を切ったあと、女房がニコッと笑って、Vサインするもんだから、
私の安っぽいプライドなんか、もうどうでもよくなり、
気丈な母と、それを気遣う嫁との、思った以上に強固な関係に、
ホッとしたというか、安堵して・・・ 私もつられて、思わず笑ってしまった。

自分の親なのに、コロナうつから病み上がりの女房に助けてもらい、いささか情けないが、
これでなんとか・・・ 親孝行のまねぐらいは
できそうである。
やれやれだが、あとはこの冬の寒さと、コロナウイルスに、細心の注意を払ってほしいと懇願する。

いくら一人暮らしが苦じゃなくても、青春じゃあるまいし、楽しいはずなどないだろう。
また、週に一度来てくれる妹に、「私は大丈夫」と、やせ我慢してみせても、
寝るときも、目覚めたときも、食事のときも一人だし、寂しい思いをしてることぐらい察しはつく。

春になったら、楽しいことが待ってるとの・・・ 目標があることで、
少しでも、厳しい冬を頑張って過ごす糧になれば良いと思うし、
それもまた、長生きすることに繋がるのではなかろうか?

孫に会えるまで、あと3ヶ月弱の辛抱だ。
ガンバレ! 婆さん
心配なのは、あなたの自信過剰だけだ。

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10 コメント

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いい話ですね (止々日美日記)
2022-01-31 06:40:22
いつも役に立つお話、楽しみです。
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Unknown (多摩爺)
2022-01-31 07:41:38
止々日美日記さん、おはようございます。
内輪話で恥ずかしい限りです。
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おはようございます (霧子)
2022-01-31 07:42:26
主人の事思い出しました。
長野に一人暮らす母親を寒いうちは八王子に来ればいいと毎晩電話していました。
家にも母がいるし話し相手になるからいいねと私も賛成しました。99歳の義母でした。
八王子の○○が毎日電話かけて来てくれると喜んでいたそうです。
でも1月24日に帰らぬ人になってしましました。
母と義母は仲が良かったのでね。今でも一緒に暮らせてたら良かったと思っています。
同じその年の12月16日に母も旅立ちました。
ごめんなさい・・思わず書かせていただきました。
ありがとうございました(__)
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Unknown (多摩爺)
2022-01-31 07:53:06
霧子さん、おはようございます。
10年ぐらい前は、盆暮れしか思うこともなかったのに、親が逝く年齢になってくると気にかかって仕方ありません。
昨年に父と義父母の3名を亡くしてから、無性に生きてるうちに親孝行しなきゃと、急に真面目になりました。
できないことは無理ですが、できることについては労を惜しまないようにしようと思っています。
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Unknown (yukota)
2022-01-31 07:57:08
おはようございます♪
じーんとして、胸がいっぱいになりました✨
奥様良くなられてよかったですね😌
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Unknown (びこ)
2022-01-31 08:00:33
良い奥様ですね。鬱になられるのも優しすぎるからでしょう。
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Unknown (多摩爺)
2022-01-31 08:21:35
yukotaさん、おはようございます。

65歳の婆さんが、67歳の爺さんに向けてニコッと笑ってVサインですから、
けっして美しい光景ではありませんが、なんだかほっこりしました。
失った1年8ヶ月は取り戻せませんが、これからその分だけ良いことがあると思います。
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Unknown (多摩爺)
2022-01-31 08:26:52
びこさん、おはようございます。

けっこう強気なわりに気にするタイプで、ドジなことも多い女房ですが、
私が細かいことを指摘しないのも良いのかもしれません。
お互いに良い意味で自由人です。
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なんだかね・・・ (くちかずこ)
2022-01-31 21:15:43
貴方のお母さまと、くちこの将来の姿が重なります・・・
だから、最後の一文が、胸にグサリと。
娘は、以前から東京に出て来いと言っています。
婿の案によると、将来的に、双方に母親と同居しようと言っているらしいです。
丁重にお断りしました。
すると、通いの介護人をくちこ家に手配することになる、と。
まるで、近々に、くちこが介護必須になると思っているような?
自信過剰かもですが、なんとなく、まだまだと思ってしまいます。
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Unknown (多摩爺)
2022-01-31 22:28:31
くちこさん、こんばんわ

元気なことに越したことはありませんが、そろそろなにがあっても不思議じゃない年齢だけに、
だれにも気がつかれないまま、数日経っていたなんていうのが一番最悪で、それだけは避けたいなと思っています。
母の気持ちは十分に理解してますが、子供も歳を取りますから、甘えられるときに甘えてほしいなが本音ですが、
たぶん、こういったことには明快な答えはなく、行き当たりばったりの出来事に、誠実に対応するしかないのでしょう。
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