たか☆ひ狼のいろいろ

ファンタジー小説とか、動物園撮影紀とか、アリクイとか。

天獣戦記譚マサムネ  3話

2005-08-06 22:45:52 | オリジナル連載小説
「─で、お前はマサムネが嫌いになって、それで突発的に家を出ちゃったってワケなんだな?」
黙ってコクコクとうなづくショーゴ。
だがしかし、その瞳は相変わらず伏せたままだった。
「マサムネかぁ、確かにあいつは結構血の気多かったし礼儀作法なってなかったし言葉遣いも最低だったなぁ」
以前リンカが言っていたこととほぼ同じだ。
「マサムネとは…あっちの世界で一緒にいたことはあるの?」
ひざを抱えたまま、ショーゴが尋ねる。
「いんや、面識はほとんどなかったけどよ、ただあいつのウワサだけは結構耳にしたんでね」
「そうなんだ…」
「でもまぁしかしだ、今回のトラブル、お前にも原因っていうか責任はちょっとばかしあるんだと思うぜ」
ミドリはショーゴに、ピッと人差し指の羽根を突きつけた。
「僕にも…責任が?」
ショーゴが少し驚いた顔で、インコを見つめる。
「あいつの性格から思うによ、マサムネもかなり気にしてるんじゃないかって感じるんだ」
「なんで…また?」
「あいつは確かに無頼漢だけどよ、けどその反面、子供がすっげー好きで面倒見がいいって話はしょっちゅう聞いてたんだ」
そう、それも以前リンカが言ってたことと同じ。
しかしそれがなんでまた…
「あいつは絶対に女子供に手は出さない、それがいきなりそのトラブルだろ?だとしたら…な」
ミドリが初めて沈黙した。
方術のせいか、炎が爆ぜる音も一切しない。
相変わらず、屋根を激しく打つ大粒の雨たちの音だけが響き渡っていた。

「マサムネは口には出さないけど、その記憶…思い出せないことで、相当ピリピリイラだってるんだと思うんだ、俺様はそう感じるぜ」
「そんな風には…全然見えなかった」
「でだ、そんなときにお前がつい焦るあまりアルバム見せちゃったワケだから、もうイライラが一気に爆発、ってことよ」
「……」
確かにミドリの推理は的を射てる。
そう、自分は自分のことしか考えないで、ひたすらマサムネの絆の回復しか考えていなかったこと。
「マサムネも悪いしお前も悪い、まぁなんつーか、車の事故でいったら、7:3ってトコぐらいかな?」
「……」
こらえていた涙がまたあふれ出す。
「や、やべ、いやそんな、お前を泣かせるつもりはなかった!謝る!」
ミドリはトットッとスキップでショーゴの元に近づき、その大きな翼で少年の小さな肩を優しく包んだ。
「ぼく…今までマサムネのこと思ってあげるの忘れてた…自分のことだけしか…」
ミドリが軽くため息をつく。
「まぁなんだ、あいつの性格が悪いのも一つの原因だな、あーいう奴は自分の悩み打ち明けることは絶対にしねぇ、全部自分の心の内にしまいこんじまうタイプだ」
「……」
「この雨がやんだらお前の家に連れてってくれ、仲直りのお手伝いしてやっからよ、な?」
翼でポンポンと、小さく震えている少年の肩を叩いた。
「ミドリ…」
「へっへへ、こんなワケのわからん場所で2人めぐり合えたのもよ、何かの縁ってやつだな」
「ありがとう…ミドリ」
涙で腫れたショーゴの頬が、少しだけ優しく緩んだ。

「あ、そうだ」
またもやミドリが小さく飛び上がった。
「お前の名前聞くのすーーーーーーーっかり忘れ…」

ドン!!!!

