─街のメインストリート─
いつも騒がしい街なのは、コユキは百も承知だ。
だけど今日に限って、喧騒の空気が一段と《濃い》。
「今日なんかあるの、おばちゃん?」
顔なじみの食料品の露天で缶詰を物色していたコユキは、店番をしていた初老の女性に話しかけた。
「おや、あんた知らないのかい? この街のスタジアムで久々にディグロード開催されるんだよ」
「ディグロード?」コユキにとっても聞きなれない単語だ。
「そ、MT同士の派手などつき合いさ、賭け師もいるってんでみーんな大騒ぎだよ」
あぁなるほど、とコユキは思った。
元来人が絶えないはずのこのメインストリートなのに、店で買い物をする客がひどく少ないのだ。
あろうことか男共は、目抜き通りの遥か先にあるスタジアムへと、まるで取り付かれたかのように我も我もと歩んでいる。
「ギャンブルねぇ…これだから大人って嫌いなんだよなぁ」
その男たちを横目で見ながら、コユキがポツリとこぼした。
「だよねぇ、あたしの亭主だってそうさ、朝早くっから特等席陣取るからって言うんで店任せっきりだよ」
コユキを見つめる彼女の目は《気が合うね》と言わんばかりに、悪戯っぽく微笑んでいた。
「あ! いた! コユキーっ!」
突然背後から聞きなれた声がするや否や、強烈なタックルがコユキを襲う。
「どわぉ!」
抱えていた十数個の缶詰がどわっと吹っ飛ぶ。
そしてもちろん、コユキもぶっ倒れた。
「おやおや元気いいねぇ、あんたの弟さんかい?」
突然の豆台風にも動じず、倒れているコユキに店主はマイペースで語りかけた。
「違うよ…ちょっと前に拾ってきたんだ、一緒についてきてるだけ」
口に入った砂をぺっぺっと吐き出しながら、コユキはさらっと応えた。
けど、その《拾った》という言葉に店主は驚くわけでもなかった。
この時代が、この街自体が、拾ってきたもので構築されている…それが普通なのだから。
「ね、コユキ! 銃買えたよ銃!」
支払いを終えて車に戻るコユキの後を、独特の足音を響かせながらビャッコが付いてくる。
爪先が開いたブーツの織り成す、パタパタと言う足音が。
「へぇ買えたんだ、見せてみろよ」
たったっとコユキの前に立ち、ビャッコは買ったばかりの銃を見せた。
「…これ、銃?」
「うん、銃」
コユキがよくお目にかかる拳銃とは全く違うモノ。
異様に小さいわ、トリガーがむき出しだわ、さらに弾が2発しか入らないわ。
正直、彼女の目にはおもちゃの銃にしか見えなかった。
「ふん…ま、いいんじゃねーの、お前小さいしね」
軽くため息を残して、ビャッコにポイと投げ渡す。
「これでさ、ぼくも強くなれるよね?」
「…え?」
コユキの足が止まった。
「ん…とお前、強くなるって言う意味履き違えてな…」
最後まで言おうとして、コユキは口ごもった。
いつもへの字状態なビャッコの口元が、今日は少しばかり微笑んでいたから。
機嫌を損ねてしまうという意味ではないにしろ、この言葉を言ってしまうのはちょっと酷かも。
しかしコユキが代替の言葉を探そうと模索しているとき、立っていた地面が突然…
揺れた。
地面だけが揺れているのではない、耳元を覆う空気すらも揺れているかのような、そんな感覚が2人を覆った。
揺れる空気。
それは何千もの人々が織り成す歓声だった。
ウオォォォォォォォォ!!!!
