れいの如く

朝鮮半島関連の所感を書きます。

差別と貧困が生んだ「帰国事業」

2020-01-17 15:29:04 | 感想文
 昨年(2019年)は北朝鮮帰還事業が始まって60年、人間でいえば還暦になりますね。それにちなみ昨年11月から在日韓人歴史資料館(東京・港区)にて“差別と貧困が生んだ「帰国事業」”という展示が行われました。この類の展示会は意外に行われないのでこの機会に行ってみました。
 資料館の一角にあった展示コーナーは狭く〜四畳半くらい?〜でしたが、当時を偲ばせる写真等の資料が多数展示されていて見応えがありました。
 井上青龍氏の新潟日赤センターでの人々の様子を写した写真、帰国記念に撮影した写真、いざ出発するときの船と陸とでの別れの様子の写真等々。喜びと期待、不安の表情を浮かべた人々を見ながら、この人々を襲うその後の運命を思うと暗澹たる気持ちになりました。
 写真の他に、関連資料やこれらを解説したパネルも掲示してありましたが、その内容が一様に「日本社会が在日の人々を差別し、それによる貧困から人々は北朝鮮への“帰国”を選択するようになった」という論調になっていました。これには少々疑問を感じました。
皆さまもご存知のように、実情はそんな単純なものではありませんでした。
「差別と貧困」もその一因ですが、その他に当時の社会の雰囲気もありました。軍国主義に懲りたその時代、日本人、在日の人々を問わず社会主義に肯定的でした。それゆえ、現在の言葉でいうリベラルな日本人たちは善意から“社会主義朝鮮”への帰国を支援しました。展示の解説にあったように体制側は厄介者の在日の人々を国外に追い払おうとしましたが、それが全てではなかったでしょう。
ただ、その後、リベラルの人々がこの件について口を噤むのを見ると、個人的にはこのことを主張するのには気が引けるのですが…。
それと当時の民団自身の問題〜これだけ反対したのに日本人からも同胞からも支持されなかったことについても触れてもよかったのではないでしょうか。民団の方々は、自分たちは帰還事業に反対だったと言い続けていますが、ならば何故人々は受け入れなかったのでしょうか。
 今回はスペースの都合で詳細な展示は出来なかったのかも知れません。
 今後、70周年、100周年を迎えた時にも同様の企画が行われると思います。その際は、より多角的な視点での展示になることを期待します。

拉致問題を考える川口の集い

2020-01-15 20:40:15 | 所感(集会、講演等)
以前にも書いたように、最近は拉致関係のイベント参加には気乗りがしなくなったのですが、今回は畏友の三浦氏が講演者で、会場も比較的近かったので参席しました。
 筆者が会場入りしたのは開演10分前位でしたが客席は既に7割程度(定員300名)埋まっていました。
 開始時刻である13時30分になると開会の言葉に続いて川口市長と市議会議長の挨拶がありました。主催が川口市のためでしょう。
 通常、この種の行事の挨拶は表面的で、あまり心に残らないのですが、今回は少し違いました。
 御二方は“署名”の有用性を強調されました。多くの署名が集まれば、政府や関係部署に良い意味での圧力になります。また、街頭での署名活動は風化しつつある拉致事件を人々に再認識させる役割もあります。そして、こうしたこと自体が北朝鮮に対してのプレッシャーにもなります。日本は拉致事件を忘れてはいない、この事件が解決されない限り北自身にも利益にならないというアピールにもなります。そのため多くの人々に署名活動に協力をお願いしたいとのことでした。
 拉致関係の集会で、このように具体的な事柄に触れた挨拶を聞いたのは筆者にとっては初めてで新鮮に感じました。
 続いて第一部の三浦小太郎氏の講演となりました。
 講演の冒頭に「未成年〜続キューポラのある街」の映像の一部が映されました。主人公が北朝鮮に夫と子供がいる女性に帰還を勧めるシーンです。
 日本人妻の話から始まった講演は、拉致問題解決のために日本がすべきことにテーマが移ります。
 現状で先ずすべきことは北朝鮮に関する情報を収集することです。現在、日本は拉致被害者の正確な人数すら把握していない状況です。これでは交渉も難しいでしょう。“全員奪還”といったところで実数が分からなければ被害者を全て取り返せないからです。
 それと〜これがこの講演のメインテーマですが、拉致問題を解決無しに国交正常化は絶対すべきではありません。
 現在の北朝鮮にとって拉致被害者は、人質であり金づる的存在です。それゆえ、酷い扱いはしないでしょう。しかし、現状のまま国交正常化が始まり日本から金銭や経済協力が得られるようになった場合、拉致被害者は不要となり、下手すれば“障害物”的存在になるため“処分”される可能性があります。被害者を無事に救出するためには拉致問題抜きに国交を始めるべきではないのです。
 昨今の日本には、「正常化交渉の過程で拉致問題も扱えばいい」と主張する人々がいます。何の動きもない現状では、こうした意見に賛同する人も増えていくかも知れません。しかし国交正常化に向えば被害者の救出は遠退きます。このことを私たちは肝に銘じる必要があるでしょう。
 三浦氏の話はいつも分かり易く的を得ていると感心するのですが、今回もやはりそう思いました。
 ここで休憩となりましたが、この時間を利用して拉致被害者御家族の手記が朗読されました。御家族の手記は、これまで何度も読んだり聴いたりしましたが、その度に切なさを感じてしまいます。
 第二部に入る前に、拉致、特定失踪者のご家族紹介がありました。
 ご家族の近況報告の中に、この間に亡くなった家族が何人もいるとの話を聞き、既に長い歳月が流れていることを感じました。御家族はもちろんのこと、被害者御本人も相応の年齢になっています。残された時間は少なく、日本人妻の事例が繰り返されるのではないかと不安にもなりました。
 第二部は、拉致被害者の田口八重子さんの兄の飯塚繁夫氏と子息の飯塚耕一郎氏の講演でした。
 お二人とも昨今の情勢をよく分析され、こうした中での早期解決を訴えました。
 続いて高校生と有志の方々による合唱「あなたを忘れない」と「ふるさと」になりました。「ふるさと」は参加者全員で歌いましょうとのことでしたが、様々な想いが浮かび上がって声が出ませんでした。
 イベントはこれで終了し、閉会の挨拶となりました。この中でも署名の有用性が再度語られ、ぜひ協力して欲しいとのことでした。
今回のイベントは、筆者個人としては良かったと思いました。
講演内容から挨拶に至るまで拉致問題だけを扱い、会場のレイアウト等も工夫が感じられました。ホール内の青色の紙の飾りつけ、ロビーの展示物の配置等も見やすく、興味ある内容でした。
主催の川口市、共催、後援の各団体の熱意が感じられ、改めてこの問題について自分自身に出来ることをしていこうと思いました。