ミドリの言葉が終わらないうちに、正面の神棚に繋がる戸が、勢いよく開けられた。
いや、叩き破られたといった方が…
「わぁっ!」
「うっ!」
突き飛ばすような風がミドリとショーゴを襲う。
そして方術の火もかき消され、辺りはまた薄暗くなった。

「なんだなんだ!風か…!?」
言いかけたミドリの身体が、緊張で凍りつく。

「…!」
そして立ち上がったショーゴも。



ギギ…ギギギギギ…

鉛色の空を背に、一匹の蟲が立ちふさがっていた。


天獣戦記譚マサムネ  3話

2005-08-04 23:38:13 | オリジナル連載小説
廃屋と化した神社の中、ショーゴは一人ひざを抱え、泣いていた。
「マサムネなんか…!もう絶交だ…」
しかしそのひとり言すら雨の音にかき消され、そこかしこから今度は雨漏りの音が聞こえてきた。
そして廃屋を揺さぶる風…いよいよ台風が上陸してきたのだろう。
ふと帰ろうかと思ったのだが、この状況ならば、この中にいたほうが無難かもしれない。
「マサムネ…追いかけてくるかな」
一瞬そう思ったショーゴだが、慌ててぶるんぶるんと首を振った。
「ここに来たって追い返してやる…!」

ドン!

突然、正面の木戸に何かぶつかる音が聞こえた。
「マサムネ…!」
だが違う、遥かに軽い音だ。

ドン!ドン!
ボールのようなものを何度も投げつけるような音。
「何だろう…」
立ち上がり、木戸を開けようとする。
足はかなり痛むが、幸いにも積もった埃がクッションのようになっていて、歩く際の痛みを和らげてくれていた。
「まさか…蟲?」
念のため、落ちていた角材を手に取り、応戦する準備を整える。
そして軽く深呼吸。
「いくぞ…!」
空いた左手で、勢いよく木戸を開ける。

ガラッ!

「だわわわわわわわーーーーーーっ!」
謎の物体は猛スピードで廃屋の中に突進し、そのまま縦横無尽に跳ね回った。
「わわあぁぁ!しゃべったあぁ!」
角材を放り投げ、伏せるショーゴ。
そしてその鼻先に、謎の飛行物体がポトリと落ちた。
「!!」
「どわぁ!」
反射的に飛びのくショーゴと謎物体。
そして…つかの間の沈黙が。

「あ、人間??」
「…イ、インコ??」
薄暗い中、よく目を凝らしてみる。
インコとは言っても、それはクリームイエローの体色と顔つきだけ。
大きさはずっと大きく、カラス並みだ。
「え…っとあの」先に口を開いたのはショーゴ。
「っていうか一体全体何だよお前、なんだってまたこんな変なトコに一人でいるんだ?ホームレスか?家出か?それとも脱獄か?」
口を開いたと思いきや、マシンガンの如く言葉が連射されてきた。
「ちょ…ちょっとそんないっぱい言わないでよ!僕だって聞きたいことあるのにさ」
「いやだから俺様だって聞きたいぜ、お前みたいな子供がどーしてこーしてすっげー台風だってーのにこんなへんぴな場所にいるんだかってのをな」
「えっとその…君もあの、あそこから来たの?」
獣天界のことを言い出せなかったショーゴは、慌てて上を指差した。
「おー!お前俺様のいたトコ知ってるんだ!すっげーじゃん!」
敵意がないのを分かったと知ると、そのインコはぴょんぴょんとショーゴの隣に寄り添ってきた。
「知ってるって言うことは、お前もパートナーいるわけ?」
「……」
ショーゴの顔が曇った。
「え???俺様何か変な事言っちゃった?」
「ううん…大丈夫」
悲しい目で、ショーゴはかぶりを振った。

幸いにも絆同士知っているからか、インコはすぐにショーゴと打ち解けた。
彼の名前はミドリ、隣町に住んでいる会社員の家族が飼っていたインコということまで教えてもらった。
「ミドリって…どこが緑色なの?」
「いーじゃねーかよ!俺様だってこの名前の理由は知らないけど結構気に入ってるんだぜ!」
いたずら半分に聞いてみたショーゴだが、至ってミドリの顔は真剣そのものだった。
そして…
「へぇ~、お前のところ権師匠がいるんだ、じゃもう百人力だな~」
「権師匠…権じいのこと?」
「おいおいおいおい、権じいなんて呼べねぇぜマジで、なんてったってあのお方は俺様の法力の師匠なんだからな」
「法力…?」
ショーゴは今までの権じいの戦い方を思い出していた。
確かにメインで戦ってはいなかったが、バリヤー張ったり、菜乃のケガをあっという間に治したり…
「って、魔法のこと?」
「ん~、まぁお前たちの世界ではそうとも言うわな、あっちの世界じゃみ~んなひっくるめて法力って呼んでるけどよ」
「で、ミドリもその法力って言うのつかえるんだね」
「まぁな、俺様が学んでいたのは防術ってやつでよ、障壁張ったりとか空飛ばしたりとか、どっちかって言えば援護だな」
屋根を激しく叩く雨の音にも負けないミドリのマシンガントーク。
正直聞いてて疲れるのだが、けどショーゴはうれしかった。
こんな時、そしてこんなへんぴな場所で、マサムネ達の仲間に出会えるなんて。
「で、なんでミドリはこんなトコに来たの?」
「あー、ついさっきまで俺様と仲間でよ、蟲退治していたんだ」
蟲退治と聞いて、ショーゴは一瞬緊張する。
「いたんだ…蟲が」
「そんな対したやつらでもなかったからアッという間に終わったけどよ、いきなりこんなすっげー雨じゃん、もぅ大急ぎで雨宿りしなきゃって思ってな、そしたらここに来ちゃったってワケよ」
「そうだったんだ…」

