たか☆ひ狼のいろいろ

ファンタジー小説とか、動物園撮影紀とか、アリクイとか。

努力結実!ワラビーV 2話

2005-07-24 21:37:59 | オリジナル連載小説
「どうするコユキ、買い物して出るか?それとも泊まるか?」
人ごみをかき分けつつゆっくり運転するハッサク。
一応自分らのギルドに申請した期日は、明日一杯まで。
ここで旅の疲れを落とすにも、お金を落とすのも自由だ。
「んじゃ両方とも」

「買い物して泊まって出る、だな」
「あぁ、よく分かってるじゃんハッサク」
「お前と何年組んでんだ」
「まぁな」

言葉少なながら、ハッサクはコユキの会話の要点を巧みに心得ていた。

今日一泊する宿にお金を払い、3人はとりあえず自由行動となった。
ガレージとシャッターもある、誰かが車を盗ろうとしても(ある程度は)大丈夫だ。

「くぁ~、変な道ばっか走ってたからさ、ケツが痛いのなんのって」
「サスがいい加減駄目になってきたからな、家についたら全部バラさないと」
車から降りて、まずはお決まりの大あくびと背伸び。
そしてやることはいろいろある、楽しみな買い物に、温かい食事とシャワー。

「ねぇねぇ、コユキ」
ビャッコが彼女の服のすそをぐいぐい引っ張る。
「お前…そろそろ服買い換えたら、いい加減ヤバいぞ?」

ビャッコはお世辞にも、あまりいい身なりではない。
だぶだぶの長袖Tシャツの上に、これまた大きめの軍用ベスト。
カーキ色のその上着には、昔は弾薬を入れていたであろう、無数のポケットがついている。
足首丈の太いバギーパンツは、ベルト代わりに腰もとをロープで結わえ付けてある
左右サイズ違いの軍用ブーツは、ワニの口のように底がパックリ開いている。
もうずっと履き続けているのか、ブーツからはみ出た裸足の爪先は、土埃まみれで真っ黒だった。
そして、いつもかぶりっ放しの戦車兵のヘルメット。
目深にかぶったその顔は、目が半分隠れて、いつも睨みつけているようにしか見えない。

「ううん、ぼく他に買いたいのがあるから」
「何買うんだ、服か?それとも靴?」
ビャッコは大きくかぶりを左右に振った。
「銃買うんだ」
「へ?銃??」
一瞬、コユキはビャッコが冗談でも言ってるのかと思った。
ビャッコはベストのポケットから、彼の身なり同様薄汚い、小さな袋を取り出した。
じゃらんと重い音・・・財布代わりだろう。
そして、その袋をコユキにぐいと突きつけた。
「銃って・・・お前、ンな金持ってんのかよ?」
コユキは、ビャッコの手からその袋を取り上げた。
「枚数数えてあるからね、盗ったって分かるから」
「大丈夫だって、おめーの金なんて盗りゃしねぇよ」
袋の中には、大小さまざまな硬貨と、何枚かの札が詰め込まれていた。
「ふん・・・」コユキは、ぽいとビャッコに袋を投げた。
「・・・盗ってないよね?」上目遣いにじーっと睨み付ける。
「盗りゃしねーっていったろ!だけど・・・銃買えるかどうか難しいぞ、それに・・・」
「それに・・・何?」
「銃買っていったい何すんだ?」ビャッコの大きなヘルメットをぽふっと叩く。
「・・・やだ、教えない」ビャッコの口がへの字になる、すねている証拠だ。
「あ、まさか俺らが寝てる最中襲ったり?」いつしかコユキのそれは笑いに替わっていた。
「コユキもハッサクも撃ったりしないよ、仲間なんだし」
「じゃ、俺ら撃たないとしたら何撃つんだよ?トカゲか?」
「教えないもんね!」言うや否や、ビャッコはたっと駆け出す。
「あ、おい!待てよビャッコ!」後を追ってコユキも走った・・・が、すばしこく小さなビャッコにたくさんの人手。
あっという間にコユキは彼を見失ってしまった。
「ま・・・いいか、買い物したら戻ってくるだろうからな」
コユキもまた、自分の買い物へと足を運んでいった。

