二ヶ月ぶりにポルトガルの我が家に帰ってきた。
日本を発つ時は雨模様で、乗換え地点のパリもどんよりと曇ったさえない天気だった。
夜遅くに帰り着き、次の朝、目が覚めると、少し雲はあるがそのうえには青空が広がっていた。
20羽ほどのツバメたちが空高く舞い上がり、スイスイと風を切って飛び回っている姿は、見ていて気持がいい。
窓の外を見ると、水道局のタンクの上に生えている草はすっかり枯れている。
周りの空地の草はまだ緑が残っていて、黄色い花も咲いているが、なんだか勢いがない。
もうドライフラワーになりかけているのだろうか。
5月の末だけど、まだ野の花はじゅうぶん咲いているだろうと期待していたのに、
家の周りはすっかり枯れ野原になっていて、がっかり。
でも町に降りると、あちこちの家の庭先にはピンクや赤のブーゲンビレアの花が咲き誇り、ルイサ・トディ公園通りにはジャカランダが紫の花を咲かせている。
木によって個体差があり、まだ大半が7分咲きだが、もう満開になっているのもある。
もう少ししたら全部が咲き揃い、紫色の豪華な並木が楽しめることだろう。
久しぶりの公園には蚤の市が出ていた。
見るたびに規模が大きくなっている。
蚤の市は最初のころは、商店街の中にある小さな広場で毎週土曜日に開かれていた。
その当時は規模も小さくて、切手やコインの愛好家達が数人集まって、小さな机に並べた自分たちのコレクションを売ったり買ったりしていた。
その小さな広場には一本の大きな木が立っていて、枝葉を四方に思い切り伸ばして繁っている。
土曜日になるといつの間にかその木の下に、古道具屋が商売物の机や椅子などを並べるようになった。
私たちはそのころから、メルカドに買物に行ったついでにそこを冷やかす習慣がついた。
といっても何かを買うわけでもなく、ただぶらぶらと見て歩くだけなのだが。
でも時には「欲しいなぁ」と思うものもあった。
今でも思い出すのは、2mほどの高さの棒に吊り下げられた木製の鳥かご。
かなり古びていたが、手の込んだ作りで、いかにも「古き良き時代の手間のかかった物」という感じだった。
でも値段を聞いて諦めた。
それに、狭い我が家には大きすぎる物だった。
しかも鳥かごに入れるべき小鳥もいなかったのだから、鳥かごだけ買おうとしたのも変な話だけど…。
その後しばらくして古道具屋たちの姿は見えなくなった。
あまり売れていそうにもなかったから、他所へ行ったのだろうと、少し残念に思っていたのだが…。
4年程前になるだろうか。
その時も日本から戻って来た時だったのだが、久しぶりにルイサ・トディ公園を歩いていたら、蚤の市が出ていた。
しかも小さな広場の時よりも数倍も多くの店が並んでいたので、嬉しくなったものだ。
それいらい蚤の市はだんだん店の数が多くなって、並べている物もいろいろ雑多で、面白くなってきた。
見て歩く人の数もかなり増えてきて、ぶらぶらと散歩がてら古道具の品定めをしたり、公園のカフェに座って蚤の市を眺めたりして楽しんでいる様子。
土曜日はほとんどの商店が昼の1時で閉まるので、人びとは郊外の大型スーパーに行くか、町の商店街で、閉まっている店のウィンドーを見て歩くかしかなかった。
でもこのごろは、毎週ではないけれど、蚤の市を冷やかす楽しみが増えたのがいい。
リスボンの「泥棒市」などと違って、セトゥーバルの「蚤の市」はスリにやられる心配がないから、のんびり、ゆったりと見て回れる。
それから一週間ほど経った先日、なんだか街全体がモヤモヤとかすみ、熱い空気と湿気にすっぽりと覆われた。
「アンダルシアのフライパン」が早くもやって来たのだ!
その正体はアフリカのサハラ砂漠から飛んでくる熱砂だという。
地中海を越えてはるばるやって来る。
街中の車がうっすらと砂を被り、粘ついた空気は肌にまとわりつく。
その日のニュースではリスボンで気温が38度、どこのビーチも押し寄せた人々でいっぱいだったという。
夜は熱帯夜になり、かなり寝苦しかったのだが、でもそれは2日間ほどで、その後突然、強風が吹き、熱砂はどこかへ行ってしまった。
そして今日は涼しい風が吹く、気持の良い一日になった。
MUZ
2006/05/29
©2006,Mutsuko Takemoto
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(この文は2006年3月号『ポルトガルのえんとつ』に載せた文ですが2019年3月末日で、ジオシティーズが閉鎖になり、サイト『ポルトガルのえんとつ』も見られなくなるとの事ですので、このブログに転載しました。)