ショーゴの言葉が終わらぬうちに、ミドリは自分の羽根を一枚口で引き抜き、ポイと部屋の中に放る。
「よっと、《龍火》!」
ひらひら落ちた羽根に突然火がつき、廃屋を明るく照らす。
「うわわぁ!火事になっちゃうよ!ちょっと!」
慌てて後ずさりするショーゴに、ミドリは笑って答える。
「あ~、大丈夫大丈夫、これあ俺様の方術さ、どこにも引火しない炎なんだぜこれ」
「え…?」
キャンプファイヤーのように勢いのいい炎なのだが、木製であるこの床にも、そして天井にも全く火は移っていなかった。
「さぁさぁ、寒くなっちまったからあったまろーぜ、お前もびしょ濡れじゃねーか」
「あ、うん…」
ショーゴは炎の前に腰掛けた。
ミドリは若干離れた位置に腰掛け、身体中に付いた雨粒をプルプルと払う。
「でよ、お前は一体なんでまたこんなトコにいるんだ?」
ミドリは、ショーゴの上から下まで、舐めるようにじっと見つめた。
「うん…」
「俺様には分かるぜ、お前すっげーーーーーーーーーーワケありだろ?な??」
翼をあご先にあてながら、まるで探偵のようにウンウンとうなづくミドリ。
「え…と、その」
「第一よ、台風上陸だってのに一人でこんな場所、なおかつ靴も見当たらないし、な?」
慌てて自分の足をパッと隠すショーゴ。
「で、家出か?はたまた兄貴か誰かとケンカしたか?それとも虐待にでもあったか?」
ショーゴは、ミドリに目を合わせぬよう、うつむき加減で答えた。
「…全部、正解かも」

「なにーーーーーーーーーーーーッ!?」
ミドリは飛び上がって驚いた。

天獣戦記譚マサムネ  第3話「マサムネなんか大嫌い」

2005-08-04 20:15:30 | オリジナル連載小説
いつもの公園の先にある、廃屋と化した神社。
正直怖くて入りたくないのだが、この大雨をしのぐにはもうここしかない。
「だれ…も、いないよね?」
ひとり言を言いつつ、湿気で軋む木戸を開ける。
キイィィィイ…
薄暗くかび臭い廃屋の中には、いかにも何か出そうな雰囲気を漂わせた木箱たちと、古ぼけた神棚。
「おじゃま…しますね」
もふっ、もふっと、床を踏みしめる。
積もりに積もった埃たちが舞い上がり、思わずショーゴは口をふさいだ。
埃がじゅうたんの様に積もっているせいか、ちょっと足の裏がくすぐったい。

隙間だらけの壁から差し込む光で、中はほんのりと明るかった。

「はぁ…」
安堵感で、途端に身体中の力が抜け、床にしゃがみこむ。
裸足のまま外へ飛び出したおかげで、傷だらけの足の裏がすごく痛む。
そして痛みとともに、胸の奥から悲しみも込み上げてくる。

台風で勢いづいた雨は、まるで砂利のように地面を跳ね回っている。
「マサムネなんか…大嫌いだ…」

涙とも雨粒ともつかないしずくが、ショーゴの頬を伝っていった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
─数時間前─
「あ~、ったくもぉ、いい加減やまねーのかよこの雨!」
マサムネ達がこの世界にやってきて、1ヶ月経った。
絆を持たぬマサムネは、周辺の住民に奇異な目で見られたが、権じい等の説得と洗脳(?)によって、どうにか打ち解けることが出来た。
今はショーゴの暮らす日下家に居候兼お手伝いとして、いろいろありながらもどうにか均衡の保たれた生活をしていた。

