ポルトガルのえんとつブログ

画家の夫と1990年からポルトガルに住み続け、見たり聞いたり感じたことや旅などのエッセイです。

179. 広場の工事

2021-09-01 | 風物

 コロナ禍で家に閉じ籠りが多い。でも労働者は忙しそうだ。あっちもこっちも何かしら工事を始めている。下の階では老人が一人で住んでいるが、彼女が引っ越してくる前も彼女の意向で2年間も内装工事をしていた。電動ドリルを使って壁を壊す工事が長く続いたが、騒音が響いて飛び上がりそうに煩かった。彼女が入居して、やれやれと安心したが、しばらくしてまた工事を始めた。何をそんなに工事するところがあるのだろうか。不思議である。

 ある日、マンションの入り口のドアに工事を知らせる張り紙があった。ミセリコルディア広場で45日間の工事が始まるとのこと。今は駐車スペースになっているのだが、どういう工事をするのだろうか?今でも駐車スペースがけっこうあるのだが、いつも混みあっている。広場を掘り下げて地下駐車場を作るのだろうか。

 工事は一週間ほど遅れて始まった。今まであった石畳の歩道を全面的に剥がしてしまった。剥がした石は水道局の空き地に積み上げられている。相当の量だ。

 

 

 

 働いているのはポルトガル人の親方とあとは4人とも色の黒い外国人労働者である。その中に頭に黒いターバンを巻いた男が一人。インド人のシーク教徒かもしれないし、今ちょうどニュースで大騒ぎのアフガニスタン人かもしれない。この男は長身でがっちりして、見るからに体力がありそうだが、働きぶりをみるとかなりの曲者だ。だれかれ構わず捕まえて、身振り手振りで自分の意見を主張する。仕事の手を止めてしゃべり続けるから当然仕事がはかどらない。

 いつも野球帽をかぶった少し小柄な男とふたりでコンクリートミキサーを使う仕事をしている。ゴーゴーと回るミキサーに横に積み上げた砂山からスコップで砂をすくって放り込む。見るからにへっぴり腰なのが私でさえも分る。今日はとうとう親方からスコップの使い方の指導を受けていた。

 黒いターバンに比べて野球帽の男は真面目そうだ。黙々と仕事を続け、黒ターバンに偉そうに説教されてもじっと耐えている。しかしセメント袋やヘリ石は一人で持ち上げる力がないので、黒ターバンに頼らざるを得ない。二人でヘリ石を1個、2個と運搬用のネコに積み込んで現場まで運ぶのだが、要領の良い黒ターバンはべらべらと訓戒をたれるだけで手を出そうとしない。しかたなく野球帽がネコを押してふらふらと運び出した。その横をターバンはついて歩くだけで、いっさい手伝おうとはしない。

 そんな仲の悪いふたりでも、昼休みは木陰で持ってきた弁当を食べ、その後ベニヤの上で横になって昼寝。その他のメンバーはクルマで何処かに行ってしまう。たぶん食堂で昼ご飯を取るのだろう。

 そんなある日、夕方5時過ぎ、やっと仕事を終えてさあ帰ろうとすると、黒ターバンがすでにトラックに乗り込んでいた親方に苦情を言いだした。窓から顔を突っ込んで長々と喋っている。他の仲間は早く帰りたいはずなのにじっと待っている。もう6時を過ぎた。親方はしびれを切らしてターバンにクルマを出した後、門の鍵を閉める様に言い渡した。ターバンもようやく諦めてクルマに乗り込み、一緒に帰って行った。

 翌日もその次も黒ターバンは来なかった。いよいよ首になったのかもしれない。黒ターバンがいない日は野球帽の男はみんなと一緒に穏やかに働いていた。

 月曜日、黒ターバンが姿を現した。首になったのではなかったんだ。しばらく姿の見えなかった背の高い若い男ロングもやって来た。すると黒ターバンはさっそくロングにイチャモンをつけて説教を始めた。あまりのしつこさにおとなしいロングも言い返して口げんかになった。近くにいる親方も口げんかが聞こえているのだろうが、仲裁しようとしない。黒ターバンが興奮してロングの胸元を掴みかかったが、野球帽の男が気を利かせて二人の間に割って入ったので殴り合いにはならなかった。

 しかしこんな調子であと一ヶ月以上も広場の工事が続くのだろうか?

 

 

 

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