裏通りのさらに奥。
そこには遥か昔に戦争で使われていた兵器たちの残骸が、数少ないジャンク商たちによって捌かれていた。
しかしそんなものには目もくれず、ビャッコは一心不乱に銃を売る場所を探していた。
「あ・・・」
息を切らした少年の前に、多数のライフルや大砲を並べている露天が姿を現した。
雑然とハンドガンを積んだテーブルの後ろには、白い顎ひげをたくわえた50過ぎのオヤジが、ぷかぷかとパイプをくゆらせている。
「はんどがん・・・ましんがんその他対・・・戦車らいふるもあり…弾薬その他は要…相談」
何度かつっかえながらも、看板の字を読み取る。

「ほほぉ…その看板の字が読めたとはな、なかなかのモンじゃねぇか」
「う、うん、字の勉強はしたよ、ちゃんと」
店主の思いがけない優しい言葉に、ビャッコはちょっと照れた。
「おぉう、そいつは感心だ、で、この店に何か用でもあるのかい?」
「銃欲しいんだ、ちゃんとお金はあるよ」
「ぬお!?」
店主は驚いた、大人とかが銃を買うのならともかく、こんな小さなガキが・・・と。
「しかし銃といってもピンからキリまであるぞ、どんな銃が欲しいんだ?」
「えっと・・・強いの」
「強い??」オヤジは目を真ん丸くした。
「強いのが欲しいんだ・・・いいのないかな?」
強いといっても、この子のサイズと所持金額にはキリがある。
「いくら持ってんだ?」
「えっとね・・・」
テーブルの隅のスペースに、ビャッコはさっきの袋の中身をじゃらじゃらと出した。
「これで全部」
「よしよし、じゃあ数えてみるか」
店主はビャッコの金を数えた。
・・・だが、全て安い硬貨ばかり。
「う~む・・・」考え込む店主。
「・・・足りる?」ビャッコは心配そうな顔をして聞く。
(いくらこのチビから金取るにしても、限度ってものがあるな・・・)
しかしそこそこの拳銃を売ったにしても、弾薬はその何十倍の値段だ。
さらにそんな銃を持たせたところで、この小さな身体で扱うことは不可能に近い。
店主はビャッコの顔をチラリと見た。
懇願するその目に、心が揺れ動く。

「よっ、しゃぁ!」
「あるの?」
何かをひらめいた店主は、テーブルの下から何かをがさごそ探し出す。
そしてようやく探し出した銃。
それはとても小さな、手のひらサイズのハンドガン。
「なにこれ?」初めて目にする小さな銃に驚くビャッコ。
くるりと丸みを帯びたグリップに、銃身が二つ、それとむき出しのトリガー。
埃まみれだが、ところどころ銀色に輝いていた。
「お前さんにピッタリのサイズの奴だ、珍品だぞ!」
「でもなんていうの、これ?」
「えっと・・・何だったっけか・・・な」
「知らないの?」
「いや、まぁとにかく!コイツは珍品だ!それに威力最強、オマケに小さな手にもぴったりのサイズだ!」
店主はビャッコの小さな手にそれを渡す。
しかし小ささの割にはずっしりと重い。
「わぁ・・・」ビャッコの瞳がたちまち輝く。
きっとボディの銀色がダイヤの輝きに見えたであろう。
「それと弾10発でボクのお金全部と交換だ!」
オヤジがどこかの倉庫から拾ってきた銃。
それはデリンジャーというポケットサイズの拳銃だった。
弾丸を加えても大したことの無い値だが、ビャッコの全財産と交換してちょうどいい位だろう。

「ありがとうおじさん!」
ビャッコは渡された銃と弾をポケットにしまうと、ダッシュで表通りへと消えていった。

「ま、いいか、動作は保障できねぇ…骨董品みたいなもんだ」
店主はまたパイプをふかしなおした。


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