「なんつーかよぉ、こぉ、雨ばっかだと毛がすっげージメジメしてくんだよな」
「仕方ないよ、台風が接近してるって言うんだからさ、ここ通過する今日一杯は我慢しなきゃ」
2階の窓越しに広がる雨雲を見渡しながら、2人の会話は続いた。
「何だったらシャワー浴びる?ぼくが背中流してあげるよ」
「やーだね、濡れちまうのだけは御免だってぇの」
「それだったらいちいち文句言わないでよ」
「へぇへぇ、分かりましたよ」
と言ってゴロンと、ショーゴのベッドに寝転がる。
いつの間にか、マサムネ用に設置したベッドはショーゴ専用に、今までのショーゴ用のはマサムネに変わられていた。
寝床が逆転しているのにも関わらず、ショーゴは文句一つ言わなかった。

「それにしてもおかしいね…あれほど出てきた蟲、ここ1週間ばかし出てこなかったでしょ」
「まぁな…他の場所に散らばった仲間が頑張っている証拠だろーな」
そう、蟲退治に天界から降りてきたのは、マサムネ達だけではない。
日本…いや、世界中に《人の姿を借りた獣》が戦うために降りてきているのだ。

「そういえば、マサムネの仲間たちって…みんな絆持ってるの?」
「あぁ…」
なんとなく口からこぼれ出た言葉なのだが、マサムネの表情は固かった。
「ごめん…」
雨はますます勢いを増し、TVの向こうの世界も、だんだん特番中心へと変わっていった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
気まずい雰囲気は続いていた。
「マサムネ…ちょっと来てくれる?」
「んぁ?」
1階の居間に降りた2人は、奥のタンスの中から何冊かの分厚い本を取り出した。
「遅れたけど、これ…見てもらいたいんだ」
手にしたのはアルバム。
表紙には《翼護とマサムネの成長アルバム》と書いてある。
「これ…お前の写真集か?」
「うん…ぼくと、飼ってたマサムネの写真なんだ」
一瞬以前のマサムネの名を聞いて不審な顔つきになる。
「一体…何で俺にそれを」
「これを見たらさ、きっと思い出せると思って…君の記憶を」
「……」
思い出せないんだったら、思い出させるしかない。
事故以来封印していたそのアルバムを敢えてまた開き、マサムネの本当の記憶を取り戻せたら…と。
「一緒に見ていこうよ、僕が一枚ずつ話してあげるからさ…ね」
「!」

バンッ!!

マサムネは、ショーゴの差し出したそのアルバムを平手で叩き落した。
剥がれ落ちた写真が、まるで秋の枯葉のように部屋中に舞っていく。
「マサムネ…!」
「ンなもん俺に見せて一体どうなるっていうんだ…!」
「だって…だって、僕たちには絆が…」
「お前、まだ俺との間に絆があると思ってるのかよ!」
ショーゴの目に涙が浮かぶ。
「いいか!お前と出会って1ヶ月も経ったっていうのに、俺はこれっぽっちも記憶なんて取り戻せてねぇ!判るかその理由が!」
「……」
「答えは簡単だ、ここは俺のいたところじゃねぇ…」
「権じいだってリンカだって言ってたじゃない…マサムネはここにいたんだって」
耐え切れない悲しみが、居間の床に涙の跡を転々と残す。
「あんな連中の言ってることなんて理由になるかってんだ!」
ショーゴの悲しみに追い討ちをかけるように、雨は力を増していった。
「マサムネの…カ」
「あ?なんだ」
「マサムネのバカ!マサムネなんて大嫌いだ!」
手に残っていたアルバムをマサムネの鼻面に叩き付けると、ショーゴは目の前のガラス戸を勢いよく開け放ち、そのまま外へと走り去った。
「痛っ…って、おい!」
鼻先を押さえながら後を追おうとするが、水のカーテンの如く降る雨は、たちまち少年の小さな背中を隠していく。

ふと、後ろを振り返る。
部屋中に散らばった写真たち。
その一枚一枚、ショーゴ一人の写真もあれば、犬と一緒のもある。
「これが…昔の俺なのか」
しかしマサムネの頭の中は、未だ空白の記憶が多くを占めていた。


「追わなきゃ…マズいよな」