たか☆ひ狼のいろいろ

ファンタジー小説とか、動物園撮影紀とか、アリクイとか。

努力結実!ワラビーV 1話

2005-07-24 21:36:59 | ワラビーV
もはや「砂漠だけの国」と言った方が分かり易いかも知れない。
右を向いても、左を向いても、そこにはもう砂と、入道雲のようにそそり立つ岩山がまばらにそびえ立つだけの、殺風景な場所。
ギラギラと絶え間なく照りつける太陽。
時おり吹き抜ける、砂混じりの乾いた風。

その乾いた地面の至る所に刻みつけられた車の轍が、まだ人がいる証拠を教えてくれていた。
とは言っても、今走っているのは一台の、赤錆まみれのジープだけだが。
ガタつくが固い地面を選んで、しかもスピードを緩めずに、ただひたすらまっすぐに。
運転席に大柄な青年が一人、そして助手席で鼻歌を歌っている少女。
そして後ろの荷台には、小さな荷物がいくつか積んであった。
薄茶色のタンクトップに赤銅色の肌が映える青年は、わき目もふらずに黙々と、巧みなハンドルさばきで進んでいく。
それに対する用に、助手席の少女の方はというと…
「ふんふ~ん♪」満面の笑みで札束を数えていた。
少女というにはちょっと不似合いな、短く刈り込んだ焦げ茶の髪。
戦争で使われた迷彩色の軍服の両袖を取り去ったその服装、ちょっと見では女性には見えない感じだ。
「いい加減に札数えるのやめないか?もうこれで10回目だぞ!」ジープの騒音にかき消されないよう、青年が大声で怒鳴りつける。
「わーったわーった!耳元で怒鳴るのやめ!ただでさえお前の地声ってでけーんだから」
怒鳴る時に唾が飛び散ったのか、札束の少女は手のひらでで顔を拭きながら、嫌々答えた。
「でもさ、今回の仕事はラクだった割にはもらったお金多いんだよね、ニセ札入ってんじゃねーかって思って・・・」
そういうと、少女は札束を1/3位に分け、青年に渡した。
「じゃハッサク、これがお前の取り分ね」
「あぁ」青年=ハッサクは、確かめもせずにもらった札をそのままズボンの尻ポケットにねじ込んだ。
「んで・・・残りが俺の分とババァの…っと」残りの札を胸ポケットに入れる少女。

ふと、後ろの座席においてあった小さな荷物が、ぴょんと起き上がった。
「ちょっと、ボクのは?」
明らかに前の席の二人とは年齢が違う、まだ子供同然だ。
「ねぇ、僕だって働いたじゃん、なんで分け前くれないのさ?」
「ビャッコ・・・お前そんなに働いたか?車のとこで張り番してただけだろうが?」
背もたれにあごを乗っけて、からかうようにその小さな荷物に話し掛けた。
「でも働いた!」その子供=ビャッコは、小さな手を助手席の少女の胸ポケットへと伸ばす。
「フコーヘイだよ!ルールイハンだよ!ボク買いたいものいっぱいあるんだから!」
「ひゃっ!バカ!どこさわってンだ!」突然に胸を触られ、少女は必死に抵抗する。

 ガン!

運転していたハッサクの拳が、ビャッコの鼻面にヒットする。
「うぐ・・・」パンチを喰らったビャッコは鼻を押さえて、また後ろの座席へ転がり落ちた。
「コユキの言うとおりだ、あれは仕事とは言わないぞ」
「・・・・」ビャッコは黙ってハッサクを睨みつけた。
「でもな、何もやらないコユキも悪い、少しでもいいからビャッコに渡せ」
「分ったよ・・・ちぇっ」舌打ちしながら、渋々ポケットの札を1枚ビャッコに渡した。
「・・・」黙って札を受け取るビャッコ。
「礼ぐらい言えよ」コユキはむすっとした顔でビャッコに言った。

「・・・鼻血出た」
「それは礼じゃねぇ、ありがとう、だろ?」
「・・・・・・」
「鼻血ぐらい我慢しろ、そのうち止まるから」

「・・・ありがと」


陽が若干西に傾く頃、3人を乗せたジープは《隣街》の大きなゲートをくぐっていた。
戦争と地震の災厄をなんとか逃れた、数少ない街。
ゆえに、住む場所を無くした人、ジャンク品で一儲けを企む露天商らが軒並み移り住み、この街は、一つの《国》に近い存在になっていた。

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1 コメント

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拝読しました (十津川 健也)
2005-10-22 11:19:35
初めまして。十津川 健也と申します。

第3話以降の展開を楽しみにしています。

私のブログにも是非お越し下さい。