2人が初めて体感するその歓声。
それは明らかに、前方に建つスタジアムから響き渡っていた。
「ディグロードか…!」
コユキはさっきの店主の言葉を思い出した。
「でぃぐろーどってなに?」
足元でビャッコが問いかける。
「MT同士が戦うんだってさ、このスタジアムでな」
「えむてぃーってなに?」
相次ぐ質問に、本来行く気の無かったコユキもちょっと方針を変えようとした。
しょうがねぇな…と。
「行ってみるか、あそこ」
「うん!」
いつも騒がしい街なのは、コユキは百も承知だ。
だけど今日に限って、喧騒の空気が一段と《濃い》。
「今日なんかあるの、おばちゃん?」
顔なじみの食料品の露天で缶詰を物色していたコユキは、店番をしていた初老の女性に話しかけた。
「おや、あんた知らないのかい? この街のスタジアムで久々にディグロード開催されるんだよ」
「ディグロード?」コユキにとっても聞きなれない単語だ。
「そ、MT同士の派手などつき合いさ、賭け師もいるってんでみーんな大騒ぎだよ」
あぁなるほど、とコユキは思った。
元来人が絶えないはずのこのメインストリートなのに、店で買い物をする客がひどく少ないのだ。
あろうことか男共は、目抜き通りの遥か先にあるスタジアムへと、まるで取り付かれたかのように我も我もと歩んでいる。
「ギャンブルねぇ…これだから大人って嫌いなんだよなぁ」
その男たちを横目で見ながら、コユキがポツリとこぼした。
「だよねぇ、あたしの亭主だってそうさ、朝早くっから特等席陣取るからって言うんで店任せっきりだよ」
コユキを見つめる彼女の目は《気が合うね》と言わんばかりに、悪戯っぽく微笑んでいた。
「あ! いた! コユキーっ!」
突然背後から聞きなれた声がするや否や、強烈なタックルがコユキを襲う。
「どわぉ!」
抱えていた十数個の缶詰がどわっと吹っ飛ぶ。
そしてもちろん、コユキもぶっ倒れた。
「おやおや元気いいねぇ、あんたの弟さんかい?」
突然の豆台風にも動じず、倒れているコユキに店主はマイペースで語りかけた。
「違うよ…ちょっと前に拾ってきたんだ、一緒についてきてるだけ」
口に入った砂をぺっぺっと吐き出しながら、コユキはさらっと応えた。
けど、その《拾った》という言葉に店主は驚くわけでもなかった。
この時代が、この街自体が、拾ってきたもので構築されている…それが普通なのだから。
「ね、コユキ! 銃買えたよ銃!」
支払いを終えて車に戻るコユキの後を、独特の足音を響かせながらビャッコが付いてくる。
爪先が開いたブーツの織り成す、パタパタと言う足音が。
「へぇ買えたんだ、見せてみろよ」
たったっとコユキの前に立ち、ビャッコは買ったばかりの銃を見せた。
「…これ、銃?」
「うん、銃」
コユキがよくお目にかかる拳銃とは全く違うモノ。
異様に小さいわ、トリガーがむき出しだわ、さらに弾が2発しか入らないわ。
正直、彼女の目にはおもちゃの銃にしか見えなかった。
「ふん…ま、いいんじゃねーの、お前小さいしね」
軽くため息を残して、ビャッコにポイと投げ渡す。
「これでさ、ぼくも強くなれるよね?」
「…え?」
コユキの足が止まった。
「ん…とお前、強くなるって言う意味履き違えてな…」
最後まで言おうとして、コユキは口ごもった。
いつもへの字状態なビャッコの口元が、今日は少しばかり微笑んでいたから。
機嫌を損ねてしまうという意味ではないにしろ、この言葉を言ってしまうのはちょっと酷かも。
しかしコユキが代替の言葉を探そうと模索しているとき、立っていた地面が突然…
揺れた。
地面だけが揺れているのではない、耳元を覆う空気すらも揺れているかのような、そんな感覚が2人を覆った。
揺れる空気。
それは何千もの人々が織り成す歓声だった。
ウオォォォォォォォォ!!!!
2人が初めて体感するその歓声。
それは明らかに、前方に建つスタジアムから響き渡っていた。
「ディグロードか…!」
コユキはさっきの店主の言葉を思い出した。
「でぃぐろーどってなに?」
足元でビャッコが問いかける。
「MT同士が戦うんだってさ、このスタジアムでな」
「えむてぃーってなに?」
相次ぐ質問に、本来行く気の無かったコユキもちょっと方針を変えようとした。
しょうがねぇな…と。
「行ってみるか、あそこ」
「うん!」